中小IT企業に求められるサービスビジネスへのシフト(1)

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中小IT企業に求められるサービスビジネスへのシフト(1)

運用管理 2013/08/06

【第1回】“作る”から“使う”へのパラダイムシフト

 「IT市場は構造変化している」とかなり以前から言われてきました。“クラウドコンピューティング”という言葉が初めて使われたのが2006年ですが、2年後の2008年にはGoogleがApp Engineを発表、AmazonはEC2正式版を発表、MicosoftではWindows Azure発表と各社からクラウドコンピューティングを意識したソリューションが登場しています。また、Salesforceは同年のグッドデザイン賞を受賞しています。わが国のIT企業でも2009年には富士通が仮想化技術に関する国際標準化団体DMTFでリーダーシップボードに就任しました。このような動きはITユーザにとって「情報システムはIT企業に発注して開発するもの」という意識を徐々に変えていくものでした。
 そして、2013年現在「IT市場は構造変化してしまった」と過去形で語るべきだと言う方もいます。こうした中、中小IT企業はビジネスモデルを変革する際にどのような選択肢があるのか?その一例として、情報処理推進機構(以降、IPA)IT人材育成本部では、「人材」にフォーカスし、ビジネス変革の契機となるように編纂されたテンプレートを作成しました。本コラムにおいては、このテンプレートを題材に解説していきたいと思います。(テンプレートは下記URLの中段からダウンロードできます)

テンプレートダウンロードURL:https://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/ccsf/download.html

受託開発市場の縮小

図1 クラウド関連サービスの利用状況

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図1 クラウド関連サービスの利用状況

 IPAが発行する「IT人材白書」における動向調査では既に2010年度の調査から、ユーザ企業が受託開発(開発委託)からASPサービス、IDCサービスなどのサービス利用にシフトする傾向が見られました。
2013年現在、国内でも「サービス化」の動きは本格化しています。
 「IT人材白書2013」からユーザ企業のクラウド関連サービスの利用状況(図1)を見ても、サービス利用が拡大していることが分かります。 SaaS は昨年度調査より「現在利用中」が約10%増加しています。また、PaaS は昨年度5.4%から11.4%に利用中が倍増し、IaaS も5%強の増加となっています。
図2 従業員規模別:ITサービス利用

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図2 従業員規模別:ITサービス利用
今後利用拡大を考えている外部ITサービス

 図2は従業員規模別にITサービス利用へのシフトを見たものです。ユーザ企業が今後利用拡大を考えているIT サービスとして、「IDC サービス(ハウジング、ホスティング、HaaS・IaaS 等)」や「SaaS・PaaS サービス」の割合が、引き続き高い割合となっています。
 一方、「システム受託開発」を拡大したいという回答は3 割以下になっており、ITサービス利用へのシフトが続いている状況が見てとれます。

 一方、経済産業省による「特定サービス産業動態統計調査(1994〜2012年)」の情報サービスに関する調査結果から、従来型の受託開発の市場規模をみると、米国のITバブル崩壊までは年平均14.2%という急速な成長を続けていましたが、その後は成長率が10ポイント近くも鈍化し4.5%成長となりました。その後のリーマンショックを受けて2008年以降はマイナス成長に転じています(図3)。
 受託開発の価格はIT企業のコストに利益を上乗せして決められる場合が多く、ユーザからの価格圧縮要求に対して大手IT企業はオフショア開発などで対応することになりました。国内の中小IT企業の多くは2次請け企業でもあり、さらに厳しい価格競争に晒されることになりました。

図3 情報サービス業市場規模推移

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図3 情報サービス業市場規模推移

大企業と中小企業 対応の違い

 従来型の受託開発のような“作る”というビジネスから、サービスを利用することで顧客課題を解決する“使う”ビジネスへというパラダイムシフトを受けて、大手IT企業(1001名以上)はクラウド系サービス、アウトソーシング系サービスなどサービスビジネスへの変革が推し進められていることを「IT人材白書2013」が明らかにしています。

図4 従業員規模で異なる事業内容

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図4 従業員規模で異なる事業内容

 一方、中小規模(1000名以下)の企業においては、その傾向が一変し、サービスビジネスを拡大予定としている比率は大手企業の約半数になっています。更に、これらの中小IT企業の約50%が「今後、拡大する予定」のビジネスとして「システム受託開発」を上げています(図4)。この調査結果をみると、多くの中小IT企業は「従来から行ってきた受託開発を今後もビジネスの柱にして成長していける」と考えていることが推察できます。
 もちろん、全ての受託開発市場が消滅してしまう訳ではないのでしょう。一部の高度な専門性を持つ企業は従来通りのビジネスを継続できるかもしれません。しかし、「“作る”から“使う”へ」というサービス化の流れは一時的なものではなく、IT市場における必然(「既に結果である」という方もいます)と考えられます。多くの中小IT企業は「サービス化」に如何に適応するか?という課題と向き合う必要に迫られています。

IT産業の今後はどうなる?

 次回からは、中小IT企業がサービスビジネスへシフトするための契機としてIPAが作成したテンプレートを中心に解説していきたいと思いますが、第1回目の最後に先ほどと同じ経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」から見えてくることを考えて見たいと思います。
 図5は情報サービス業全体(受託開発、ソフトウェア製品、情報処理、システム等管理運営委託など)の売上とこれに従事する常用従業者数を重ねたグラフです。2008年には過去最高の売上約11兆2000億円を記録します。同年の常用従業者は約32万人です。その後、受託開発の低迷などの影響で売上は大きく落ち込みますが、従業者数はほぼ横ばいで推移しています。2008年を境に分かれた「ワニの口」は雇用環境としては”人余り”として捉えることもできますが、産業全体としてみれば、従業者数に見合った付加価値を生み出せていないとも言えます。企業規模の大小に係らず「“作る”から“使う”へのパラダイムシフト」に向き合い、サービスビジネスへのシフトなどによって新たな付加価値を創造しなければ、この「ワニの口」は更に大きく開いてしまうのではないでしょうか。

図5 売上と常用従業者数の推移

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図5 売上と常用従業者数の推移

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キーマンズネットとは
PwCコンサルティング株式会社にて、ERP基幹系システムやその他のITシステム導入においてプロジェクトマネージャーを担当。その後、国内ERPベンダーで人事制度策定及び人材育成を担当。2011年より独立行政法人情報処理推進機構(IPA)HRDイニシアティブセンターでIT人材育成に関する企画業務を担当。

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