IT運用の将来像を考える 〜標準化と自動化の進展〜(第5回)

IT・IT製品TOP > Key Conductors > 松本 浩彰(BMCソフトウェア株式会社) > IT運用の将来像を考える 〜標準化と自動化の進展〜(第5回)
この記事をtweetする このエントリーをはてなブックマークに追加

IT現場の道先案内人 Key Conductors

IT運用の将来像を考える 〜標準化と自動化の進展〜(第5回)

運用管理 2013/02/25

今月は、いよいよ当記事の最終段階である「IT運用の将来像」について、私なりの見解を纏めて述べてみたいと思う。 

しかし、今回は少し本筋から脱線した内容ではあるが、第2回の記事を掲載した際に読者の方からご要望頂いた、SNSのIT運用上での活用方法について、少しだけ言及したいと思う。

SNSの活用とIT運用について

日々何らかのソーシャルネットワークを活用しておられる方も多いだろう。今やソーシャルネットワーク(Twitterやfacebook等)は生活の一部となっている感もある。この新たなコミュニケーション方法をIT運用と関連付けて考えてみよう。
SNSが可能にしたコミュニケーションの姿、それはローケーションに捉われず、且つリアルタイムなコミュニケーションを行うというものである。
IT運用におけるコミュニケーション手段は、電話やメールといったものが主体であった。例えば障害発生の報告をヘルプデスクが電話やメールで受け取る。障害の同報連絡をメールで一斉配信するといった具合である。それしか手段がなかった時代には、それで当たり前な事柄も、新たなテクノロジの登場によって大きく変化する場合がある。

一つ具体的なSNSとを取り入れたIT運用の方法を紹介しよう。下図をご覧頂きたい。

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

ここでは、ユーザはITに関するトラブルを、電話でもメールでも連絡しない。SNS上でサービスデスクに向かって「つぶやく」だけである。
この「つぶやき」は自動的にインシデントデータに転換され、ヘルプデスクに通知・蓄積される。ヘルプデスクはこの「つぶやき」から生まれたインシデント(障害チケット)を見て、ユーザに対して「つぶやき」返す。「もう少し細かく状態を教えて」と。
このような「つぶやき」はPCやモバイルデバイスを経由して双方向で発生する。さらに、ヘルプデスクのメンバーは、専門の技術者に「つぶやき」の輪を広げ、「始めて遭遇する事象だけど何か知っている?」と問いかける。
最終的には技術担当者も含めた3極の「つぶやき」によるサポートの輪が出来あがり、リモートでの情報共有(画面共有やリモート操作)も交えてリアルタイムな支援が行われていく。これはあたかも、ユーザの側にヘルプデスクの担当者と技術担当者が側に立ってユーザの画面を覗き込んでいるような支援の姿である。

このような技術は既に市場で普通に提供されている。敏感な方は既に活用方法を検討しているかもしれない。
下記の画面は、ヘルプデスクが受け取ったインシデントチケットに「つぶやき」が連携されているツールの画面コピーである。
このツールは前回紹介した Force.com 上で提供されているSaaSサービス(Remedyforce)であるが、Force.comでは独自のSNS機能としてChatterというサービスが提供されている。

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

*小さくて見難いが、画面上部赤で囲った部分が Chatter フィード欄(つぶやきの履歴)、その下がインシデント情報欄である。
トラブルチケットに対して、自動的に Chatter でのつぶやきがシステムによって集約され、情報化されている。
このような情報化により、トラブル対応の過程が克明且つリアルタイムに記録され、行間が生まれない。

このヘルプデスクサービスでは、先程紹介した「つぶやき」をインシデントに自動的に集約して行く機能を持っている。従って、トラブルの発生から解決までの関係者(ユーザも含めて)のコミュニケーションを全て自動的に整理しながら記録してくれるのだ。

以前は、私も社内のサポート業務でOffice Communicatorをコミュニケーション・ツールとして利用していた。チャット機能も画面共有機能もあったが、ツールを閉じてしまうと記録は残らない。
そのツールはローケーションフリーである事、リアルタイムである事(例えばインドの技術者とリアルタイムに会話するとか)は、解決してくれたが、情報は個人のその場の体験で終わってしまう。 SNSがIT運用のような企業内の業務に利用される場合は、単につぶやければ良い訳ではない。「つぶやき」を情報化する機能をツールなりサービスなりが充分に提供する必要がある。そうでないと、巨大な「つぶやき」のゴミ箱になってしまう。

この様なSNSを使った情報化の手法は、トラブルの対応だけに留まらず広く利用できる。例えばナレッジ情報をIT運用部門が作成する際に専門家チームで行われる議論を、ナレッジに添えて記録する事も出来る。ナレッジが生成された経緯をリアルに情報化するのである。

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

*先程と同じく、画面上部赤で囲った部分が Chatterフィード欄(つぶやきの履歴)、その下がナレッジ情報欄である。
ナレッジ形成の過程で専門家同士がアドバイスをし合ったり、関連情報を示すなど、レビューの過程が記録され情報を豊かにしている。

ナレッジ管理の仕組み・方法論・ツールは、1990年代以前から存在する。そして未だに決定的な解決方法が無い。
ドキュメント化によるナレッジ生成はいつの時代も「やり尽せない」という壁にぶつかってきた。SNSを用いたインシデント管理やナレッジ管理が根本的な解決策になるとまでは言わないが、新たなアプローチであると言えると思う。それは、かなり開き直った手法であるが、「情報」を追うのではなく、知識を持った「人」を追うというアプローチである。

情報を追うというのは、ドキュメント化・データ化によって叡智を固定化し共有するというアプローチである。この考え方の前提は、IT運用に携わるメンバーが多数おり、スキルを平均化させるという考え方が前提にある。日本のようにゼネラリストを育成する文化では適合しそうな雰囲気がある。
しかし、ナレッジDBの構築に取り組んだ方は経験があると思うが、いくらドキュメントを書いても結局のところ詳しい担当者に質問は集中し、ドキュメントは特に読まれず古びて行くものである。  
これに対し、欧米では多いが、平均的な能力を持った多数の人間での管理よりも、高度なスキルを持った少数の人間で管理する方が合理的という考えた方がある。如何にもエキスパートを育成する文化で育まれそうなアイデアである。

スキルと情報を特定の組織や人に集約し徹底的に高度化していくというアプローチ、エキスパートによるリアルタイムで丁寧な支援というアプローチは、即効性のある現実的なサービスレベルの向上という点においては、極めて有効なのだ。
それを証明する為に、サービスデスクの対応についてユーザがどのような要因で満足を感じるか振り返ってみよう。
一般的によくIT運用管理者が口にするサービスデスクの業績指標(KPI)として一次解決率がある。しかし、統計データを見るとユーザが満足を強く感じる要因は、一次解決率=「最初の電話で解決してくれたから」では無く、「対応してくれた担当者が、充分な知識を持っていて、的確な対応をしてくれた」から、つまり「担当者の能力の高さ」、「コミュニケーションの質の高さ」でなのである。

私の個人的な経験であるが、自動車損害保険のヘルプデスクはとてもよく出来ている。
電話をすると、オペレータは私の契約者番号から私の自動車の上から過去の問い合わせ履歴までその場で把握出来ている。
オペレータは事象の概要だけ聞くと、直ぐに後方支援のサービス員に繋いでしまう。ここから3極の電話サポートになる。
その後は、サービス員と私が具体的な事象について語り合うのだが、当然ながらサービス員は自動車修理のプロであり、テキパキと切り分けし30分以内に駆けつけると約束する。
オペレータはそのやり取りを聞いているだけだが、電話を切る際に、思うようにサービスが進まない場合はいつでも連絡をして欲しいと言い置いてサポートが終了する。私は満足感を覚えて電話を切る。
このような姿が、サービスデスクの理想であろうと思う。ユーザが期待しているものに直接応えているのだ。

日本のIT運用管理分野では未だ一般的でないアプローチであるが、少数のエキスパートを軸とした情報の集約、サポート手法の集約という発想については、その方が却って人件費を抑えられる可能性があるという事も含めて、これから考察されるべきではないかと思う。

SNSをIT運用管理に生かす場合はその機能自体に注目するのではなく、SNSを使ったコミュニケーションによって、今までのメールや電話よりもすばらしいサービスを得られたとユーザが実感できる仕掛けに注目する必要である。リアルタイムに、期待する能力を届ける事、その仕掛けがユーザの驚きと感謝を生むのだ。ユーザがその仕掛けや仕組みに喜んでくれたら、SNSでのコミュニケーションを電話やメール以上に尊重してくれる筈である。  
これはモバイルを使ってビジネスを変えようとする場合に、モバイルの機能よりもそこで提供されるサービスの方が重要である事と、同じである。

日本のIT運用において大きな問題点として、過去から標準化や共通化を意識せずに構築されてきた多量の業務アプリケーションの保守がある。インフラ設計はバラバラ、アプリケーション設計もバラバラ、ドキュメントも未整備。といった状況を抱える企業は多いだろう。
その為に大量のアプリケーション保守人員を抱え込み、アプリケーション保守は人柱を立てて凌ぐといった企業を、私も沢山見てきた。
そういった現実を抱える方達にとっては、今回述べたような高度なスキルの集約と言った事は、夢のまた夢と思えるだろう。実際に、IT運用を変革する際にはSNSのような小手先の技術だけではどうにもならない。もっと根本的にアプリケーション/インフラ/オペレーション、これら全てを標準化(そしてさらに自動化)するステップが必要である。
ただ、前回も軽く触れたように、パブリッククラウド等の新たなテクノロジの登場を梃として、システムの在り方そのものを大きく変えられる可能性が、これからの時代にはある。

SNS、クラウド、モバイル。私達の身の回りで産まれてくる新たな技術・可能性を前向きに捉えながら、次の世代や時代に、今よりシンプルに、より低コストで扱えるITの仕組みを作っていく責任が、IT運用管理に携わっている私達にはあるのではないだろうか。

では、次回も是非ご覧頂きたい。

会員限定で「読者からのコメント」が読み書きできます! 「読者からのコメント」は会員限定の機能。会員登録を行い、ログインすると読者からのコメントが読み書きできるようになります。

会員登録(無料)・ログイン

Myリストへ 印刷用ページへ

この記事をtweetする このエントリーをはてなブックマークに追加


この寄稿記事に掲載している情報は、掲載日時点での情報となります。内容は変更となる場合がございますのでご了承下さい。また、「Key Conductors」の寄稿記事及び当該記事に寄せられたコメントについては、執筆者及びコメント投稿者の責任のもと掲載されているものであり、当社が、内容の最新性、真実性、合法性、安全性、適切性、有用性等を保証するものではありません。


30005938


IT・IT製品TOP > Key Conductors > 松本 浩彰(BMCソフトウェア株式会社) > IT運用の将来像を考える 〜標準化と自動化の進展〜(第5回)

このページの先頭へ

キーマンズネットとは
1997年BMCソフトウェア株式会社に入社。以降15年に渉り、IT運用に関する様々な領域でソリューションの提案やコンサルティング業務を行ってきました。2004年以降数年間 itSMF の分科会活動(事例研究分科会・SLA分科会・ガバナンス分科会)にも参加させて頂きました。

ページトップへ