ユーザの無進化から生まれる日本の危機と蛸壺型組織運営の危うさ

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IT現場の道先案内人 Key Conductors

ユーザの無進化から生まれる日本の危機と蛸壺型組織運営の危うさ

運用管理 2013/01/23

安倍政権となり、新年より多少世の中の感じが変わってきているが、実態はますます借金が増えて財政難の中どこまでの効果があるかは不明な補正予算であることは変わりない。 IT関連の大臣も久々に兼務ですが任命され、民主党政権のIT無策の時代からは変わる気配は出てきた事は歓迎できる。

さて、このところ日本企業の地盤沈下がよく話題になる。企業や組織の寿命30年説ではないのだが、ちょうど日本の大手企業が世界に大きく事業を飛躍・拡大したのも30年前。
仕事柄、色々な業種の色々な階層の方々にお会いしお話を伺う機会も多いが、最近の話題は組織的なマネジメントの課題や従業員高齢化、そして未来事業展開への不安といったテーマが中心である。手厳しい意見としては日本の経営者はこの数年間雇用調整(いわゆる人員整理)だけしか実施できていないと言われるまでになってきている。私も確かに日本の組織の本質的な転換はまだまだであると感じている1人で、その中でもICT関係はかなり立ち遅れている感がある。

発注調達マネジメント不在の日本のユーザー

第1の課題はIT開発調達時のユーザーの成熟度の課題である。典型的な事例は、1998年以降、ITが色々な面で変化を起こし、企業基盤を変えビジネスモデルさえも大きく変えてきたにも拘らず、いまだにCIOの集まりに参加すると「私はCIOですがITは何もわからないので宜しくお願いします」と挨拶される方が少なからずおられる。欧米の企業では考えられないことで、重要な事業の基盤になってきているITについて十分理解し活用していないCIOがその職に就いているのは大きな問題と言わざるを得ない。当初は日本人の謙遜かと思いきや、実態は部下とベンダ任せな方が多い事態であるということが良くわかることに出会った。それは2年前ぐらい前にプロジェクトマネジメント研究所の神庭会長と私でCIOの研究会にて、プロジェクトマネジメントとITサービスの件について2人でセッションを行った。そこで私が冒頭に参加した数十名のCIO(多分千億単位のお金を合計では費やしている)企業の集まりで以下の3つの質問をした。

PMやITサービスの調達側の統合マネジメントフレームを持っているか?

PMPとITILの資格保持者は何人いるか?

人事異動などで移動してきた人にどのような開発調達マネジメント研修を実施しているか?

その答えは皆さんが想像をしてみて欲しい。また皆さんの組織のCIOはどのように答えるだろうか。
まず驚いたのはPMBOKやITILが何かも知らない、まして資格は知らない、それが何に役に立つかを知らない方々もいた。また、知ってはいてもその活用や人材の育成については全く心細いのが実態であった。

私も以前自社のシステム導入に当たり、自分なりに開発調達などの知識を身に着けようと本屋に行ったが、1冊もユーザ側が適正に開発調達を行うための本がなかったし、研修なども探したが、ベンダさんのセミナーばかりで私が求めるものはなかった。
皆さんここで考えてみても欲しい。開発や調達のマネジメントはもちろんのこと、この数年で、クラウドコンピューティングやスマートフォンなど、益々進化を遂げているIT分野の現状理解なしに、取締役会でどのような議論をするのだろうか。スマートフォンを活用していない人が今後の事業戦略を推進する事はもはやできない時代になっている。これは例えば30年前の役員会で、ラジオやテレビを使った経験がない役員が取締役会参加して審議しているのと同様ではないだろうか。
世界をリードして第2位の経済大国になった日本はまさに世界の見本となり、1980年代には米国、90年代には台湾、韓国の企業も日本から多くのことを学んだことは事実。
新日鉄ソリューションズ(現:新日鉄住金ソリューションズ)の社長・会長を務められ情報サービス産業協会の会長も務められた私も尊敬する棚橋さんが「西野君日本における最大の問題は、ベンダによるユーザのバカ化が成功していることだよ」と言われたのを良く覚えているし、たしかにベンダの依存による先進的な改革が進まないのは事実である。事業の頭脳であり神経系、筋肉系になってきているユーザ企業のIT部門の理解レベルは今後の日本の競争力強化に大きな課題であるのは間違いない。
ベンダのユーザに対する責任も重くその割にユーザの仕様変更などの文句は多い。
現実私は、中国やインドのオフショア開発会社幹部が日本は飛びぬけて開発途上での仕様変更が多いと話してくれた。それでも日本企業は追加分をきちんと支払いしてくれるので儲かるから良い顧客だと聞いた。その追加分は誰が払っているかはともかく、諸外国のシステムより開発に時間がかかりコストも高くなっている実情があるのは見逃せない。

しかしながら何と言っても自分の家を建てるのと同じようにやはりユーザの発注者責任は重く、自分の家だとドアや窓の色や形状まで気にする人が、ITの開発調達やサービスの運営に関して専門性を持たないで多額のお金を投資している事実はかなり問題であると考える。

日本組織は蛸壺化現象!!

この10数年間、多くの企業の組織的な実態を様々な角度から見てきた中で、多くの日本企業から「当社のこの事業、この部門は、実は特別なのです。だから簡単には改革や標準化できないのです。」という言葉を何度となく聞く機会があった。
ところが、その後よく話を聞いていくと、何が特別なのか、事業や部門ごとに何が違うのか、良く分からないことが多いことが多々あった。いわゆる『蛸壺現象』で、その中だけの常識やルールでマネジメントが行われていて、自分たちだけが何か特別だと思い込んでいるまたは思いたい組織が多いのではないだろうか。蛸壺からは頭を少しぐらい出すことはあっても、思い切って飛び出して新しい本質的なことを学ぼうとする気概や組織横断的に変化させる努力が極端に低下しているように感じる。これは日本の社会全体の高齢化も大きく影響している。当然高齢になれば新しいことを学んだり、実行したりはおっくうになる。

我々は再度素直に学ぶことからはじめるべきでは!?とあえて言いたい。

学習力が低下したあらゆる組織は間違いなく衰退する。そしてその衰退の時間軸は相当早くなっていると感じる。

私ははこれまでに、プロジェクトマネジメントのPMBOK®やコンタクトセンターマネジメントのCOPC-2000®、またITサービスマネジメントのITIL®などを日本に紹介してきた。私の本コラムをお読みいただいている方々の中にも、それらのマネジメント手法を日々活用されている方もおられると推察する。PMBOK®もCOPC-2000®もITIL®も、既に70カ国近い国で活用されているが、日本と諸外国との大きな違いは、まずは学習の目的が実践と結びついていること、一部の人間でなく全関係組織共通の認識と知識及び言葉の定義として定着させていくこと、それぞれ個別の学習をするだけでなく、発注側・受注側など社内外の利害関係者が横断的な学習をしていること。また、学習も日本では短ければ短いほど良いという感じがあり、学習時間も中途半端。残念ながら日本では、この学習の分野においても蛸壺現象が見られる。また、大学でITの開発・ITサービスの分野の統合的な学科や専門家が極端に少ないのも日本の特徴。日本の学際が新しいマネジメント手法などにまだまだ興味が少ないのはかなり深刻で、時代にあった動きが全くできてないのが日本である。

「逆パノプティコン社会」へ

世の中には巨大な情報流通の基盤が張り巡らされ、その活用により数年で数億人のユーザを抱える企業が出現している現在、ITの未来はどのように進化をするのか。
今後のネット社会が顧客とどのように関係を維持向上し、拡大していくかは、全く新しい発想に切り替えていくことが必要である。私は1995年よりITの変化進化を実際にユーザとしても実践をしてきたが、これからの5年間は過去の15年間より更にダイナミックな進化が起こる時期であると感じる。

1つのネット社会への進化の方向性を示した事例を以下に示す。

ハーバード大学のジョン・キム教授の講義での考え方がある。「パノプティコン」は、もともと18世紀の英国の刑務所運用モデルで、刑務所の中心に看守のタワーを置き、その周りに監房を配置して看守からしか全体が見渡せない監視システムである。監房からは看守が見えない。つまり、全てのITシステムと情報は社会の中心である政府やメディア。企業などが持ち、中心側が何をどのように出すかもコントロール監視した時代である。
ところが、この長らく続いた社会がネット社会になり、民衆のネット活用が政権や生活を変えている。つまり、刑務所で言えば監房側の一般社会が看守(政府や企業)の発表や行動を監視したり、意見参加したりが進む「逆パノプティコン」社会になる。
今後の顧客マネジメントでは全ての顧客接点でこの逆転現象に対応したモデルが求められる。つまり、あらゆる組織はますますその行動や情報が社会一般にさらされることになる。
現在の日本の政府や企業は、国民が大事、顧客が大事と言ってはいるものの、その実は自分中心主義であり、行動上、そのような「志向」は認められても、真にその「視点」をしっかり持ち、ITオペレーションまでを行なえているところは少ないと感じている。

過去の私のコラムでは、海外との違いや色々な日本の問題課題について書いてきたが、次回は日本における私が良く知る最近のIT企業イノベーションの事例をいくつかご紹介をしたい。

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キーマンズネットとは
1991年 株式会社プロシード代表取締役に就任 プロジェクトマネジメント研究所日本支部 初代会長及び理事、経済産業省「政府調達におけるサービスモデルアグリーメントガイドライン研究会」委員、総務省「ITサービスマネジメント研究会」委員itSMF Japan副理事長、日本コンタクトセンター教育検定協会初代理事長及び理事等を歴任

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