ITIL(※)による価値創出を実現するには(2/3)

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ITIL(※)による価値創出を実現するには(2/3)

運用管理 2013/01/25

※ITIL is a Registered Trade Mark of the Cabinet Office.

2.価値創出への課題とその解決策

前章で挙げた「価値創出の三要件」の課題は以下である。

【課題1】 サービスレベル管理(以降SLMと略)でビジネス価値(特に有用性)が管理されない例が一般的であること
【課題2】 ITサービスの運用段階で、SLMを通じビジネス側へ実績、課題や対策をフィードバックされない例が一般的であること

当章ではまずこれら課題を解決するための施策につき記述する。さらに施策をITIL®v3のSLMプロセスにどのように適合させるべきかにつき説明して行きたい。

【課題1】「ビジネス上の有用性が管理されない」への対策

ITIL®v3ライフサイクルでは、サービスストラテジ(以降SSと略)段階で、企業戦略に基づき最大の価値を持つサービスに対する投資が決定される。なおビジネスの視点から「価値(有用性)をどのように創出するか」を取り扱うフレームワークは、ITIL®v3 が作成される以前から複数存在している。主要なものにバランス・スコアカード*6(以降BSCと略)、Strategic Capability Network(以降SCNと略) *7などが挙げられる。これら既存のフレームワークは適用事例も数多く、ITIL®SSの内容にもBSCを取り入れた箇所が見られる。当稿ではSCNを利用して定義された価値分析の例を図2に掲げる。図2では、「顧客満足度を向上させる」という価値をどのように実現すべきかにつき、納品に関連する部分的な例を示すとともに、「価値を実現する能力」としてKPI例を添え書きしている。  

*6 BSCはBalanced ScoreCardの略。経営戦略立案・実行評価のフレームワーク。企業や組織の戦略を、4つの視点(財務、顧客、内部業務プロセス、イノベーションと学習)から評価、策定する。
*7 SCNはStrategic Capability Networkの略。企業、組織の戦略策定手法。提供価値(Value)、価値を実現する能力(Capability)、能力を支える実現手段(Enabler)を関連付けて分析し、経営戦略を可視化する。

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図2: 製造業におけるSCNによる価値の実現方法の分析例

図2では「納期における顧客満足度向上」を実現するためのCapabilityを複数挙げ、その中でも「納期短縮」をさらにブレークダウンし、そのEnablerを列挙している。(本来はすべてのCapabilityに対しブレークダウンを実施する)
このような手法を用いることにより、価値を実現する「能力」(Capability)同士、あるいは「能力」と「施策・仕組み」(Enabler)の関連性を明確に把握することができる。サービスの立案からSLA策定までにこのような分析とKPI設定を実施し、サービス提供後はモニター対象とするべきである。課題に対する対策を以下にまとめる。

【課題1】「ビジネス上の有用性が管理されない」の対策一覧

1

価値(特に有用性)がビジネスの視点からKGI,KPIとして決定されていること

2

KGI、KPIがSMART条件を満たすこと

3

KGI,KPIのオーナが決定されていること

これらの施策は「有用性KGI/KPIの策定」と呼ぶことができる。KGI/KPIとオーナ一覧の例を以下に掲げる。

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表3 KGI/KPI一覧の例

【課題2】「ビジネスへフィードバックがされない」対策

課題2は「ITサービスの運用段階で、SLMを通じビジネス側へKPI実績、課題や対策をフィードバックする例が一般的でない」であった。対策として以下が考えられる。

【課題2】「ビジネスへフィードバックがされない」対策一覧

・サービスレベルの定期的な報告にビジネス上のKGI/KPIが含められること

全てのKGI/KPIオーナに定期的なサービスレベル報告がなされること

 KGI/KPIオーナは、自身が管理するKPIが目標に達しない場合、是正措置をとる責務を負うこと

 KGI/KPIとその設定値そのものも、定期的に妥当性を見直すこと

ビジネス結果の報告はSLMを介さなくても、該当するステークホルダに何らかの手段で提供されているはずである。しかし図2のようにごく部分的な価値実現分析を見ても、そのステークホルダは複数(例ではマーケティング、製造管理、サービスデスク)にまたがっている。そして通常何らかの業務目標を掲げる場合には、例のような「顧客満足度向上」以外に売り上げ拡大、コスト削減などの財務目標、あるいはターンアラウンドタイムの短縮、品質改善などが掲げられることが多い。したがって価値実現のための施策は多数、多岐にわたり、かつそれぞれが関連しあうと考えられる。であれば個々の部門でそれぞれ対処するより、一連のKPI達成度合を組織横断的に評価分析し、対策を立案するほうが好ましいと言える。そのためにもSLMの一環としてのKPIオーナへの報告は欠かせない。

また今日、ビジネスとITサービスは密接に連携しており、中でもインターネットを介した証券取引、オンライン販売などのサービスでは、もはやビジネスとITサービスは一体化している。このような現状においてはIT関連の上位KPIもビジネス側KPIと合わせて報告、分析すべきである。
このような考えを推し進めると、サービスレベルの過不足を定期的に評価/是正するための組織的な対応を実施することがいっそう好ましい。たとえば、サービスレベルマネージャ/オーナ、KGI/KPIオーナおよび上位マネジメントでKPIレビューボード(以降KRBと略)を組織し、KPI達成状況評価と改善措置を検討するようなプロセスを策定することにより、継続的サービス改善を強力に推進することが可能になる。これらの施策は「KGI/KPIの組織的な評価と対処」と呼ぶことができる。以下に、KRBの目的と構成員を整理する。

 KRBの目的

KPI達成状況を評価する

改善措置を検討するようなプロセスを予め整備する

改善措置の採否を決定し、その実施状況をシェアする

  nKRBの構成員

サービスレベルマネージャ/オーナ

KGI/KPIオーナー

上位マネジメント

次回は、課題の解決策をふまえ、ITIL®v3のSLMプロセスにどのように適合させて行けるかを解説します。

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キーマンズネットとは
1986年日本アイ・ビー・エム(株)入社。1994年以降、日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング(株)にてITサービス管理分野でシステム設計・構築やプロセス設計に従事。2012年6月、日本アイ・ビー・エム(株)を早期定年退職。同年8月から(株)ビーシーエスに勤務。ITIL v3 Expert、ITIL v2 Manager。

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