ITIL(※)による価値創出を実現するには(1/3)

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IT現場の道先案内人 Key Conductors

ITIL(※)による価値創出を実現するには(1/3)

運用管理 2013/01/18

※1 ITIL is a Registered Trade Mark of the Office of Government in the United Kingdom and other contries.

はじめに 〜 ITILでの価値創出

 ITIL® v3の大きな特長の一つとして「価値創出」が提唱されたことが挙げられる。ITサービス管理が顧客の価値創出に貢献するという考え方は、従来の定型的なシステム運用のあり方を打破する契機になると考える。当稿では、ITILのフレームワークを有効に利用し、価値創出を実践する方法について私見をまとめ、お知らせしたい。

1.価値創出の条件とその課題

ITIL® v3では、「サービスを通して顧客に価値を提供する」という思想を打ち出している。ITIL® v3の「サービス」と「価値」の定義を以下に掲げる。

ITIL v3でのサービスと価値の定義

「サービス」 = 「顧客に価値を提供する手段」

「価値」    = 「有用性」 + 「保証」

有用性とは、「成果が挙げられるか」「制約が取り除かれるか」に関連する。一方、保証は、可用性、キャパシティ、継続性、セキュリティなどに関わる考えである。価値創出における有用性と保証の関連性を図1で示す。

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図1 ITIL® v3での 価値創出における有用性と保証の位置づけ

このようなITIL®v3の考え方を踏まえて、次節で価値創出に必要となる条件を提示したい。その後、個々の条件について課題を整理してみよう。

1.1 価値創出の三要件

「サービスを通し顧客に価値を提供する」ための条件を、ITIL®の考え方に沿って、論理的に考えてみたい。筆者が考える必要条件を
「表1. 価値創出の三要件」として一覧する。

表1. 価値創出の三要件

【要件1】サービスが有用であること

【要件2】有用なサービスが顧客に提供できること

【要件3】サービスの提供結果や価値の変化に対応し、有効な是正措置がとられること(継続的改善)

この三要件は、「サービスを通し顧客に価値を提供する」という命題を分割し、必要な条件としてまとめただけである。これら三つの条件が全て満たされた場合、確かに価値が創出され、かつ提供され続けるのではないだろうか。以降、三要件をそれぞれ順に説明したい。

1.2 【要件1】サービスが有用であること

ITIL®v3において「価値」は「有用性」と「保証」から構成される。まず有用性に目を向けると、当然ながら有用性の低いサービスは提供する意義がないことになる。また顧客が価値を認識するために、価値は“SMART”※2であることが望ましいとされる。中でも”M”すなわちMeasurable(計測可能である)は重要であり、価値を評価するためKGI ※3、KPI ※4が設定される。

※2 SMARTとは、Specific(特定の), Measurable(計測可能な), Achievable(達成可能な), Result-Oriented(結果重視の)、TimeBound(期限のある)の略。目標設定において備えるべき属性とされる。
※3 KGIはKey Goal Indicatorの略。重要目標達成指標。KPIの上位概念である。
※4 KPIはKey Performance Indicatorの略。重要業績評価指標と訳される。

■要件1の課題

ITIL®v3のライフサイクルにおいて価値創出が行われるのは、サービスが利用可能になるサービスオペレーション(以降SOと略)の段階である。SO段階で創出された価値を測るには、サービスレベル管理(以降SLMと略)の一環としてKPIをモニタ、収集および分析するアクティビティが該当すると考えられる。しかし筆者の経験から言えば、運用の現場でビジネス上の「有用性」をSLAに含めたり、管理の対象にする例は非常に少ないと感じる。典型的なSLAの特徴を以下に列挙する。

典型的なSLAの特徴

システムの可用性、キャパシティやパフォーマンスに特化した管理項目の比重が高い、あるいはほとんどである
(例:可用性パーセンテージ、システムのCPUやメモリ、ディスクの使用率など)

定期的な報告内容が作業報告的な位置づけになってしまう(例:障害報告、障害件数、リリースされた変更件数、システム資源のパフォーマンス状況など)
したがって、報告内容と創出される価値の関連性が明確ではない

このような現状は問題であろうか。ITサービス管理に携わる人々のうち少なくない方々が、以下のように感じているのではないだろうか。(図2)
・ 「SLAの内容とビジネス上の価値は分けて考えるのが普通だ」
・ 「ビジネス上の価値は、SLAとは別に集計され、ビジネス部門に報告されるものだ」
・ 「ITはITの実績のみを報告できればよい」

しかしそれでは、価値創出要件一部が満たされないことになる。そして何より、今日のビジネスはITサービスと密接に結びついている。中でも、インターネットを介したコンシューマー・ビジネスや、携帯電話に代表される情報通信ビジネスは、もはやITと一体化している。であれば一体化したビジネスとITの実績を別々に評価することは効率的でも有効でもない。ビジネス上のKGI/KPIはIT側が必ずしも達成を確約できるものではないが、少なくともIT側は網羅的な情報をビジネスに提供し、分析対象とすべきである。

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図2 ITサービスに関わる人々の一般的なSLA認識 

1.3 【要件2】有用性を持つサービスが提供できること

「有用性を持つサービスが提供できること」は、ITIL®v3で「価値」のもう一つの構成要素である「保証」に相当する。これはサービスが要件を満たすことの確証を意味し、具体的には可用性、キャパシティ、継続性、情報セキュリティなどを指す。有用性を持つサービスが定義されても、保証がなければ価値は十分には顧客に伝えられない。既に述べたように、通常のSLAではこのような視点で管理項目が定められることがごく一般的である。

■要件2の課題

この要件は一般的なSLAの内容に盛り込まれ管理されることが多い。当条件の課題を挙げるとすれば、一般に、ビジネス上の有用性と比較し「保証」に過剰な要件を期待する場合があること、あるいはその逆の場合もありうることである。しかしビジネス上の重要度が高いITサービスほど厳しい可用性、継続性やセキュリティ上の要件を設定するケースはごく一般的に見受けられ、要件1の課題と比較して問題は少ないと言える。

1.4 【要件3】 継続的改善

当稿でいう「継続的改善」とは「KPI/KGIの結果や価値の変化に合わせ有効な是正措置がとられること」を指している。
サービスが利用可能になった後、市場やビジネスの変化により、期待される価値が変化することは十分に考えられる。またそのような外的な変化がなくても、たとえばKGI,KPIが達成できない場合には、原因分析と対処が必要になるであろう。あるいはKGI(例:店舗売り上げの3割増加)は達成できたのにKPI(例:店舗来客数の5割増加)を満たしていないような場合、選択したKPIやその設定値が不適切と考えられ、同様に是正措置が必要になる。

■要件3の課題

要件1の課題として挙げたように、ビジネス上の有用性をSLMで管理する例が一般的とは言えない。であれば、有用性の達成状況がSLMを通じてビジネス側にフィードバックされる例は更に少ないと言えよう。それがまさに要件3の課題である。 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2012」でも同様の報告が見られる。

 「会員企業はシステムのライフサイクルにわたって投資対効果を算定することにかなり苦労している」
 「全社共通の仕組みで算定を行う企業は、全体の9.9%(母数957社) である」

「企業IT動向調査2012」(p42) 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)発行 
http://www.juas.or.jp/servey/it12/it12_press.pdf

一般にITサービスの起案時には、入念にそのビジネス要件や投資対効果が設定され、以降もその要件を実現するため設計、テストが実施される(例:IT開発におけるVモデル(※5)の採用)。しかしサービスイン以降、ITサービスが想定どおりビジネス貢献を果たしているかどうかを計測している例はごく一部である。(筆者の経験上は、大規模製造業で一例しか挙げることができない。)結果としてITサービスに対する投資結果は必ずしもチェックされず期待はずれに終わったり、改善すれば得られるであろう利益/利点を逃すリスクがある。

※5 VモデルはIT開発の手法。V字型に表される概念図で示され、V字の左側はシステムの仕様、右側はテストの流れを示し、一連の仕様とテストがそれぞれの詳細度で対応し検証されることを狙う。

次回ではこれら課題を解決するための施策について説明する。

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キーマンズネットとは
1986年日本アイ・ビー・エム(株)入社。1994年以降、日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング(株)にてITサービス管理分野でシステム設計・構築やプロセス設計に従事。2012年6月、日本アイ・ビー・エム(株)を早期定年退職。同年8月から(株)ビーシーエスに勤務。ITIL v3 Expert、ITIL v2 Manager。

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