サービスマネジメントを実現するための5つのステップ(1/3)

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サービスマネジメントを実現するための5つのステップ(1/3)

運用管理 2012/12/12

〜ドラッカー流サービスマネジメント導入アプローチ〜

皆様は、ITILのサービスマネジメントのアプローチと、ピーター・F・ドラッカーのマネジメントアプローチに類似性を感じたことはないだろうか。ドラッカーは彼の著書である『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』の中で、「事業の目的は顧客の創造であり、顧客にとっての価値・欲求・期待・現実・状況・行動からスタートしなければならない」と述べているが、これはまさにITILサービスマネジメントの基本コンセプトと合致するものだ。これ以外にも多くの共通点があるが、弊社ではサービスマネジメントの導入において、この2つのマネジメントに関する考え方を統合したアプローチを取れないものかと考え、サービスマネジメントの「マネジメント」という意味を、単なる「管理」の仕組みとしてではなく、「経営」における課題や問題、意思決定の基本原則としてとらえて、実践してみることにした。そして最終的には、サービスマネジメントをコーポレート・ガバナンスの仕組みの一部として組み込むことを目標とし、5つのステップとして実行することとした。

ステップ1:経営者のコミットメントを得る

ITIL V2の頃では、サービスマネジメントは運用部門の現場レベルでの改善活動のためという位置付けであったが、ITIL V3では、特にサービス戦略が強化されたことで事業目標との密接な関連性ができたので、サービスマネジメントの導入においては経営者のコミットメントやサポートが欠かせない。そこで、弊社ではITIL V3サービスマネジメントの導入に先立って、経営者向けのITIL V3ワークショップを実施し、事業目標の達成のためにITIL V3をどのように活用するかを話し合った。その結果、弊社のミッションおよび企業理念に「ITサービスを通じてお客様のビジネスに価値を提供する」を盛り込むことになり、そのミッションおよび企業理念を実現するための取り組み(Enabling Action)としてITIL V3サービスマネジメント導入をプロジェクト化して進めることが経営者会議で決定した。

ステップ2:マネジメントで必要なマイルストンをプロジェクトに盛り込む

会社のミッションと企業理念の実現にITIL V3サービスマネジメントが組み込まれたことで、経営者の視点でプロジェクトを進める必要があるため、ドラッカーのマネジメント論によるアプローチを取ることにした。『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』では、ドラッカーは経営者(マネジメント)として必要な5つの仕事について述べている(表1)。この5つの仕事を網羅する形で、経営者主導のプロジェクトとしてITIL V3サービスマネジメントを導入することにした。

表1. マネジメントの5つの仕事 (P.F.ドラッカー 『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』)より抜粋)

1) 目標を設定する
2) 組織する
3) 動機づけとコミュニケーションを図る
4) 評価測定する
5) 人材開発する

1) 目標を設定する

会社のミッションと企業理念の実現に向け、現在の弊社の実力を客観的に評価し、継続的に改善するための仕組みを作ることを目標とした。

2) 組織する

ITIL V3サービスマネジメントを効率よく遂行できる組織へと再編成した。具体的には、サービス・ストラテジー&デザイン部、サービストランジション部、サービスオペレーション本部というように、ITIL V3のライフサイクルステージを組織の名前にした。これにより、各部門の業務は対応するITIL V3のコアブックがベースとなるので、おのずと各部門の役割と責任、実施すべき活動、改善すべきことが明らかになった。

3) 動機づけとコミュニケーションを図る

会社のミッションと企業理念に盛り込まれたということだけでは、社員の動機づけには不十分である。全ての社員が、その目的を理解することが必要となる。そこで、CEOを含む全ての経営者、正社員、契約社員、派遣社員を含む全ての社員を対象としたITIL V3基礎研修(3時間)を実施し、ITIL V3の基礎知識をはじめ、ITIL導入の目的や、会社のミッションと企業理念の実現がITILサービスマネジメントとどのような関係があるのかを伝えた。更に、弊社が提供するサービスの一部として顧客が認識する全ての接点(タッチポイント)や提供するサービス体験全ての要素を意味する概念として、「サービスエレメント」という言葉を定義し、例えば、初期の営業段階で利用されるツール、コアサービスのインフラを利用して提供する各種機能、請求書、オフィスでの受付業務など、様々なサービスエレメントが含まれることを研修で伝えた(図1)。

図1. サービスエレメント(Service Elements)の概念

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図1. サービスエレメント(Service Elements)の概念

そして、それらサービスエレメントを通じて、全ての社員がお客様に対する価値の提供に何らかの形で関わっていることが認識できるよう、研修後に表2の質問を含む理解度確認テストを実施。各社員の理解状況に合わせて個別にフォローアップを行い、理解の定着化を図った。

表2. 全社員向けITIL V3基礎研修の目的

この研修を通じて以下の質問に答えられるようになるのが目的である。

Q1 何故KVH(当社)はITIL V3の枠組みを定着化させるのか?
Q2 ITILのアプローチはKVH(当社)のミッションの実現にどう貢献するか?
Q3 ITILの枠組みにおける各部門の役割と責任は何か?
Q4 KVH(当社)におけるサービス(サービスエレメント)とは何か?
Q5 皆さん自身が提供するサービス(サービスエレメント)は何か?

全ての社員が同じ価値観を持つために、この研修は継続的に中途採用社員および新入社員に対しても実施しており、昨年より受講率100%を維持している。

4) 評価測定する

経営者の視点から、ITIL V3サービスマネジメントのプロセスが効果的かつ効率的に運用され、目的と成果が得られているかを評価するために、プロセスの成熟度を評価するためのアセスメント・フレームワークを導入することにした(表3)。

表3. アセスメント・フレームワークに対する経営者の期待

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表3. アセスメント・フレームワークに対する経営者の期待

これらの経営者の期待を満たすものとして、弊社ではITIL V3とプロセスアセスメントのISO標準であるISO/IEC15504をベースにした「TIPA for ITIL」を採用した。このアセスメントでは、プロセスに関わる人に対するインタビューとエビデンスの確認を通じて、プロセスが6段階の成熟度レベルで評価される。また、SWOT分析によりプロセスや組織の強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats)をあぶりだすことができ、具体的な改善すべきことを導き出すことができる。「TIPA for ITIL」では、アセスメントの6つのフェーズ(定義、準備、アセスメント、分析、結果報告、クロージング)で必要な全てのツールが提供される。そのツールを一度自社に合わせてカスタマイズすれば、それ以降のアセスメントでは若干の修正だけでツールを繰り返し利用できるので、効率的に継続的サービス改善のサイクルをまわすことができるようになる(図2)。

図2. TIPA for ITILによるアセスメントの流れ(6つのフェーズ)

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図2. TIPA for ITILによるアセスメントの流れ(6つのフェーズ)

5) 人材を開発する

全社員向けのITIL V3基礎研修(3時間)に加えて、プロセス・オーナやプロセス・マネージャー、サービス・オーナといったプロセスの目的や目標達成の責任を持つ社員に対してはITIL V3インターミディエイト研修を、プロセスに従事する社員に対してはITIL V3ファンデーション研修を実施している。勤務形態によっては、業務上連続5日間あるいは3日間を研修のために都合することができない社員がいるので、時間の制約を補うためにe-Learningを使用した研修も選択肢に入れた。

以上、1)から5)までの経営者として必要な5つの仕事をマイルストンとして、1年間にわたるITIL V3導入プロジェクトを計画した(図3)。

図3. ITIL V3サービスマネジメント導入プロジェクトのマイルストン

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図3. ITIL V3サービスマネジメント導入プロジェクトのマイルストン

次回(2/3)はステップ3、4、5をご紹介する。

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キーマンズネットとは
KVH株式会社において、BPRやComplianceなどガバナンス強化を主要業務とし、ITILをベースにしたサービスマネジメント導入では推進役として従事。KVHの電気通信主任技術者としても責任を持つ。ITIL V2 ManagerおよびITIL V3 Expert、TIPA Lead Assessor for ITIL資格を保有。

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