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見えてきた「5G」の世界、フェーズ1仕様とは?5分で分かる最新キーワード解説(1/4 ページ)

次世代無線通信技術標準「5G」のフェーズ1仕様が確定した。「eMBB」「mMTC」「URLLC」と呼ばれる3つの技術に注目だ。

» 2018年07月18日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 今回のテーマは、2017年末から2018年6月にかけて確定した高速、大容量、多数端末接続を可能にする次世代無線通信技術標準「5G」(フェーズ1)を受け、あらためて現状と今後の普及の見通しについてレポートする。主なユースケースは、高速大容量「eMBB」、多数端末接続「mMTC」、超高信頼低遅延「URLLC」の3つ。一体どんな技術的なポイントがあるのか。

5Gとは何か

 「5G」は、LTE、LTE Advanced(4G)の次の世代の無線通信方式であり、関連技術の総称でもある。5Gの無線通信方式の1つとしてNew Radio(NR)と呼ばれるLTEと後方互換性のない新しい無線通信方式が挙げられる。これは4GをLTEと呼び、3GをUMTSと呼ぶのと同じような表現だ。

 無線通信の国際標準策定を行うITU-R(国際電機通信連合無線通信部門)は、2016年から「5G」無線通信技術性能要求の策定作業を行っている。実際に仕様を策定するのは、世界の民間企業、大学、研究機関などが集う移動体通信システム標準化組織3GPP(Third Generation Partnership Project)だ。

 ITU-Rはその仕様を受け、2019年から2020年に「ITU-R勧告案」を作成する予定である。具体的で詳細な「5G」の姿はそこまで待たなければ見えないのだが、3GPPでは2017年からこの6月にかけて仕様を既に確定させている。ITU-Rの勧告案はこの仕様を取り入れたものになることは間違いないため、勧告案を待たずに通信事業者や機器ベンダーなどが「5G」対応のための取り組みを加速させていくものと見込まれる。

「5G」はユースケースごとに異なる性能や機能を提供するネットワーク

 「5G」は4Gをはるかにしのぐ高速、大容量、多数端末接続、超高信頼低遅延の新しい無線ネットワークと強調されることが多い。目指すところはその通りではあるが、従来のモバイル通信網が新しい高度な通信網にそっくり移行するイメージで捉えるのは間違いだ。

 また現在のLTE/LTE Advancedが連続的に拡張、発展したネットワークであるというイメージも正確ではない。「5G」は「4Gの発展・拡張」であるとともに「無線アクセス方式を一から見なおした新しい通信方式=NR」であるという、両面を兼ね備えたネットワークなのである。

 このたび策定完了した「5Gフェーズ1」は3GPPの標準規格リリース15にあたるが、「5G」という言葉は3GPPの中ではLTEおよびその発展系を含んだリリース15以降の移動通信システムのことを指している。

 そもそも「5G」は将来の無線通信に要求されるさまざまな条件をできるだけ多く解決することを基本的なコンセプトにしている。従来のようにひたすら高速大容量をめざすのではなく、速度も容量も、接続端末数も、遅延度合いや信頼性も、それが必要とされるユースケースに合わせて必要な条件を満たすネットワークを提供しようとしているのである。その代表的なユースケースは、次の3つだ。

eMBB(Enhanced Mobile BroadBand)

 最も広範なニーズがあると思われるのが、高速大容量通信である。「5G」では、下り最大通信速度は20Gbps、上り最大通信速度は10Gbpsを目標としている。4Gの最高速度が1Gbpsであるのに比べ大幅な増速となる。これにより、高画質動画などの送受信が現在よりもスムーズにストレスなく行うことができるとともに、VRやARなどのさらに大容量なサービスの利用領域も格段に拡大すると予想できる。

 また同時に限られた周波数帯域の中で大量のトラフィックをさばく能力も必要だ。これについては周波数利用効率、つまり単位時間内である周波数当たりに伝送できるビット数を上げていく必要がある。「5G」ではLTE Advancedに比較して3倍の周波数利用効率が求められている。

 増速や周波数利用効率の向上には、帯域幅、変調方式、MIMO技術、基地局のカバーエリア(密度)などが強く関連する。「5G」では郊外や都市部の屋外ホットスポット、屋内環境、高速移動中の自動車などからの通信利用、あるいは利用端末数などのさまざまなシチュエーションで求められる要件を全てカバーしようとしているのだが、それぞれに適した条件を組合せることも検討されている。これがいわゆるネットワークスライシング(ネットワークをスライスして、目的に適切な性能や機能だけを使えるようにすること)である。これは以下のユースケースでも共通している。

mMTC(Massive Machine Type Communications)

 もう1つの重要なユースケースが、多数端末接続を実現するマシンタイプ通信である。これは現在利用が急拡大しているIoTデバイス間およびデバイスとセンターとの通信を念頭にしている。「5G」では主に都市部広域において1平方キロ当たり百万デバイスの同時接続を可能にすることが目標とされている。

 また、基地局がどれだけのマシンタイプ通信エリアをカバーできるかは伝送損失(カップリングロス)によるのだが、「5G」では上り160bpsの通信速度で最大カップリングロス164dBと定められた。

 また、デバイスの電池寿命については4Gでも10年が目標とされていたが、「5G」ではそれをさらに超える高寿命が目指される。

URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)

 主に遠隔医療、ヘルスケア分野、あるいは自動運転などで求められるのが超高信頼低遅延通信だ。無線通信では制御信号(Cプレーン)の通信とユーザーデータ(Uプレーン)の通信の両方を考える必要があるが、Uプレーンでの通信について片道伝送遅延はわずか0.5ミリ秒(他のユースケースでは4ミリ秒)という高い性能が求められている。また信頼性は、レイヤー2のPDUサイズが32バイトの場合で伝送成功確率が99.999%(伝送遅延1ミリ秒時)とこちらも非常に高い目標が掲げられた。

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