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人事評価システムとエンゲージメントの深い関係 給与査定の道具から離職率低下の切り札になるか?

今回は人事評価システム活用の重要性と選定のポイントについて紹介する。超人材売り手市場の現在、従業員の離職を防ぐためにも社員の仕事を適切に評価し、エンゲージメントを高めることが重要だ。

» 2018年06月04日 10時00分 公開
[酒井洋和てんとまる社]

 人事部門が行う重要な業務の1つである「人事評価」。この評価によって給与や賞与が決定され、異動や人事配置などを検討する際の情報としても活用される。人事評価の手法は時代とともに変遷をたどり、今では従業員のエンゲージメントを高めるための仕組みとして位置付けられつつある。人事評価のトレンドについて振り返りながら、人事評価システムを企業に根付かせるためのポイントを見ていこう。

人事評価システムとは?

 一般的に企業で行われている人事評価は、人事等級の決定や給与査定を行うための仕組みであり、企業によっては多少の違いはあるものの、社歴や保有資格、職能スキル、事業への貢献度、職位に応じた行動特性を示すコンピテンシーなどが主な評価の対象となる。

 給与査定のためだけでなく、評価をベースに次年度の目標を立て、足りないスキルがあれば学習プランを策定し、経験が不足していれば新たな課題にチャレンジさせるなど、人を育てるための仕組みとして人事評価を活用する企業も増えている。

 過去の評価や能力、スキル、経験値などを管理するタレントマネジメントの基盤としても活用されている。以前は単なる給与査定の仕組みだったが、今では人材育成に向けた仕組みとしても役立てられている。

人事評価の変遷と今求められる人事評価

年功序列から成果主義への流れ

 人事評価の仕組みは、社会情勢の変化などによって少しずつ変遷している。戦後から高度経済成長期にかけては年功序列が評価の軸で、終身雇用制度の中で定期昇給することが基本だった。しかし、1960年代後期から学歴による人件費膨張への対処として職能給制度が登場し、職能がその評価の軸に変わっていった。

 バブル崩壊を経験した1990年代半ばには、終身雇用や退職金の支給といった制度が現実的に厳しくなる中で、企業は目標管理制度であるMBOを中心とした成果主義にかじを切った。しかし、行き過ぎた成果主義を是正すべく、職能資格制度と成果主義を接合させた「能力、成果主義」が中心となり、日本的な修正成果主義が登場した。

今求められる人事評価制度とは

 今日、経営環境における重要な課題となっているのが、労働人口の減少によってこれまで以上に顕在化してきた人材不足だろう。超売り手市場の時代に突入しており、企業も自社の魅力が十分にアピールできなければ、人材を確保すること自体が難しい状況にある。働き方改革などが声高に叫ばれる状況において、もはやMBOを中心とした成果主義の評価では優秀な人材をつなぎとめることができなくなっている。

 人事評価に求められているのは、会社に魅力を感じてもらえるよう意識しながら、働く人の自発的な貢献意欲、つまりエンゲージメント(愛着心)をいかに高めていくのかという視点だ。社員のモチベーション維持を意識しながら、人材育成や人事抜てきなどによる配置の最適化といった、エンゲージメントを意識した人事評価に移りつつあるわけだ。その結果、時間をかけて育てた優秀な人材が離職してしまうケースを防ぐことも可能になる。

日本における人事評価制度の役割 図1 日本における人事評価制度の役割

 なお海外では、ある特定の期間に区切って評価を行う人事制度を廃止する「ノーレイティング」と呼ばれる手法も登場している。これは評価そのものをやめるわけではなく、目標値の設定やレビュー、フィードバックといったマネジメントを、期間を決めずにその都度実施する手法だ。日本でもフィードバックの頻度を高めてエンゲージメントを高める工夫を行う企業も増えつつある。

人事評価制度におけるテクノロジーの広がり

 もともと人事評価は、さまざまな評価指標に基づいて、面談やヒアリングなどを行った上で評価が決定されるケースが一般的で、その管理基盤にExcelが活用されているケースは実に多い。また中堅および大企業では、人事管理など基幹システムが持つパッケージの機能で評価の管理を行っていることも少なくないはずだ。最近では、クラウドサービスとして活用できる人事評価のソリューションも増えつつある。

 エンゲージメントという概念で人事評価のソリューションを考えた場合、どんな機能が必要になるのだろうか。

 現場の状況をつぶさに把握して、コミュニケーションを密にとるための情報が収集できること、そしてその情報が経営を含めてリアルタイムに共有できることが重要になる。現場の変化を敏感に察知して迅速にアドバイス、フォローできる環境づくりは、エンゲージメントを高めることに寄与する。経営層が現場の評価を常に把握しておくことで「この前の評価は良かった、がんばっているね」と経営サイドから直接従業員に声掛けできるなど、従業員のモチベーションアップにつながる環境を整えることができる。

 まさに会社と社員の関係は、まじめに働いていれば退職金が手に入る「相互拘束関係」のような関係から、優秀な人材を求める企業と自分の市場価値を高められる環境を求める個人との「相互選択関係」へと移行しており、企業はこれまで以上に社員とのエンゲージメントを高めていく努力が必要だ。

 人材育成の観点でいえば、従業員に関する周辺情報、例えば過去のキャリアや異動履歴、適性検査といった情報と評価をクロスオーバーさせて育成プランを練ることも重要だ。評価者が適切な評価を下しているのかどうかをビッグデータを用いて解析し、評価者のスキルをレーティングするテクノロジーを組み込む人事評価システムもある。

評価モニタリング機能画面 図2 評価モニタリング機能画面

人事評価を企業に根付かせるための勘所

 人事評価ソリューションを検討する際に注意しておきたいこと、実際にソリューション導入を行う際に意識すべき視点について見ていきたい。

3つのソリューション群での最適解を見つける

 人事評価の仕組みとして、大きく3つの領域にソリューション群が存在することを理解しておきたい。1つ目が、基幹システムとしての人事システム周辺のソリューションで、詳細な設定によって自社が運用する人事評価の仕組みが構築できるもの。2つ目が、クラウドサービスを中心にエンドユーザーでもドラッグ&ドロップなどの操作だけで自社の人事評価の仕組みが構築できるもの。3つ目が、評価システムとしてのナレッジを備えた、成功体験に基づいた豊富なテンプレートが用意されており、それらを組み合わせて自社の人事評価システムが構築できるものだ。

 これら3つの選び分けだが、おそらく基幹システム連携を重視するのであれば基幹システム系の人事評価システムが最適だろうし、すでに自社の人事評価の仕組みが存在していて、今まで運用してきたExcelなどを新たな基盤に乗せ換えて情報共有や評価データベースとして情報活用したいなら2つ目のクラウドサービス、そして人事評価の仕組みが十分になく、コンサルティングも含めて一から構築していく段階であれば、豊富なテンプレートが備わった3つ目のソリューションが適している。

柔軟性とシステム改修のバランスに注意

 今の人事評価に求められるのは、単に給与を決める基準を導き出すだけでなく、納得感や信頼感が醸成できる仕組みであること。そのため、時代の変化に応じて新たな評価制度も取り入れていくなど柔軟性のある運用が可能な基盤が必要だ。その柔軟性を確保するためには、運用するシステムについての定期的な改変が必要になる場面も当然出てくる。凝り固まった仕組みは避け、設定で柔軟にカスタイズできるだけでなく、ドラッグ&ドロップで画面も含めて変更できるようなものが便利だろう。

 実際のシステム改修については、できれば運用主体となる人事部門が自ら改修できるような仕組みであることが望ましい。従業員の評価という、非常にセンシティブな情報を扱うことになるため、できれば情報システム部門など他部門に全ての情報は開示したくないのが本音のはずだ。中小企業の中には、情報システム部門の専任者がいないところも多く、システムに詳しい人材しか改修できない仕組みは避けたいところだ。

評価の一部公開は必要だが、詳細に権限設定できるものが理想

 人事評価のプロセスにおいては、事業に対する目標設定やコンピテンシーなどの自己評価を行う機会があり、当然ながら人事評価の仕組みを人事部や経営層以外の従業員に公開する場面も出てくるだろう。また、上司によって行われた評価を該当者に公開していくことも重要で、しっかりと納得のある評価がなされているかどうかを従業員に見せていくことはエンゲージメントを高めていくためにも大切だろう。

 そのため、機能はもちろん、項目ごとに詳細な権限設定が可能な仕組みであれば、必要な部分だけを開示でき、評価する側の情報は安全に管理できるようになる。権限設定の粒度や深度についてもしっかりと確認しておきたい。

使い勝手にこだわるのはどこか?

 人事評価の仕組みは、結局のところマネジメント層を中心に運用していくものであるため、当然ながらマネジメント層が使いやすい仕組みであることが大前提だ。従業員の使いやすさにこだわるよりも、評価をベースに次の育成プランが計画できたり、査定のシミュレーションが容易にできたりなど、評価する側の使いやすさを追求したい。その意味でも、機能ばかりが豊富に用意され、それらを全て設定しなければ運用できないようなツールは運用が続かない可能性もある。機能として備わっているに越したことはないが、不要な機能はオフにできるようなものが望ましい。

 なお、人事評価の仕組みをしっかりと運用に乗せるためには、トップダウンの決断はもちろん、日々の評価プロセスの中でトップがしっかりと内容を見ていることが現場にも伝わることが重要だ。トップが従業員の評価プロセスを見ていることで、従業員の声が直接トップにも伝わりやすくなり、また、「経営層が受け止めている」ということが従業員に伝わるだけでも、会社に対するエンゲージメントは高まっていくはずだ。

BPOも視野に入れたい中小企業の事情

 人事評価の仕組みは、大手企業ほど導入が進み、中小になればなるほど十分な基盤が整備されていないケースが多く、特に人事の専任者が不在の中小企業では、しっかりとしたコンサルティングなくして人事評価の仕組みを運用することは難しい。だからこそ、既存業務の分析から実際の構築、セミナーや研修を含めた導入、そして定期的な運用フォローまでの一連の業務プロセスが利用できる仕組みが、ある意味必要不可欠となる。もっと言えば、人事評価の仕組みを運用するだけでも人手がかかるため、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスとして人事評価の仕組みをアウトソースするという選択肢も視野に入れ、ソリューションを検討しておきたい。

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