京セラのLPWA、ピザ宅配業者の2000万円損失に終止符?

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京セラのLPWA、ピザ宅配業者の2000万円損失に終止符?

ネットワーク機器 2017/07/13

 「これからはデータの時代だ」「IoTを活用していかなければならない」と煽られ、焦燥感を感じている企業は多いのではないだろうか。2020年には、300億のデバイスがインターネットに接続されるという予測も出ており(図1)、自動販売機や洋服など、あらゆるものからデータを吸い上げ活用する時代が到来しようとしている。しかし、いざIoTをビジネスに活用しようと考えると、通信費やデバイス代の費用がかさむなど、多くの課題が立ちはだかる。

図1 2020年までのIoT市場予測

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図1 2020年までのIoT市場予測

 その打開策の1つとなるのが、無線通信技術「LPWA」(Law Power Wide Area)だ。LPWAとは、BluetoothやWi-Fiと比べ、低消費電力でありながら広いエリアでの通信をかなえる技術であり、IoTの普及に伴って注目株となりつつある。日本では、2017年2月に京セラコミュニケーションシステム(以下、KCCS)がフランスのSIGFOXと提携し、LPWAのネットワーク規格である「SIGFOX」のサービス提供を開始した。

 「SIGFOXの可能性に注目して事業をはじめている」と話すのは、KCCSのLPWAソリューション事業部 大植裕之氏。すでにいくつか導入事例もあり、宅配ピザチェーンの事業などにも貢献し始めているようだ。SIGFOXは、IoT時代が抱えるどのような課題を解決できるのか、具体的にどのような事業に活用できるのか。2017年6月21日に開催された「Advantech IoT47 in 横浜」にて同氏が話した内容を紹介したい。

「IoTっていうけど、コストが高い……」IoTの抱える課題

 「日本は、IoTマーケットにおいて世界で3番目の市場を持つにもかかわらず、IoTデバイスはまだ特定の産業でしか活用されていない」大植氏は話す。その原因として、IoTデバイスにまつわる3つの課題を説明した。

 1つ目の課題は、コストだ。IoT機器を設置すれば、通信コストに加えて、デバイスにかかるコスト、電力コストなどの費用がかさむ。例えばデバイスでは、計測器ごとのネットワークモジュール、デバイスからクラウドにデータを送るゲートウェイ装置などに投資が必要だ。通信機能を持てば、消費電力が増え、電力コストもかさむ。加えて、新たに商用電源が必要になるケースもある。

 2つ目は、IoTの環境をすぐに整えられないという簡便性の問題だ。例えば、BluetoothやWi-Fiを使用する場合にはデバイスからの情報を収集するため、全てのIoTデバイスとゲートウェイ装置の間でペアリングを設定する必要がある。データ収集用のネットワークサーバの設計開発にも工数がかかる。

 そして3つ目は、海外展開の際にIoTデバイスをそのまま活用することが難しいという問題である。海外にデバイスを持っていく際、データ通信SIMを使ったIoTデバイスの場合では、通信会社との契約次第で管理コストが跳ね上がることが、IoTデバイスの普及が進まない理由だと大植氏は説明する。

低速、長距離伝送が特徴 SIGFOXとは

 IoTにまつわるコストや簡便性の問題を解決するものとして打ち出されているのがLPWAのネットワーク規格の1つであるSIGFOXだ。開発を手掛けたフランスの通信事業者SIGFOXでは、既にフランス国内でデータを蓄積するためのクラウド環境と合わせてSIGFOXネットワークサービスを提供している。提携は1国1事業者に限定しており、KCCSは日本唯一のSIGFOXの提携企業になっている。

 KCCSの大植氏は、SIGFOXネットワークの特徴を、非常に低速ではあるが、広域、長距離伝送に最適な通信技術だと説明する。

 図2は、代表的な通信方法を俯瞰した図である。横軸はデータレートを指し、縦軸は伝送距離、すなわちデバイスから基地局まで電波がどのくらいの距離を飛ぶのか示している。SIGFOXを含むLPWAが占めるのは、低速かつ伝送距離の長いエリアだ。SIGFOXの場合はデータレートを落とし、1回の通信量を12バイトと少なくすることによって伝送距離を伸ばす仕組みで、通信速度は100bpsと低速ではあるが、他のLPWAと比べて広域のエリアをカバーするのが特徴だという。

図2 IoTデバイスの通信方法におけるSIGFOXの位置付け

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図2 IoTデバイスの通信方法におけるSIGFOXの位置付け

 図3は、実際のSIGFOXの伝送距離を評価する実証プロジェクトを行った結果である。永田町に基地局を設置し、新木場、葛西臨海公園、新浦安で電波を計測したところ、およそ16キロの地点に相当する新浦安においても電波を確認することができた。「開けた場所だけでなく、障害物が多いビル間においても、電波を飛ばすことが可能」と大植氏は話す。

図3 SIGFOXネットワークの電波伝搬試験

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図3 SIGFOXネットワークの電波伝搬試験

IoTにまつわる課題を解決? 3つのメリット

 大植氏は、デバイスや電力にかかるコストが低く、簡便性があることの2点を、SIGFOXのメリットとして説明した。

 SIGFOXが低コストであるという点について、KCCSでは通信費を1回線(デバイス)あたり、年額100円(税別)から用意すると説明する。3G回線では、通信料にもよるが1デバイスの月額がおよそ800円から数千円ほどに上ることを考えれば、低コストで済むといえるだろう。

 デバイスコストへの考慮もある。ゲートウェイ装置は事業者が設置するため、ユーザーはSIGFOXのモジュールを装備したIoTデバイスを用意するだけでよい。このIoTデバイスについても、欧州では既に2〜3ドルのものが開発されている。乾電池で数年稼働するため、電力コストを削減できる。

 また、IoTデバイスをすぐに活用できるという簡便性もポイントの1つだと大植氏は話す。SIGFOXのネットワークサービスでは、データを保管するクラウド環境を提供するため、サーバ環境の構築やペアリング設定などが必要ない。ユーザーが、IoTデバイスからクラウドに送信されたデータを取得して活用する環境を事業者側で用意する。

ピザの窯に水道のメーター……、SIGFOXの国内ユースケース

 SIGFOXは具体的にどのような事業に活用できるのか。前述したようにSIGFOXの特徴は、低速で広域に電波を飛ばすことである。1日の通信回数は最大140回まで、1回に伝送可能な情報量は12バイトと小規模だ。大植氏は「数分置きにデータをクラウドに上げる必要があるようなケースではなく、低頻度でデータを計測するような場合にSIGFOXのネットワークは有効だ」と話した上で、国内でのユースケースを紹介した。

LPガスの残量データをSIGFOXで自動的に検針

 例えばガスメーターの自動検針に活用することができる。LPガスにおける実証プロジェクトでは、SIGFOXの通信サービスと、NECの開発した無線端末によってガスの残量を自動で検針し、配送効率を上げた(図4)。

図4 LPガスにおけるガスメーターの自動検針の事例

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図4 LPガスにおけるガスメーターの自動検針の事例

 従来、ガス使用量の目安となるガスメータの検針の機会は、事業者が売り上げを計上するために行う、月に1度の検針時と、LPガス容器を配送する時のみであった。LPガス交換の際には、最も早く消費した家に交換するタイミングで周辺のガスも一律で交換する仕組みをとっていたため、配送を余分に行う手間があった。

 そこで、ミツウロコクリエイティブソリューションズ、日本電気株式会社(以下、NEC)、KCCSが協業し、配送業務を効率化するソリューションを共同開発した。どのようなソリューションなのか。まず、ガスメーターにNECが開発した「LPWA対応IoT無線化ユニット」を設置し、SIGFOXの通信サービスを利用して、メーターの使用量を遠隔で取得し、LPガス消費者の使用量を日次で把握した。このデータは、NECのIoT基盤「NEC the WISE IoT Platform」に送り、NECのAI技術である「NEC the WISE」を活用して、LPガス容器の最適な配送日と効率的な配送ルートを分析する。「これによって配送を効率化できた」と大植氏は語る。

水道メーターの自動検針

 遠隔からのデータ収集をかなえるSIGFOXネットワークは、ガスだけでなく、水道の自動検針にも活用することが可能だ。とりわけ、離島や山岳部といった検針の難しい場所において、有効であると大植氏は話す。「離島では、わざわざ船をチャーターして、人が検針に赴いていた。これではコストの負担が大きい」(大植氏)

 現在は、水道の検針業務を行う第一環境、水道の検針メーターを使うアズビル金門、KDDI、KCCSの4社がタッグを組み、全国でプロジェクトを進めている(図5)。「水道の自動検針は、KCCSが本命で取り組んでいる事業だ」と大植氏は話した。

図5 山間部、離島における水道の自動検針の事例

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図5 山間部、離島における水道の自動検針の事例

2000万円の損失に終止符 ピザ生地の温度も自動でモニタリング

 冷蔵庫の温度管理にもSIGFOXのネットワークが利用されている。大植氏は、アイ・サナップが開発したSIGFOX通信モジュールを搭載するIoTデバイスによって、ピザ生地を保存する冷蔵庫の温度を計測する事例を紹介した(図6)。

図6 ピザ生地を保存する冷蔵庫の温度監視におけるSIGFOX活用事例

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図6 ピザ生地を保存する冷蔵庫の温度監視におけるSIGFOX活用事例

 ピザの生地は温度によって発酵の進み具合が異なるため、温度管理が難しいという。大植氏の話によれば、宅配ピザなどを提供する「ナポリの窯」では、冷却器の故障や、注文が重なった際に冷蔵庫を閉め忘れるといったトラブルから、発酵が失敗したピザ生地の廃棄で年間2000万円ほどの損失があった。

 そこで、15分に1回、SIGFOXのネットワークを経由して、クラウドに冷蔵庫の温度データを上げ、専用アプリでモニタリングした。「当初は3G回線を使用する予定だったが、1デバイスにつき月額1000円ほどかかり、全店舗に複数設置となるとコストを回収することができないという問題があった。SIGFOXの場合、1デバイスあたり月額83円ほどで済むので、大幅なコスト削減となった」と大植氏は話す。

最小限の投資でOK スマートパーキングの車両管理

 パーキングの車両検知にも、SIGFOXのネットワークを使った事例がある。オプテックスが開発したパーキング向けの車両検知システム「車両検知センサー ViiK」を使用し、SIGFOXのネットワーク経由で車両の数を把握することで、最小限の投資でも駐車場の管理ができると大植氏は話す(図7)。

図7 パーキングエリアにおける車両数管理の事例

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図7 パーキングエリアにおける車両数管理の事例

 従来のパーキングシステムでは、地面に穴を開けて「ループコイルセンサー(車両の金属部分を検出するセンサー)」などを埋め込む工事が必要であり、初期導入の手間とコストが負担であった。一方、車両検知センサー ViiKを駐車場のポールに取り付け、車両の駐車状況のデータをSIGFOX経由でクラウドに送信する方法であれば、コストを大幅に抑えられると大植氏は話す。

海外展開にも有利? 広がるSIGFOXのネットワーク

 IoTの活用例が増えてくる中でLPWAの需要も高まり、SIGFOXのネットワーク(提携企業)は現在32カ国にまで広がっている。今後は2018年3月に向けて、東南アジアを中心に60カ国への展開を目指している。これを受けて、大植氏は、グローバルIoTネットワークであるSIGFOXは、従来では管理コストなどが問題となる海外展開の際にも有効だと話した。今後SIGFOXのネットワーク拡大が進めば、IoTデバイスを海外ビジネス展開の武器として積極的に活用できるかもしれない。

 なお、国内では、東京23区、川崎市、横浜市、大阪市でサービスの提供が始まっており、2018年3月までに政令指定都市を含む全国36都市にまでエリアを拡大する予定だ(図8)。

図8 SIGFOXネットワークの国内における今後の展望

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図8 SIGFOXネットワークの国内における今後の展望

                                  (溝田 萌里)

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