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「退職率が高く、採用コストが増加」を是正するには? HR Techのトレンド

モノとカネを管理できる企業は多いが、ヒトの情報はどこまで管理できるのか。勘と経験を超えてヒトの能力を生かすHR Techのトレンドを取材した。

» 2017年05月11日 10時00分 公開
[キーマンズネット]

 2017年5月9日、日本オラクルは人材管理クラウドサービである「Oracle Human Capital Management(Oracle HCM)」のうち、学習・研修などの機能を担う「Oracle Learning Cloud」の国内での本格展開を開始するのに合わせ、「HRテクノロジーのグローバル最新動向に関する説明会」を開催した。

津留崎 厚徳氏 津留崎 厚徳氏

 Oracle HCM製品は2012年から展開しており、2016年には中堅企業向けのソリューションとして「Oracle Talent Acquisition Cloud For Midsize」(採用向けの機能)、「Oracle Talent Management Cloud For Midsize」(タレントマネジメント機能)も発表している。

 日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 ソリューション・プロダクト本部 HCMソリューション部部長 津留崎 厚徳氏は、直近の日本国内でのHCM Cloudの市場動向について「中小規模の企業では、評価のプロセスが紙ベースだったり、複雑なルールで運用しているケースが多い。中堅企業向けでは、リリースから1年未満で2桁ほどの企業に導入できた」と説明する。

 ちなみに同社が定義する中堅企業は、年商1000億円未満だが、その中でも500億円未満の企業からの引き合いが多いという。

 人事、採用、労務管理、配属部署など、人事に関わる部門とタスクが分断されがちで、組織規模が大きくなるとこの傾向は強くなりやすい。HCM Cloudは分断しやすい情報を1つのサービスとして提供することで、情報が分断しない仕組みを作るという。統合された人事情報があれば、日常業務を定量評価して可視化したり、課題を分析したり、さらには将来に向けたシミュレーションも可能になる。

分断されやすい人事のタスク 分断されやすい人事のタスク

 例えば、経営戦略と人員リソース配置の評価を定量的に行う「戦略的ワークフォース・プランニング」は、人事計画(採用・育成・配置の各計画)の戦略立案を支援する機能で、現状の可視化や複数のシナリオに即したシミュレーションを行える。 

 これを使うと、「退職率が高く、採用コストが高くついている状況」を改善するために、実績と計画シナリオのそれぞれを視覚可し、計画シナリオとして、採用・育成・配置のそれぞれのパラメータを調整しながら最適解を探索していくような施策を効率よく検討できるようになるという。

戦略的ワークフォース・プランニング 戦略的ワークフォース・プランニング

デジタルネイティブな「Z世代」のOJTはソーシャル型? Learning Cloudのねらい

 さて、今回新たに日本国内での本格展開を発表したLearning Cloudは、「ソーシャルラーニング」機能を持つ点が特徴だ。いわゆる「Z世代」の利用を想定しているという。

 「1995年以降生まれのいわゆる『Z世代』を分析するとSNS、スマホ、動画配信を介した体験が多い。ソーシャルラーニングはZ世代に向けて、従業員が互いに『学び』を共有し、動画撮影やアップロード、チュートリアルを作成する場を提供する。これにより社員エンゲージメントを向上し、OJTも活性化する」(津留崎氏)

 具体的には従業員自身によるコンテンツ制作が可能になり、それを従業員コミュニティーの中で共有したり評価したりする環境を用意する。例えば作業マニュアルなどのコンテンツを画像や動画で共有したり、公開したコンテンツを評価したり、閲覧記録を残したりといったことも一元管理できる。

Learning Cloudの位置付け Learning Cloudの位置付け

 もちろん、Learning Cloudでは、従来型のEラーニングや集合研修の管理機能も備えており、受講履歴や閲覧状況などもOracle HCM上で統合管理できる。これらの履歴や各自のスキルセット、キャリアパスの設計に応じて、「受講すべき研修」のサジェストを行う機能も持つという。 

 今後の機能強化では「HRヘルプデスク」による窓口管理の効率化や、チャットbotを活用したFAQ対応の自動化も検討しているという。 

 「実は日本では大手企業よりもベンチャーやオーナー社長の企業でHR Techへの関心が高い。というのも、HR Techはまだまだ誤解されている状況がある。人事情報を管理・評価する機能を持つことから、『ロボットやコンピュータが人間が評価するなどけしからん』という誤解が多い。実際のHR Techは、情報を可視化して業務を効率化したり、論理的な判断を助けるものだ」(津留崎氏)

モノ・カネだけでなく、ヒトのリソースを可視化・効率化するのが世界的トレンド

 説明会ではサービスの発表に加えて、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏が登壇、世界的なHR Techのトレンドを解説した。

 岩本氏は「世界的に人事に求められる役割が変化しつつある」とし、タレントのデータと財務会計のデータをひも付けて評価するような、人事と経営の連係による生産性の向上、企業価値向上を目指す企業が出現しつつあることを示した。

 「先進的な企業では、デジタルトランスフォーメーションに着手して2〜3年が経過するタイミングに当たるため、成功事例が増え始めている」(岩本氏)

 直近の1年での動向はどうだろうか。岩本氏によると、人事部門でもデータを重視し、収益に結び付く評価体制を整える企業が出てきたという。

 「ピープルアナリティクスでは、HCMとERPを連携して評価できる体制を整える企業が出現している。具体的には、人事部門の中にデータアナリストを配置、『デジタルHR』体制を構築する事例だ。データ整備が進んだことで、人事データの分析・活用が本格化、分析そのものの自動化も進んでいる。もう1つのトレンドとしては、デジタルHRを、システム構築などのIT資産への投資ではなく、クラウドサービスを使って実現する動きが挙げられる」(岩本氏)

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