日本企業も注目する「Hyperledger Fabric」とは何か

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日本企業も注目する「Hyperledger Fabric」とは何か

基幹系システム 2017/04/25

 ブロックチェーン/分散型台帳技術(説明は後述)のオープンソースソフトウェアを開発する取り組みである「Hyperledgerプロジェクト」が、2017年3月16日にイベント「第1回 Hyperledger Tokyo Meetup」 を開催した。本稿ではHyperledgerプロジェクトの最新状況、そして注目が集まる「Hyperledger Fabric」のブロックチェーン技術としての位置付けを見ていくことにしたい。

 MeetupではHyperledgerプロジェクトの全体像を日立製作所の長稔也氏が紹介した。長氏は、唯一の日本在住Hyperledgerプロジェクト ボードメンバーである。Hyperledger Meetup自体は、世界全体で38回、のべ8600人の参加実績がある。今回のイベントは日本初のMeetupだ。

 このHyperledgerプロジェクトには、IBM、アクセンチュアのようなグローバル企業はもちろん、日立製作所、富士通、NEC、NTTデータなど日本の大手ITベンダーや、製造業大手のエアバスとダイムラーといった製造業大手も参加していることから、IT業界だけでなく産業界からも注目度が高い。

Hyperledgerプロジェクトに賛同する「プレミアメンバー」

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Hyperledgerプロジェクトに賛同する「プレミアメンバー」
(当日発表資料より)

 このイベントで筆者が特に注目した最新情報は次の3点だ。

(1)リリース間近の「Hyperledger Fabric v1.0」に関する最新情報
(2)Hyperledgerプロジェクトに関連した開発ツール整備(ここでは、IBMが進める「Composer」と、富士通が進める「Fabric-Java SDK」)
(3)システム構築大手におけるブロックチェーン技術検証の成果

 とはいえ個別の話題は専門性が高いため、詳細は後編で説明するとして、まずはHyperledgerプロジェクトの概要から紹介したい。

Hyperledger=複数のブロックチェーン/分散型台帳技術の集合体

 Hyperledgerプロジェクトは、Linux OSおよび周辺技術の保護や標準化などを行う非営利組織「Linux Foundation」のプロジェクトとして2016年2月から活動、複数のブロックチェーン/分散型台帳技術に関するOSS(オープンソースソフトウェア)を推進する運営の枠組みを提供している。

プロジェクトに参加するOSSは3種類、参加企業は今後も増加

 Hyperledgerプロジェクトに参加するOSSのブロックチェーン/分散型台帳技術には現在、以下の3種類がある。

(1)IBMが開発、公開したコードを基にした「Hyperledger Fabric
(2)ソラミツが開発した「Iroha
(3)Intelが開発した「Sawtooth Lake


 上記3つに加え、R3 CEVが開発する「Corda」もプロジェクトに参加する方向で検討中だ。その中でも、エンタープライズシステム構築基盤として話題に上る回数が多いのは、今のところ(1)Hyperledger Fabricである。

 Hyperledgerプロジェクトに賛同する「プレミアメンバー」には、IBM、アクセンチュアのようなグローバル企業だけでなく、日立製作所、富士通、NEC、NTTデータなど日本の大手ITベンダーも参加している。この他、製造業大手のエアバスとダイムラーが参加しているのも注目すべき点だろう。

 「名前は明かせないがインパクトのあるメンバーがプロジェクトに参加する予定がある。日本のユーザー企業にもぜひ参画してもらいたい」と長氏は述べた。

ブロックチェーンは「信頼できる第三者機関」をソフトウェア化したもの

 最新情報の詳細説明に入る前に、ブロックチェーン/分散型台帳について手短に“おさらい”しておきたい。まだまだ情報不足感が強い分野だからだ。「ブロックチェーン技術」とは仮想通貨ビットコインの基幹技術を抽出、再構築した技術全般を指す言葉といえる。

 「ブロックチェーン技術」という表記は、実装手法(特にデータ形式)に注目したものだが、これを機能に注目して「分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)」と呼ぶ場合もある。ただし、ブロックチェーンとは別の手法で実装した分散型台帳技術も存在するので、必ずしも完全に同じものを指し示すわけではないので注意しよう。


 ブロックチェーン技術とは、ざっくり説明すると「P2P(peer-to-peer)」「分散合意アルゴリズム(コンセンサスアルゴリズム)」「暗号技術(暗号学的ハッシュ関数と電子署名)」の各要素技術を巧みに組み合わせ「止まらない、消せない、低コスト」な台帳(分散型台帳)を作り出す技術といえる。

 ブロックチェーン技術により実現する分散型台帳の意義は、「利益相反する当事者どうしが内容を信頼できる台帳」が低コストに実現できることにある。ブロックチェーン技術が登場する以前は、このような台帳を実現するには、まず情報システムを運営管理する第三者機関が必要だった。可用性やセキュリティを追求した複雑な情報システムを設計、構築するコストも高くつく。それを単体のソフトウェアの標準機能として提供することがブロックチェーン技術の価値だ。

 ブロックチェーンに関するユースケース(活用事例)は、いずれも「止まらない、消せない、改ざんできない、低コスト」という特性に注目したものだ。ここまでは、よく知られるビットコインや、ビットコインとは別の仮想通貨である「Ethereum」、本稿で紹介する「Hyperldger Fabric」など、多くのブロックチェーン技術に共通する特徴といえる。

Hyperledger Fabricとは?

 Hyperledger Fabricは、ビットコインやEthereumのような「仮想通貨とセットになったパブリックブロックチェーン技術」とは大きく異なる特徴がある。以下にそのポイントをまとめよう。

(1)認証されたノードだけが参加する(パーミッション型)

 Hyperledger Fabricは、参加するノードを認証する「認証局」を置く構成を採っており、特定の(認証された)ノードだけがブロックチェーンへの参加を許される仕組みになっている。

 このようなブロックチェーン技術を、企業ネットワークに閉じた使い方をするという意味で「プライベートブロックチェーン技術」と呼ぶ場合がある。また、複数の企業や団体の連合(コンソーシアム)が分散型台帳を共有する使い方を指して「コンソーシアムブロックチェーン」と呼ぶ場合もある。

(2)仮想通貨なしで、運用主体を持った台帳管理システム

 Hyperledger Fabricを含むパーミッション型のプライベート(コンソーシアム)ブロックチェーンでは、一般的な情報システムと同様に「ノードを維持管理する運用主体」が必要だ。

 ビットコインのようなパブリックブロックチェーンが仮想通貨の「採掘」をインセンティブとしてノードを維持する仕組みを持ち、アセット管理(送金機能など)を組み込んだ実装になっているのと対照的に、Hyperledger Fabricは仮想通貨の送金機能などは持たず、台帳管理に徹した実装になっている。

ノードの参加や所有を管理する主体や、主体の構成方法にも多様な実装が考えられる

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ノードの参加や所有を管理する主体や、主体の構成方法にも多様な実装が考えられる
NTTデータ 稲葉高洋氏、山下真一氏によるセッションでは「誰がノードを所有(運営)するのか」との問題提起もあった

(3)エンタープライズに適した決済の確定性を保つ仕組みを持つ

 ビットコインで用いられる分散合意のアルゴリズム「PoW(Proof of Work)」はノード数が数千台という超大規模なP2Pネットワークを実現できる一方で、計算に掛かるコスト(消費電力)が大きく、決済が確率現象となり厳密な意味では結果が確定しない(この特性は「確率的ビザンチン合意」と呼ばれることもある)。こうした性質はエンタープライズシステムに適用する際のネックとされている。

 この問題を解消するために、Hyperledger Fabricでは「確定的な挙動の分散合意アルゴリズム」を搭載することで、金融分野で求められる「ファイナリティ(決済の確定性)」を保つ。ただし、確定的な合意形成アルゴリズムを使うことの代償として、合意に参加できるノード数の上限の数が小さくなる。ビットコインのように「数千ノードに冗長化された絶対に消えない台帳」を作れる訳ではない。

 Hyperledger Fabric v0.6では、分散合意アルゴリズムとして「PBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance:実用的ビザンチン・フォールトトレラント・アルゴリズム)」を実装、間もなく登場する「Fabric v1.0」では、その改良版(詳細は後述)を搭載する予定だ。

(4)柔軟に実装できるスマートコントラクトの仕組み(Chaincode)

 ブロックチェーンにおけるスマートコントラクトとは、ブロックチェーンの上で管理されて自動執行されるプログラムを指す言葉だ。Hyperledger Fabricの用語では「Chaincode」と呼ぶ。

 ビットコインでは、送金機能を標準搭載する一方、他の機能の追加は簡単にはできない。一方のHyperledger Fabricは、送金などの機能をChaincodeを使って各自が作り込んでいく設計思想になっている。ちなみに、FabricのChaincodeは、GoまたはJavaで開発できる。また、ChaincodeはDockerコンテナ上で稼働する。


  以上のことを踏まえて要約すると、「Hyperledger Fabricはプログラムを作り込める柔 軟性があり、挙動が確定的な分散型台帳管理システムを目指している」といえる。ビットコインのように仮想通貨とセットになったパブリックブロックチェーンとは大きく異なる設計思想だといえる。

 ビットコインのブロックチェーンでは仮想通貨の管理や送金は標準機能だが、Hyperledger Fabricではエンタープライズシステムのミドルウェアを意識しており、システムごとに処理のロジックを設計しChaincodeとして実装する。前述した「確定的な挙動」の合意形成アルゴリズムを使っているために、決済処理の挙動が確率的になることはないが、ビットコインのように大規模な冗長化には向かない。規模が大きなネットワークを作る場合には工夫が必要となる。

 このHyperledger Fabricは、間もなくGA(General Availability)版がリリースされる予定だ。特に合意形成アルゴリズムの並列処理対応によりトランザクション処理性能が大幅に改善する見込みだ。

 後編では、Fabricの最新情報と金融機関やITベンダーらの取り組みを紹介する。

                      (文/写真:星 暁雄、ITジャーナリスト)

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