メディア

使える“変人”を逃がさず生かす、タレントマネジメントの有効性とは

グローバル時代に日本企業に求められる人事戦略とは? 個人の才能を上手にマネジメントし、個性の高い精鋭部隊をもつことが重要な時代、それを可能にするタレントマネジメントとそのソリューションの最新動向を紹介する。

» 2016年10月24日 10時00分 公開
[小池晃臣タマク]

 これまで日本の企業で重用されてきたのは、突出した技能を持つ人材より、バランスのとれた人材であることが多かった。しかしグローバル化、クラウド時代、人口減少の日本では、もはや安定した利益成長は望めず、優等生タイプに偏った組織は、経営も技術開発も、マーケティングでも世界の競争スピードに負けていく。

 これからの企業は、ある一点に突出した才能を上手にマネジメントし、個性の強い精鋭部隊をもって企業のヒジネスを広げることが必須だ。それを可能にする新たな手法がタレントマネジメントだ。ここでは、タレントマネジメントが注目される背景や、タレントマネジメントツールについて迫りながら、将来の日本企業の人材活用の在り方を探りたい。

なぜ日本でタレントマネジメントが必要なのか?

 タレントマネジメントを端的にいうと、一人一人の従業員の意欲、技能を丁寧に観察、発見し、本人と組織にとっての最適配置を継続していくことだ。人事部としての制度の整合性や法令順守だけではなく、絶え間のない環境変化に対応するために、多様性のあるタレントをあらかじめ育成し、いつでも投入できる体制を整えていくことである。

 もともとは、米国人材開発機構(American Society for Training&Developmen、新名称はATD:Association for Talent Development)が「タレントデベロップメント」という概念を打ち出し、そこから人のタレント(=才能、技能)育成について総合的に体系化された「Integrated Talent Management」が成立した。これが現在まで欧米、とりわけ米国におけるタレントマネジメントのスタンダードとなっている。

 日本企業の間ではコンピテンシー評価を人事評価のスタンダードとしていることが多いだろう。コンピテンシー評価に基づいたマネジメントでは、協調性、創造性、柔軟性、交渉力、育成力、法令順守、提案力など、マネジメントに必要な要素を多く並べて、それらが一定水準以上であることを求める傾向になりがちだ。

 そうした場合、「プログラムのコーディングは抜群だが、人をまとめることが苦手」あるいは「発想力はずばぬけているが、ルーティン業務を確実にこなし続けることが苦手」「技能センスはすごいが、古いタイプの上司に反抗的」といった、一点に突出したタレントを持った人材の評価は低くなってしまう。

 しかし現在のグローバル市場では、企業は突出したタレントを有する人材の組み合わせによる、チーム能力の「総面積」で戦わねばならなくなっている。そのため、定型業務を平均以上のレベルでこなすが、突出した人材には乏しいといった、典型的な日本企業の人材構成では、チーム能力の総面積が狭く、世界では通用しなくなりつつある。

個人メドレーからチームメドレーに

 つまり、水泳競技に例えれば、4種目を全部泳げる選手で個人メドレーを求めてきたのが日本企業であり、種目別に速い選手を組み合わせてチームメドレーをしているのが欧米型企業ということになる。そして日本企業もチームメドレー型へと変革を迫られた結果、優れた才能をさらに伸ばすことに焦点を置いたタレントマネジメントへの注目度が一気に高まっているわけだ。

 ただし注意しておきたいのは、日本型の人事制度が劣っているということではない。ある時代までは、同質的な日本人を入社階層別に管理する方法が有効だった。しかし、大きな環境変化の中で日本企業が生存し成長するには、欧米型のタレントマネジメントの人事編成のスピード感を取り入れざるを得ないということなのだ。

 日本企業でも導入意欲が高まっているタレントマネジメントだが、単に人事システムを変えれば効果を発揮するというわけではない。特に必要となるのが、人事部門の意識の改革だ。なぜならば、人事部門というのは、社内の不安な要素を真面目かつ丁寧に取り除くことに努力を惜しまないメンタリティを抱きがちなものだからだ。

 対して、一点突出型の人材というのは、往々にしていわゆる「変わった人」であることが多い。そして、変わった人というのは現場の管理者や人事部門にとってコントロールしづらい。だからといってそのような人材を放っておくのは損失である。先にも述べたように、これからの時代はチーム能力の総面積が企業としての戦力となってくる。人事部門はこれからの時代の人材マネジメントを実行するため、現状を打破し、リスクをとる方向で「組織編成上の意識」を変革する必要があるだろう。

40代、50代、60代が堂々と部下になり、若い上司のもとで働けるように

 これからの日本企業に特に求められるのが、40代、50代、60代といったベテラン世代のスキルアップを支援できるタレントマネジメントの仕組みづくりである。この世代の従業員のうち、経営陣、幹部になるのはごく一部にすぎない。社内でのポストには限りがあり、管理職にも就けない社員も出てくる。そこで、社外でも通用するような本格的なスキルを早い段階から身につけていくようなキャリアプランが求められる。

 ここで重要なキーワードは「堂々と部下になること」である。ベテラン層は「部下を数百人抱えていた」とか、「大きな仕事をしていた」などといった過去のプライドに頼りがちだ。しかし、そうした拘りは捨てて、自分より若い上司のもとで臆せず自然体で働けるような気構えが大切になるのだ。

 この世代になると、自分の将来のキャリアの限界が見えてきて、元気を失ってしまう社員もいる。しかし、自分の性格や強みを存分に発揮できる領域で技能を高めれば、意欲を取り戻すことができ、企業業績に貢献し、ひいては日本全体の労働人口減少といった問題の解決にもつながることだろう。

 並行して、日本企業に決定的に欠けているのが、40代で社長やCEOを作り出せるようなタレントマネジメントだ。変化の激しい現在のビジネス環境では、このぐらいの年齢のトップマネジメントでないと世界競争で戦うことは難しい。

 そのためにも、若いころから責任や苦労も含めて積極的に「成功と失敗から学べる」成長のチャンスを与えるようにしたい。なるべく早い時期に次々と挑戦する舞台を与えて、将来トップを任せられる人材へと育てていくべきだ。将来の環境は不確実であり、攻め型、守り型などいろいろなスタイルの経営者候補の層を厚めにすることが肝要だ。

 プロ野球やプロサッカーで選手の経験と年齢をもとにレギュラー編成を組むことはあり得ない。企業が従業員の経験年数や年齢にこだわらなくなること、外国人や女性、即戦力採用の人材、シニア世代も力を存分に発揮できるようになる。その際は、現状の年功序列を基本とした役職の在り方など人事制度も大幅に見直す必要があるだろう。現在の人事部門には、現状維持から脱却し、社内の反発、批判を恐れず、タレントマネジメントを実践する勇気、熱気と継続定着させる根気が求められている。

タレントマネジメントツールの最新事情

 タレントマネジメントツールは、タレントマネジメントの円滑な実施をITによって支援するソリューションである。このツールは、他の業務システムのように業務プロセスを厳格に実行していくものではない。単純に言えば、人材に関する情報を蓄積して管理し、採用から配置・育成・評価・処遇までのプロセスを人事がきちんとまわせるよう支援するツールということになる。

 タレントマネジメントツールのデータベースには、全社の人員の情報が蓄積される。蓄積される情報は、人事給与システムが扱う所属や役職、勤続年数、給与などのデータの他、コンピテンシー・スキルとその評価、資格、研修履歴、過去の職歴など、多岐にわたる。そうして蓄積された大量の人材データから、ある条件ごとに最適な人材を検索によって発見することができるようになっている。

図1 タレントマネジメントツール「Oracle HCM Cloud」の個人検索画面 図1 タレントマネジメントツール「Oracle HCM Cloud」の個人検索画面(出典:日本オラクル)
図2 タレント人材を検索し、候補者を比較してより適切な人材を絞り込むこともできる 図2 タレント人材を検索し、候補者を比較してより適切な人材を絞り込むこともできる(出典:日本オラクル)

 また、従業員が自らシステムにアクセスして、現在の職責に必要であるのに足りていないスキルは何か、これからスキルを伸ばすためにはどうすればいいのかなどを確認できるようなソリューションもある。

図3 従業員は自分の職責に対し、何の能力(スキル)が足りていないか確認することができる 図3 従業員は自分の職責に対し、何の能力(スキル)が足りていないか確認することができる(出典:日本オラクル)

 例えば人材管理やタレントマネジメントをクラウドで提供する人事アプリケーション「Oracle HCM Cloud」では、1人の従業員にまつわる情報を、経営視点や人事視点、マネジャー視点、本人視点とさまざまな切り口から可視化することができるようになっている。人員が足りていない組織や部署を把握し、どのポジションに空きがあるかの分析や、人員の計画と実績の差分を並べて表示し比較する、組織の配置案をシミュレーションして作成し起案する、さらには従業員の考課履歴やプロファイル情報を参照しながら後任計画の策定を支援するなど、多様な業務を支援することができる。

 人材プロファイルについても、複数組織の兼務であるとか、詳細な業務履歴など、企業ごとのニーズに応じて柔軟な情報管理が可能だ。ある企業の人事部ではこれまで経験した役職、職務だけを知りたいと考える一方で、ある企業の人事部では、人件費や福利厚生といった待遇面の情報を可視化してコストをコントロールしたいなど、企業ごとに人材情報に対するニーズもバラバラなので、情報管理の柔軟性は極めて重要なファクターとなる。Oracle HCM Cloudはこれらのニーズに加えて、最近増えつつあるマトリックス組織のような複雑な組織にも対応しているのが特徴となっている。

柔軟な切り口で人材情報の分析が行える 図4 柔軟な切り口で人材情報の分析が行える(出典:日本オラクル)

コラム:あの優秀な人、実は退職リスクが高い? 何が不満かまで分かる

 最新の人材管理ソリューションの中には、従業員の個人ごとの属性情報(80項目以上)と、これまで従事していた従業員の退職実績やリテンション記録を登録することでデータマイニング処理がなされ、従業員それぞれの「パフォーマンス」と「退職リスク」を予測してくれる機能をもつものもある。管理者はそれらのマッピングを見て、「パフォーマンスは高いのに予測退職率(退職リスク)も高い」といった従業員のケアを早期段階で行うことができる。

 また、退職リスクを与えているファクターが何であるのかも予測できる上、例えば給与を上げると退職リスクは下がるのか、勤務時間を減らせば退職リスクは下がるのか、といった「What-If分析」もできる。こうして可視化できるものは可視化して管理することで、パフォーマンスの高い従業員を手放すリスクを最小限に抑えた人事も可能となるだろう。

(上)予測結果の確認−個人単位での表示:従業員単位にドリルダウンすることで、とくにケアが必要な人材を特定(中)予測結果の確認−予測因子の確認:退職率とパフォーマンスのそれぞれについて、どのような因子が予測に影響を与えたかが確認できる。この情報は、当該従業員の退職リスクを低減するためにどのような施策が適切かを考える上で、手助けとなる(下)What-If(もし〜だったら)分析:各予測因子を変更すると、予測退職率がどのように変動するかをシミュレーションすることができる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。