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超高速光駆動チップ開発へ、世界初の「ペタヘルツ高周波」を観測5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)

電界制御では1テラHzの動作が限界と考えられる中で、光の制御で「ペタヘルツ高周波」の世界への扉が開く。

» 2016年07月13日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 半導体はどこまで速く情報処理できるのか。これまでのような電界による制御では1テラHzの動作が限界と考えられる。しかし、光で電子を制御できれば、10〜100ペタHzという超高速動作も不可能ではないかもしれない。

 今回のテーマは「ペタヘルツ高周波」だ。過去に固体物質中で観測されたことのない1.16PHzという高周波が、窒化ガリウム半導体内部の電子運動として世界で初めて捉えられた。これは光駆動の超高速チップ開発の端緒になるかもしれない。

「ペタヘルツ高周波」とは

 ペタヘルツ高周波は、2016年4月、日本電信電話(NTT)と東京理科大学が発表した固体物質中で初めて観測された電子振動周波数のことだ。100京(10のマイナス18乗)分の1秒の時間幅で発光する「単一アト秒パルス光源」を用いた時間分解計測によって、窒化ガリウム半導体中で860as(アト秒=10のマイナス18乗分の1秒)の電子振動周期が捉えられた。これを周波数に換算すると1.16ペタHz(ペタHzは1秒当たり10の15乗回の振動)となる。

 現在の情報処理技術の基礎になっているのは、半導体に電気を通し、その応答を利用する信号処理方法だ。微細加工や3次元構造などにより半導体チップの処理高速化が推し進められるが、さらに高速化を図ろうとすると、従来のように電気で制御するのには限界がある。

 現在のところ、半導体チップの動作周波数の世界記録はDARPA(米国防高等研究計画)が実現したミリ波発生用チップの1テラHzで、これが限界といわれる。そこで、さらなる高速化のために期待されるのが光による制御だ。

 もともと半導体の光照射に対する応答はアト秒単位に達するほど素早いことが知られ、現在の半導体の電界操作に対する応答がピコ秒(10のマイナス12乗分の1秒)単位であることからすると1000倍は高速である。この素早い応答を制御できれば、現在の限界を超えた半導体の高速処理や新たな機能を実現できる可能性がある。

 しかし半導体内の電子の動きの光による制御は未知の世界。まずは光によって半導体にどんな物理現象が起こせるのかを観測することが先決だ。そこで、NTTと東京理科大は、光を使って半導体内の電子の動きを詳細に捉える研究に取り組んだ。その画期的な成果が今回の発表である。

どんな仕組みで何が捉えられたのか?

 研究チームが用いた観測のターゲットは、高エネルギーで高周波振動を起こせ、光に対する耐性があることが分かっている窒化ガリウム半導体(GaN)だ。青色LEDの材料として有名な透明な固体でもある。

 極めて短い時間幅で高エネルギーのパルス光(ポンプ光)を当てると、窒化ガリウム半導体の電子が励起し、価電子帯から伝導帯へと移動して「電子分極」と呼ばれる状態になる。その状態では励起した電子と電子が抜けたホールが対(双極子)になり、時間によって状態を変える「双極子振動」を起こす。

 さらに光(プローブ光)を当てると、半導体内の電子の加速度運動がその光に影響を与える。ごく短い時間幅でその影響度合い(吸光度)を観測すると、電子振動の様子が捉えられるというのがこの観測のおおまかな仕組みだ(図1)。

窒化ガリウム半導体のエネルギー準位のイメージ 図1 窒化ガリウム半導体のエネルギー準位のイメージ。近赤外フェムト秒パルス(光子エネルギー、1.6 eV)をGaN半導体に照射することにより、電子を価電子帯から伝導帯へと遷移させる。遷移に伴い生じる分極は、電子の振動を引き起こす。真空紫外領域の単一アト秒パルス(光子エネルギー、2.0 eV)は、価電子帯と伝導帯に位置する電子を、より高エネルギーの伝導帯へと遷移する(出典:NTT)
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