企業におけるiPad、iPhone活用の最適アプローチ

 

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掲載日: 2015/11/25

企業におけるiPad、iPhone活用の最適アプローチ

 ワークスタイル変革などを旗印に、多くの企業がモビリティ環境の整備に取り組んでいる。そんな企業を後押しするべく日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)では、“モバイルに対応する”から“モバイルを起点とする”ビジネスの再設計へ、を目指したIBM MobileFirstを展開しており、業務改革に繋がるモバイル活用の様々な仕組みを提案している。特にモバイル分野では2014年7月にAppleと企業分野での広範な提携を発表しており、Apple製品のエンタープライズ展開も気になるところだ。そこで今回は、同社が考えるモバイル戦略とともに、その要となるIBM MobileFirst for iOSに関する市場の反応や現況について、GBS事業本部 モバイル事業統括事業部長 藤森 慶太氏にお聞きした。

企業におけるモバイル活用の実態

■ エンタープライズ領域におけるモバイル活用の重要性について、どのようにお考えでしょうか。

 インターネットがテレビや新聞などのメディアと比べて著しく伸びていることはご存知の通りですが、そのアクセス手段はすでにスマートフォンがPCを上回っており、今後はスマートフォンからのアクセスが大きく伸びていくことが想定されています。高校生に至っては99%がスマートフォンを利用しているという調査結果もあるなど、コンシューマ世界ではスマートフォンはもはや不可欠な存在になりました。これから数年先を見れば、彼らが企業の中核を担う人材になってくることは間違いありません。実際には、スマートフォンだけで就職活動をする若者が増え、同じ文字量を入力するにしてもスマートフォンでのフリック入力のほうがPCでのブラインドタッチよりも速い世代です。彼らにとっては、感覚的にパソコンよりもスマートフォンのほうが使いやすいデバイスであり、PCのほうが使いやすいと回答する40〜50代とは大きく異なります。本来ならこれから企業の中核を担っていく世代をターゲットに、企業システムを作っていくべきです。その意味で、業務を新しい目線でデザインしなおすことが非常に重要だと考えています。

■ 現状、モビリティ環境が業務に劇的な変化を生んでいるとお考えでしょうか。

 2008年の「iPhone 3G」登場以来、個人の生活スタイルは激変したと言えます。例えば、旅行に行く際に誰もコンビニで地図を買うことはなくなったでしょうし、天気を確認するためだけにテレビのお天気コーナーを待つという人も少ないでしょう。一方で法人(エンタープライズ領域)では大きな変化がもたらされていないという印象です。確かに従業員1人ずつにノートPCが配布された際には多少の変化はあったものの、それ以来立ち止まっているように感じます。また会社貸与の携帯電話、いわゆるガラケーとほぼ同額で携帯キャリアがスマートフォンをオファーしたことで、モバイルデバイスの企業導入率は年率5割以上の伸びを示しているものの、その使い方は従来の携帯電話と大きく変わっていないのが実態です。もちろん、メールやスケジュールが社外から確認できるようになったという点で便利になったと感じている人はいらっしゃいますが、実際にはおよそ8割の企業がそこまでの活用に留まっているというのが我々の調査で明らかになっています。

■ モバイルならではの活用が進まない背景について教えて下さい。

 まず、モビリティ環境の整備に踏み出せない要因には、既存システムとの「インテグレーション」をはじめ、従来のPC同様に運用していけるのかという「維持管理」に関する不安、社外に持ち出すこと対する「セキュリティ」の懸念という、3つが挙げられると考えています。また、どこまでが業務なのかという労使問題も日本企業の場合は話題になります。
 中でも既存システムとのインテグレーションが課題にあがる背景には、マーケットを主導的に広げてきたのが通信キャリアだからという理由があります。デバイス先行型でマーケットを広げたことで、バックエンドのインテグレーションが追いついていないというのが今のマーケットの状態です。その結果、2年間ぐらい使ってみたものの、かなりの数のモバイルデバイスがキャビネットの中でほこりをかぶって保管されているというのが現実の姿なのです。

ログの活用が重要に。モバイル活用のロードマップ

■ 本来目指すべきモバイルデバイス活用の姿とは、具体的にどんなものだとお考えですか。

 モバイルデバイス活用のロードマップとしては、最初にメールやスケジュールなどの用途からスタートするのが一般的です。それが進むと、ガラケーではできなかったコラボレーションツールへの活用が広がります。他にも“ペーパーレス”などがモバイルデバイスのライトソリューションとして位置づけることができるでしょう。そこから先にあるのが、バックエンドシステムとの統合であり、我々が目指しているのは更にその先にある“アナリティクスとの融合”です。スマートフォンをはじめとしたモバイルデバイスは、それ自体がIoTの一環であり、スマートフォンを持たせるだけで集まってくる情報というものがあります。既存システムとモバイルデバイスを統合させた上で業務を行うようになると、その業務プロセス内で様々なログを残すことができます。この“ログが残る”ということがとても重要になってきます。

■ ログが残ることで何が変わっていくとお考えでしょうか。

 例えば営業担当者の成約率などの指標は、見積依頼をバックオフィスに依頼するといった企業のオフィシャルなプロセスが前提となるものです。しかし、実際にはその外側で営業担当者は様々な活動を行っており、優秀な営業マンとそうでない営業マンは行動そのものに違いがあったりするわけです。IoTのデバイスとしてスマートフォンを持たせることで、売れる人がどういう行動をとっているのかということが見えてくるようになります。そこから得た情報をフィードバックすることで、属人化した業務を平準化していくことができるようになる。それがアナリティクスの目指すところであり、そのためには情報を集めてくることが必要不可欠です。モバイルデバイスは、そのためのツールの1つになると考えています。エンタープライズ領域でモバイルデバイスの活用を進めていくためには、既存システムとのインテグレーションが不可欠であり、そこから得られた情報を分析するアナリティクスも重要になってきます。これらをグローバルで広げていける我々のような企業がAppleにとっても必要だったのではないでしょうか。

■ Appleの話題も出ましたが、Appleと広範な提携を行った背景について教えて下さい。

 我々は以前から、顧客視点に立った考え方でもの作りを行ってきました。これは従業員目線でシステムを作るという意味で、企業システムでも重要な考え方です。ユーザ目線で製品作りやシステムをデザインするという観点で、グローバルでどの会社が一番優れているのかと考えたときに、我々はAppleがその最適なパートナーだと考えました。IBMの企業システムにおける実績やアナリティクスの知見、業界に精通したコンサルタントの力と、Appleの強みであるユーザ体験を組み合わせることで、モバイルを活用した業務変革を起こせると考え、我々は手を組んだのです。

■ 提携に関して、日本と海外で反応の違いはありますか?

 見方にもよりますが、海外も日本も大きな意味での差はないかなと考えています。去年の7月に提携を発表してからIBMとして全世界同時にオファーを出していますが、日本が突出して遅れているというわけではなく、むしろAppleユーザが多い日本のほうが海外に比べて受け入れられている部分もあります。ただし“業務変革”という視点では、海外との間に差はあるのではないでしょうか。ERPなどが広がった時代もそうですが、日本ではベストプラクティスに業務を合わせるという発想が浸透するまでに時間がかかりました。特にモバイルだから特殊なことがあるというわけではなく、新たなソリューションが出てくると、それに合わせた業務変革ということに結びつきにくいのが日本の実態だと考えています。

■ Appleとの提携やIBM MobileFirst for iOSなどを提供されたことで、既存のパートナーからはどのような反応がありましたか。

 正直に言えば、お客様によって期待値がまちまちのようです。もちろん驚きの声が多く寄せられていましたが、反応についてはポジティブなものからネガティブなものまで様々です。ポジティブなもので言うと、システムデザインの面でAppleのノウハウが入ることで、何かイノベーティブなシステムが創造できそうだという反応です。

■ エンタープライズ領域におけるモバイルデバイス活用のあり方についてお聞かせ下さい。

 モバイル活用に際して、よくWindows PCとのコンフリクト(衝突)が起きることがありますが、それは既存の業務をiPadで行おうとする発想に端を発しています。我々がお客様にお話しするのは、「移植ではなくて再設計しましょう」ということです。これまでの業務を、モバイルデバイスを使う前提で改めて再設計してみると 、まったく形が変わるということをよくお伝えしています。例えばレジの仕組みを考えてみましょう。Appleがストアをオープンするときに考えたのが、レジに並ばせるという顧客体験がそもそも不要だという視点です。その結果、商品の購入を店員に伝えると机の下からiPadが出てきて、その場で決済できるような仕組みができました。つまり、iPadでレジに並ばないプロセスを再設計したのです。レジに並ぶという業務プロセスは、昔のテクノロジーで考えられたショップのあり方です。今のITテクノロジーを使えば、違う形のプロセスを作りだすことができます。企業システムにおいても、ITテクノロジーを駆使した上で、プロセス変革を従業員目線で行うことが重要です。

■ モバイルを活用する人に合わせて業務を再設計し直すということですね。

 おっしゃる通りですが、実際に導入していくターゲットについても考える必要があります。 役員層からiPadを配るという企業が多く見られますが、これははっきり言ってナンセンスです。 また、バックオフィスで働く人などもインプット主体でWindows PCを使っており、わざわざモバイルを導入する効果は描きづらいものだと思います。本当に必要な層に対してモバイルデバイスを検討していく必要があります。例えば、看護婦や看護師の方や、お客様と接する機会が中心のフライトアテンダントやショップ店員の方など、業務上メインでPCを使っていない企業従業員へデバイスを展開することこそ必要なことなのです。

■ デバイスの選択についてはいかがでしょうか。

 当然ですが、業務の内容に応じて最適なデバイスを選択することも忘れてはなりません。詳細なマニュアルが必要な方であればiPadがフィットしますし、情報にアクセスできればいいという方であれば携帯性に優れたiPhoneで十分です。通知などから気づきを与えることが必要であればApple Watchという選択肢もあります。業務内容によって選択すべきデバイスは異なってきますが、いずれにせよ情報にアクセスできていない層に持っていただくことが重要です。
デバイスの種類という観点では、マイクロソフトからSurfaceが発売されたときに、iPadとかぶるということをおっしゃる方もいらっしゃいました。しかし、SurfaceはタッチができるPCであり、指で画面を操作することを前提として作られたモバイルデバイスとは本質的に異なります。本来モバイルデバイスは情報を持ち出す、閲覧する、調べるという使い方に特化しているものであり、主体はあくまでインプットではなくアウトプットです。逆にPCは基本的にインプットするためのものです。デバイスも適材適所で使い分ける必要がありますが、モバイルデバイスがアウトプット主体の使い方という点をしっかり念頭に置いておく必要があります。

企業成長に貢献するIT活用を考えられるIT部門に

■ 本来ならIT部門が業務変革などの提案をしていくことが求められていると思います。ぜひIT部門にアドバイスをいただけますか。

 一般的な業務変革は業務側の改革です。しかし、今我々がやっているモバイルを使った業務変革や再設計は、ITというテクノロジーありきの話です。例えば遠隔地と映像を使ったコミュニケーションが図れるFaceTimeやスマートフォンに内蔵された加速度センサーなどを使えば、これまでとは違う業務プロセスを再設計することができるはずです。例えばリスク回避のために現場では複数名で活動している化学工場であれば、傾きを検知する加速度センサーを持つスマートフォンを持つことで、1人で行動しても倒れたことがモニタリングできるようになります。加速度センサーというテクノロジーがあるからこそ、これまでとは違う形で業務プロセスの再設計が可能になるのです。
 ただし、IT部門としての役割は、これまで業務部門の希望を聞いてスコープを最小限に抑えながらローコストでシステムを作っていくことであり、保守的な方も少なくありませんでした。しかしこれからは、新たなテクノロジーを使うことで業務を変えることができるという、提案型のITというのが当然必要になってきます。現場側も、現状よりも改善されるのであれば比較的受け入れる下地は持っているものです。実際には、過去の経験からシステム変更=改悪というイメージを持っている業務部門の方もいることは間違いありませんが、モバイルは企業のフロントにいる方の業務負荷を減らしてくれるツールになるはずです。ぜひポジティブに捉えて進めていただければと思います。

■ では、モビリティ環境の整備においてIT部門が注意すべきことはありますか。

 iPadなどを現場に導入する際に、Webブラウザ経由で既存システムを使ったり、拡張デスクトップであるシンクライアントを使ったりするケースが多く見られます。ただ実際に環境を整備した100社以上の企業の方とお話しさせていただくと、ほぼ失敗しているのが現実です。当たり前ではありますが、iPadなどは情報をインプットするツールではなく、情報を閲覧して今ある業務のクオリティを高めていく、情報が届かなかった人に届くようにしてあげる、かつ指で触れることを前提に作られているツールです。つまり、マウスでクリックして使う既存のシステムをそのまま乗せれば、当然ながら使い勝手が悪くなる一方です。コンシューマの世界では3タップで情報にアクセスできないものは使われないと言われますが、これは企業システムであっても同じこと。従業員目線で考えれば絶対にネイティブアプリのほうがいいはずなのですが、Webシステムやシンクライアントを主導するのはむしろIT部門です。IT部門がその発想をもっている限りは、タブレットの使い勝手はよくならないというのが私の本音です。もちろんコストの問題はありますが、それを超える業務改善効果、リターンの部分がきちんと描ければ問題ないはずです。“コストを抑えるだけのIT”から“成長に貢献するIT”に変わることがモバイルを成功させる重要な要素になると思います。

取材協力

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