スペシャルインタビュー 日本マイクロソフト株式会社 伊藤かつら氏

 

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掲載日: 2015/10/19

企業で導入する iPad iPhone Macbook

 iPadやiPhoneなどのスマートデバイスをはじめ、MacOS搭載PCが様々な理由でビジネスシーンにおける重要なデバイスとして浸透してきており、これまでのWindows中心の企業システムの中でもその存在感が高まってきている。そんな中、1年前にサティア ナデラ新社長を迎えたマイクロソフトでは、モバイルファースト・クラウドファースト時代に求められる企業システムのあるべき姿を提案し続けている。今回は、時代にマッチした企業システムの新たな潮流を作り出すマイクロソフトが描くクロスプラットフォームの世界と、その中でiPadやiPhone、MacOS搭載PCなどWindowsとは異なる環境への対応について、執行役 デベロッパー エバンジェリズム統括本部長の伊藤かつら氏にお話を伺った。

マイクロソフトが描くクロスプラットフォームの世界

■ ここ1年の間で、貴社の中でWindows以外の環境もふまえたクロスプラットフォームの世界を意識した動きが増えているようです。そのきっかけについて教えて下さい。

 2014年2月14日にサティア ナデラが新社長に就任しましたが、その時に1つの大きなメッセージを発信しました。「95%のPCシェアを見るのではなく、12%のシェアしか持っていないモバイルデバイスのマーケットを対象にして、モバイルファースト・クラウドファーストの時代を理解して戦略を立てていかなければいけない」というものです。つまり、iOSやAndroid、Linuxなど様々なOSがあることを前提に、プラットフォーム戦略を立てていく必要があると明言したのです。これはこれまでと劇的に変わった大きな視点の変化です。正直に言えば、今までのマイクロソフトはWindowsの世界だけをみて、PCの市場でシェアを獲得していこうという戦略でしたが、もはやそれは成り立ちません。他のOSがあることを前提にビジネスを考えていかないといけないのです。

 また、彼が語ったメッセージの中で、私がとても好きな言葉がもう1つあります。「Our industry does not respect tradition」、つまりこのIT業界で“伝統的である”というのは“何の尊敬も集めない”ということです。我々がソフトウェアベンダでありITベンダである限りは、ITの力で革新を起こしていく、それが課せられた最大の使命であるということです。まさにプラットフォームに依存しない形で革新を起こしていくことが、マイクロソフトに求められているということです。

■ 貴社が目指しているクロスプラットフォームの世界とはどんなものでしょうか。

 我々がどう革新を起こしていくのかという点では、大きく分けると2つのキードライバーがあると考えています。1つが「オープンソース」、そしてもう1つの重要なドライバーが「クロスプラットフォーム」です。

 クロスプラットフォームにはいくつかのニュアンスが含まれますが、重要なのは3つの視点です。まずはエンドユーザの視点です。ナレッジワーカーと言われる方の中には、Windows環境でWordやExcelを駆使して業務を行っているケースが多く見られます。しかし出勤途中や移動の際には、Windowsを使っていない可能性が高くなります。そのときに、いかにセキュリティを担保しながら、どれだけ社内のWindowsと同じような環境を提供できるかということが重要です。そこで我々は、Office for iOS/AndroidによりWindowsと同じ作業が行える環境を提供すると同時に、リモートデスクトップ機能を使用してWindows固有の業務アプリケーションが利用できるようにしました。これらはまさにエンドユーザを意識したクロスプラットフォームのソリューションです。

■ では、IT部門で考えるクロスプラットフォームとは具体的にどんな視点でしょうか。

 残り2つのIT部門の視点としては開発者視点と運用管理者視点の2つが考えられます。特に私が重要だと考えるのが運用管理の部分。BYODかCYOD(Choose Your Own Device)かは問わずWindows以外のデバイスも含めて単一の環境で運用管理するにはどうすればいいのか、ということです。以前からマイクロソフト社内にはBYODのための環境が整備されています。デバイスを自ら購入して社内環境に容易に接続できます。ただし、ネットワークに繋げた瞬間から、マイクロソフトの厳格なセキュリティポリシーが適用され、監視も始まります。世間では、個人デバイスに企業のポリシーが適用されることを嫌う傾向にありますが、このポリシーのおかげでマルウェアを心配したり、フィッシングサイトや社外秘データをうっかり社外に転送してしまうといった恐怖から解放されます。もしデバイスを紛失しても自身のポータルにアクセスしてリモートワイプすれば済みます。我々が自ら実証しているソリューションは、エンタープライズモビリティスイートとして既に提供されておりお客さまにもセキュアで生産性の高いITを体験いただくことができます。ほんの一部ですが、これが、運用管理における理想的なクロスプラットフォームの姿です。

■ Windows 以外のデバイスでも同様の管理が可能になると。

 例えば個人でiPhoneを購入したとします。会社のOutlookのアカウントを設定し、Office 365のサーバーに接続すると、その瞬間から会社のポリシーが適用されます。具体的には、はじめに6桁のパスコード設定が強制されます。設定が完了するまでは次に進むことができません。次に本人確認のために社内に登録されている電話番号に電話がかかり適切に応答しなければなりません。ユーザIDとパスワードだけでなく、電話が追加の認証要素になっている点が面白いところです。この多要素認証の機能は、クラウド上のアイデンティティプロバイダーである Azure Active Directory によって実現しています。

 セキュリティについては、MDMだけでなく、アプリケーションレベルのMAMやコンテンツレベルのMCMまで含めて制御できるようになっています。例えばIRM(Information Rights Management)と呼ばれる仕組みを使うことで、メールや添付ファイルを暗号化し、お客さまに送信したデータですらアクセスを制御することができます。このように、Windowsプラットフォーム上で培ってきた認証やセキュリティ、アクセス制御の仕組みをそのままクロスプラットフォームに展開しているのです。しかも、それをマイクロソフトのクラウドプラットフォームであるAzure上に実装しているため、社外で使用することが多いモバイルデバイスとの親和性もよく、IT管理者からすれば、クラウド上で設定するだけ。個別にサーバーを設置せずに行えるため、容易に展開することが可能なのです。

■ 開発という視点では、「ユニバーサル Windowsプラットフォーム」が気になるところです。

 ユニバーサルという言葉が示す通り、これはすべてのWindowsデバイス間でアプリケーションを共有しようという思想であり戦略です。

 これまではWindowsのアップデートのたびに互換性検証が必要でしたし、Windows PC や Windows Phone、Xbox などWindowsデバイス間であってもアプリケーションの移植が必要な場合がありました。これからはすべてのWindowsデバイスが共通して利用できるアプリケーションフレームワークにより、どのようなデバイスであっても同じアプリケーションが使えるようにしたいと考えています。

 こうしたWindowsアプリのことを、「ユニバーサルWindowsプラットフォーム」と呼んでおり、Visual Studioですべて開発できます。それに加えて、4つの Windows ブリッジ ツールキットをリリースします。これにより、既存のコードベースをすばやく「ユニバーサル Windows プラットフォーム」に移行し、「ライブ タイル」「アクティブな通知」Windows ストアの「アプリ内購入」などの機能を追加することができます。各ツールキットは、コードベースごとにカスタマイズされたツールとランタイムテクノロジを提供します。

■ 具体的にどのようなブリッジが提供されているのでしょう?

 1つは既にリリース済みである「Webサイト」のアプリ化(Webアプリ用Windows ブリッジ)です。他には「デスクトップアプリケーション(従来のWindows アプリケーション用Windows ブリッジ)」「iOSアプリケーション(iOSアプリ用Windows ブリッジ)」「Androidアプリケーション(Androidアプリ用Windows ブリッジ)」があります。この中でiOS 版のみプレビュー版としてGitHubに公開されています。その他は現状開発中のため順次展開していく予定です。

 例えば XamarinやCordovaといったVisual Studio のプラグインは、AndroidやiOSのアプリを、どのようにWindows 開発用の言語であるC#で統一的に開発するか、という試みです。これに対して、Windows ブリッジは、Android StudioやXcodeで既に開発済みのアプリを、どのようにWindows のストアにできるだけそのままの形で展開していくか、という話です。Visual Studioを経由する場合としない場合とがあります。

■ 技術者がそれぞれの知見を活かしながら、Windowsに展開できる環境が整うということですね。

 おっしゃる通りです。中には、Windows環境への囲い込みという見方をされる方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなことはありません。我々はモバイルの世界で12%程度しかシェアを持っていません。ユーザにとってベストなエクスペリエンスが提供できるのがWindowsでなければいけないと思っており、シェアが拡大することを信じて努力していくことは当然なのですが、このシェアが劇的に変わるということはないはずです。これらの施策は、あくまでユーザの生産性向上をサポートするための活動だとご理解いただければと思います。環境に応じたデバイスで業務アプリケーションを利用できることがユーザにとって理想的な環境であり、それが生産性向上に繋がっていくはずです。決してWindowsへの囲い込みということではないのです。

iOSコンソーシアムなど周囲からの反応

■ クロスプラットフォームかつオープンな環境を目指している貴社に対して、周囲の反応は変わってきていますか。

 セミナーにご参加いただいている方の層を見ると、明らかにオープンソース系の方が増えているように見受けられます。我々自身が積極的に関わっているオープンソースに強いエンジニアがけん引力となって、多くの方に興味を持っていただいている面もあります。運用管理に携わっている方からも、Windowsだけしか管理できなかったものから、iOSやAndroidなども管理対象に含めることができるようになった瞬間に、Microsoft IntuneやAzure Active Directory指定でセミナーの依頼や話を聞きたいという案件が増えています。

■ iOSコンソーシアムなど、他のプラットフォーム陣営からもお声がかかっていると伺っています。

 iOSコンソーシアムや日本Androidの会など、様々なところからお声掛けいただけるようになったのは大きな反応です。iPhoneなどのデバイスも含めて管理できるような環境を提供できるようになったことで、会社のPCしか管理していなかったIT管理者の方に対して価値訴求の舞台を広げるきっかけになればとも考えています。我々はWindowsタブレットがベストなデバイスであると考えていますが、iPadも安心して採用いただける環境を整えることができました。これからも管理者の方を少しでも元気づけて差し上げられる環境が提供できるようにしていきたいと考えています。

 先日はiOSコンソーシアムが開催したイベントの基調講演にお招きいただき、当日は、iPadと Macを使用してプレゼンさせていただきました。懇親会でご挨拶させていただいた折にも、我々に関心を持っていただいている方がたくさんいらっしゃったのが印象的です。特にB2Bの世界では、何らかの形でWindowsとかかわりを持っていらっしゃる方が多く、開発のクロスプラットフォームやマルチデバイス管理は歓迎いただけたようです。

 我々は「地球上のすべての人々や組織が“do more and achieve more”できるようにする」ということがカンパニーコードとなっています。このすべての人の中にはWindowsを使っていない人も含まれるわけです。それが我々のコミットメントだと考えています。

 他にも、2015年開催したパートナーカンファレンスでは、これまで他のプラットフォームの世界でビジネスをされてきた新しいサービスベンダさんが4分の1程度いらっしゃいました。我々のオープンな戦略が段々浸透してきたというところもあります。我々も積極的に新しいパートナーとの関係を構築していきたいと考えています。

オープンソースへの取り組み

■ オープンソースに関する取り組みについても教えて下さい。

 あまり知られていないことではありますが、実はマイクロソフトは最適な標準化が迅速に策定できるように、リサーチや開発の人員を数多く標準化団体に派遣しています。同時に、GitHubやDocker、Apache Cordovaなどのオープンソースプロジェクトにも人材を送り込んでおり、よりよい標準化技術をいち早く作ることで業界全体の発展に貢献する活動を積極的に行っています。また、プロジェクトで決められたものはすぐにAzure上に実装する、あるいはWindows ServerやVisual Studio、Microsoft Edgeに実装するということを粛々と行っています。自社の優れた技術を自らの製品にだけに実装するのではなく、まずはよりよい標準化を進めていき、それをいち早く製品に実装するということをやっているのです。

■ 開発体制も従来とは異なるアプローチを採用しているのでしょうか。

 世界中で数万人の規模でマイクロソフト製品の開発が行われていますが、過去3年の間にオープンソーススタイルの開発に大きく変化しています。クラウド上に開発コードのリポジトリを作成した上で、何千何万というファンクションごとに担当者を設定し、実際の要件やテスト状況、リリース時期などが開発部隊の中で共有されています。元々はAzureでの開発手法でしたが、Officeも含めたあらゆる製品で進捗状況を共有しながら開発を進めるという、いわゆるアジャイルスタイルのような形を採用しています。オープンソースの優れた開発手法を取り入れることで、製品の開発サイクルが速まっているばかりか、製品同士の連携も加速していると実感しています。「Windows as a Service」も、より品質の高い機能をより早く提供するためにWindows10から採用された思想の1つです。

 そこでノウハウが蓄積されているからこそ、開発にお悩みの方にDevOpsのようなものが紹介できますし、日本の開発拠点であるMSD(マイクロソフトディベロップメント)で行われている手法などもご紹介することができるようになっています。

■ 組織としてもオープンソースシフトは進んでいるのでしょうか。

 サティア ナデラが就任する以前からですが、製品ごとに分かれていたものを、今はOSとハードウェアが1つのチームとして動き、Bing(検索)やOffice、Skypeで1つ、そしてServerとクラウドが1つのチームという形で組織が形成されています。しかも、それぞれのチーム同士がお互いにコミュニケーションを緊密に取りあうことで、製品間の連携を強化することが可能になっています。

 オープンソース化するためには、考え方だけでなく、組織、開発プロセス、人事評価の仕組みまで変えました。もちろんリーダーもずいぶん変わりましたし、シアトルに行くとメンバーもずいぶん若返っている感じがします。もちろん、組織を変えることについての社内的な軋轢がなかったとは言えませんが、それがないとイノベーションをもたらす組織にはなれないと考えています。私が所属する組織も私も含めて女性比率が高く、外国人もいるダイバーシティな組織に生まれ変わっています。

■ 最後に読者にメッセージをいただけますか。

 ITに関わる人にとって、今はものすごくチャンスだと思っています。経営者の観点が変わってきており、日本でもIT部門がコスト部門だと言われていた時代は終わりつつあります。今やITを戦略として捉えられない経営者は、企業経営においてもあまり成功できていないように感じられます。だからこそ、“守り”ではなく“攻め”のITになっていただきたい。そのためには、やっぱりIT部門の力がとても重要です。実際には、重厚長大、あるいは歴史ある大企業でも、IT部門に人材を招き入れたり、専門家を招へいしたりなど、社内だけではなく外部から専門家を受け入れて、ビジネス上の差別化をITで図っていこうという動きが起きています。

 だからこそ、ITに関わる人材の流動性は、これまで以上に高まっていくはずで、エンドユーザ側のITレベル、スキルレベルを高めていくことがこれからの経営には必要になってくるのです。今の日本では、エンドユーザ側にいる技術者が25%、ベンダ側・SIer側にいる技術者が75%と言われていますが、アメリカはその逆。しかもアメリカの場合は、その人材が頻繁に入れ替わってベンダ側、ユーザ側両方を経験しながらスキルを積み重ねている状況が続いています。日本でも同様な動きに変わってくることを期待しています。もちろん、IT部門も怖がらずにビジネスに対する付加価値を提案する、経営的な視点を持っていただくことで、大きなチャンスを掴むことができると考えています。

取材協力

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