事例で見る業務改革への効果的なアプローチ

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アナタに代わって聞いてきました!ザ・キーマンインタビュー

全日空の事例に見る「業務改革への効果的なアプローチ」

2015/02/19

全日本空輸(全日空)では、2012年4月から全客室乗務員のiPad携行を開始し、更には運航乗務員、ライン整備部門へと広げるなど、経営戦略で掲げる構造改革の具現化として、ICT活用によるワークスタイル変革に取り組んでいる。同社ではどのような流れで改革を進め、現在、どれほどの成果を上げているのだろうか?

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全日本空輸株式会社:荒牧 秀知 氏

業務プロセス改革室
イノベーション推進部 部長
荒牧 秀知 氏

創立60周年を機に、「強く生まれ変わる」ための業務プロセス改革を

Question

貴社では、ICT活用によるワークスタイル変革を実践されているということですが、もともとはどのような経緯で取り組みを始められたのでしょうか?

Answer

全日本空輸株式会社:荒牧 秀知 氏

2012年12月にANAグループは創立60周年を迎えました。そして、それを機に「強く生まれ変わる」というスローガンの下、業務プロセス改革にグループ全社を挙げて取り組んでいこうという大号令がトップから発せられました。航空業界の激しい競争の中で今後もお客様から愛され、グループ収益や企業価値の更なる向上を図っていくためには、ANAはどういう立ち位置にあるべきか、どういうアクションを起こしていくべきか。そう考えた時、もちろん、これまで積み上げてきた実績や経験というものがベースにはなるものの、それに甘んじるという姿勢ではなく、むしろ、新たに生まれ変わるくらいのつもりでやろうということでした。そして、多岐にわたる取り組みの一環として、「IT部門はどうあるべきか」という検討もなされました。私が属する部署はもともと「IT推進室」という名称で、いわゆる「IT部門」としてユーザ部門のニーズを受けて最適なシステムを検討していくという、どちらかというと「受身」な存在でした。

「強く生まれ変わる」ためには、業務プロセス改革という視点がより重要となりますから、明確な経営方針のもとに、名称を「業務プロセス改革室」に変更するとともに、機能としても「部門を横断したお客様視点での新サービスの企画、及び、社内・グループ内の業務プロセス改革の推進」により重点を置くようになりました。ユーザサイドにもう一歩踏み込んで、一緒に課題を洗い出したり、それを解決することでどのようなメリットが生じるかを考えていくというかたちです。もちろん、そうした課題解決に際しては、当然ながらITが最も主要なソリューションとなりえますが、必ずしも常にITが最適な答えとなるわけではなく、業務自体の統廃合やビジネス・プロセス・アウトソーシング (Business Process Outsourcing)なども含めて、従来よりも更に広い視野で検討を行うようにしています。また、古いプロセスから新しいプロセスへと変えた時に、どういうメリットが定量的・定性的に生じるのかといった点は、計画の段階からユーザと業務プロセス改革室の間できちんと共有化するようにし、導入後もレビューをしながら得られた効果を確認していくという作業を行っています。

Question

いわゆるトップダウンで様々な改革が進められたという流れでしょうか?

Answer

トップダウンというよりも、むしろ、「トップのコミットメントによって」と捉えるべきかと思います。具体的にどう実現するかは、私の部署も含めて、各部門のトップに任せられ、それぞれに具体的な方策を考えていったわけですが、その際に議論を組み立てる上で主な要素となったのが次の4点でした。

まず、当社は航空輸送業に従事しており、お客様に繰り返しご搭乗いただいて初めて収入が得られるわけですから、第一に「お客様満足度の向上」を目指さなければなりません。また、競争激化の中で当社を選んでいただくためには、他社の後塵を拝するのではなく、次々と「新たな価値創造」を図れるような体制が求められるでしょう。もちろん、そうした取り組みにあたっては、いかに「生産性を向上」させながら行うかも必要となります。低運賃を武器にLCC各社が存在感を増す中で、レガシーキャリアと言われることなく対抗していくためには、やはりコスト削減も図っていく必要があるからです。そして、最後に「従業員の満足度向上」も重要だと考えています。やはり、企業を支えるのは従業員であり、従業員自身が充足感やモチベーションを保てるようでなければ、ビジネスも活性化していかないと思います。つまり、業務プロセス改革の目的としては、いかに増収を図るか、業務効率を高めるか、コストを下げていくかといったこととともに、いわゆる“ワークスタイルイノベーション”も重要な柱の1つだと捉えているのです。


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iPad導入でコスト削減を図りつつ、スピーディできめ細かな情報共有も実現

Question

具体的にはどのような取り組みを展開してきたのでしょうか?

Answer

全日本空輸株式会社:荒牧 秀知 氏

ANAグループに在籍する客室乗務員は約6000名に及びます。その6000名もの客室乗務員に対して、様々な業務やサービスの内容・手順、あるいは新規就航開始などの最新情報を隈なく浸透させるためには、マニュアルや業務連絡による伝達を行う必要があります。例えば、マニュアルは1000 ページに達し、以前は3冊のファイルにまとめて持ち運んでいたわけです。しかも、定期的に膨大な情報の更新、具体的には年間で600ページ程度の差し替えが生じます。そのたびに、6000人分の差し替え用ページを印刷して配布し、各自でマニュアルの更新作業を行うだけではなく、古いページに関しては機密として責任を持って廃棄しなければならない。こうしたプロセスにはかなりの手間と印刷代などの多大なコストがかかっていましたが、マニュアルを電子化し、iPadで閲覧するようにしたことで、年間4億円程度の削減につながっています。更に、コストメリットだけではなく、最新の情報を非常にスピーディに展開できる体制が構築されたという点にも大きな意味があると感じています。

また、もう1つの側面として、その6000名もの客室乗務員に対して、個々や全体での生産性向上を図ったり、あるいは新たな価値創造につながるような環境を構築していくことが非常に重要です。そうした観点でユーザ部門と議論をする中で、やはりポイントになってくるのが時間の制約の多さです。客室乗務員はフライトでの乗務が主体となりますが、その間だけ仕事をしているわけではなく、乗務に必要なスキルを習得するために1ヵ所に集まって集合教育を行っています。事業拡大により増加する知識や高度化するスキルを習得するために、集合教育を自己学習に置き換えることで乗務できる機会を増やすとともに乗務をしながら効果的にスキル向上を図れる環境を整備したいというニーズが存在していたわけです。

そのため、現在ではiPadを電子マニュアルの閲覧に加えて、教育用動画教材などのコンテンツ配信にも利用しています。アイドルタイムを自己学習、あるいは実際の訓練などのカリキュラムをきちんとこなすための事前学習にあてることで、客室乗務員は時間を有効に活用でき、時間価値を高められているのです。また、将来的にはお客様とのコミュニケーションなどにも活用できるようにしたいと考えています。国際線などではかなり長いフライトタイムをお客様とご一緒させていただくことになるのですが、様々な情報を電子化しておくことで、客室乗務員はより深い情報を持ってお客様と接することができ、より品質の高い、きめ細かなサービス提供にもつながるのではないかと考えています。


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「デバイスありき」ではなく、業務プロセスのあるべき姿を見定めることが重要

Question

iPad導入は単なるペーパーレス化にとどまらず、様々な部分での業務プロセス改革につなげられているということでしょうか?

Answer

全日本空輸株式会社:荒牧 秀知 氏

こうしたIT導入に際しては、ともすると「デバイスありき」で進めてしまいがちですが、そうではなく、あくまでもプロセスの見直しが入り口であって、デバイスというものは、お客様満足度の向上、新たな価値創造、生産性を向上、従業員の満足度向上といった目的を達成するための1つの手段にすぎないと考えます。 「デバイスありき」ではなく、目指す業務プロセスのあるべき姿を見定めて、関連する様々なプロセスを一から見直した結果、iPadの活用が価値につながると判断した部分については、実際のサービスとして展開していく。あくまでも、そういう流れで取り組みを行っているのです。

Question

今後はどのような改革を進めていくことになるのでしょうか?

Answer

グループ全体では約3万3000人という規模になりますから、システム展開だけでなく、教育や運用のサポートなども含めると、当然ながら、全社一斉というわけにはいきませんし、段階を追って、より大きな効果が見込めるところから取り組みを進めてきました。タブレット導入に関しても、最初は客室乗務員で実施し、その中で様々な課題を摘み取りながら、約1年半後には運航乗務員(パイロット)、更にその約1年後にはライン整備士へと導入しており、次はグラウンドスタッフなどへの展開を検討しているところです。

ただ、私たちの業界においては、やはり「安全」というものは譲れませんから、いくら便利になるからといって、航空機の運航に支障をきたすような懸念がわずかでもある場合には、安易に導入することはできません。また、仮に当社で十分に安全性の確証が得られたとしても、法規制などで認められていなければ、それは採用できないということになります。例えば、昨今の航空機はグラスコクピット化が進んでいて、非常に性能の高いコンピュータによって制御されていますから、様々なデータを画面上で確認できるわけですが、万が一の事態のバックアップとしてフライトチャートなどフライトに必要な情報に関しては印刷物でも携行する義務があります。こういった部分も徐々に電子化が認められつつありますが、各国の管轄省庁から厳しい審査を経つつ、世界の各航空会社が電子化を進めているという状況で、日本では国土交通省の航空局から認可される必要があります。そのため、当社としても航空局などと密に連携を取りながら、お客様をより安全・快適に目的地にお届けするために、様々な業務プロセス改革を進めていくつもりです。


●ありがとうございました。


取材協力

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1952年の創業から、安全運航を第一に航空輸送サービスを提供し続け、現在では年間旅客数が4900万人を超える世界トップクラスの航空会社の1つに成長。数あるエアライングループの中から利用客に選ばれ、世界をリードし続ける確固たる地位を築くことを目指し、様々な事業展開や改革に取り組んでいる。


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