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IEEE 802.11acのさらに先を行く「協調無線LAN」とは?5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)

ギガビット対応のIEEE 802.11acが抱える干渉問題などに対処すべく新たに研究が進む「協調無線LAN」。その最新動向を探る。

» 2014年02月19日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 今回のテーマは、対応製品が出始めた無線LAN新規格「IEEE 802.11ac」のさらに先を行く、多対多の高速通信技術「協調無線LAN」だ。新たなビームフォーミングによって干渉を排除するだけでなく、周波数の「すき間」を有効に利用するという発想は、まさに狭い日本ならではのお家芸といえる。無線LAN環境が過密化しても、ギガビットイーサネットより高速な無線LANが実現するかもしれない。

「協調無線LAN」とは?

 協調無線LANは、1Gbps以上のスループット達成に道を開いたIEEE 802.11ac仕様に内在する干渉問題などの課題を解決し、アクセスポイント(AP)と端末の無線LAN装置(STA)が近接して多数存在する環境でもスループットを維持、向上させる技術だ。

 使用する複数のAPが協調して送信制御を行うことで高効率な多対多の同時通信を実現する。IEEE 802.11acの技術を洗練させたもので、高密度無線LAN通信環境でも高速通信可能な「HEW(High Efficiency Wireless LAN)」を実現する基礎として注目される。

 まずは協調無線LANのベースとなる「IEEE802.11ac」の特長について簡単に紹介しよう。

「MIMO」が画期的な無線LAN高速化を実現

 無線LANは、より多数の高速通信を目指して技術発展が続いてきた。2005年までに無線IP通信の世界を改革してきたのが、IEEE 802.11b/a/gというおなじみの規格だ。これらの規格ではAPとSTAとが1対1で通信するのが基本だ。

 例えば、IEEE 802.11aならば電波法で決められた周波数帯域内を20MHzのチャネル幅で分割し、近接するAPは互いに利用するチャネルを変える。さらにチャネル内では、キャリア感知多重アクセス方式(CSMA/CA)によって通信タイミングをずらし、通信の衝突を避けながら多くのSTAとの通信を実現した。

 後継規格である「IEEE 802.11n」では、SU-MIMO(single user Multiple-Input-Output)技術を採用する。これは送信側と受信側とで複数のアンテナを使って送受信を行うことで、最大伝送速度を従来規格の54Mbpsから一気に600Mbpsにまで引き上げた。

 これは、複数アンテナを使って通信する方法(MIMO)に、異なる信号を複数のアンテナから同時に送信する空間分割多重伝送(SDM)技術を適用することで高速化を実現した。しかし、IEEE 802.11nは以前と同じ1対1通信であることに変わりはなく、シングルリンクの効率化を達成したにとどまった。

IEEE 802.11 acで「MU-MIMO」が規定されギガビット通信が現実に

 IEEE 802.11acでは、1対多の通信を可能にする下りリンクMU-MIMO(Multi User-MIMO)技術を規定した。これは送信側(AP)に無線モジュールを複数備え、アンテナ数の少ない複数のSTAとの通信を同時に行う技術だ。

 SU-MIMOではSTAにも複数の無線モジュールが必要となるが、下りリンクMU-MIMOではSTAの無線モジュールが1つでも大容量化できる。そのため、スマートフォンなどサイズの小さいSTAが無線LANを利用する場合に有効な技術だ。

 現状のIEEE 802.11ac規格の無線LANは、IEEE 802.11nの既存技術を拡張したものを搭載することでギガビットクラスの高速伝送を実現した。2013年からは対応製品が国内で販売されている。市販品では最大スループット(理論)1.3Gbpsのものがあるが、実証実験では2010年に同方式で最大1.62Gbpsの速度が観測され、規格の全てが理想的に実装されれば最大6.933Gbpsまでのスピードアップが可能だ。

 IEEE 802.11acの高速化技術を一覧にしたのが図1だ。「A」はIEEE 802.11nの既存技術を拡張したもの、「B」はIEEE 802.11ac独自の技術だ。

IEEE 802.11acの高速化技術 図1 IEEE 802.11acの高速化技術(出典:NTT未来ねっと研究所)

 A(1)に見るように、チャネル幅は80MHz(最大160MHz)に拡張された。これで40MHz幅のIEEE 802.11nの通信に比較して、約2.17倍または約4.33倍の高速化ができる(現在市販品は80MHz幅)。

 また、A(2)の空間多重数では、これまで4多重までだったものを8多重まで拡大した(現在市販品は3多重まで)。これでスピードはさらに2倍になる。

 A(3)の変調方式による多値化技術の進化では、従来の64QAMでは一度に6ビットまでの伝送だったものが、256QAMの採用で8ビットまで送れるようになった。これでスピードはさらに1.3倍だ。

 A(4)は1フレームで送れるデータの量を増やして、通信のオーバーヘッドになる制御信号の割合を減らす技術だ。これにより高速伝送を行った場合でも、IEEE 802.11nと同程度のフレーム効率(80.0%程度)を可能とする。

 Bは、上述したMU-MIMO技術だ。A(2)の空間多重技術では、アンテナが1本しかないスマートフォンなどには効き目がない。その弱点をカバーするのがMU-MIMOだ。ユーザー端末が1ストリームしかサポートしていない場合でも、複数のユーザーと同時に個別の通信が行えるので、多くのユーザーが集まる場所でも高速通信が維持できる。その技術のカギになるのが「ビームフォーミング」技術だ。これについては後述する。

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