ビッグデータでマーケティングは本来の姿に

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掲載日 2013/09/11

ザ・キーマンインタビュー ビッグデータがもたらす「本来あるべきマーケティングの姿」

従来のマーケティング活動においても、大なり小なりデータ活用は用いられてきたが、ビッグデータを扱えるようになったことで、その重要度はより高まっていくのだろうか。勘や経験則は不要になるのか?企業のマーケティング活動はどう変化していくのか?先日、ビッグデータ利活用分野における日立製作所との協業を発表した博報堂の安藤元博氏、山之口援氏にお話を伺った。

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株式会社博報堂:安藤 元博 氏、山之口 援 氏

エンゲージメントプロデュース局
局長代理
エグゼクティブマーケティングディレクター
安藤 元博 氏

エンゲージメントプロデュース局
マーケティングプラットフォームソリューション部
部長/エグゼクティブコンサルタント
山之口 援 氏

顧客ニーズに応じて、ビッグデータ利活用への上り口は様々

Question

広告・マーケティングを中心に、幅広いビジネスを展開している貴社では、ビッグデータ利活用の現状や今後に関して、どのような認識・展望をお持ちでしょうか?

Answer

株式会社博報堂:安藤 元博 氏

安藤:ビッグデータ利活用に対しては、以前から多くの企業が関心を寄せており、情報収集、あるいは検討の段階にありましたが、今年あたりから実践段階に入っており、しかも、それが急速に進みつつあるという印象です。最終的には1つの括りへと集約されるものなのかもしれませんが、弊社のような広告マーケティング業界だけを見ても、非常に多様な切り口でのニーズが生じており、お客様となる企業の業種や部門、状況ごとに相談内容などは違ってきます。

 ですから、弊社としても、マーケティング全体にかかわるコア・エンジンとしてのビッグデータ利活用という頂上を見据えつつ、現状の様々なお客様のニーズに応じて、いくつもの登山口を用意しているという状態です。もちろん、ビッグデータはバズワードだという見方もあるかもしれませんし、将来的には今のような形で話題になることはなくなるかもしれません。しかし、それはビッグデータの意味が薄れるからではなく、データを利活用するということがマーケティングの中心的な柱として常識化されていくことによると考えています。

株式会社博報堂:山之口 援 氏  山之口:私は主にITとマーケティングをつなぐ業務に従事しており、先日発表させていただいた日立製作所様との協業なども担当しています。その関係で、ITソリューションを求める日立製作所のお客様、そして、マーケティングに関する課題を抱えている弊社のお客様の両方と直接お話をさせていただく機会が少なくないのですが、やはり、マーケティング分野でのビッグデータ利活用は徐々に進んでいると感じます。具体的には、サイトのストリームデータ、ソーシャル系のデータ、更には、これまではあまり広告会社では扱ってこなかったコールセンタのログ、あるいは音声記録といったものもお客様の声として、どのように活用していくかという意識が高まっています。

 ただ、その一方で、IT部門からすれば、実際にそうしたデータを活用した場合、どれほどビジネスにインパクトを与えられるのかを見極めている段階だと思います。そこがもう少し明確になり、投資対効果という点で一定の閾値を超えると、一挙にITとマーケティングが連動して、ビッグデータ利活用への取り組みが本格化するのではないかと見ています。

Question

従来のマーケティングにおいてもデータ活用は行われてきたと存じますが、ビッグデータを扱えるようになったことで、その役割や重要度はどのように変わってくると言えますでしょうか?

Answer

安藤: 私もマーケティングの世界にかれこれ25年ほど身を置いていますが、やはりマーケティングサイエンスと言いますか、多変量解析などを用いて、データを戦略に活かしていくということは、マーケターの最も基本的なスキルの1つとして、最初に教え込まれました。ただ、その一方で、アートとサイエンスの融合ということや、仕事をしていく中では言語化されない経験則なども当然ながら重要です。勘と明証性の使い分けやバランスの取り方といったことは何十年来の問題であり、少し片方に振れたかと思えば、もう片方に振れるという行き来を繰り返してきたのです。逆に言えば、その振れ幅の中で生きていくのがマーケターの本分です。

 とはいえ、決して同じところを行き来しているわけではなく、いわば螺旋構造のようにレベルを上げているととらえるべきではないでしょうか。今回のビッグデータ利活用という流れに関しても、データ分析の重要度を再認識させたことは確かですが、同時に、マーケター固有のデータを意味づけしていく力、広い意味でのクリエイティブな力もまた、新たな局面の中で注目されていくはずです。


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組織の壁を壊し、本来あるべきマーケティングの姿へ

Question

ビッグデータ利活用は企業のマーケティング活動にどのような影響を与えると言えますでしょうか?

Answer

株式会社博報堂:安藤 元博 氏、山之口 援 氏

安藤: 分析とプランニング、そしてエグゼキューションという、マーケティングにおける一連の取り組みの境目がなくなるのではないかと考えます。これまでは分析をもとに例えばターゲットセグメントをしたとしても、それをそのまま広告展開などのエグゼキューションにダイレクトにつなげることが難しかった。いわば間接的な連動しかしていなかったわけです。しかし、ビッグデータ利活用の浸透がもたらすのは、端的に言えば、分析した結果がそのままエグゼキューションにつながるという世界です。それと同時に、これまで企業の中で営業、マーケティング、広報といった部門ごとに分断されていた情報がつながっていくことも重要です。

 マーケティングとはすなわち、顧客との広い意味での情報のやりとりの中で自社のあらゆるリソースを総動員して、企業としての価値を浮かび上がらせていく、高めていく作業だと考えます。ただ、これまではどうしても縦割りと言いますか、組織の制約の中でデータ活用や施策も分断された状態で進めざるをえないというケースも少なくなかった。顧客とのやりとりの情報は、営業の現場にも、マーケティングや広告の現場にも、あるいは広報の現場にも表れます。それが企業全体の戦略に一元的に活かされていなかったとすれば、それは、マーケティングが十分に機能していなかったと反省的に見るべきではないでしょうか。ビッグデータ利活用は、そうした組織間の壁を壊していく契機となります。企業の様々な部門の情報と意思決定が、顧客中心の価値創造という目的のもとに一元化した状態がもたらされるとすれば、実はそれこそが本来あるべきマーケティングの姿ではないかと思います。

Question

そうしたデータ統合というのは、IT部門にとっても、非常に重要な課題と言えますよね?

Answer

山之口:ビッグデータ利活用がマーケティングにもたらすメリットの1つは、端的に言えば、PDCAサイクルの短縮化だと思います。少なくとも現時点では、特にプランニングとエグゼキューションが短縮化に向けて、まず部分的なデータ統合が進んでいる状態ではないでしょうか。ただ、将来的には、アナリシス、プランニング、エグゼキューションについて一体化された情報システムが基盤として用いられるようになり、それによってデータ統合も本格的に行われるようになると考えています。最適化や自動化の議論の中で、そうしたマーケティングの統合的な管理を行うためのプラットフォームの実現に備えて、弊社としては何をすべきか、どのようなノウハウを蓄積していくべきかということを考えていく中で、今回の日立製作所様との協業が浮上してきたという側面もあります。

 例えば、何百ものアプリケーションをビジネスに活用されている企業に対しては、それらのシステムやデータを統合しつつ、より新しいマーケティング活動を提案していくことが必要になってきています。日立製作所様が持つシステムの視点、あるいはデータの視点、そして、弊社が持つマーケティングの視点を活かし、共同で提案を行うことで、単なるシステム受注にとどまらず、データ活用を利益拡大といった実際のビジネスメリットにつなげていくためのお手伝いができるのではないかと思います。


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単なる「消費者」の分析ではなく、「生活者」と向き合う手段に

Question

ビッグデータのマーケティング活用の中でも、特に貴社の強みが発揮される部分を挙げていただけますでしょうか?

Answer

安藤: 弊社では1980年代に生活総合研究所を設立し、人を、単なる消費者という一面的な視点ではなく、総合的な「生活者」というとらえ方をした上でトレンド予測を行うなど、様々な知見を蓄積してきました。ビッグデータ時代は、これまで一般的には消費者と呼ばれていた対象が、この「生活者」として浮かび上がってくる時代だと個人的には考えています。

 データを機械的に分析するにとどまらず、生活者としての全体像、ストーリーをとらえつつ、各々に対して最適なメッセージを発信しながら、顧客と関係をつくり続けていく。そこには、長年にわたって取り組み続けてきたわれわれでなければできない、簡単にはまねできないノウハウがあると考えています。「生活者発想×ビッグデータ」が弊社のビッグデータビジネスにおいて鍵になるということです。そうした考え方をベースに、人々の生活とテクノロジーをつなぐというビジョンを描いています。

株式会社博報堂:安藤 元博 氏、山之口 援 氏 山之口:「つながる」ことによるインパクトはいろいろなところに表れてくるでしょうね。生活者と企業が「つながる」、生活者どうしが「つながる」という形もあります。そして、そこから生じる情報を企業の中でいかに活用していくかということに向き合った時、マーケティングの範囲が広がっていくのだろうと思います。マーケティングはある意味で需要を創造するものですが、需給を調整する機能もあります。つまり、マーケティングの様々な情報を物流や生産管理にフィードバックしていくことで、企業の効率化にもつなげるということは現在でもある程度行われているかと思います。ビッグデータ利活用はこうした効率化をより緻密にするとともに、将来的にはやはり競争的優位をより高めるという方向性で活発化していくでしょう。そのためには、やはり生活者を重視したマーケティングが必要になると思います。

 また、ビッグデータは交通や電力供給などの社会インフラにおける活用も見込まれていますが、マーケティングにおいても最終的には世の中全体をよくしていく仕組みを目指し、そのためにITとマーケティングが歩調を合わせていくことができればいいと考えています。このような「ビジョン」と言いますか、企業としての「思い」という部分は、日立製作所様とも共有することであり、時間はかかりますが、1つひとつ形にしていかないといけないと強く感じています。


●ありがとうございました。


取材協力

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総合広告会社として、ブランディング/ストラテジックプラニング、クリエイティブ(広告制作)、メディア&コンテンツ プランニング・プロデュース、カスタマーマーケティング/PRなどを手がける。「生活者発想」と「パートナー主義」をフィロソフィーに掲げ、新しい広告会社の姿を常に目指している。


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