部長の怒りも伝わる?「温熱感覚通信」

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流行りモノから新技術まで! 5分でわかる最新キーワード解説

部長の怒りも伝わる?「温熱感覚通信」

2013/12/04


 日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは遠隔地に「温かさ」や「冷たさ」を双方向で伝え合う「温熱感覚通信」技術。2013年9月、慶應大学の桂研究室が世界で初めて「温度」と「熱流」を双方向で伝達できる技術の開発に成功しました。音声や映像に加え、私の温もりがネットワークを介してあなたに届けられる時代がやって来そうです……あ、いらないですか?

通信

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温熱感覚通信とは

 温かさや冷たさを、ネットワークを介して接続した遠隔地に双方向で伝え合う技術。実験システムでは、操作側と遠隔地側に見立てた2つの「ペルチェ素子」(関連するキーワードの項参照)を使い、一方の素子に指を当てて、他方の素子に冷たい金属などを乗せると、指先に冷たい感覚が伝わる。やがて指からの熱がモノに伝わるようにむこう側の金属が温まり、その様子が指先に伝わってくる。このように、遠隔地で起きている発熱や吸熱の現象を、ネットワークを介して正確にほぼリアルタイムに双方向で伝え合えるのがこの技術だ。

図1 温熱通信の実験システム
図1 温熱通信の実験システム
キーボード両側にあるのが操作側と遠隔地側に見立てたペルチェ素子
資料提供:慶應大学
図2 温熱感覚を伝える「ペルチェ素子」
図2 温熱感覚を伝える「ペルチェ素子」
中央の褐色の小片。下は放熱板
資料提供:慶應大学
図3 操作側と遠隔地側の双方向温熱感覚通信
図3 操作側と遠隔地側の双方向温熱感覚通信
指同士がお互いの体温を伝えている
資料提供:慶應大学

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温熱感覚通信の技術とは

 遠隔地間で人間活動や環境を再現する「臨場感」研究はこれまで音声や映像の領域で大きな進歩を遂げてきた。しかし触覚の領域ではまだまだ課題が多い。温熱感覚通信技術を開発した慶應大学の桂研究室では、さまざまな複合感覚情報伝達の研究を続けており、力覚や触覚を記録し再現できる「モーションコピー」技術(本コーナー2010年3月掲載:指でゴムボールをつかむ感覚などまで正確に再現できる仕組み)などを開発してきた。その次の挑戦が、触覚の一部として温かさや冷たさを遠隔地で再現する温熱感覚通信だった。これら技術を組み合わせれば、遠隔地間で握手をしたらその強さとともに温かさも同時に伝えることができる。遠隔医療に応用すれば、遠隔地にいる医師が在宅患者を触診し、発熱状況を含めた診断が行えるようになるかもしれない。

■技術のポイント

 人間の温熱感覚は、単に温度が相手に伝わればよいというものではない。温まっていく感覚や熱が奪われていく感覚を再現するためには、熱エネルギーの双方向でのやり取りが不可欠だ。これには単に温度だけではなく、熱流(単位時間あたりの温度の変化)を制御する必要がある。
 これまで温度だけ、あるいは熱流だけを伝送する仕組みについては研究されてきた。しかし温度と熱流の両方を同時に制御するアルゴリズムは存在しなかった。そのアルゴリズムを発明し、温度と熱流とを共通の尺度で制御可能にしたのが今回の発表の最大のポイントだ。

■温度と熱流の両方を同時制御できるアルゴリズム開発の経緯

 「新しいアルゴリズムの発明に至った基礎には、これまでのモータを使ったアクチュエータ開発の経験があります」と発明者の桂誠一郎准教授は語る。もともとモータによって遠隔地間で触覚を双方向で伝送することに成功していたため、その技術を温熱感覚の伝送にも応用できるのではないかという思いがあったのだと言う。「しかしモータの動きを伝える原理と、温熱感覚を伝える要素とがどう対応させられるかが問題で、およそ1年の間、研究室内で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を続けました」。
 やがて解決の糸口が見つかった。前出の「モーションコピー」技術では、力覚・触覚の「作用・反作用の法則」に基づく双方向性に着目し、制御アルゴリズムを開発していた。そのベースとなる物理法則を「熱エネルギー保存の法則」に置き換えれば、温熱感覚の伝送が可能なのではないかという結論に行き着いたのだ。「モータとの対比で言えば、動きに相当するのが温度、力に相当するのが熱流だと気づいたのです」と桂氏。これに気づいたあとは速かった。モータの動きと力の伝送アルゴリズムは既にある。これを応用して温度と熱流を一度に制御するための制御プログラムが出来上がった。
 温熱をセンシングし、かつ再現するための素子は市販されているペルチェ素子が利用できた。これを利用して、温度と熱流の情報をコンピュータで利用できる情報として取り出し、制御用プログラムで処理、統合されたデータとして遠隔地のシステムに伝送することが可能になった。遠隔地側システムでは伝送されたデータをもとに素子上で温度と熱流を再現する。この仕組みにより、一方では温かさを受け取り、他方では熱が奪われる感覚を味わうことができるようになった。

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