ホンダがビッグデータ活用に込めた思いとは

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掲載日 2013/04/03

ザ・キーマンインタビュー ホンダのビッグデータ活用に込められた「思い」とは?

本田技研工業(ホンダ)では、会員が車載している「インターナビ」対応カーナビから走行データ、フローティングカーデータを収集し、それを快適なドライブや、ドライバの安全・安心、そして、環境対応へと役立てている。サービス開始から既に10年以上が経過し、現在では非常に大規模なデータ収集・活用を行っているという。インターナビが実現しているユーザメリット、そして社会貢献とは?また、今後はどのような活用拡大を行っていくのか?グローバルテレマティクス部 部長 自動車技術会 フェロー 役員待遇参事の今井武氏にお話を伺った。

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本田技研工業:今井 武 氏

グローバルテレマティクス部 部長
自動車技術会 フェロー
役員待遇参事  今井 武 氏

個々はシンプルなデータでも、大規模に集積すれば意味を成してくる

Question

貴社のドライブ情報サービス・ネットワーク「インターナビ」は、もともとは、どのようなコンセプトで開発されたのでしょうか?

Answer

本田技研工業:今井 武 氏

ホンダは、1981年に世界で初めてカーナビゲーションシステムを実用化した企業でもあり、このいわゆる「ナビ」の登場が、「どこでも行ける」クルマを「初めての土地でも自由に旅できる」乗り物へと進化させました。そして、その約20年後の2002年に発表した「インターナビ」は、商品としてはカーナビに双方向通信機能を追加したもので、それを支えている基盤は“ドライブ情報サービス・ネットワーク”です。いわゆるテレマティクスの範疇に属するシステムとなります。基本的には、カーナビ側、つまり移動している車体側から自動的に収集される走行データ、つまり、フローティングカーデータを活用することで、VICS情報(道路交通情報)の渋滞予測の精度を独自に高めたり、様々な目的に応じたルートをサーバ側で計算し、提供しています。豊富な情報の分析・活用によって、クルマを効率よく快適に移動可能なものにするとともに、今後もよりいっそう、クルマと人と社会をつなげ、安全でグリーンなモビリティ社会を実現できるよう、ソーシャルメディアとの連携なども視野に入れつつ、様々な取り組みを進めている段階です。

Question

そのフローティングカーデータというのは、どのような内容のデータなのでしょうか?

Answer

GPSから得られる「位置」と「時間」が主体になります。つまり、基本的には「いつ、どこを走行していたか」という情報だけであり、当然ながら、個人を特定するデータなどは含まれていません。更に、より精度を高めるために、カーナビ側で車速データのマッチングなどを行った上で、インターナビ交通情報を受け取るための通信を実行する際に、サーバへデータを渡しています。もちろん、これだけではコンビニに寄っただけなどの行動と渋滞との区別はつけられませんから、サーバ側でもスクリーニングを行い、無意味なデータを排除する仕組みになっています。

Question

データ自体は非常にシンプルということになりますか?

Answer

そうです。しかし、そこが非常に重要だと思っています。例えば、車体に様々なセンサを追加し、そのデータを収集すればいいのではないかという考え方もあるかもしれませんが、「時間」「位置」という最も基本的なデータだからこそ、車種や年式にかかわらず、インターナビを装着しているすべてのクルマから等しく情報を収集可能だと言えます。1つひとつのデータはシンプルで少量だったとしても、数分、あるいは数秒といった極めて短いインターバルで記録し、それを膨大な台数のクルマから収集することで、まさしくビッグデータと呼べるような量の情報にまで到達しているのです。

Question

どの程度の規模の情報がセンタに集まっているのでしょうか?

Answer

会員数は既に175万人を超えました。また、2010年に発売開始したハイブリッドカーCR-Zからは、通信モジュールを標準装着し、通信費も無料という「リンクアップフリー」を導入しています。今では現在新車販売中の全車種・全純正インターナビで同サービスを提供済みです。つまり、弊社の純正カーナビ搭載車を購入されたお客様は、販売店でクルマを受け取った時点から、ネットワークにつながるということが実現できているわけです。この効果は絶大で、非常に大量のデータがセンタへ集まってくるようになり、走行距離に換算すると、現在では毎月1〜2億km分にも及ぶデータがアップロードされています。そして、データが爆発的に増加したことで、提供する情報の精度も高まり、例えば、ルート予測ではかなり正確に到着予想時間が出せるようになりました。また、膨大なデータを多彩な角度で分析し、様々な“意味”を持たせることで、その用途も当初想定していた以上の広がりを見せています。


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ビッグデータがもたらすのは、自社ユーザへのメリットだけではない

Question

フローティングデータは、どのような用途に使われるようになっているのでしょうか?

Answer

本田技研工業:今井 武 氏

もともとは、収集した情報をもとにサーバでルートを計算し、従来のナビではできない画期的かつ多様なルートやコンテンツを配信するというのが主な目的ですから、最も基本的な用途は、渋滞回避を含めた最速ルートの割り出しなど、快適なドライブのための情報をドライバに提供するということです。また、サーバのデータベース上には、シーニックルートと呼ばれる景色を楽しむためのルート用データも用意しており、例えば、現在の天気・時間帯であれば、海岸線が非常に美しい道路が近くにあるので、それをルートへ組み込んだり、夜であればイルミネーションのきれいな道路を案内したりといったことも実現しています。更に、より安全・安心なドライブを実現できるよう、ナビから照会されたルートを検索する際に、これから向かうルートやエリアに関する気象・災害情報を参照し、自動的にドライバへ知らせるという減災に向けた取り組みも行っています。また、現在ではクルマにとって環境負荷の低減は重要な課題になっていますから、省燃費ルートの提供やエコアシスト、あるいは同じ車種の中で自分の燃費情報は全国で何位かを示すエコランキングなども実施しています。

 こうした基本的なサービスにとどまらず、フローティングカーデータというビッグデータを、社会に役立てていただこうという活動にも取り組んでいます。その1つが、2007年に実施した埼玉県との取り組みで、フローティングカーデータから急ブレーキポイントを抽出し、その原因を道路管理者が現場調査をして対策を行うことで、事故を未然に防ごうというものです。先ほども紹介したように、インターナビでは非常に短いインターバルで位置を記録しているため、急激な速度の変化から、急ブレーキ発生箇所を把握することもできるわけです。埼玉県では、弊社が提供した減速度データをもとに急ブレーキ多発個所マップを作成した上で、路面表示による速度抑制の注意喚起、植栽剪定といった対策を行うことで、急ブレーキ発生回数は約7割減少し、急ブレーキ多発箇所の9割にあたる135カ所で改善効果を得られたそうです。

図1 フローティングデータをもとに急ブレーキ多発個所を把握
図1 フローティングデータをもとに急ブレーキ多発個所を把握
出典:本田技研工業、2013年3月

また、東日本大震災の際にも様々な取り組みを行いました。もともと、「インターナビ」では実際に走行したクルマから情報を収集するという点が大きな特長になっています。これにより、VICS情報がカバーしている主要道路以外の細かな道路の状況まで把握できるというわけですが、その応用で、災害後にどの道路が実際に通行できたかを示す「通行実績マップ」を作成することが可能です。

 実はこうした災害時の道路情報の共有化に関しては、2004年に発生した新潟中越地震をきっかけに、防災推進機構に協力して研究を開始し、2007年の実用化直後に発生した新潟中越沖地震では実際に活用することができました。そのため、今回の東日本大震災でも、インターナビ事業室の初動としては、まずはシステムの点検・確認を実施し、それが完了した震災当日の夕方から、被災地の走行実績データの取りまとめを開始しました。そして、その上で、今回は「通行実績マップ」をGoogle Earthの地図上に読み込み、即座に展開できるkmzファイルとして作成しようという判断を下しました。

 ただ、これまでは震度5弱のエリアを対象に通行実績データを抽出していたので、東日本大震災でも最初は同様の設定でデータ生成を行ったのですが、それでは対象エリアが全国の半分に相当し、データがものすごく重くなってしまい、Google Earthにはとうてい読み込めません。もちろん、例えば、地図を画像として作成し、PDF形式などで公開するといった違うアプローチをとることも考えたのですが、最終的には即座にGoogle Earth上に展開できるkmzにこだわり、震度6のエリアに限定することで、地震発生の翌朝にはなんとか完成にこぎつけました。結果的には汎用性の高いkmzで公開できたからこそ、幅広く活用いただけたと感じていますし、更に3月14日からはより多くの方が現地の道路状況を把握するのに役立てていただけるよう、Googleにも提供し、「Google 自動車通行実績情報マップ」でも情報の公開を行いました。現在では、震度6弱をトリガーに、この通行実績データを自動で生成し、GoogleやYahoo!の災害時特設サイトなどで即座に誰もが閲覧できるようなシステムを構築しています。

図2 東日本大震災での取り組み(フローティングカーデータから「通行実績マップ」を生成)
図2 東日本大震災での取り組み(フローティングカーデータから「通行実績マップ」を生成)
出典:本田技研工業、2013年3月

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震災でデータ活用の可能性を実感し、活用範囲の拡大に取り組む

Question

「インターナビ」は今後どのように展開していくのでしょうか?

Answer

本田技研工業:今井 武 氏

もちろん、これまでどおり、快適なドライブ、安全・安心なドライブ、そして、環境にやさしいドライブを支援するためのシステムとして進化させていくつもりですし、今回の東日本大震災では「インターナビには、まだまだできることがある」と実感させられました。そのため、何か大きな災害が生じた際に1人でも多くの方を救ったり、救助に役立つ情報を提供するといった防災・減災に関しては、よりいっそう注力していきたいと考えています。実は災害時に有用な機能としては、以前から「地震発生時安否確認システム」を搭載しており、震度5弱以上の地震が発生したときに、事前に登録した家族のメールアドレスへ自動的に車両の位置情報を送信したり、ドライバが自分で「大丈夫」もしくは「要支援」というメッセージを選択して位置付き安否連絡を送ることが可能です。ただ、これも事前登録してもらえなければ役に立てませんから、今回の震災直後にも会員の方に改めてリマインドメールを送るといった作業を行っています。また、「要支援」というメッセージが送られたケースも12件ほどあったのですが、それを家族の方に送信するだけで終わりでいいのかという課題も痛感しましたし、より迅速に救助につなげられるソリューションなどを用意できないかという検討も行っています。最終的には、官民の情報を活用し、災害時にいつでもどこでもつながり、ほしい情報が的確に提供できるサービスの実現を目指しています。

 また、「インターナビ」は現在ではカーナビだけではなく、iOSやAndroidのアプリとしても提供しており、こうしたスマートデバイス、あるいは冒頭で述べたようにソーシャル連携なども図っていく予定です。今年3月末には、クルマ移動に影響を与える事象をアイコンで簡単に投稿し、ユーザ間で共有できる投稿アプリ「インターナビリポート」や、株式会社日建設計 ボランティア部制作の、津波発生時の避難地点とその地点まで徒歩でかかる所要時間を図示する避難地形時間地図、いわゆる「逃げ地図」と「インターナビ」との連携機能も提供を開始します。

 ホンダの原点として、「人の役に立ち、使って便利で楽しいものを提供する」という創業者・本田宗一郎の言葉があるのですが、これまでのインターナビへの取り組みは、まさしくその言葉を実践するものだったと自負しています。今後もこのマインドを大事にしつつ、様々な方向へと活用を広げていくつもりです。


●ありがとうございました。


取材協力

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自転車用補助エンジンの生産をきっかけに、本田宗一郎氏が1948年に創業。二輪車、四輪車をはじめ、芝刈機、耕うん機、太陽電池といった汎用製品の製造・販売など、幅広く事業を展開している。近年では、二足歩行ロボット「ASIMO」、小型ジェット機「Honda Jet」などの開発でも注目を集めている。


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