AIとブラックボックス化がビッグデータの鍵

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掲載日 2012/12/05

ザ・キーマンインタビュー 人工知能とブラックボックス化がビッグデータ普及の鍵

米国ではビッグデータの活用が進んでいるという話をよく耳にする。特にIBMのようなベンダでは、大企業と連携し、きわめて先進的な事例に取り組んでいるという印象があるだろう。しかし、実際のところはそれだけではなく、ビッグデータ活用の裾野を広げる様々な取り組みも進めている。日本アイ・ビー・エム株式会社 ソフトウェア事業 インフォメーション・マネジメント事業部の中林紀彦氏にお話を伺った。

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中林 紀彦 氏

ソフトウェア事業 インフォメーション・マネジメント事業部
マーケティング・マネージャー
中林 紀彦 氏

大統領選の感情分析など、米国では既に具体的な活用が進む

Question

貴社では大企業や先進的な企業をはじめ、様々な顧客にソリューションを提供しているかと存じますが、ビッグデータ活用については、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

Answer

日本アイ・ビー・エム株式会社:中林 紀彦 氏

タイムリーな話題としては、米国の大統領選における分析プロジェクトが挙げられます。南カリフォルニア大学のイノベーション研究所が有権者の動向分析を実施するにあたり、弊社でインフラやツールなどを提供したというもので、ツイートをリアルタイムで分析しながら、全体のつぶやきの量の変化や、その内容のセンチメント(感情)がポジティブかネガティブかを見極めるということを行いました。より具体的な活用例としては、例えば、政治討論会の開催中には、候補者が質問に回答した際の一般市民による反応をリアルタイムで表示しつつ、ほかの様々な情報も分析に加えて勝者を予測するといったかたちです。

 こうした事例は、あくまでも実証実験として行われているイメージもあるかもしれませんが、米国ではソーシャル・ネットワーキング・サービスから収集した、いわゆる「ソーシャルデータ」を用いたビッグデータ活用が、既にビジネスのスキームや戦略の中に組み込むということができつつあります。例えば、映画のプロモーションであれば、テレビCMなどのPR活動を実施するごとに、リアルタイムでのセンチメント分析を行い、その結果によって以降の戦略を柔軟に変えていくといった活用のしかたは容易に想像できますよね。

Question

それが幅広い業種の企業へ波及していく流れになりつつあるということでしょうか?

Answer

そうです。弊社では基礎研究所で様々な研究を行い、技術や知識を蓄積してきていますが、最近では、データをどのように分析し、活用することで、お客様である企業が“答え”を出せるのかという実践的な部分にかなり力を入れるようになっています。こうした長年にわたり取り組んできた基礎研究の成果と、そこから様々な方向へ伸びていく新たな可能性というものが、弊社のバリューであり、今後も強みになっていくだろうと考えています。

 例えば、かつては人間のチェス世界チャンピオンに挑戦する目的でスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」の研究・開発を行いましたし、最近では、実際のクイズ番組に挑戦する目的で質問応答(QA)システム「Watson(ワトソン)」を開発し、実際に勝利を収めたことで大きな話題となりました。これらの研究開発プロジェクトは、いわゆる人工知能の研究ですが、それだけにとどまらず、非構造データ分析、自然言語処理、ワークロード最適化システムの設計分野におけるテクノロジーを前進させるという目的も併せ持っていました。

 こうした、従来、ITシステムが主に扱ってきた数値情報とは全く違う情報を検索し、しかも、高速に結果を導き出すという取り組みは、まさしくビッグデータ活用にほかならないでしょう。実際に、ワトソンの実現に寄与した数々の技術は、迅速で正確な医療診断支援、潜在的な薬物間相互作用の検査、弁護士や裁判官による過去の判例の参照、金融分野の仮説シナリオと法令順守など、幅広い分野での応用が見込まれており、具体的なビジネス現場での活用の検討も進んでいます。


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既存の顧客データを軸に、ビッグデータ分析で付加価値をつけるのが主流

Question

日本国内ではどのような状況でしょうか?

Answer

日本アイ・ビー・エム株式会社:中林 紀彦 氏

よく言われることだと思いますが、やはり、グローバルで見た場合には、日本企業の取り組みは比較的遅れているというのは事実でしょう。米国や欧州などにおいては、弊社での取り組み事例だけを見ても、公共交通の効率改善、洪水や森林火災の拡大予測といったプロジェクト的なものだけではなく、ビル管理の自動化、研究所における機密保護を目的とした脅威分析、医療支援、発電設備の最適化といった分野で、実用化段階としてソリューションを導入いただくケースも増えてきています。

 もちろん、日本でも事例がまったくないわけではなく、例えば、カブドットコム証券様では、TwitterなどのSNSから収集した膨大なソーシャルデータを分析するシステムを開発し、その結果について株価の動向との関連を検証する取り組みを推進されています。具体的には、インターネット上の書き込みや文書などの非構造化情報から必要な情報を収集し、分類、分析までを一貫して行うことのできるテキストマイニング製品「IBM Content Analytics」に、その膨大なデータ量を処理するために、Apache Hadoopによるオープンなフレームワークに基づくアナリティクス・プラットフォーム「InfoSphere BigInsights」を組み合わせることで、分散処理による高速な収集・分析を実現しています。

 また、この分析システムは初期コストを抑えるために、弊社のエンタープライズ・クラウド環境である「IBM SmarterCloud Enterprise」上に構築されています。同クラウド環境はセキュアで高い信頼性を確保していますが、顧客情報などのセキュアな情報を処理する部分については、社内システムに構築したいという意向があったため、パブリックな情報に関しては、クラウド上で収集・分類・分析などを行い、その結果をカブドットコム証券内のシステムへ受け渡し、その後、社内システム上で株価変動との照合やお客様の行動分析とひも付けるといった処理を行っています。

Question

そうしたソーシャルデータの分析に興味を持っている企業は増えつつあるのでしょうか?

Answer

従来のサンプル抽出による調査などではどうしても正確性に限界がありますから、カブドットコム証券様のような金融分野に限らず、顧客やユーザのリアルな声を抽出したいと考える企業は少なくないでしょう。それに例えば、一般消費者向けの商品を作っている製造業の中でも、自動車メーカーなどでは販売会社が別の組織として独立しているなど、商品企画や開発を行う人たちがリアルな生の声を吸い上げにくくなっているという事情もあるのではないでしょうか。そうした企業から、ソーシャルデータを分析し、消費者のリアルな声を拾い出そうという取り組みが始まっているという状況です。

 ただ、ソーシャルデータを活用するといっても、そちらが主体になるというわけではなく、分析の軸となるのは、やはり、これまで蓄積してきた既存の顧客データにほかなりません。そこを軸とした上で、ソーシャルデータなどの外部データを加えることで、より分析の精度を上げていく、付加価値をつけていくという観点で取り組まれている企業が多くなっています。


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一般的な企業ではシステム構築に手をかける必要はなく、いかに活用するかに注力すべき

Question

ビッグデータ活用を実施するためには、いくつかのソリューションを組み合わせていくことになるのでしょうか?

Answer

日本アイ・ビー・エム株式会社:中林 紀彦 氏

弊社では、新しい時代に合わせてシステムのプラットフォームも変化していくものであり、ビッグデータ活用が本格化するためには、単にソリューションを提供するだけではなく、まったく新しいプラットフォームというべきものが必要だと考えています。例えば、1960年代にはビジネスプロセスのIT化が進められる中で、メインフレームを中心としたクライアント/サーバ型のトランザクション・システムが基本アーキテクチャになっていました。また、1990年代になると、インターネットが主役となり、業務システムもアプリケーションサーバやデータベースサーバをベースとしたWebアーキテクチャへと一変しました。そうした流れを受けつつ、弊社では2010年代にもまた大きな変革がもたらされるべきだろうと考えているのです。それが、新時代のアナリティクスを実現するための「ビッグデータ・プラットフォーム」というわけです。

 こういうアーキテクチャの方向性を描きつつ、具体的な戦略としては、システムの難しくて煩雑な部分はユーザから「隠す」と言いますか、「人の手がかからない」ようなかたちで提供していくという方向性を目指しています。つまり、ストレージ、サーバ、ソフトウェアそして分析のフレームワーク(アクセラレータ)も含めて、ビッグデータの分析に必要なインフラすべてをアプライアンスに収めてしまう、あるいはクラウド上で稼働させるという考え方です。

 そして、それを製品化したのが、先日発表したデータベース・プラットフォーム「PureData System」であり、シンプルさを追求しつつ、専門家が持つ高度な知見を実装し、設計段階からすべてが最適に統合されています。ビッグデータ活用を実現する際の計画から導入、運用に至るライフサイクル全体を通して、情報システム部門の方々を煩雑な作業から解放するという意味ばかりではなく、最終的には、明確なビジネス課題や分析すべきデータを持っている業務部門の方が直接、自分たちのやりたいことに必要なアプリケーションを稼働させられる、すぐに分析などを始められるといったゴールを目指しています。

Question

いい意味でブラックボックス化してしまい、データさえ入れれば分析してくれるというものでしょうか?

Answer

そうです。ただ材料を入れてボタンを押せば料理ができる調理マシンのようなかたちですね。ビッグデータ関連のテクノロジーもある程度成熟しており、ストレージやサーバ、ソフトウェアなどを揃えて組み立てるといった部分は、ほぼフレームワーク化していますし、既にノウハウも蓄積されつつあります。ですから、そこに対して、導入企業のほうで人の手をかけて分析プラットフォームや環境整備にリソースを使うよりは、むしろ、どうやってデータから洞察を得てビジネスに活用するかという分析やアクセラレータの部分に注力すべきだと思っていますし、その考える部分を弊社としてもお手伝いしたいということです。


●ありがとうございました。


取材協力

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企業や公的機関などの顧客向けに、「ハードウェア(システム&テクノロジー)」「ソフトウェア」「サービス」を中心としたビジネスを展開。約40万人の社員が世界170ヵ国の顧客に製品やサービスを提供し、12ヵ所の研究所では科学者や研究者が最先端の技術研究・開発に取り組んでいる。


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