データに語らせることで顧客に新しい価値を

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掲載日 2012/10/24

ザ・キーマンインタビュー “データに語らせる”ことで顧客に新しい価値を

様々な場所で話題に上ることが多くなってきた「ビッグデータ活用」。しかし、将来像や可能性ではなく、具体的にどのような取り組みが行われているのかを知りたいという方も多いに違いない。そこで、ビッグデータ活用の“今”を探るべく、大手ITベンダである富士通に取材を実施。コンバージェンスサービス本部 インテリジェントコンピューティング室 シニアマネージャーの高梨益樹氏にお話を伺った。

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高梨 益樹 氏

コンバージェンスサービス本部
インテリジェントコンピューティング室
シニアマネージャー 高梨 益樹 氏

業務知識を削ぎ落とせば、データ寄りの方法論が残るはず

Question

ビッグデータ利活用の現状や今後に関して、どのような認識・展望をお持ちでしょうか?

Answer

富士通:高梨 益樹 氏

ビッグデータは様々な面から語られるべきものだと思いますが、最も重要なのはやはり、“ビッグデータを使って、どのような世界を実現するのか”ということではないでしょうか。一般的なビッグデータの世界観としては、例えば、道路の渋滞状況などを把握することで、その都市全体の状態をとらえるなど、これまで以上に幅広く大規模な情報を収集・蓄積し、大きな視点で対象を見ようといった流れで語られることも多いかもしれません。しかし、それでは誰にどのような恩恵があるのかが非常に分かりづらくなってしまいます。データの集積度を上げることで、都市をサマライズするなど、より大きな対象をとらえるのではなく、むしろ、その恩恵を1人ひとり、あるいは1つひとつのものへ、いかにもたらすのか、価値あるフィードバックができるかというところを考えていくことが重要だと感じます。

 これまでは、商品などの“モノ”の向こう側にいる“ヒト”あるいは“コト”を把握しようという場合には、アンケートや観察などを通じて、目に見える事象から推測するといったアプローチがとられていました。この手法では非常に深い人間理解・行動理解が可能なのですが、その半面、サンプル数が限られてしまったり、リアルタイム性が欠如したり、あるいは虚偽のデータも混じってしまったりという、様々な問題も潜在しています。ですから、同じようなことを“データから導く”ことはできないだろうか。社会学と同じような手法で、データを通して“ヒト”や“コト”を理解できないだろうか。私たちはそういったことを基本として、データ活用に取り組んでいこうと考えているのです。

 もちろん、富士通という企業の中では、様々なビッグデータへの取り組みを行っており、「データ活用基盤サービス」といったビッグデータ利活用のためのプラットフォームも既に展開しています。その一方で、私が属しているインテリジェントコンピューティング室では、冒頭で述べたような“ビッグデータのイノベーティブな使い方”を検討・提案していくという役割を担っており、主に、データ利活用に関するサポートを行う「データキュレーションサービス」に取り組んでいます。

図1 データから導き出す
図1 データから導き出す
出典:富士通、2012年10月

Question

データキュレーションとはどのようなものなのでしょうか?

Answer

データ活用のためのプラットフォームは3年ほど前から準備を進めていたのですが、先ほど述べたような“データから導く”ということを実現するためには、そうしたツールの提供だけで十分ではありません。ビッグデータをビジネス展開するにあたっては、相関関係/因果関係発見、イベントパターン発見、パラメータ最適化、予測シミュレーション、ダイナミック最適化などを実行する人材、つまり、キュレーターというものが重要になっていくだろうということです。そこで、社内でBI(Business Intelligence)やBA(Business Analytics)を担当してきた研究者、コンサルタント、プロダクト開発者、SEなどの人材を集めて、2011年1月にキュレーター組織を設立しました。

 ただ、ここで1つ大きなチャレンジになったのが、“業務知識を削ぎ落とす”というプロセスです。BIやBAの経験者は、金融や製造といった分野に従事していた場合がほとんどなのですが、そうした各分野特有の知識を落としていったとしても方法論が残るのか。もし、データ寄りの方法論というものが存在するのであれば、キュレーターという新しい職種を作り出せますが、そうでなければ、BIやBA、あるいは業務知識を持ったSEといった従来の方向性で極めていくしかないと考えていました。つまり、どんな分野・用途であろうと、予測モデルというものはすべて同じに見えるはずなのですが、実際問題として、そういう立ち位置ができるのかということです。簡単ではありませんでしたが、それができそうだということが見えてきたので、従来のSEやコンサルタントのように業種・業種軸で取り組むのではなく、データ活用そのものをサポートする職種としてキュレーターを組織したという流れになります。


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キュレーターは業務知識の先入観を持つことなく、物事を“データに聞く”

Question

キュレーターは実際にどのような取り組みを行うのでしょうか?

Answer

富士通:高梨 益樹 氏

外部の企業・組織と共同で取り組む場合も多いため、すべてを詳しく紹介することは難しいのですが、代表的なものを1つ挙げさせていただくと、社内で実施している「糖尿病などの発症リスクの予測」における活用例があります。従業員の医療機関受診のレセプトデータや健康診断データ、日々のバイタルデータ(生体情報)をもとに、発症リスクを予測し、自己や指導員による生活の改善を行おうという取り組みです。

 医学的には、糖尿病の判定項目としては、ヘモグロビンA1cと空腹時血糖値という2つの検査値が一般的な指標となっています。ただ、血液検査をはじめとする健康診断で得られるデータはほかにも多数ありますし、それらが糖尿病の発症リスク予測にまったく役に立たないわけではないとも考えられます。レセプトデータの病歴や投薬履歴といった情報も同様です。糖尿病になった人全員にきれいな相関が出るわけではないでしょうが、一部に相関や逆相関が出るなど、“ヒント”が大量に存在しています。

 そうしたケースにおいて、キュレーターは業務知識の先入観なく、データを分析します。つまり、この事例の場合には医学的な見地に立つことなく、データから純粋にモデルの追及を行っていくということです。実際には、過去のレセプトデータ、健康診断データ、バイタルデータをもとに分析し、一般的に糖尿病を判定するときに必要な項目に加え、30項目以上の項目を加えることで、高リスク者を分類する“ルール”を作成し、糖尿病の発病リスクが高い人を識別するモデルを作り上げています。

図2 糖尿病発症リスクの予測方法と予測ルールの作成方法
図2 糖尿病発症リスクの予測方法と予測ルールの作成方法
出典:富士通、2012年10月

Question

この場合、医学的な知識そのものがまったく必要ないということになるのでしょうか?

Answer

あくまでもデータに軸を置いた数理モデルとして考えていこう、端的に言えば“データに聞きましょう”ということですね。ただ、モデリング自体は先入観がまったくない状態で行いますが、それだけでいいというわけではありません。キュレーターは医者ではないですし、病気を治すことはもちろん、医学における本質的な意味をとらえることすらできないと考えます。しかし、データをたどることでどの人に糖尿病のリスクがありそうなのかという何らかのモデルを見出すことができれば、専門家である医者の方がそこに意味を与えて、適切な処置を行ってくれるでしょう。医療だけではなく、製造や商品開発、販売など、様々な分野で同様のことが言えると思います。私たちが作り出した数理モデルに意味を与えて、それをどう回すべきなのかという、業務を考える側はプロフェッショナルでなければならない。ですから、データキュレーションサービスを顧客企業へ提供する場合には、業務の専門知識はお客様自身に求めて、そこへデータ寄りの専門知識を持ったキュレーターがお手伝いをするという考え方になります。

Question

業務として回すという部分以外でも、例えば、予測の精度を高めようとした場合などにも業務知識にもとづくノウハウ、あるいはプロフェッショナルの勘などが必要になるのではないでしょうか?

Answer

そういうこともあるかもしれませんが、データだけを見るという範疇の中でも、より精度を高めていくことは可能です。例えば、今回の事例では健康診断データなどの中に“ヒント”が存在するという話をしましたが、判定に用いるパラメータを増やせば精度が上がることになります。パラメータが一定以上に増えてしまうと、人間の頭ではルール作成が不可能な世界に達してしまいますが、人間に無理なのであれば、機械学習を用いればいいのです。また、ビッグデータの利点として、サンプリングではなく、全員を母数とした分析が行えるということもあります。このように、判定のヒントを増やしていきながら、「1人ずつの変化」「1人と他全員との対比」というふうに、全員で学習、全員で判定という取り組みを積み重ねた結果、現在は10万人の社員を対象に分析を行うことで96%という高精度を実現しています。


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何よりも大事なのは、事業者しか入手できない大量の事実データ

Question

ビッグデータ活用といっても、ただ大量のデータがあれば、それでいいというわけではないですよね?

Answer

富士通:高梨 益樹 氏

ビッグデータというと外部データを意識される方も多いかと思いますし、弊社でも外部データを取引する場の構築などを行っていく必要があると考えていますが、企業にとって、まず最初に認識すべきなのは、商品そのもの(製品/サービス)から取得するログ、業務の中で生み出されるデータといった、事業者しか入手できない大量の事実データではないでしょうか。ただ、現状としては、そうしたデータの大部分がサマライズされてしまっています。

 例えば、化学プラントでは、センサをはじめとした大量のデータが取得されていますが、状態を検知して異常時にアラートを出すような一時的な使い方を想定したデータが大部分であり、蓄積されるのは、生産管理用にサマライズされた少数のデータであることが多いです。そのような、一時的にしか使われないローデータをきっちり残しておく、貯めていくということがビッグデータ活用の第一歩になるのではないでしょうか。一般的な企業においては、そうしたデータを増やし、融合させることによって、新業務・新領域への取り組みに役立てるという部分から取り組んでいくのが着実ではないかと思います。

 弊社では製造業のライン管理・生産管理、農業の販売管理・物流管理などのシステムも手がけていますし、先ほどの医療分野に関しては、電子カルテでもかなり大きなシェアを有しています。ただ、現状のICTの役割について言えば、製品の開発や最適制御、よい野菜の栽培や収穫、あるいは病気の治療というものに、直結しているわけではないという思いもあります。だからこそ、“ICTをお客様の商品そのものへ”ということを実現したい、ビッグデータ活用で商品作りなどの現場をお手伝いしたいと考えているのです。

 これまでのICT展開では、業務システムを効率化して横展開していきましょうという流れが主体でした。実際、そうしたアプローチは質の高い商品作りには有効だと言えますが、一方で同じような商品が溢れてしまうという一因にもなりうるのかもしれない。だからこそ、せっかくデータを収集・蓄積するのであれば、一律に同じようなデータを取ったり見るのではなく、むしろ、ユニークなデータを貯めることはできないだろうか。そういう角度でもビッグデータを眺め、取り組んでいくことで、何か面白いことが起こせるのではないかと感じています。


●ありがとうございました。


取材協力

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ICT分野において、各種サービスを提供するとともに、これらを支える最先端、高性能かつ高品質のプロダクト及び電子デバイスの開発、製造、販売から保守運用までを総合的に提供する、トータルソリューションビジネスを行っている。


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