「想定外」にも対処できるDR要件とは?

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掲載日 2012/10/11

ザ・キーマンインタビュー 「想定外」にも対処できるDR要件とは?

東日本大震災では、大津波や原発事故、立ち入り規制、計画停電など様々な「想定外」の事態が発生した。それらにも対処できるようにするためには、情報システムのDR要件はどうあるべきなのだろうか?今回の震災を教訓にDR要件を見直し、新たなDRチェックリストを策定したネットアップのDR技術コンサルタントにお聞きした。

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小林啓宣氏

技術本部
コンサルティング部 部長
小林啓宣氏

DR要件のフレームワークは「距離」「RTO」「RPO」

Question

東日本大震災では、大津波や福島第一原子力発電所事故とそれにともなう立ち入り規制、計画停電、電力使用制限など様々な「想定外」の事態が発生しました。御社は今回の震災を教訓としてDR(Disaster Recovery:災害復旧対策)要件の見直しを行われましたが、それについてご説明下さい。

Answer

ネットアップ株式会社:小林啓宣氏

DR要件のフレームワークは、「RTO(Recovery Time Objective:復旧時間目標)」、「RPO(Recovery Point Objective:復旧時点目標)」、及び「距離」です。RTOとRPOはバックアップを考える際にも出てくる要件ですが、DRではこれに、メインデータセンタとシステムを冗長化させるために設置するセカンダリデータセンタ(DRデータセンタ)との距離、もしくはデータの退避場所までの距離、という要件が加わります。この距離の要件をどうとらえ、どうするかがDRを考える際のポイントとなります。

DR要件の見直しも、この3つのポイントから行いました。また、それを実現するためのソリューションや、そのソリューションを適用した場合のイニシャルコスト、ランニングコスト、万一の場合の復旧コストなども検討しています。

Question

見直したDR要件とは、具体的に言うと、どのようなものでしょうか?

Answer

今回の震災を受け、我々技術陣はDRをどんなポイントでチェックし直さなくてはならないかを議論しました。その結果をまとめたのがDRチェックリストです。このチェックリストは、今回の震災で気がついたポイントを時系列に挙げていったものがベースになっています。

表1 DRチェックリスト
表1 DRチェックリスト
資料提供:ネットアップ

1番目は、メインデータセンタとDRデータセンタもしくはデータを退避させている場所までの距離に加え、それぞれのロケーションに問題がないかをチェックする項目です。これは津波による水害などを意識したもので、データセンタやデータ退避場所の海抜がどれくらいあるかや、システムが建物の何階に設置されているか、などをチェックします。

2番目は、今回の震災の大きな特徴である原発事故を意識したものです。近隣に立ち入り制限がかかる可能性のある施設がないかどうかは、今回の震災で誰もが考えたポイントでしょう。

3番目は、原発事故から副次的に出てきた電力供給の問題です。皆さんこの問題で、大きな影響を受けたと思います。これまで我々は、電力供給というインフラレベルの問題を施設レベルで考えようとしていたのではないでしょうか。計画停電が1週間、2週間と続く可能性まで考えを至らせていたかというと、たぶんそうではなかった。データセンタが備えている電源能力がインフラレベルで生じた電力供給問題に対してどこまで耐えられるかを真剣に考えなくてはならない、ということが明らかになったのが今回の震災だったと思います。

4番目と5番目は、日常生活にかかわる特定のサービスの処理がボトルネックとなってほかの主要サービスが数日間止まってしまった、あるシステム障害を意識したものです。サービスの停止は顧客企業の業務や一般消費者の生活に支障を来し、企業イメージやブランディングにも悪影響を及ぼしました。サービスの停止が取引先や消費者からどのように評価されるのかを定期的に確認する必要があるということを改めて認識させられた出来事でした。なお4番目と5番目は、DRというよりは、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)やBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)、BCMS(Business Continuity Management System:事業継続マネジメントシステム)における想定被災レベルとその影響をきちんと定期的に見直しているか、という話になるでしょう。

6〜8番目に関しては、「DRされていない範囲のデータ」にかなりの重要性があるのではないかということで、それを再認識するポイントして挙げさせていただきました。

弊社は昨年の6月から9月にかけて、製造業を中心とする国内企業10社にDRアセスメントサービスを提供しました。その際にヒアリングを行ったのですが、DRのためにバックアップを取っているデータの範囲や、その範囲をどんな評価指標で決めているか、DRされていないデータは再作成できるかどうか、できる場合はそのための手順書が紙ベースで手元にあるか、などと掘り下げて聞いていくと、それに対してうまく説明できないケースが多いことが分かりました。また、今回の震災でちゃんとデータを守れたかどうかを聞いたところ、実際に被災した企業からは不十分だったという声が多く聞かれました。そうならないようにチェックするための項目が6番目と8番目です。

最近ではバックアップを提供するクラウドサービスが広まってきており、データのDRコストは従来に比べて下がってきています。そのデータをDRすべきかどうかは、DRに要するコストとデータが消失した場合の影響や再作成に要するコストを比較評価して決める必要があるということを挙げているのが7番目ですが、その際にはクラウドサービスの活用によるコスト削減効果を含めて比較評価することが大切になっていくでしょう。

DRを考える際の要素・要件は距離、RTO、RPOでしたが、実は見直したあとも大きく変わったわけではありません。「ロケーションの安全性」、「システム停止の許容度」、「データ消失後の対応」と言い換えていますが、これは以前からあった距離、RTO、RPOの3つの要件に今回の震災の教訓として得たものの見方の深さや広がりを加えてしっかりと考えていこう、ということなのです。

図1 見直したDR要件
図1 見直したDR要件
資料提供:ネットアップ

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アセスメントサービスで浮き彫りになったDR状況の良い点と課題点

Question

震災後に実施されたDRアセスメントサービスについて、もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか?

Answer

DRアセスメントサービスは、現在のDRの実態を把握し、課題解決の方向性を明らかにすることを目的として実施しました。実施方法はヒアリングシートへの事前記述と約2時間のヒアリングで、現状に関する「1.データセンタ」「2.システム」「3.DR」「4.バックアップ」の4項目と、将来に関する「5.IT戦略・計画」「6.DR計画」の2項目で各社のDR状況を評価しています。DRアセスメントサービスを受けられたのは製造業を中心とする10社で、誰もが名前を知っているような有名企業ばかりでした。

Question

DRアセスメントサービスで分かったDRの現状に関する各社の共通項はありましたでしょうか?

Answer

ネットアップ株式会社:小林啓宣氏

DRアセスメントサービスを受けられた企業の多くが製造業だったということを前提に聞いていただきたいのですが、まず挙げられるのが、全社というわけではありませんが、RTOが数週間〜数ヵ月と非常に長かったことです。なぜこんなに長いのかというと、バックアップを取るなどしてDRしているのはデータだけで、システムのバックアップや冗長化まで手が回っていない企業がほとんどだったからです。

RPOは、多くの企業が1日でした。これは1日1回バックアップを取り、退避場所でデータを保管するといったソリューションを多くの企業が採用していることを意味しています。

これは共通項ではありませんが、DRデータセンタもしくはデータ退避場所までの距離にもある種の傾向性が見られました。数百kmという数字がある一方で、数百mや「‐」という回答もありました。数百mというのは同じ敷地内の別の建屋、「‐」は同じ建屋の別の場所に退避させている、といった意味合いです。「‐」はDRというよりもサーバ障害などによるデータ消失への対策でしょう。数百mという距離は火災対策には有効ですが、今回の震災のように同じ敷地内の建屋すべてが被災してしまうような災害では実効性はありません。企業がDRの何に重きを置いていたかがうかがえる数字と言えるでしょう。

Question

ほかにDRアセスメントサービスで分かったことはありますでしょうか?

Answer

DRアセスメントサービスで分かった良い点と課題点をまとめたのが次の表になります。

表2 DRの分野別実施状況
表2 DRの分野別実施状況
資料提供:ネットアップ

DRアセスメントサービスでは2時間かけて、情報システムの責任者と担当者の2名にヒアリングを行いました。2時間あるとかなり踏み込んだところまでお聞きできますが、ビジネスごとの重要度の違いやシステムとビジネスの連携など、皆さんとてもよく理解されているようでした。これが「2.システム」の良かった点です。

一方課題点は、システムの性能要件やサーバごとのデータ容量をちゃんと把握されていなかったことです。システムの性能監視は皆さんやっていらっしゃいます。データ容量もストレージ単位では把握しておられます。しかし性能監視は、レスポンスが悪くなる限界ポイントに近づいているかどうかを見ているだけで、データ容量も、サーバごとあるいはシステムごとにどれくらいあるかは把握できていないようでした。

メインデータセンタが被災した場合はDRデータセンタが処理を引き継ぐことになりますが、DRデータセンタ側では多くの場合、システムを縮退で稼働させます。しかし、メインデータセンタで稼働している個々のシステムがどれだけの性能を必要としているのか、利用者や処理量などの増加にともなってシステムの性能要件がどのように上がっているのかが分からなければ、縮退で稼働させるためにDRデータセンタ側に必要な性能を算出することができません。このように、DRデータセンタをきちんと運営していくためには、稼働しているシステムの性能要件やデータ容量を正確に把握することが非常に重要なのです。

Question

DRのサービスレベルは今後どのようになっていくべきとお考えでしょうか?

Answer

DRアセスメントサービスの結果を基に、RPO、RTO、距離のサービスレベルの現状と目標をプロットしたのが図2です。現状のサービスレベルは、RPOは1日、RTOは数週間〜数ヵ月で、距離はちょっと極端ですがゼロmとしています。

では、将来の目標はどうかというと、DRアセスメントサービスの主な対象企業が製造業だったこともあり、RPOは現状と変わらず1日、RTOは事業継続性を考えるとこれくらいの期間で復旧できなくては意味がないということで数日、具体的には1日から2日、距離は100km以上500km未満になりました。距離が100km以上500km未満とあいまいなのは、メインデータセンタとDRデータセンタとの間をどのくらい離すべきだということではなく、管轄する電力会社を別々にすることに主眼を置いているからです。

図2 DR要件のサービスレベル
図2 DR要件のサービスレベル
資料提供:ネットアップ

Question

DRアセスメントサービスは震災後数ヵ月という時期に実施されましたが、DRに対する意識の変化はありましたでしょうか?

Answer

皆さん問題意識を強くお持ちだということはすごく感じました。とは言うものの、「6.DR計画」の項目でDRデータセンタのロケーションが決まらないとかDRサービスレベル(RTO/RPO)が明確ではないといった課題点が挙がっているように、DR計画はIT側(情報システム部門)だけでは決められないという現実もあります。経営や業務サイドでBCPが決まらないと、それをサポートするITはどうあるべきかも決まらないからです。

しかし、その一方で、企業の中には、どんなITのDRサービスレベルならどんなBCPが実現できるかを明確にし、それぞれのレベルの予算感を含めて経営や業務側に提案することで、IT側からBCPの策定を支援しようと試みているところもあります。DRやBCPを実地に移すためには経営側に具体的な数字を示すことが重要になってきますが、DRアセスメントサービスはその一助になったのではないでしょうか。


●ありがとうございました。


取材協力

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