データセンタ投資動向で探るクラウドの現状

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掲載日 2012/10/02

ザ・キーマンインタビュー データセンタの投資動向から探るクラウドの現状

クラウドサービスの利用拡大が進むにつれ、データセンタ事業者の役割・責任は以前にもまして大きくなっていく。だからこそ、クラウド導入を検討している企業にとっては、「データセンタ側の体制は十分に整備されているのか」「設備の信頼性などにおいて、懸念すべき点はないか」といった点が気になるところだろう。国内データセンタ市場の投資動向から答えを得るべく、IDC Japanの川上晶子氏にお話を伺った。

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川上 晶子 氏

IDC Japan株式会社
コミュニケーションズ リサーチマネージャー
川上 晶子 氏

データセンタにおける課題改善の取り組みとしては、「総電力量の供給増」がトップ

Question

貴社では、今年8月に国内データセンタ建設市場の調査結果を発表されましたが、近年のデータセンタ事業者の投資においては、どのような傾向が見られると言えるでしょうか?

Answer

IDC Japan株式会社:川上 晶子 氏

企業がアウトソーシングに対して積極的であるという動向は以前から続いていますので、そうしたユーザ側のデマンドを受けて、データセンタ事業者側の投資意欲も依然として高い傾向が続いています。ただ、どの部分に投資するのかは、そうした需要に加えて、当然ながら、現在、あるいは今後見込まれるデータセンタを取り巻く課題にも左右されるでしょう。

 今回の調査(2012年3月実施)は、データセンタのインフラストラクチャに関する投資動向を主題とし、商用のデータセンタを所有する事業者82社、及び、企業内データセンタを所有する一般企業353社に対して実施したものです。その結果、回答企業の7割以上が「データセンタ内の電源/空調整備における課題」に対して何らかの改善を行っていました。内訳としては、データセンタ専用建物においては「総電力量の供給増」への対応が最も多く、その次に「省電力CPU/サーバへの更改」「仮想化技術による稼働効率の向上」「総電力使用量の可視化」が続きます。ただ、トップ以下の3項目に関しても、IT機器におけるエネルギー効率の改善を図ることが主な目的ですから、いずれにせよ、電力量をいかに確保するか、やりくりするかというのが主な傾向だと言えるでしょう。

図1 データセンタ内の電源/空調整備における課題への取り組み
図1 データセンタ内の電源/空調整備における課題への取り組み
出典:「2012年 国内データセンタインフラストラクチャの投資動向調査」(IDC Japan、2012年7月)

Question

その背景としては、どういうことが考えられるのでしょうか?

Answer

もともとデータセンタのファシリティを設計・構築する際には、当然ながら、必要な総電力量をどう見込むか、上限をどの程度に設定するかという点をきちんと算定し、10年あるいは15年先くらいを見越した設備設計をしているはずです。しかし、ここ最近のIT機器のイノベーションは、その予測ペースを遥かに超えていました。IT機器の高密度化によって処理性能が向上するのに比例して、サーバ1台あたりの消費電力量も増加しますから、結果として、施設内の総電力量もかなり膨れ上がっていきます。それに合わせて、受変電設備、非常用発電機、UPS(無停電電源装置)などについても、より出力量が大きな、大型クラスのものへと入れ替える必要が生じるわけです。

 消費電力量の増大はオペレーションコストだけではなく、電気設備の大型化によって初期投資にも影響します。つまり、IT機器の高密度化を背景に、OPEX(Operating Expense)とCAPEX(Capital Expenditure)の双方の肥大化が生じており、これが1つの大きな課題と言えます。そして、もう1つの課題が、ユーザが求める信頼性向上への対応です。日本は2011年に東日本大震災を経験しており、ユーザ企業では、自然災害のリスクに対応しておかねばならないという意識が以前にもまして高くなっています。

Question

データセンタとしては、コスト増大に悩みつつも、状況的に投資を拡大せざるをえないということですね?

Answer

もちろん、多くのデータセンタ事業では震災以前から信頼性を高める努力はしていますが、「ここまでやれば十分」という見極めが難しいところもあります。したがって、ユーザの意識に対応して、より高いレベルで要件を満たしておこう、リスクをなるべくゼロに近づけようと考えるのも当然かもしれません。しかし、そうすると、サーバやストレージといったIT機器レベルでの2重化、ネットワーク機器レベルでの2重化にとどまらず、ファシリティレベルで電源設備の2重化、電気系統の異経路化など、冗長構成の範囲やレベルが拡大し、CAPEXの負担が大きくなる傾向にあります。


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クラウドコンピューティングの利用拡大が課題を増幅している?

Question

そうした傾向に関しては、クラウドコンピューティングの利用拡大が影響しているとも考えられるでしょうか?

Answer

IDC Japan株式会社:川上 晶子 氏

データセンタの投資動向から、直接的にそうした影響を読み取ることはできないのですが、弊社で別に実施した国内クラウドサービスの市場調査では、「SaaS」「パブリッククラウド」「業界特化型クラウド」「プライベートクラウド」のいずれにおいても、昨年から今年にかけて、「興味があり、情報収集中」という企業が大幅に減少し、確実に利用拡大へとつながっているという傾向が見られます。「SaaS」「パブリッククラウド」「業界特化型クラウド」に関しては、どのような形態にせよ、大部分がデータセンタ事業者のリソースを利用したものととらえられます。また、「プライベートクラウド」についても、いわゆるホステッドタイプの拡大が見込まれており、現時点でも3割程度、2015年あたりには5割に達すると予測されますから、クラウドの利用拡大により、データセンタへのリソース集中は更に進んでいくものと考えています。

 ただし、データセンタにおけるIT機器の高密度化といった課題は、クラウドの利用が拡大する前から顕在化していました。サーバ統合に取り組む企業が増えており、コロケーション契約でデータセンタへ持ち込まれるサーバは、統合/仮想化を行うために高スペック化・高密度化されたものを用いるようになったことが背景です。もちろん、直近ではクラウドがこれらの課題を加速させる大きなドライバーになっていることは確かです。

図2 配備モデル別クラウドの利用検討状況(2011〜2012年)
図2 配備モデル別クラウドの利用検討状況(2011〜2012年)
出典:「2012年 国内クラウドサービス市場 需要動向調査」(IDC Japan、2012年7月)

Question

クラウド市場が拡大するにつれ、グローバルなサービスベンダが日本国内にデータセンタを構築し、日本企業にクラウドサービスなどを提供するケースも増えていますが、そうした流れはデータセンタ事業者の投資動向にも影響を与えているのでしょうか?

Answer

従来のコロケーション/ホスティングなどを主体としたデータセンタサービスにおいても、厳しい競争はあったわけですが、それはせいぜい国内かつ一定地域に限定されたエリア競争レベルだったと言えます。しかし、現在クラウドサービス市場では、国内のみでサービスを展開している事業者も、グローバルにサービスを展開する事業者の参入、いわゆる“黒船来襲”によって、熾烈なコスト競争にさらされつつあると言えるでしょう。グローバルプレイヤーは、リソースプールが大規模になるため、機器調達などにおけるバイイングパワーも非常に大きいのです。更に、運用における自動化・標準化などもかなり高度化していますので、CAPEXだけでなくOPEXにおいても高いコスト競争力を有していると言えます。

 つまり、データセンタ事業者は、前述のような自然リスク/電力不足への懸念に加え、クラウドサービスの提供においては、グローバルプレイヤーと互角に戦うためにコスト競争激化に対応しなければならず、データセンタの物理インフラにおける信頼性の向上とコスト削減という二律背反の課題を突き付けられているわけです。ですから、コスト低減を実現する技術開発に注力するとともに、IT機器と物理インフラの垣根を越えた全体最適化の実現を追求すべきだと言えるでしょう。


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障害発生に巻き込まれないよう、ユーザはどう対処しておくべきか?

Question

信頼性の向上という点では、最近、クラウドサービスの利用拡大に水を差すようなトラブルも発生していますよね。

Answer

IDC Japan株式会社:川上 晶子 氏

いくつかの原因系があると思いますけれども、最近は電源に起因するトラブルが多くなっています。2重化を行っていたにもかかわらず、何らかの原因でうまく働かなかったなどというものです。あとは、運用面の不手際が大きなトラブルを招いてしまったというケースもありましたよね。もちろん、トラブルの規模にもよるとは思いますが、こうした事故が発生した場合でも、顧客企業に対して具体的な原因や対策を真摯かつスピーディに公開すれば、ユーザが一気に離れてしまうことはないという状況はあるようです。しかし、契約しているクラウドサービスでトラブルが生じて、それが一定以上の時間に及んでしまうと、事業への影響も大きくなる可能性があります。したがって、ユーザ側でも可能な限り、データセンタ事業者の情報公開への姿勢や信頼性向上に対する取り組みをしっかり把握・検証しておくべきだと言えるでしょう。

Question

具体的には、どういった点に注目しておくべきなのでしょうか?

Answer

先ほど、リスクをゼロにしようと突き詰めるほどコストも膨大にかかってしまうという話をしました。ただ、もともと日本は、自然災害のリスクが非常に高く、しかも、国内のどこであろうとも地震が絶対に発生しないという場所などありません。つまり、どの道リスクをゼロにすることはできませんし、そうしたリスクの高い状況においては、1ヵ所のデータセンタの信頼性や冗長性を高めることに腐心するという取り組み方だけでは限界があるでしょう。

 ですから、広域に分散する複数拠点でデータセンタやクラウドサービス基盤を展開し、相互連携を図ることで、リソースやデータを分散し、少しずつリスクを下げていくというアプローチが主流になっていくと考えられます。それこそが、もともとのクラウドの発想に沿ったものと言えます。もちろん、分散しているからといって、個々のデータセンタのスペックが極端に低いようでは問題がありますから、標準レベルをクリアしている必要はあります。従来までは、広域にまたがるデータセンタ構築、あるいはクラウド運用を展開しようという場合、技術的な壁に阻まれるケースも多かったのですが、ネットワークの仮想化をはじめとする技術革新により、問題は解決されつつあるようです。1〜2年のうちに、こうしたアプローチが一挙に広まる可能性も高いのではないかと見込まれます。


●ありがとうございました。


取材協力

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IT専門の調査会社として、1975年に設立以来、国内・外の情報技術・通信産業をはじめ、金融機関、政府機関等など、市場データ、市況分析とそれにもとづいたアドバイスを提供。グローバルに展開するビジネスを品質の高いデータで支援することに取り組んでいる。


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