立教大学“ビッグデータ講義”の狙いとは?

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掲載日 2012/08/29

ザ・キーマンインタビュー 立教大学のビッグデータ講義の狙いとは?

立教大学の経営学部 国際経営学科では、「Bilingual Business Project(BBP)」の一環として、ビッグデータをテーマにした授業を今年5月28日から7月9日まで実施した。BBPではこれまでも様々な企業の協力のもと、様々な課題解決や新規ビジネスモデル提案を行うプロジェクト型学習に取り組んできたが、今回、特に先進的なテーマといえるビッグデータを扱ったのは、どのような目的・背景によるものなのだろうか。立教大学 経営学部の助教(コミュニケーション学博士)である松永正樹氏にお話を伺った。

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松永 正樹 氏


経営学部
助教(コミュニケーション学博士) 松永 正樹 氏

新規ビジネスモデルの提案を最終的な目標としたプロジェクト型授業

Question

大学の講義テーマとして、いち早くビッグデータを取り上げたのは、どのような目的・背景からでしょうか?

Answer

立教大学:松永 正樹 氏

立教大学の経営学部では、国際ビジネスシーンでリーダーシップを発揮できる人材育成を目的に、各種専門分野を主に英語で学習するバイリンガル・ビジネスリーダー・プログラム(BBL)を、国際経営学科のコア・カリキュラムとして実施しています。BBLではプロジェクト学習に重点を置いているのですが、その一環として、実際の企業と連携した「BBP(Bilingual Business Project)」という選択科目(3〜4年次生対象)を設けており、様々な課題に対する解決策、あるいは新しいビジネスモデルを提案するプロジェクトに取り組んでいます。

 そして今回は、ITベンダのEMC様の協力のもとで、ビッグデータをテーマに据えた「BBP」を開講したというわけです。たしかに、経営学部で取り扱うテーマとしては、少し先進的すぎるという印象を持たれるかもしれません。しかし、実は立教大学の中でも経営学部は2006年に設置されたばかりの新しい学部で、BBL/BBPを実施するに至った理由の1つには、歴史の深い商学部や経済学部と同じことをしていては違いが出せないということもあります。ですから、先方からお話をいただいた際、ビッグデータというテーマには大いに興味を持ちました。しかも、実際に今後の企業経営を支える要素として高い可能性を秘めているということもすぐに理解しましたので、成長段階の分野とはいえ、学生が早い段階で触れておくのは悪いことではなく、むしろ、素晴らしいことだと考えました。

Question

BBPで取り上げられてきたテーマのうち、代表的なものをいくつかご紹介いただけますでしょうか?

Answer

EMC 徳末常務によるゲストレクチャー

これまで6社様にご協力いただきましたが、テーマは多岐にわたっています。例えば、「投資先の企業価値を高めるという見地で、実在するショッピングモールを活性化するためのアイデアを出す」、あるいは「紙からデジタルへという大きな変革を迎えている新聞社の立場で、新しい収益モデルを考える」といったものがありました。

 開始当初はさほど大きな期待はされていなかったと思いますし、現在でもそのままで事業化につながるという成果までは出せていないとも感じますが、協力企業の方からは、将来的な事業展開のヒント、あるいは検討のたたき台として役立っているという評価はいただいています。

Question

経営学部の学生の間でのビッグデータの認知度や関心は、以前から高かったのでしょうか?

Answer

正直なところ、認知度はかなり低かったと思います。今回のクラスは今年4月に開講しましたが、その前の2ヵ月ほどで関連書籍を読んで下準備をしてもらいました。データ分析を実際に行うのではなく、ビジネスモデルの提案ということがテーマでしたから、総論的な内容の書籍を選んでいます。また、スタート後も改めて基本的な情報を記載した資料を渡したり、受講者限定のFacebookグループを作成して、そこでのフォローアップも行いました。最初は私からの投稿ばかりでしたが、関連記事を紹介するといった学生の投稿も徐々に増え、見る見るうちに活動が活発化していきましたね。

Question

では、結果的には、学生の注目度が高いテーマになったと言えるのでしょうか?

Answer

そうですね。例えば、ソーシャルネットワーク上の情報をもとに消費者行動を予測したり、スマートフォンのGPSなどのセンサデータをもとに何らかのビジネスを構築するといった、学生にとって言わば身近に感じられるテーマであり、しかも、それが実際の経営に影響を与えるという点で非常に興味深かったと思います。学生の目線で見て、遠い世界の出来事ではなく、自分の懐や引き出しをまさぐれば何かが出てくるという感覚でしょうか。

 ただ、ビッグデータはまだ目新しい存在ですし、しかも、BtoCではなくBtoBという枠組みでの取り組みとなりますから、学生も最初は手探りで取り組んでいたかと思います。そもそも、どういう企業をクライアントとして想定すればいいのかということもあったでしょう。それでも、これまでどこかで見たようなマーケティング戦略やビジネスモデルを練り直せばいいのではなく、まったく新しい発想が受け入れられる余地があると気づいてからは浸透が早かったですね。そこから学生たちの顔もずいぶん変わったというか、熱中している様子が見て取れました。もちろん、「ビッグデータというものを垣間見た」というレベルではあると思いますが、実際のビジネスでこういう世界が広がりつつあること、そして、そこに自分も何かしら絡めるチャンスがあるということが、学生の積極的なコミットを引き出したと感じています。

Question

ただ、あまり消費者目線のほうに行ってしまうと、経営学部としてのテーマからは外れてしまうということもありますよね?

Answer

たしかに、そこのバランスを取らせるのが、教える側としては最も難しかったと言えます。どうしても最初は消費者目線で、「夢のような世界が広がっている」「いや、プライバシーの観点で怖い」という両極端な方向に行ってしまいがちで、目的であるビジネスとしての実践的な取り組みや、最終的なプレゼンテーション発表までたどり着けない可能性もありました。ただ、そうしたわくわくした気持ちや、その逆の慎重さというものも必要ですから、そうした感情から出てくるアイデアや課題感もキープさせつつ、バランスを取ってきちんとまとめていけるようにサポートしましたし、結果的には、それは成し遂げられたと思います。


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ビッグデータの活用意義やビジネスモデルを学生主体で議論・検討

Question

今回の講義は具体的にはどのような流れで進められたのでしょうか?

Answer

立教大学:松永 正樹 氏

最初の2週間くらいは、ビッグデータとはどのようなものか、何ができて何ができないのかということを明確化するプロセスでした。その次の段階としては、いくつかビジネスフレームワークを紹介して、それを使って考えてみるということも行っています。特に目新しい手法ではないのですが、強みや弱み、あるいは、できていることとできていないことをはっきりさせるという効果がありますし、そうしたフレームワークを使っていくうちに学生たちが自ら軌道修正をしていってくれます。これ以外の部分でも、BBLの授業では全体的に「学生に任せる」という姿勢をとっており、こちらは毎回の方向性だけを定めたり、何らかの投げかけを行う程度にとどめることにしています。

 そのあとは、4チームに分けて、ビジネスモデルを提案するにあたり、まず対象としてどの業界を選ぶかということを個々に検討してもらい、次はその業界の中の具体的にどの企業に提案するのかというふうに、だんだん絞り込んで考えていったという流れです。ビジネスモデルを検討していくうちに、最初に選んだ業界そのものが変わっていくということも生じましたが、最終的な発表内容としては「唾液のサンプルやトイレの利用状況から健康データを取る」「カーナビゲーションシステムを警察や電波通信のデータと連動させて、交通事故の軽減を図ると同時に保険料率差益を生む」「FacebookなどのSNSから自動収集したデータを用いてオンラインショッピングの拡販を行う」などに落ち着きました。このへんは開講前に読ませた関連書籍の影響も大きいと言えますが、当然ながら、書かれていた内容をそのまま受け取るのではなく、学生どうしでしっかりと議論を行いつつ、ひねりを加えたり、ブラッシュアップしています。

Question

最終日には成果発表としてEMCジャパン本社でプレゼンテーションを行ったそうですが、当日も含めて、受講した学生たちの講義全体に対する反応はどのようなものだったのでしょうか?

Answer

発表会に関しては、「もっとやれたんじゃないかな」と反省していた学生がほとんどでした。その後の打ち上げの場でも、「今回まとめたアイデアは、時間をかければまだまだ練り上げられるはずだから、これをもとにしてビジネスコンテストに出たい」という声も多かったですね。その意味では、ビッグデータというものに対しては、それを垣間見た程度だというのは学生も十分に感じており、少し足を突っ込んだだけで終わりにしたくないという意欲も感じられました。

Question

その中からデータサイエンティストを目指す学生も出てきそうですかね?

Answer

授業風景(ブレインストーミング)

ビッグデータや統計的な思考に対するアレルギーがなくなり、しかも面白いと感じてもらえたことはたしかでしょう。とはいえ、今回の講座では実際に自分たちで統計分析を行うという部分には踏み込んでいませんし、経営学部の学生がそこの部分もカバーするためには、更なる跳躍が必要になると思います。逆に、別学部の統計的な思考ができる学生がデータサイエンティストを目指すとしても、経営の部分とどうリンクさせるのかということを習得させるのは、それなりに困難なことなのではないかと考えています。ただ、今回の受講者の中に、統計やデータ処理のスキルを専門的に履修してきた学生が参加していたとしたら、ほかの学生とコラボレーションを行うことでより実践的な内容になり、面白い効果が出たかもしれませんね。


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スキル向上意欲が高まる一方、コミュニケーションやチームの重要性も再認識

Question

ほかに今回の講義で得た感触みたいなものはありますでしょうか?

Answer

立教大学:松永 正樹 氏

先ほどの話とも関連しますが、このBBPではほかの学部の学生も履修することが可能になっており、統計を専門とする学生はいなかったものの、法学部や社会学部からの参加はありました。これが非常にラッキーというか、相乗効果を引き起こすという事象があったのです。例えば、プライバシーに関する話題が出ると、その学生が率先して名乗り出てくれ、以前にこんな事例があったとか、こういったケースではこんな判例が出ているということを調べ、それをチーム内のほかの学生と共有してくれました。社会学部の学生も、社会の成り立ちや大衆心理、倫理といった見地で問題を捉えますから、ほかの学生に新しい見方を与えてくれます。そうするとそのチームは実践的な方向へと一歩リードしますが、それを見て、ほかのチームも別の部分で奮起するといった流れで、たまたまとはいえ、かなりいい相乗効果が今回は生じました。

Question

それに加えて、統計系、あるいは情報系の学生なども参加したとしたら、小さな企業を体現するような様相で取り組めるわけですよね?

Answer

それが理想ですね。そうした交流という部分も、他学部からの受講を可能にしている狙いの1つではありますから。経営学部は比較的小さい学部ですから、その中だけで4年間を過ごしていると、顔見知りばかりになってしまい、学術上の刺激も少なくなってしまいます。今回のようなプロジェクト型の授業でも、誰がどんな考えを持っているかがだいたい分かってしまうので、最終的なアイデアも同じようなところに落ち着きがちです。法学部や社会学部の学生だけでも、同じ問題を見たときに全然違う捉え方をしますから、ほかの学生にとっては新鮮だったようですね。

Question

すべてを1人で担うのではなく、各々に専門知識を持ったメンバーがチームで挑むというかたちですね?

Answer

授業風景(クラス内プレゼンテーション)

今回のビッグデータをテーマとしたBBPについては、公式な調査・検証の結果はまだ出していないのですが、授業の最後に簡単なインタビューを行った際には、「自分の限界が分かった」「自分が将来こうしたテーマに取り組むとしたら、どういう人材と組むべきかということが分かった」という声が大勢を占めていました。例えば、自分はマーケティングのアイデアを出すことはできるけれども、その裏付けを示したり、実行するための能力は乏しいといったことに気づいたというわけです。もちろん、捉え方は学生によって若干異なり、自分ですべてをこなしたいので、その方面の分野も自分で勉強しますとか、実際に統計系の授業をとりたいという学生もいました。ただ、いずれにせよ、1つのプロジェクトの実行、特にビッグデータのような分野においては、多種多様な知識やスキルが求められ、自分の能力だけではなく、そうした様々な人たちとコミュニケーションを図ったり、互いに刺激し合うことが重要だということは、今回の受講者全員が身に染みて感じたのではないかと思います。


●ありがとうございました。

立教大学経営学部からのお知らせ

立教大学経営学部では、BBPにご協力をいただける企業パートナーを募集しています(BBPのこれまでの取り組みや教材、授業の模様などはこちらをご覧下さい)。テーマはビッグデータ、あるいはIT分野に限りません。半期(1〜2ヵ月程度)でオリエンテーリングから最終提案までを行う問題解決プロジェクトをご提示の上、学生らのプレゼンテーションをすべて英語でご講評いただけることが条件となります。ご興味がおありの方は、お気軽にコースコーディネーターの松永助教までお問い合わせください。


取材協力

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1874年アメリカ人の宣教師C.M.ウィリアムズ主教が創立。「キリスト教に基づく教育」を建学の精神に掲げ、学問はもとより、豊かな人間性を有し、社会の中核を担う優れた人材を輩出し続けている。


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