進まぬバックアップを1歩前進させるには?

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掲載日 2012/08/30

ザ・キーマンインタビュー 進まぬバックアップを1歩前進させるには?

未曾有の被害をもたらした東日本大震災から約1年半が経過した。震災以前に比べれば、データのバックアップ改善を加速させようとする動きは広がっている。しかし、あれほどの災害を目の当たりにしたにもかかわらず、その動きはまだ一部の企業にとどまっているという。その理由は何か?企業の情報システム部門はどんな取り組みをしていくべきなのだろうか?ガートナー ジャパンの鈴木 雅喜氏にお伺いした。

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鈴木 雅喜氏

リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ
リサーチ ディレクター 鈴木 雅喜氏

「投資額」「経営者の理解」「現場の技術力」が3大ハードル

Question

東日本大震災から約1年半が経過しました。バックアップに対する企業の姿勢はこの期間にどのように変わったでしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン株式会社:鈴木 雅喜氏

東日本大震災を受け、バックアップの改善に向けて行動し始めた企業は、かなり積極的に動いています。過去10年間、様々な災害や事故があったにもかかわらずなかなか動かなかった日本企業の事業継続への取り組みは、明らかに変わり始めている。そう言えると思います。

ただ、こうした企業はまだ少数派にとどまっているように思われます。バックアップに対する意識が高まっているのはいろいろな企業の方と話をしていても実感するのですが、それを阻むハードルをまだ乗り越えられていない企業が多いのは残念です。バックアップ改善に向けた動きがなかなか起きない、前に進まないとあきらめてしまった方が仮にいらっしゃるとすれば、是非再挑戦していただきたい。不幸な出来事がありましたが、それゆえに生まれたこの機会を確実に生かしていただきたいと考えています。

Question

あれほどのことがあったにもかかわらず、なかなか動かないのはなぜでしょうか?

Answer

バックアップの改善を阻むハードルとなっているのは、投資額不足、経営陣の理解不足、現場の技術力不足です。これは以前からずっと変わっていません。

この3つのハードルのうち一番メインにくるのは、やはり投資額不足です。バックアップを改善したいと思っても、そのための資金がなければできない場合が多いからです。ではなぜ投資額が足りないかと言うと、経営陣がそのための予算を承認しないからで、現場からは「経営陣は分かってくれない。理解不足だ」となります。しかし経営層には、同じ投資をするのであれば、ビジネス戦略上より優先度の高い、ROIが上がるものに投資したいという思いがあります。このため災害対策やデータ保護(バックアップ)への投資は必須ではあるものの、いざという時のためのものなので、後回しにされてしまいがちなのです。また、経営層には「現場の技術力は十分なのか? 投資は効果的に使われているのか?」といった疑念もあります。これらは別々の話に見えますが表裏一体の関係にあり、なかなか先へ進んでいけないのです。

Question

どうしたらいいのでしょうか?

Answer

経営陣と現場には意識や考え方のずれがあって、経営陣は災害対策やバックアップの実態を理解していないし、現場は経営陣の経営に対する思いや立場を理解していない。それを解消するためには、経営陣には経営陣の分かる言葉で災害対策やバックアップの実態やあるべき姿を伝え、現場には経営陣の思いや立場を分かってもらうことが必要で、そのためには両者の間を取り持ち、相互理解を促進させるリーダーの役割が非常に重要になってくるのです。

また、ハードルを乗り越えていくためには、相互理解に加えて災害対策やバックアップの効率化も重要です。そしてそのために使えるのがITです。ITは日進月歩で進化しています。テクノロジーの進化は、それまでなかなか進まなかった会社のバックアップを前進させていくポテンシャルを備えています。バックアップの仕組み自体を改善し、経営陣と現場の双方の意識や考え方を変え、会社を変えていく起爆剤になり得ます。リーダーはそれに気づかないといけないし、経営陣と現場を変える努力をしていかなくてはならないと思います。

図1 バックアップ改善のハードルと解決策
図1 バックアップ改善のハードルと解決策
資料提供:ガートナー ジャパン

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バックアップ改善のトリガーとなるテクノロジーとは?

Question

バックアップの改善はどのように進めていけばいいのでしょうか?

Answer

「バックアップ」という言葉は誰にも通じる言葉のように思われがちですが、その言葉で思い浮かべる内容は人によって大きく異なっています。例えば「バックアップ=データを磁気テープに保存しておくこと」と考えている人にとっては、「バックアップの改善が必要」と言われても「もうやっている」と思ってしまうわけです。このため現場と経営陣の双方で「バックアップとは何か」についての共通認識を持っておくことが必要です。

ガートナー ジャパン株式会社:鈴木 雅喜氏

バックアップとは「『障害シナリオ』に対応する『システムの保護』」であるととらえるべきです。災害には地震、火災、洪水、パンデミックなど様々なものがありますし、被害の状況やそれに対処するために動ける人員の状況なども千差万別です。それら1つひとつを考えると山のように障害シナリオは書けますが、すべてに対応策を用意するのには膨大な時間と費用、労力がかかります。ご存じのように、いつ次の地震が起こってもおかしくない状況です。やれることは今すぐにでもやっておくべきだと考え、(1)データセンタ内で復旧できるケース(操作ミス、ハードウェア障害、アプリケーションエラーなど)、(2)リモートサイトから復旧するケース(メインサイトのデータ喪失、複数個所の障害、アプリケーションの障害など)、(3)リモートサイトを使用するケース(メインサイトの喪失)――の少なくとも3つの障害シナリオを想定し、これらが発生した場合にどのようにシステムを保護するかを検討しておくことを提案しています。

Question

テクノロジーの進化がバックアップに対する会社の取り組み姿勢を変え、前進させていくというお考えを聞かせていただきましたが、そのテクノロジーにはどんなものがありますでしょうか?

Answer

データ重複排除、ベアメタルリストア、継続的データ保護(Continuous Data Protection:CDP)などがあります。

データの重複部分を削除することによってデータサイズを圧縮するデータ重複排除は、バックアップ対象データのサイズを大幅に小さくできるため、リモートサイトへのデータ転送を簡便かつ低コスト化できます。このテクノロジーを導入できたのは、当初は一部の先進ユーザだけに限られていましたが、その後専用ソフトウェアやバックアップ/ストレージ製品などの形で提供されるようになったため、今では一般的なユーザでも利用を検討できるようになっています。これを検討しない手はありません。

ベアメタルリストアはディスクイメージを丸ごと保存することによってシステムのリカバリを簡素化・迅速化します。異なるハードウェアへのリストアが可能なため管理が容易で、オンサイトでのシステム復旧だけでなく、リモートサイトからメインサイトを復旧したり、メインサイトが使えなくなってしまった場合にはリモートサイトにシステムを移設したりといったことが素早く行えます。

究極のバックアップはメインサイトとリモートサイトに同時にデータを書き込むことでRPO(Recovery Point Objective:復旧時点目標)/RTO(Recovery Time Objective:復旧時間目標)を理論上ゼロにする同期リモートコピーですが、両サイト間のデータ書き込み遅延がそのままアプリケーションのパフォーマンスに影響するほか、バックアップに要するコストが最高レベルとなるため、日本で導入しているユーザは限られています。それに対し、例えば非同期リモートコピーやCDPは、同期リモートコピーには及ばないものの、より安価に高度なRPO/RTOを実現できます。

このほか、ベアメタルリストアと同様にシステムのリカバリを簡素化・迅速化できる仮想環境や、必ずしも新しい技術ではありませんがまだ十分普及しているとは言えない差分転送なども、バックアップ改善のトリガーとなるテクノロジーと言えるでしょう。

図2 バックアップ改善のトリガーとなるテクノロジー
図2 バックアップ改善のトリガーとなるテクノロジー
資料提供:ガートナー ジャパン

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バックアップ責任者の設置が企業の取り組み姿勢を変える

Question

これらのテクノロジーをどのように利用していけばいいのでしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン株式会社:鈴木 雅喜氏

どんな選択肢があるかをまず把握することが重要です。ベンダやSIerはシステム設計を提案する際に、バックアップに関するすべての選択肢を示してくれるわけではありません。提供できるもの/できないもの、得意なもの/不得意なものがありますし、予算の限りもありますので、「バックアップはこれでいきましょう」と決め打ちの提案で話が進んでいくケースが多いからです。

選択肢が見えていなければ選びようがありません。ソリューションやテクノロジーの動向を理解し、個々の選択肢を把握しておけば、費用対効果のバランスの面からも自社の状況に最適なテクノロジーを選択できると思います。

Question

バックアップに主体的に取り組んでいくためには、企業の情報システム部門はどうしていけばいいでしょうか?

Answer

バックアップの技術・導入面を担当する責任者を決めることがまず必要です。どんな選択肢があるのかを責任者が把握していれば、システム構築の際にベンダやSIerと対等に話ができるからです。

Question

個別に導入したためバックアップの仕組みがばらばらになってしまったシステムを持つ企業も少なくありません。新たに構築するシステムを含め、これらを先ほど提示された3つの障害シナリオに合わせて整理・統合していくためには、どのようにすればいいでしょうか?

Answer

バックアップポリシーをあらかじめ決めておくことです。それにはBIA(Business Impact Analysis:ビジネス影響度分析)が有効です。事業への影響度に合わせてシステムを数グループに分け、障害シナリオに対応するための保護策を考え、テクノロジーを当てはめていく。システムのプライオリティを利用者に納得してもらうためには、実際に課金することはしないにしても、それぞれのバックアップにどれだけのコストがかかるのかを「見える化」して示すことも有効でしょう。

これらはバックアップの話と言うよりも、IT全体のBCPの話であり、経営課題である企業全体のBCPの話でもあります。これらの策定までをバックアップ責任者に求めるのは無理がありますが、もしまだBCPが策定されていないのなら、システムをどう守っていくかという議論の中からボトムアップでBCP策定につなげていくというアプローチもあるでしょう。

バックアップと言うと、普段はあまり日のあたらない「縁の下の力持ち」的な面がありますが、必須であることに議論の余地はありません。イザという時に会社を守るのは自分だ、そのためにやっているのだというバックアップ責任者の「志」がとても重要になってくると思います。


●ありがとうございました。


取材協力

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世界に85の拠点を持ち、約1280人のリサーチ・アナリスト及びコンサルタントを含む5200人以上のアソシエイツで構成されるITアドバイザリ企業。ITプロフェッショナル向けのリサーチ・アドバイザリ・サービス、世界規模で開催されるイベント、CIOや情報担当者に特化したエグゼクティブ プログラム、そして、各顧客向けにカスタマイズされた高度なコンサルティングなどを提供している。


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