イザという時、本当に使えるBCPの作り方

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掲載日 2012/06/28

ザ・キーマンインタビュー イザという時、本当に使えるBCPの作り方

実効性のあるBCPは、経験を糧とした絶え間のない改良によって作り上げられていくものだ。策定したBCPは東日本大震災でも想定した通りに機能したか?震災で得た事業継続のための教訓は?震災発生前にBCPを策定していた情報通信サービス会社アイエスエフネットのBCP策定担当者である瀧本 勇氏と金 貴浩氏に、イザという時に使えるBCPの作り方をお聞きした。

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瀧本 勇氏(左) 金 貴浩氏(右)

取締役 瀧本 勇氏(左)
経営情報本部 本部長 金 貴浩氏(右)

人材ソリューションとICTサポートサービスを軸にBCPを策定

Question

御社の概要と主な事業内容を教えて下さい。

Answer

株式会社アイエスエフネット:瀧本 勇氏

【瀧本】アイエスエフネットは2000年1月に設立された情報通信サービス会社です。情報通信システムの設計・構築・保守・運用サービスを主な事業内容としており、弊社社員がお客様先に常駐してシステムを保守・運用するエンジニア派遣サービスと、お客様のシステムを24時間365日、遠隔地から管理・保守・運用したりヘルプデスク機能を提供するICTサポートサービスを事業の柱としています。割合的には、エンジニア派遣サービスが6〜7割、ICTサポートサービスが残りといった事業構成になっています。

また、弊社は資源の有効活用と雇用の創出をグループの大義に掲げており、就職困難者や時間的制約などのために在宅での仕事しか選べない人の就労を支援する各種サービス会社を設立して雇用の創出に取り組んでいます。国内拠点は全国17ヵ所、海外拠点は6ヵ国、グループ子会社は5社で、従業員数はグループ全体で2120名(2012年4月現在)です。

Question

御社は平成22年度(2010年度)の東京都BCP策定支援事業に参加してBCPを策定されました。BCP策定に取り組まれた経緯をお聞かせ下さい。

Answer

【瀧本】それ以前にも弊社は、地震や新型インフルエンザに対応するためBCP策定に取り組んできましたが、場当たり的な対応に終始してしまっている状況でした。また、設立以来十数年が経ちましたが、特定の個人に依存するところが依然としてあり、例えば代表や役員が海外出張などで不在の場合でも同じ対応ができるか、といった課題もありました。これらを解消し、いつ災害が発生しても対応できる体制と人に依存しない体制にするため、東京都BCP策定支援事業に参加することにしたのです。

会社が大きくなって従業員規模も2000人クラスになり、お客様の事業にとってそれなりに重要な役割を占めるようになってきたという責任の自覚もありました。例えば弊社が突然つぶれてしまったら、システムの保守・運用の面で損害を被るお客様も出てきます。弊社1社だけの問題では済みません。また、弊社は雇用の創出を大義として掲げておりますが、事業を継続できなければ雇用を守れず、大義を果たすことができません。お客様に対する責任を果たすことと従業員の雇用を守ること、この2つを考えてしっかりしたBCPを策定しようと考えました。

Question

策定したBCPはどのようなものだったのでしょうか?

Answer

株式会社アイエスエフネット:金 貴浩氏

【金】弊社の事業の柱は人材ソリューション(エンジニア派遣サービス)とICTサポートサービスですので、この2つを軸にBCPを策定しました。

人材ソリューションでは弊社の社員がお客様のところに常駐していますので、出先の社員の安否を確認することが事業を継続する上で一番重要なポイントになります。そこで、安否確認をいかに迅速に行えるようにするかにフォーカスしてBCPを策定しました。具体的には、連絡手段を確保するために全社員にiPhoneを配付するとともに、災害発生時には安否確認システムを通じてただちに安否を確認できるようにしました。

ICTサポートサービスでは、災害による電源供給停止を想定して、モバイルPCとモバイル通信回線を利用したリモートコントロールとヘルプデスクのサービス継続策を策定しました。


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災害は複合的な形で襲いかかってくる

Question

BCPを策定したその翌年に東日本大震災が発生しました。策定したBCPは想定した通りに機能しましたでしょうか?

Answer

株式会社アイエスエフネット:瀧本 勇氏(左)、金 貴浩氏(右)

【金】安否確認はうまくいきませんでした。モバイル通信回線がパンク(輻輳)したことに加え、安否確認システムがスムーズに起動しなかったこともあり、安否確認メールが配信されたのは地震発生から3〜4時間経ってからでした。そこから安否確認がスタートしたわけですが、最終的には人力で安否確認ができていない社員1人ひとりに電話をかけて、津波に巻き込まれて携帯電話を流されてしまった1人以外は、その日のうちに全員の安全を確認することができました。

【瀧本】弊社の事業の6〜7割を占めているのは人材ソリューションですので、人員をいかに確保するかが重要になります。ですので、お客様先に常駐している弊社社員が今どういう状態にあるのかを確認するために安否確認システムを導入したわけですが、もう1つ重要なのが、災害発生時でもお客様のところへちゃんと出勤できるか、という点です。

東日本大震災による電力不足に対処するため東京電力管内では計画停電が実施され、当初は鉄道も運休になったため、お客様のところへ出勤できないという事態が一部で発生しました。危惧される首都直下地震ではもっと多くの鉄道が運休する可能性もあります。その際にどうやって社員をお客様のところへ出勤させるか?これはまだ構想段階ではありますが、子会社の作業拠点を都内各所に確保し、そこを避難所兼宿泊所にして、そこからお客様のところへ出勤できるようにするといったことも検討しています。

【金】計画停電については、本社は対象区域外だったので通常通り業務が行えたのですが、業務時間内に計画停電が予定されていた拠点もありましたので、本社と拠点で毎回連絡を取り合いながら、システムをシャットダウンしたり起動したりといったことで対処しました。

Question

東日本大震災で得た教訓はどのようなものだったでしょうか?

Answer

【瀧本】これまでのBCPでは、地震なら地震の災害しか想定していませんでしたが、東日本大震災では地震に加えて福島第一原発事故による放射性物質の流出や電力不足など複合的な災害となりました。例えば鉄道の運休についても、地震直後に止まることは想定していても、地震後数日経ってから電力不足で止まることまでは考えていませんでしたから。災害が複合的な形になるのはその通りなので、今後はそれらの要素をいかにBCPに盛り込んでいくかが重要になると思います。

DRサイトの候補地についても、以前は単純に本社所在地の近郊だったり、本社の次に大きな支店だったりしたのですが、震災後は地盤の堅牢性や電力会社の管轄区域なども含めて検討しないとBCPはうまく実行できないと考えるようになりました。今後はこのような観点からもBCPをブラッシュアップしていくつもりです。

地域社会との連携も考慮できていませんでした。本社のある港区は都内の中でも先進的な地域で、帰宅困難者の問題に地域としてどう取り組むかなど、定期的に会合を開いてお互いの連携を深めています。今後はこのような要素もBCPに盛り込んでいく計画です。

また、会社の売上が一極集中するのは事業継続の観点からもよろしくないので、地方と海外の売上高を底上げする形での東京、地方、海外の売上比率の平準化を中長期的なテーマとして取り組んでいます。


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クラウド化を進めてどこからでも業務を継続できる体制に

Question

東日本大震災の経験によってBCPはどのように改良されていくのでしょうか?

Answer

株式会社アイエスエフネット:瀧本 勇氏

【瀧本】人材ソリューションでは、先ほどもお話ししましたようにお客様先に出勤できる人員を確保できるようにすることと、システムだけに依存しない複数の安否確認手段や体制を整えていくことを考えています。

弊社では、業務はもとより業務とは関係のない相談やそのフォロー、会社の理念・制度や今後の方向性などの情報共有を円滑に行えるようにするために、本人−直属上司というライン組織とは別に、自部署/他部署に関わりなく様々な上司や先輩・後輩とコミュニケーションできるようにするコア組織という組織体系も設けています。このような体系や制度があり、日頃から組織横断的なコミュニケーションが取れていたからこそ、安否確認システムが十分に機能しない状況の中でも、個々人の携帯電話を通じてその日のうちにほぼ全員の安全を確認することができました。日頃からのコミュニケーションやイザという時に備えた訓練の必要性、重要性を再認識しています。

もう一方のICTサポートサービスについては、自社システムのクラウド化を含めて、万一の際にはどこからでも業務を継続できる体制にしていく計画です。

Question

クラウド化についてもう少し詳しくご説明下さい。

Answer

株式会社アイエスエフネット:金 貴浩氏

【金】クラウド化は、情報系、基幹系、お客様系の3つを軸に進めています。

まず最初に取り組んだのがメールやグループウェアなどの情報系です。弊社の場合は、メールが止まったら事業活動も停止してしまう死活的なシステムだからです。以前は本社にサーバを置いていましたが、それだとセキュアではないということで、4年ほど前に耐震設備などが整ったデータセンタにサーバを移しました。更にその次のステップとしてSaaSへの移行を進めており、6月から順次カットオーバーしていく予定です。

基幹系システムのサーバはこれまで本社に置いており、順次データセンタへ移していく計画でしたが、これもクラウドに移行させることにしました。万一震災で東京の本社が機能停止に陥ったとしても、ただちに他の拠点に本社機能を移して業務を継続できるシステムであることを軸に検討を進めています。基幹系システムは高度なセキュリティが求められるほか、弊社独自の仕組みなどもありますので、プライベートクラウドとリモートデスクトップサービスなどを利用してシステムを構築する予定です。

お客様系については、どのようなSLAを結ぶかによってもシステムに求められる要件は異なってきますので、それぞれに合わせてクラウドを利用していく考えです。

Question

BCP策定を検討、あるいは進めている情報システム部門の担当者へのアドバイスはありますでしょうか?

Answer

【瀧本】システムを二重化するなどして万一の際にも対処できるようにしていくのは、言うのは簡単ですがそれ相応のコストがかかります。ですので、どのシステムをどのレベルにしていくのかに優先順位を付け、「まずはこれ」というシステムに注力し、そこから横展開していくという進め方が効果的かと思います。「選択と集中」ですね。優先順位を決めるにあたっては、その会社の中心事業は何かや、その事業を継続させていく上で、他社を含めた利害関係者すべてにとって何が必須のシステムであるかを考え、そこからブレイクダウンしていくのがいいのではないでしょうか。

弊社の場合は、社内コミュニケーションはもちろんですが、お客様との連絡やシステム監視の報告などをほとんどメールで行っていますので、メールシステムがプライオリティのトップに来ました。逆にWebは会社のホームページぐらいにしか使っていないので、プライオリティはずっと下でした。もちろん、ECサイトなどWebを軸に事業展開している会社なら、当然Webシステムがプライオリティのトップになるでしょう。BCP解説書などを見ると「○○はXXする必要がある」などとありますが、そういうことはあまり気にせず、それぞれの会社の事情にあったシステムから進めていくのがいいのではないでしょうか。

もう1つは、他部署との連携です。情報システム部門はITを中心に考えがちですが、先ほどお話しした東日本大震災での例のように、普段から密にコミュニケーションが取れる組織体系や制度など、IT以外のところも非常に重要です。イザという時にちゃんと機能するBCPは情報システム部門だけで作れるものではなく、管理部門、営業部門、経営層など、いろいろな部署との連携ができてこそ初めて策定できます。いろいろな部署と連携することが非常に大切で、そのようにして策定していけばとても良いBCPになるのではないでしょうか。


●ありがとうございました。


取材協力

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2000年設立。E & E(Eco & Employment)の大義のもと、ITを通じて1人でも多くの人に「働くことの喜び」を発見してもらうため、人材育成プランに基づいて多くの「無知識・未経験ではあるけれど人間性の良い人」を採用し、ITエンジニアへと育成。また、「20大雇用」のスローガンを掲げ、障がい者やひきこもり、育児・介護従事者など、就労弱者と言われる人々の雇用に尽力している。


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