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掲載日 2012/06/20

ザ・キーマンインタビュー ビッグデータは日本企業に根付くのか

ビッグデータというワードも浸透し、その意味はおおむね理解されている状況と言えるが、一方で、実際にどう取り組むべきかを計りかねている企業も多い。新たなビジネステクノロジーの1要素として導入を検討すべきなのか、企業システム全体に及ぶ変革として受け取るべきなのか。日本企業のIT戦略において、今後、ビッグデータ活用というものをどう位置づけていくべきかを、アイ・ティ・アールのリサーチ統括ディレクター/シニア・アナリスト 生熊清司氏に伺った。

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生熊 清司 氏

リサーチ統括ディレクター/シニア・アナリスト
生熊 清司 氏

ビジネス環境の変化の幅が、過去に経験したレベルを大きく超えてしまった。

Question

ビッグデータの活用に注目が集まっていますが、企業がこれまで実施してきたデータ活用と、方向性そのものは大きく変わらないと考えてよいのでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:生熊 清司 氏

ITのビジネス活用を考えた場合、日本の企業においては業務の効率化ということに重きが置かれてきました。つまり、会計システム、あるいはERPといった、いわゆる基幹系と呼ばれるトランザクションベースのシステム導入が主流であり、投資比率も高いという傾向があります。

 また、これまでは、データ活用に取り組むべくBIなどの導入を図る際にも、基幹系システムの情報を取り入れて、そのデータを分析するという使い方をすることが一般的でした。対前年度比で商品カテゴリごとの販売推移などを見て、それをベースに販売戦略を立案したり、原因を分析して対策を行うといった使い方です。そういった、基幹系から出てきた情報を分析して、何らかの傾向やトレンドを把握するというアプローチは、ビジネス環境の変化がある一定幅に収まっている時には有効と言えます。

 しかし、最近はどうでしょうか。その変化の幅というのが、自分たちが過去に経験したレベルを超えてしまうケースが増えてきたわけです。更に、市場のグローバル化が進んだことで、世界経済の連動性がかつてないほどに高まっており、波及の度合いだけではなく、波及のスピードも相当に速くなっている。今まではあまり影響がなかったような、遠い海外で起こった出来事なども、自分たちの実際のビジネスに大きな影響を及ぼすようなことが起きているというわけです。ビッグデータが注目されている第1の理由がここにあります。

 要するに、現在のビジネスは非常に変化を見通しにくい状況にあるため、企業の経営層は、これまでの延長線上の戦略では成長が見込めないという閉塞感、そして、このままでは生き残れないのではないかという危機感を持っているのではないでしょうか。そして、そうした不確実な経営環境下においても、変化を迅速に察知したり、予測することで、うまくリスクを回避したり、新たな成長機会をしっかりととらえたいと考えています。だからこそ、それを可能にするかもしれないビッグデータに対する期待が高まりつつあるのです。

Question

日本の企業は業務効率化に重きを置いてIT投資を行うケースが多いという話がありましたが、ビッグデータ活用はそうした効率化を図る手段とは決して言えないかと思います。そうなると、興味を持ったり、導入検討を行う企業が今後増えたとしても、実施率は低く止まってしまう可能性もあるでしょうか?

Answer

たしかに、投資対効果が明確に見えないIT投資に関しては、「稟議を通すことが難しい」「じゃあ、あきらめよう」ということを、これまで繰り返してきた企業は少なくないでしょう。しかし、従来と少し違うのは、“日本自体”が「切羽詰っている」ということです。かつて日本のお家芸と言われた産業でさえも国際競争力を失いつつありますし、内需に関しても人口減少と高齢化の影響でシュリンクするであろうということは既に明確に見えてしまっています。そうした状況を打破するためには、これまでのやり方に固執している場合ではないでしょう。

 また、経営層だけではなく、情報システム部門のマネージャ、あるいはCIOといった方々の意識も変わってきています。これまでは、ITを使ってビジネス貢献するということを考えた時、やはり「効率化を図る」「無駄を省く」、そして、それによって「コストを削減」して、利幅を確保しようということが主体になりがちでした。しかし、現在のような市場状況では、もはやそのような取り組みだけでは限界に達しており、「ITで売り上げを伸ばす」にはどうすればいいのかということを真剣に考え始めているのではないでしょうか。


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ビッグデータ活用に向け、まず自社の“情報活用のステップ”を把握せよ。

Question

欧米の企業では、ビッグデータに対してどのような意識を持っているのでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:生熊 清司 氏

当然ながら、欧米のすべての企業がビッグデータ活用に注目しているわけではありません。ただ、活用が広まるための下地が日本よりも整っていることは確かでしょう。単に数値を重要視するという特質だけではなく、いわゆる経営ボードの体制に関しても、経営層と執行役が明確に分かれています。意識決定などのプロセス自体が日本とは違うわけですが、そういう意味では欧米の企業のほうがデータを活用した意思決定はしやすい環境にあるというのも事実です。

Question

日本の場合、ビッグデータ活用が本格的に広がるためには、まず意思決定プロセス、あるいはそれ以前のデータ活用への取り組み方を見直す必要があるということでしょうか?

Answer

そうです。結局のところ、ビッグデータは従来のデータ活用と別次元のものなどではなく、目的としてはまったく同じですから。つまり、データを活用することで、よりよい意思決定を支援し、ビジネスに貢献することにほかなりません。ただ、日本におけるBIツールの利用実態の調査結果を見てみると、レポーティング/帳票作成での利用が圧倒的多数を占めており、経営ダッシュボード構築や経営パフォーマンス管理に利用しているケースはきわめて少ないという実態が気になります。

図1 BIツールの利用実態
図1 BIツールの利用実態
出典:ITR(2011年9月実施、回答数500)

Question

レポーティングに利用するだけでは、情報の活用、そして、それによる経営への貢献という見地においては不十分ということでしょうか?

Answer

レポーティングはあくまでも過去に何が起こったかという分析です。もちろん、過去をきちんと把握することは重要ですし、それだけではなく、現在までの経緯を連続した変化のベクトルとして眺めることで、未来もある程度は予測できるはずです。しかし、冒頭で触れたとおり、現在では過去を見ても、それだけでは未来を予測しづらい状況になってしまっています。

 情報活用のステップは「レポーティング」から始まり、そこから「検索」「モニタリング」、そして、「分析予測」というステージへ上がっていくことになるかと思います。それにつれて、ビジネスへの貢献度も高まっていきます。ビッグデータはより多量・多種のデータを扱うことで、高い精度での分析予測を行うもので、「これから何が起こるかを予測」し、そして、「何をすべきかが分かる」ことを可能にする手段として期待されているのです。

 ただ、「何をすべきかが分かる」だけで終わっては意味がありません。そこから実際にアクションを起こす必要があります。こうした実行の部分はITではなく、ビジネスの範疇ですから、やはり意思決定プロセスの良し悪しも重要となるわけです。実行の結果、実際に利益が上がれば、そこで初めて、ビッグデータへの投資のROIも出てきます。

 ですから、ビッグデータ活用においては、それを実現する製品をただ導入すればいいわけではなく、情報活用ということを真剣に考えなければなりません。情報を資産として、つまり経営資源として正確にとらえた上で、「情報を活用してリターンを得る」までのシナリオを描く必要があります。最初は、自社はどの段階にいるのかということを把握し、上のステップへ上がるためには何が足りないのかをまず検討すべきです。それはソフトウェア、あるいはハードウェアかもしれないし、クラウドサービスかもしれない。そうではなく、データ活用を熟知した人材が必要という場合もあるでしょう。

図2 情報活用のためのステップ
図2 情報活用のためのステップ
出典:ITR 講演資料「ビッグデータ時代に備えるIT戦略」(2012年)

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データベース管理者だけではなく、「データ管理者」が必要になる。

Question

そのほかに、ビッグデータ活用に必要となる要素などはありますでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:生熊 清司 氏

データサイエンティストなどの専門家が必要になるとはよく言われていますが、そもそも日本にそういう人材がどれくらいいるのかという問題がありますし、必要だからといってそんなに急に育成できるわけでもありません。それ以前に、まずは「データ管理」という役割、あるいは部門を設けるべきではないかと思います。

 先ほど述べたように、情報/データが資産や経営資源だとしたら、経理部門がお金を管理するのと同様に、専門的に管理を行う部門が必要ではないかということです。データベースの稼働状況を監視したり、パフォーマンスの維持を図るといった運用管理に従事するデータベース管理者、あるいは、情報漏洩などのリスクを防ぐためのセキュリティ担当者はいたとしても、そうした方々はデータそのものを管理しているとは言えません。

 今後、ビッグデータへの取り組みが本格化すれば、その活用領域はマーケティングから営業、製品開発、カスタマサービス、ブランド管理など、あらゆる分野に及ぶことになります。それを誰が推進していくのかを考えると、現状のIT部門だけでは難しいでしょうし、いずれかの事業部門だけでも無理でしょう。ですから、取締役直轄のプロジェクトチームでも何でもいいのですが、それなりの権限を持って、全社を横断的に動き、データそのものを一元的に管理する組織を新たに設ける、またはIT部門の担当範囲を拡張することを考えていくべきではないかと思います。


●ありがとうございました。


取材協力

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ビジネスとITに関する問題解決を提供する独立系のIT調査・コンサルティング会社。企業のIT戦略に関するコンサルティングを提供するほか、IT関連のベンチマーク、ROIと効果の最適化、戦略的なデータ活用、ベンダ/製品の評価と選択、事業戦略とマーケティングの支援、ITの将来動向などの分野に関する調査・分析を行っている。設立は1994年で、本社は東京に置く。


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