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掲載日 2012/06/19

ザ・キーマンインタビュー 多制度対応でクラウドは実用段階へ

中堅・中小企業の海外進出というと、以前は工場移転などを目的とする場合が多かった。しかし、日本市場の縮小傾向を受け、最近では年商100億円未満規模の企業でも、海外でのビジネス展開を検討するケースが増えているという。そうした企業が直面する課題と解決策、そして、クラウドの有効性などについて、ノークリサーチのシニアアナリストである岩上由高氏にお話を伺った。

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岩上 由高氏


シニアアナリスト 岩上 由高氏

海外で商品やサービスを展開することを真剣に検討する企業が増加

Question

中堅・中小企業の海外進出はどのような状況にあると言えるのでしょうか?

Answer

株式会社ノークリサーチ:岩上 由高氏

企業の業種・規模によって海外進出の状況は異なっており、例えば、年商50億円クラスの製造業などでは、まだまだ“工場”としての海外進出が主流です。今回は年商100億円未満の中堅・中小企業を主に想定してお話させていただきますが、そのあたりの規模以上になってくると、海外での製造拠点の構築は既に検討・実施済みで、現在では海外に対して商品やサービスをどのように販売していくかという意識が大きいのではないかと思います。また、トラック輸送の需要が高いアジアなどへ進出する運輸業、あるいは海外に居住している日本人、あるいは日本の食材や食文化への興味が高まっている中国人などを狙って、小売業、そして卸売業の中堅・中小企業なども多くなっています。

 以前は「国内大手自動車メーカーの海外進出にともない、例えば自動車産業のピラミッドの土台を形成している中堅・中小の部品メーカーなどもついていく必要がある」といった動向も多く見受けられました。こうした追随型の進出においては自治体や大企業の支援により、早期に海外への工場展開を実現した例も多くあります。それに加え、いま海外進出を真剣に検討しているのは、各国/各メーカーから受注を受け、中国や韓国などの同業者と競合している部品メーカーなどです。長引く円高など厳しい状況の中で競争に生き残るためには、海外進出も視野に入れる必要が出てきていると言えます。

図1 中堅・中小企業における海外でのビジネス展開状況(2011年調査)
図1 中堅・中小企業における海外でのビジネス展開状況(2011年調査)
出典:2011年 中堅・中小企業の海外展開におけるIT活用の実態と展望レポート(ノークリサーチ、2012年1月)

Question

そうした目的で海外進出を行おうという企業では、どのような課題に直面することが多いのでしょう。また、それらはITの活用で解決できるのでしょうか?

Answer

前述の運輸業、小売業、卸売業も含め、少子高齢化などの要因で縮小が懸念される国内市場を補う目的や、海外の企業と互角に戦うための手段として海外に進出していこうと考えている中堅・中小企業に「海外展開を阻む障壁は何か?」を尋ねてみると、「頼れる人材や企業が身近にいない」という回答が40%超と最も多くなっています。

 これはIT活用以前の経営課題といえます。海外展開の目的は単に現地法人を設立することではなく、ビジネスで成功することです。実際、海外展開を実施または予定している中堅・中小企業に尋ねた結果では「人材の育成と確保」が課題として挙げられています。また、海外展開に際し、支援を受けるIT企業を選ぶ際の重視ポイントとしては「ビジネス展開先国内にサポート拠点を持っている」「ビジネス展開先国の法制度や商習慣に精通している」「ビジネス展開先国企業を顧客とした実績が豊富である」といったように、展開先国内でのビジネス支援を期待した項目が上位に挙がっています。IT企業としては商社などの異業種と組んだり、現地企業と提携するなどしてこれらのニーズに応えていく必要が出てきそうです。


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海外進出におけるIT構築の3ステップとは

Question

既に海外進出を進めている企業では、現地でのITシステム構築をどのように行っているのでしょうか?

Answer

株式会社ノークリサーチ:岩上 由高氏

IT構築のパターンは大きく3ステップに分けられるでしょう。これは日本におけるIT活用のステップと基本は同じです。まず最初のステップは出張所レベルで、現地調達で数台のPCを導入し、とりあえず、インターネット接続を確保するといった形態です。この段階に位置するケースも多く、図2のグラフでも「PC」や「インターネット回線」における「既に導入している」の割合が60%を越えているのが見てとれるかと思います。

 次のステップとして現地での生産活動などを行う段階に入ると、会計処理も発生します。その結果を日本国内と共有する必要も生じます。つまり、会計管理や生産管理などのソフトウェアパッケージの導入を検討することになるわけです。図2のグラフでは「既に導入している」の割合が50%前後となっている「会計管理」「グループウェア/メール」「日本国内事業所との接続回線」などが該当します。「生産管理」の導入済み割合は約3割と他と比べて高くありませんが、製造業に関してはこの段階で導入が発生してきます。

 ここで1つ大きな選択が生じます。会計管理パッケージなどで現地製を採用するのか、それとも日本で利用しているものをそのまま適用するのかということです。単に言語の違いだけではなく各国固有の会計制度がありますから、現地の製品を採用するというケースも少なくありません。新興国ではスクラッチ開発が中心というイメージがありますが、実際には中国ではパッケージ+カスタマイズの形態で、国内で広く受け入れられている現地ERP製品もあります。

 単に工場としてではなく、展開先国でビジネスを広げることを考えるのであれば、こうした現地製も1つの選択肢となってきます。一方で会計制度の違いがあまり大きく影響せず、将来的に現地での調達や販売までビジネスが広がったとしてもシステム側で対応すべきことが少ないという場合には、日本で利用しているものを適用する方がスムーズな場合もあります。トレンドに追従するだけでなく、自社の現状や今後を踏まえて判断すべき選択と言えます。

 ただし、生産管理システムに関しては、(少なくともこのステップに位置する企業では)日本の製造ノウハウを実践できる工場を海外にも構築するという観点から、日本製のものを採用するケースが比較的多く見られます。また、グループウェアなどの情報系基盤に関しては、会計制度や法制度の違いよりも日本側とのコミュニケーションがとれることが重要であるため、現地でも日本の本社と同じものを採用する割合が比較的高くなっています。

図2 海外拠点におけるITインフラの導入状況(2011年調査)
図2 海外拠点におけるITインフラの導入状況(2011年調査)
出典:2011年 中堅・中小企業の海外展開におけるIT活用の実態と展望レポート(ノークリサーチ、2012年1月)

その次、すなわち第3のステップが、冒頭で述べたように100億円未満の規模の企業が今後踏み出そうとしている「販売などの実ビジネス展開」を行う段階です。そこで必要になるのが販売管理や顧客管理といったシステムということになります。製造拠点を構築するだけの段階とは異なり、複数の地域や国にまたがって拠点を複数展開するケースも増えてきますから、グローバル展開や連結決算などにも対応可能なシステムの導入を検討するフェーズへ移っていきます。こうした取り組みを支えるIT基盤がERPということになりますが、中堅・中小企業が第3のステップに踏み出すためのERPという点ではまだ発展途上の段階であり、各国の各種制度への対応も含めた拡充/充実が望まれています。


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多制度対応が進めば「SaaSでシステム統合」も現実味を帯びる

Question

中堅・中小企業が海外進出にクラウドサービスを活用するというケースは実際に出てきているのでしょうか?

Answer

株式会社ノークリサーチ:岩上 由高氏

先ほどの2番目のステップで、会計パッケージなどに現地の製品を採用するというのは、確かに現実的な選択肢ではあるのですが、ビジネス規模が成長するに従い、全体から見れば“局所最適”の要素になってしまう可能性があります。拠点間のデータ連携に課題も生じてくるので、それを回避する手段として、SaaS型のERPなどを採用して、そこへまとめたいという需要も出てきているようです。

 現在は新興国においても、日本企業が拠点を構えるような地域であればインターネット接続も快適ですから、ネットワーク品質が障壁となったという声を聞くことはほとんどありません。あとはITサービス提供側のグローバル対応の問題ですが、既に多言語・多通貨への対応は進んでいるものの、多国の会計制度・法制度に沿った処理が可能な“多制度”対応はあまり重視されていないように感じます。ただ、実際にグローバルで活用する際には不可欠となる重要な機能になりますから、この“多制度”への対応が進めば、SaaSなどを用いてシステム統合を図るといったことも現実味を帯びるのではないかと思います。

 その際、国際会計基準としてIFRSが設定されているのだから、IFRSに対応していればグローバルで使えるのではないかという考えもあるかもしれません。しかし、実際のビジネスではそうもいきません。中国には中国の会計制度がありますし、そのほかの国も同様です。日本では日本基準とのコンバージェンスによるIFRS適用を行っていますが、それと同様に、中国でもシンガポールでも、まず現地の会計基準に沿った処理や手続きを行うことが必要になるわけです。

Question

総合的に見て、中堅・中小企業の海外進出にクラウドサービスの活用は有効だと言えるでしょうか?

Answer

「クラウドありき」にならないように気をつける必要があります。あくまでも、ケース・バイ・ケースです。例えば、経営的な意識決定の大部分が現地に委ねられているような場合には、4半期ごとに会計報告などを行えばよいだけで、データ連携の必要などもないわけですから、わざわざシステム統合を図ったり、そのためだけにクラウドを活用する必要もないでしょう。業種、業態、ビジネスの状況、市場の状況、それから自社の人材の分布といった要素をもとに最終的に決めるべきものであり、そもそもクラウドか否かという“手段”から検討してしまうと、ビジネスそのものがそれに引っ張られてしまいます。この順序は絶対に間違えてはいけないでしょうね。


●ありがとうございました。


取材協力

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特に中堅・中小企業における市場調査を得意とする、IT市場に特化したリサーチ、コンサルティング企業。年商、業種、従業員数、地域といった基本企業属性はもちろん、ハードウェア/ミドルウェア/ソフトウェア/サービスといった情報システムを構成するレイヤ、更に販社/ディストリビュータ/SIerといったチャネル構造まで、様々な角度からの調査・分析と各クライアント企業に最適化されたコンサルティングを通じて、中堅・中小企業におけるITビジネスを支援している。


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