IT復旧「最大のボトルネック」はここだ!

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掲載日 2012/04/03

ザ・キーマンインタビュー IT復旧「最大のボトルネック」はここだ!

BCP(事業継続計画)にはオフィスや社員、インフラなど、様々な対象における計画や対策が含まれる。そして、その中でも重要な要素の1つと言えるのが、ITシステムの迅速な復旧だ。BCPを意識しつつ、自社のITシステムを構築・運用していくために留意すべきこととは?アイ・ティ・アールのシニア・アナリストである甲元宏明氏にお話を伺った。

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甲元 宏明 氏

シニア・アナリスト
甲元 宏明 氏

先送りではないが、2012年度にじっくり取り組もうという企業が多い。

Question

震災前、震災直後などと比較して、ユーザのBCP(事業継続計画)対策についての意識はどのように変化しているでしょうか?

Answer

弊社では、IT投資動向の調査を毎年行っています。その中で、各企業が次年度に「最重要視するIT戦略上のテーマ」に置いているのはどこかも調べていますが、「事業継続計画や災害対策」に関しては、2011年度には14位だったのが、2012年度には9位に上昇しました。思ったほどの伸びではないと思われるかもしれませんが、上位には「売上増大への直接的な貢献」「業務コストの削減」「ITコストの削減」をはじめ、非常に普遍性の高い項目が並ぶ中での上昇ですから、弊社としては「急激に上がった」と受け止めています。ただ、残念なことに、時間の経過を経て危機感が薄れつつある傾向もありますから、今後の調査ではまた違った結果が出てくるかもしれません。

Question

そうした意識を受け、具体的なBCP対策の導入実施の進行の度合いはどのように変化したのでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:甲元 宏明 氏

もちろん、意思決定が迅速な企業では震災直後にアクションを起こしたケースもあるでしょう。ただ、一般的には、まずプランニングの段階を経て、2012年度から実行のフェーズに入るという企業がかなり多いようです。「震災後の企業における施策の実施状況」に関する調査も昨年11月に行っていますが、「事業継続計画、災害復旧計画の強化・見直し」に関しては、「2011年度下半期に実施予定」、そして「2012年度以降に実施予定」とする企業が目立っています(図1)。

 また「ディサスタリカバリの対象システムの拡大」「データセンタの設置場所などの見直し」「クラウドへの移行推進」なども同様の傾向で、「2012年度以降に実施予定」という企業が多くなっています。いろいろな企業の方に話を聞く機会も多いですが、重要性は意識しつつも、やはり大きなテーマにはなるので、先送りというよりは、むしろ、じっくり取り組もうという動きが伺えます。

図1 東日本大震災後の企業における施策の実施状況
図1 東日本大震災後の企業における施策の実施状況
出典:ITR「IT投資動向調査2012」

Question

手段としては、どのような製品・サービスが検討されているのでしょう?

Answer

そうして腰を据えて取り組む中で、新しい技術なども積極的に活用し、コスト効果の高い対策をとろうという企業も増えています。SaaS(Software as a Service)などのクラウドサービスもその1つです。しかも、注目すべきは、何万人単位というユーザ数を抱える大企業でも、あるいはセキュリティに厳格な金融系の企業においても、震災後にSaaS採用に踏み切ったという事例が出ていることです。これは、震災以前とは全く異なる流れと言えるかもしれません。

 これまでは様々な障壁を理由に導入を躊躇していたというかたちですが、そうも言っていられない。更に、周りが一斉に検討し始めたことが大きいと思います。例えばセキュリティにしても、プロが手がけているクラウドサービスであれば、明確な要件を示して、それに対してチェックを行えば、自分たちが期待しているよりも高いレベルの対策を行っていることが分かるでしょう。純粋に考えて、現在ではSaaSだから、クラウドだからセキュリティに不安があるはずはなく、その運営企業がどうかという観点で判断すべきだと思います。


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クラウドは、復旧時間短縮のためのコストバランスに優れた方法となりうる。

Question

震災後、BCP対策について、まったく新しい手段の登場、あるいは、これまではあまり注目されていなかった部分に目が向けられているといった状況などは見受けられるでしょうか?

Answer

特に目新しいものはないかと思いますが、やはり、前述のクラウド、そして、それを絡めたスマートデバイス活用は大きく動き始めたと思います。このあたりは、震災の影響に加えて、経営層や事業部門からの要求が相当大きくなっていることも手伝っているでしょう。

Question

クラウドを活用することで、BCP対策においてどのようなメリットがあるとお考えでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:甲元 宏明 氏

図2は、少し災害対策に寄ってはいますが、システムの復旧時間に対する一般的な考え方を示したものです。ITシステムの復旧に加えて、災害検知、状況確認、関係者への通知などの初動対応や、バックアップ実行時と災害発生時の間に入力された損失データの再入力などの必要が生じますが、システム的な障害対策手段は当然ながら事前に構築しておくべきでしょうし、人的・業務的な対応部分についても手順を十分に検討しておくといった対策をとっておくことになるでしょう。ただ、いずれにせよ問題になるのが、真ん中の赤い点線で囲んだ、「電力復旧」「ネットワーク復旧」「要員移動」「バックアップ・テープ輸送」といった部分です。この部分が現在、多くの企業においてシステム復旧の最大のボトルネックになっており、ここをいかに短くするかということが、全体の復旧時間の短縮に直結しています。

図2 復旧時間の考え方
図2 復旧時間の考え方
出典:ITR

Question

どのようにすれば、その部分を短縮できるのでしょうか?

Answer

こうしたRTO(Recovery Time Objective=目標復旧時間)の短縮は、BCPにおける重要な要素の1つとなっていますが、クラウドを活用することで劇的に短縮できる可能性があるというわけです。もちろん、コストをかければ正攻法でも短くすることはできますし、実際、メガバンクなどでは多大なコストをかけて、分単位、秒単位といった短時間での復旧を目指しています。ただ、一般的な企業ではそうもいきませんし、そこまでの短時間復旧を確保する必要もないでしょう。

 つまり、数時間から半日程度のRTOを要求する業務(中程度のミッションクリティカル)や企業(中堅・中小企業)は非常に多いのですが、これまでは実現するソリューションがあまり存在していなかった。無理のない範囲の投資でビジネス継続性を確保したい。半日以上も止まってしまうのは問題だが、1時間、あるいは数時間くらいなら対応できる。そうしたコストバランスを踏まえれば、やはりクラウドは優れた手段になりうると思います。


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クラウドによるBCPを実現するためには、サービスの見極めも必要。

Question

パブリック・クラウドをBCPに活用する場合、どのようなパターンが考えられるのでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:甲元 宏明 氏

例えば、SaaSであれば、通常は複数のデータセンタを利用した分散システムによって実現されているはずですから、アクセスするためのネットワークさえ確保できていれば無停止(RTO=0)で済むでしょう。ある意味、SaaSを利用することが、そのままBCPの一環になるというわけです。PaaS(Platform as a Service)も同様でしょう。

 サーバ環境を構築するためのインフラを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)の場合は、単一のデータセンタで稼働しているかぎりは完全に無停止で済むと言えませんが、仮想サーバのイメージ、そして、データを、別のデータセンタに常時バックアップしておくことで、RTOを最小限に抑えられます。実際、IaaSは一定の要件さえ満たしておけば、別の事業者のサービスへの乗り換えも可能ですよね。つまり、IaaS上のサーバ環境をそのまま別の“場所”へ移すことも難しくないわけですから、同様に、有事にも別のクラウドへ切り替えることで、数時間程度ですぐに使えるようになるでしょう。

 また、欧米などでは、バックアップのクラウドサービスである「Backup as a Service」、あるいは、まさしくDRそのもののクラウドサービスである「DR as a Service」なども出てきています。これも仮想サーバを活用したもので、例えば1時間に1〜2回という頻度でイメージをサブのクラウドへバックアップしつつ、メインがダウンした際にはサブ側でシステムを稼働させるという、一連の流れを請け負うわけです。そうすれば、ほぼダウンタイムやデータロスは生じることなく、しかも比較安価に利用できる。

 日本ではまだ一部の事業者のみが提供している段階で、その多くは導入企業がクラウド事業者と相談してカスタマイズサービスとして構築したものですが、今後は日本でも一般的に普及していくのではないかと考えています。

Question

クラウドサービスをBCPに利用するにあたって、知っておくべき注意点・デメリットなどはありますか?

Answer

クラウドブームとも言われる状況になっていますが、その中で「コスト削減」がうたわれるケースも目立っています。ただ、普通に考えれば、必ずしもそんなことはなく、既存のオンプレミス環境を維持するよりも高くつくことはありうるわけです。いずれにせよ、使う側の企業は「クラウドは万能ではない」ということを念頭に置き、向き不向きをきちんと見極めて使わないといけないでしょうね。

 SaaSにしても、クラウドとは名ばかりで分散化などの手立てが施されておらず、1つのデータセンタで動いている、言うなれば“単なるサーバ貸しに過ぎない”ものも中には存在します。前述のとおり、そうした形態では少なくともBCPには役立たないわけですから、サービスを選定する際に、コストだけではなく、データセンタの体制、セキュリティレベルなどについてもきちんと情報を得た上で、うまく利用することが必要です。


●ありがとうございました。

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取材協力

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ビジネスとITに関する問題解決を提供する独立系のIT調査・コンサルティング会社。企業のIT戦略に関するコンサルティングを提供するほか、IT関連のベンチマーク、ROIと効果の最適化、戦略的なデータ活用、ベンダ/製品の評価と選択、事業戦略とマーケティングの支援、ITの将来動向などの分野に関する調査・分析を行っている。設立は1994年で、本社は東京に置く。


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