災害対策でIT部門がなすべきこととは?

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掲載日 2012/03/21

ザ・キーマンインタビュー どこまでやればいいのか… 災害対策でIT部門がなすべきこととは?

企業データのバックアップは、日常的な業務における人為的ミスによる削除や上書き、システム障害による消失などに備える意味でも必須だ。ただ、昨年の震災以降、改めて災害への対策としてのバックアップが特に重要視されるようになっている。そうした状況の中で、企業の経営層、そしてIT部門がなすべきこととは?ガートナー ジャパンのITインフラストラクチャ&セキュリティ リサーチ ディレクターである鈴木 雅喜氏にお話を伺った。

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鈴木 雅喜氏


リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ リサーチ ディレクター
鈴木 雅喜氏

対策への意識は強まっているものの、同時に温度差も生じている。

Question

東日本震災の発生という昨年度の状況を受けつつ、新しい年度に入ろうとしていますが、2012年度のIT投資の計画策定においては、やはり多くの企業が災害への対策を反映しているという印象はありますでしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン株式会社:鈴木 雅喜氏

まず、情報システム部門でも企業によって相当な温度差があります。東日本大震災は、情報システム部門に「現実に被災するかもしれない」「自社のITが止まるかもしれない」との危機意識を強く植え付け、また最近では、首都直下型地震の4年以内の発生確率についての報道で、改めて「対策を進めねば」との意識が強まっています。

 しかし、その一方で、情報システム部門は災害対策だけではなく、ITによる業務効率化や企業競争力向上といった重要なテーマを抱え、更にスマートフォン/タブレット端末をどう企業に取り入れるか、ビッグデータにどう向き合うのかなど、トレンドにも対処せねばなりません。本当にやらなければいけないこと、考えなければいけないことが山のようにある。

 そうした状況の中で、事業継続計画(BCP)、あるいはディザスタリカバリ(DR)への取り組みも進めなければならないというプレッシャーにさらされているのが、現時点での日本の情報システム部門の典型的な姿だと思います。どこまで“ITに関する災害対策”に労力と費用をかけるのか、その解は経営層とIT部門の責任者に大きく委ねられていますが、現場には現状の姿を理解し、社内に向けて説明する責任があります。更に、効率的な技術や仕組みを見出すことができるかどうかが鍵となっています。

 1つ懸念される点があります。震災後にユーザ調査を何度か実施しましたが、当初は2〜3年のうちにBCP/DR関連の予算を増やしますと回答した方が全体の半数を超えていました。ところが、震災から3ヵ月後に行った調査では既にその割合がはっきりと減ってしまっている。2001年の米国での同時多発テロの際も同様だったと記憶しています。そうした事が起きた直後はBCP/DRへの気運が高まるものの、時間がたつにつれ、徐々に下がっていくということの繰り返しです。今回はそうであってはならない。多くの犠牲の上にある教訓は活かさねばなりません。アイデアを温めるのではなく、具体的な実行プランやマイルストーンを立てる必要があります。

 ITに関する災害対策といっても幅が広いですが、データをどう守るかという視点から申し上げますと、新しい機器が登場しテクノロジーも進化しているし、新しいサービスも生まれています。

Question

実際に行動に移せないというのは、コストの問題もありますよね?

Answer

 コストが大きなハードルとなる場合は少なくありません。特に高度なストレージ間のデータ複製を行う場合にはコストへの対処が避けて通れない場合があります。対処の方向性としては、直接は災害対策などと関係ないように見えますが、インフラの効率化を進めることです。仮想化プロジェクトやインフラの統合からコストを削減し、その費用を使って災害対策を拡充させたといった事例はいくつもあります。


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「完全はない」ことを念頭に置き、十分な“シナリオ”検討を行うべき。

Question

今回の震災は、災害の起こる地域や規模を想定することは困難であるということを再認識させられました。災害の影響を受けないことを考えるよりも、災害の影響を受けても事業継続が可能な手段が求められていると思いますが、そうした意識はIT投資の方向性にも影響を与えていると言えますでしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン株式会社:鈴木 雅喜氏

IT投資の方向性に影響を与えるという意味で言うと、最も大きかったのは、同じ電力会社の管内で閉じた災害対策では十分ではないとの議論かと思います。例えば、関東にデータセンタがあって、そのリモートバックアップ先はある程度離れた場所にあったとしても、両方とも東京電力の管内にあったとしたら、両方が使えないことにもなりかねないという話です。一部の企業では、震災後にデータセンタのロケーションを見直したり、あるいはデータ複製の方法も含めて見直しを行っている例が見られます。

 あとは、おっしゃるとおりで、BCP/DRに完全というのはありえないですね。バックアップにしても多くの場合データロスが出てくるという前提を持って、そのリスクを最低限に抑え、ロスした部分をどう対処するのかという別のシナリオ用意しておくといった方向もあります。また、データロスを最小にすることのみを考えるのではなく、コストとのバランスや、アプリケーションや業務の視点から検討を進める必要があります。実際に災害が起こって、データをリカバリしてみたらアプリケーションが全く動かなかった、とならないように設計とテストに労力を割く必要が出てきます。

Question

特に今回は、ちょっと狭い範囲なのかもしれないですが、ネットワークに関する影響は少なかったかなと思います。そういった意味で、何かバックアップに関する取り組み方、考え方を変えるような要素にはなりますかね?

Answer

たしかに、少なくとも東京周辺は大丈夫でしたね。ただ、それはたまたま。どんなシナリオになるか、蓋を開けてみないと分からないですから。ネットワークは大丈夫である。という前提ですべてを考えることは当然できません。基本は、事が起こるまでの間に様々なシナリオに対してどれだけ準備をしておけるかという点になります。

 データのリカバリはネットワークを使わない方法もとれます。その一方でパブリッククラウドを用いた災害対策やバックアップも注目を集めています。テープを使う方向も引き続き有効ですし、そのほかにディスクを活用したバックアップや、新しいデータ圧縮技術、ストレージ間のデータ複製が一般的な方法です。

Question

複数のバックアップ手段を活用すべきということでしょうか?

Answer

バックアップが乱立して、バラバラ、多すぎて困るというケースは、かつては少なくありませんでした。しかし、現在では統合が進む一方で、企業にある様々なデータへの要件がアプリケーションによって違うため、ほとんどの場合、バックアップする手段や運用は1つではなく複数になります。ひと言で言えば、リカバリへの要件とコストを考慮し、適材適所で多様なバックアップやストレージ技術を織りなし、最適化を進めるトレンドになっている、ということです。


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クラウド型バックアップの潜在需要は大きく、場合によっては“最適解”と言える。

Question

IT投資計画を策定する際に、ディザスタリカバリを目的としたバックアップを盛り込みたくても、全社的なコスト削減の必要性を受け、日常的に必要でないものにコストはかけられないという判断を行わざるをえなかったという企業も多いかと思います。そうした問題を回避するためにはどのような企業(経営者)の体制・意識が必要と言えますでしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン株式会社:鈴木 雅喜氏

やはり経営層がどこまで真剣に考えているかは重要で、そのためには、先ほども述べましたが、情報システム部門などが経営層にアピールできる言葉で、「ITでこういう重要な部分を処理しています。もし、これが止まったり、データが消失したら、こういう損害があります」というシナリオを明確に見せていくことです。ある意味で痛みもともなうと思いますが、それはやはり明らかにしないと前に進めません。

Question

そのあたりは、ベンダ頼りと言いますか、「こういう売り込みがあったので、これも必要ではないですか」みたいな受身的な提案みたいなかたちになっていたことが多いでしょうか?

Answer

そうせざるをえない状況もあったと思います。本当は自分で全部調べて社内提案したいという強い意志を持っていても、時間がとれないので、そうしてしまうことが多い。ただ、それも逆に1つのいいきっかけとすべきでしょうね。ベンダの力を得ながら、社内提案を行うというかたちで。

Question

バックアップ用途のクラウドサービスに関しては、どのような状況でしょう。いますぐにでも導入を検討すべき段階なのでしょうか?

Answer

現状では、日本国内に関しては、クラウドを利用したバックアップサービスは、まだあまり顕在化していないという段階です。ただ、米国では、SaaS、PaaS、IaaS、あるいはStorage as a Serviceと同じようなかたちで、Backup as a Service、DR as a Serviceなどというクラウド型バックアップを提供するサービスプロバイダも多数出てきています。

 このあたりは、需要という部分はもちろんありますが、米国の場合は新しく企業を興そうという風土があり、そうした新しい企業にとっては、バックアップも含めて、全体としてクラウドサービスを比較的導入しやすいと感じるのでしょう。新しいサービスを使って失敗する場合もある。ただ、そうした試行錯誤の中で、成功事例が生み出されて、それが広がっていくという風土もありますから。

 日本では、企業向けにおいてデータだけをクラウドにバックアップするビジネスモデル自体が確立する過程にありますが、この点を検討しようとする企業ユーザは多く、潜在的な需要はかなり高いと言えるでしょうし。

Question

クラウドを利用したバックアップサービス自体はいろんな手法が出てきているということですが、全体的にとらえた場合に、そうしたクラウド型バックアップ自体は企業のバックアップの最適解だと言えるでしょうか?

Answer

場合によっては最適解ということですね。例えば、中小規模の企業で持っているデータがそんなに大きくはないものの、一方でシステム管理者も十分ではない。しかし、災害対策にはきちんと取り組んでおきたいという場合には、適している場合が出てくるでしょう。あるいは、大企業の各拠点のデータバックアップにおいて、本社にしかシステム管理者がいないケースなどです。

 今回は、サーバのバックアップに関して話してきたのですが、企業のクライアントPCのバックアップにも同じような流れがあり、オンラインでバックアップを行うサービスが広がり始めています。既に米国では何万人の社員を抱える企業が、全員のクライアントPCのデータバックアップに利用するといったケースも出てきています。

Question

クラウド型バックアップを利用するメリットは、やはりコストなのでしょうか?

Answer

コストもあるかもしれませんが、必ずしもそうではないでしょう。それ以上に、遠隔地にバックアップを逃して災害対策ができる、あるいは管理が容易という点です。実際には管理作業がすべてなくなるわけではありませんが、容量拡張などシステム側の管理や運用の手間がかからなくなります。このあたりのメリットが、実績としてはっきり見えてくれば、クラウド型バックアップの市場も広がっていくでしょう。


●ありがとうございました。


取材協力

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世界に85の拠点を持ち、約1280人のリサーチ・アナリスト及びコンサルタントを含む5000人以上のアソシエイツで構成されるITアドバイザリ企業。ITプロフェッショナル向けのリサーチ・アドバイザリ・サービス、世界規模で開催されるイベント、CIOや情報担当者に特化したエグゼクティブ プログラム、そして、各顧客向けにカスタマイズされた高度なコンサルティングなどを提供している。


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