クラウド視点で考えるバックアップの現実解

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掲載日 2012/03/06

ザ・キーマンインタビュー キーワードは「D2D2C」 クラウド視点で考えるバックアップの現実解

クラウドバックアップサービスが欧米で普及し始めた。かつては中小企業向けの選択肢として考えられていたが、今では一部の大企業も利用し始めているという。では日本ではどうか。

データストレージ市場の発展やユーザ/会員への啓蒙などを目的として様々な活動を展開しているジャパンデータストレージフォーラムのデータ・マネジメント・ソリューション部会メンバーに現在の動向と将来の展望をお伺いした。

ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF) 企業サイトへ

本柳 克敏氏(左)、菅 博氏(中央左)、池田 祥孝氏(中央右)、佐野 泰之氏(右)

副理事長/データ・マネジメント・ソリューション部会 部会長 池田 祥孝氏 (中央右)
理事/エデュケーション部門 部門長 佐野 泰之氏 (右)
会員 菅 博氏 (中央左)
会員 本柳 克敏氏 (左)

立ちはだかる様々な課題

Question

ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)では、Storage Magazine誌の翻訳記事をメールマガジンで配信したり、Webサイトに公開したりするなどして、クラウドバックアップサービス(以下、クラウドバックアップ)の可能性や将来性を提示しています。日本におけるクラウドバックアップの現在の動向をお聞かせ下さい。

Answer

JDSF:池田 祥孝氏

【池田】JDSFのデータ・マネジメント・ソリューション部会は、データ保護やバックアップなどをテーマに部会を開いて国内の現状や課題を議論しています。クラウドバックアップについても議論していますが、Storage Magazine誌で紹介されているような先進的な事例は、日本ではまだ少ないのが現状です。課題もいろいろあります。

【菅】クラウドバックアップは「クラウド」と「バックアップ」の2つのキーワードで成り立っています。現在のところクラウドの利用が進んでいるのは、メールやグループウェアといったコアではない業務用途からです。非コア業務は直接利益を生み出しているわけではないので、自前でシステムを購入し、手間暇をかけて自分達で管理・運用するよりもサービスとして手軽に利用したいというニーズがあってクラウド利用が進んでいるわけですが、この観点から見ると、バックアップはクラウドととても相性が良いのです。だから多くの企業がクラウドバックアップ市場に乗り出したわけですが、多数の企業が参入してきたことでいくつかの課題も見えてきました。

Question

その課題とはどのようなものなのでしょうか?

Answer

JDSF:菅 博氏

【菅】1つは、サービス価格をどこまで安くして提供できるかという提供側の課題です。クラウドサービスはシステムを集約化し効率化することで価格競争力を上げていきますが、バックアップサービスの場合はバックアップ容量が10TB必要だと言われれば10TB分の物理的なディスク容量を用意する必要があるので効率化できる要素が少なく、価格を安くしていきづらいのです。これがまずネックになっていると感じます。

【本柳】阪神・淡路大震災があり、新潟県中越沖地震があり、そして先の東日本大震災がありということで、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の観点から遠隔地にバックアップを置きたいと考える層がだいぶ広がってきて、遠隔地バックアップを検討する中小企業のお客様も増えてきたように感じます。そういったお客様がサービスとしてのバックアップを求めておられるように感じますが、いざ価格の話になると「けっこうかかるんだ」と見合わせてしまわれるケースが多く、それがなかなか浸透していかない理由の1つになっているようです。

Question

バックアップソフトをクラウドサービスとして提供している事例はいかがでしょうか?

Answer

【池田】Storage Magazine誌には、バックアップソフトが進化してクラウド対応プロトコルをサポートするようになった、あるいはゲートウェイを介してやりとりできるようになったという米国の事例が紹介されていますが、日本ではソフトウェアのライセンス体系がクラウドでの利用に合っておらず、導入しにくいという側面もあるのです。

【菅】既存のバックアップソフトはオンサイトで使うことを前提に開発されているため、ユーザにとってもサービスの提供者側にとってもクラウドでは使いやすいとは言えません。クラウドバックアップが本格的に普及するためには、クラウドでの利用を意識したバックアップソフトが提供されることが必要だと感じます。


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クラウドバックアップはBCPに有効か?

Question

クラウドバックアップは、情報システムの担当者やITに詳しい人材をなかなか配置できない支社・支店といったリモートオフィスでのバックアップや、これまであまり実施されてこなかったクライアントPCのバックアップに適していると言われています。これについてはいかがでしょうか?

Answer

JDSF:佐野 泰之氏

【菅】支社・支店にあるデータを自動的に本社側に転送してバックアップするタイプのバックアップソフトの売上げは伸びています。ではクラウドバックアップはどうかというと、ソフトウェアのライセンス体系がクラウド向けになっていないことが課題となっています。

【佐野】東日本大震災を機に、BCPの観点からクライアントPCのバックアップにも関心が集まるようになりました。BCP対策のためのデータ保全を提案しに行ったある会社のケースがその好例です。その会社はサーバのバックアップをちゃんと行っていて、BCP対策のために遠隔地保管も行っていました。このためサーバのデータには何も支障がなかったのですが、日々の業務で使われている大切なデータは実はクライアントPCの中にあり、それが失われてしまいました。ちゃんとバックアップは行っていたのだけれど、それだけでは不十分だったわけです。

では、どうやってクライアントPCのデータを守るか。その1つの解決策はシンクライアントなのですが、コストや使い勝手、回線速度などを考えるとなかなか踏み出せない。BCP対策となると、バックアップだけでは話が進まなくなるのです。

【本柳】BCPの観点から言うと、バックアップは2極化していると思います。1つは単純なバックアップ、もう1つは早期復旧性が求められるバックアップです。現時点でのクラウドバックアップは前者がメインですが、後者を提供できないかを検討したり、実際に開始したりしている事業者も出てきているようです。

Question

早期復旧性を備えたクラウドバックアップのニーズはいかがでしょうか?

Answer

JDSF:本柳 克敏氏

【本柳】強くなってきています。とはいえ、例えば数十TBのデータをWAN越しにリストアすると何日もかかってしまいますので、HDDのまま、あるいはRAIDのまま顧客の元へ配送してリストアするといった仕組みを各事業者が苦慮・工夫しながら提供しているといった状況です。

【池田】コストや実際の運用面などから、クラウドバックアップはBCP対策に有効で便利であるとはっきり言える状況にはまだなっていないと思います。しかし、東日本大震災を教訓とした自治体主催のBCP関連セミナーでは、クラウドに対する期待がいくつかの自治体から出されていました。それだけ関心を持って見守られているということは間違いないでしょう。


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バックアップの最適解と現実解

Question

クラウドバックアップのニーズや期待は確実にあるけれども、様々な課題があるためまだ普及するに至っていないということかと思いますが、何が本格普及のきっかけになるとお考えでしょうか?

Answer

JDSF:菅 博氏、本柳 克敏氏

【本柳】バックアップはディスクtoディスクtoテープ(D2D2T)で行われるようになってきています。D2D2Tでは1次バックアップ用のディスクはローカルに置き、2次バックアップ用のテープは社内の金庫や遠隔地の倉庫などに保管します。テープからのリストアには時間がかかります。保管スペースも必要です。このテープによる2次バックアップをクラウドに置き換えてD2D2Cにして、保管スペースをまず減らそうという提案はあると思います。

【菅】再利用する可能性があるものは手元に置いておくというのは人間の生活の鉄則です。その意味で、1次バックアップは必ずローカルに置いておく。クラウドバックアップはその次の2次バックアップの手段として利用するのがいいのではないでしょうか。

【池田】バックアップとアーカイブは異なります。改めて言う必要はないかもしれませんが、データ・マネジメント・ソリューション部会ではバックアップは障害復旧用、アーカイブは必要になった場合の参照用にデータを保管しておくことと定義しています。バックアップは必要な時にすぐ要るデータなので、戻すのに時間がかかってしまっていては致命的なわけです。そういう意味でクラウドと相性がいいのはアーカイブで、その次がRPO(Recovery Point Objective:復旧時点目標)やRTO(Recovery Time Objective:復旧時間目標)の条件が比較的緩いバックアップになるのではないでしょうか。

図 クラウドバックアップの利用形態
図 クラウドバックアップの利用形態
出典:ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)

Question

そうすると、D2Dまではローカルに置いておき、そこから先にクラウドをどう活用していくか、ということでしょうか?

Answer

【佐野】バックアップを考える上でまず押さえておかなくてはならないのはサービスレベル、リストアに要する時間やリストアの単位、誰が操作するのか、操作は簡単なのか、などです。リストアに時間がかかってもいいのならクラウドでもいいでしょうし、すぐに要るならローカルの方がいいでしょう。リストアの単位が1ファイルで短時間で終わるのならクラウドでもいいでしょうが、丸ごとで時間がかかってしまうのであればバックアップの主旨に反するのでクラウドには置けないかもしれません。求めるサービスレベルをまず明確にし、その上でローカルかクラウドかを考えた方がすっきりするし、ユーザの満足度も上がると思います。

Question

サービスレベルの観点から見て、ローカルとクラウドのどういう組み合わせや使い方がバックアップの理想的な形、最適解なのでしょうか?

Answer

JDSF:池田 祥孝氏、佐野 泰之氏

【菅】最適解ということで言うと、何のためのデータか、どんなふうに使われているかでクラシフィケーション(区分け)し、必要性や即時復旧性などに応じてローカルとクラウドを使い分けるようになっていくのではないでしょうか。とは言うものの、クラシフィケーションの仕組みはできていますが、あまり浸透していません。これと組み合わせて普及させていけば、クラウドバックアップとオンサイトバックアップがバランスよく進んでいくのではないでしょうか。

【佐野】個人的な意見ですが、クラシフィケーションソフトの多くは米国製で、分類用のテンプレートが日本のポリシーに合っていないような気がします。クラシフィケーションはそれぞれの国の制度や文化が反映するものなので、ITだけでは解決できない問題をはらんでいるような気がします。

【池田】データバックアップの理想的な解はクラシフィケーションで適切なデータを適切な場所に配置することでしょうが、すぐにはそれを求めることはできない。だから前に進めない、と言うのではなく、現実的な解の中で、ユーザにとってもベンダにとってもより良いものを求めていった方がいいでしょう。

【本柳】市場調査会社のデータを見ても、バックアップ用途に使われているディスク容量はどんどん増えています。HDDの価格はどんどん下がっていますし、すぐに必要になるかもしれないデータかどうかはシステム管理者では判断がつかないこともありますので、1次バックアップはローカルのHDDに全部をコピーしてしまうのが安いし分かりやすい。その上で、2次バックアップ用としてクラウドを活用するD2D2Cが現実的には当分続いていくのではないでしょうか。

Question

本格普及のきっかけとなるものは、何かほかにありますでしょうか?

Answer

【池田】クラウドでの使用を前提としたバックアップソフトが出てくることです。

【菅】ベンチャーに期待したいですね。

【本柳】バックアップだけでなく、クラウド自体がもっと普及して処理がクラウド側に移行することで、バックアップのことを考えなくてもいい状況になることも期待しています。

【佐野】そのために、メールやグループウェア、CRMなどのようにクラウドに切り替えやすいところから徐々に進めていくのも1つの手かと思います。事業継続性もその過程で1つずつクリアされていきますので。


●ありがとうございました。


取材協力

ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF) 企業サイトへ

ジャパンデータストレージフォーラム(JDSF)は、データストレージ市場の発展、データストレージの普及、並びにデータストレージユーザ及び会員の啓蒙を目的として1997年に設立された、国内最大級のストレージ関連団体。ストレージ技術分野別に部会やワーキングループを設置して、新たな技術、製品、ソリューションの情報発信や技術者の育成などに取り組んでいる。


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