PCの運用管理からクラウド利用が進むワケ

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掲載日 2012/02/21

ザ・キーマンインタビュー PCの運用管理からクラウド利用が進むワケ

情報システムの運用管理に十分な費用と労力をかけることができない中堅・中小企業にとって、イニシャルコストを削減でき、作業を外部に委託できるクラウドの利用は有効な選択肢の1つだろう。「2011年中堅・中小企業における『運用管理・資産管理』の利用実態とユーザ評価」調査報告書を執筆したノークリサーチの岩上由高氏に調査・分析結果と将来予測をお伺いした。

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岩上由高氏


株式会社ノークリサーチ
シニアアナリスト 岩上由高氏

運用管理・資産管理系はクラウドに1番マッチする

Question

2011年11月に発表した「2011年中堅・中小企業における『運用管理・資産管理』の利用実態とユーザ評価」調査報告で、「ASP/SaaS形態はPCを対象とした運用管理・資産管理において管理サーバを自ら設置せずに導入できるなど、中堅・中小企業にとってもメリットの大きい運用形態といえる。全体に占める割合はまだわずかだが、今後はASP/SaaS形態が徐々に増加していく可能性が十分ある」と分析されています。調査・分析結果についてお聞かせ下さい。

Answer

ノークリサーチ:岩上由高氏

同調査の前提についてまず説明します。同調査では、運用管理・資産管理を「ITリソースの棚卸しや安定稼働の確保を担うアプリケーション」と定義しています。運用管理・資産管理は非常に広範囲に渡るカテゴリです。同分野にフォーカスした調査を行う場合には「サーバ管理」「ジョブ管理」「サービスデスク」などに細分化し、それぞれを厳密に定義する必要があります。

 ですが、同調査では調査対象のユーザ企業に対して厳密な機能区分による定義をあえて明示していません。これはユーザ企業が「運用管理・資産管理」というキーワードを上記の定義で与えられた場合、どれを想起するのか? という観点も調査の目的に含まれているためです。このため調査結果はサーバ監視からセキュリティ対策までを含んだ広い意味での運用管理・資産管理であることをご承知下さい。

 次に運用管理・資産管理にかぎらず、クラウド全般の現状についてお話ししたいと思います。中堅・中小企業におけるクラウドは、テレビ番組での紹介などが追い風になって認知を拡大していきました。その際に「これまでハードウェアやソフトウェアを購入できなかった企業でも手軽に安く利用できるようになる」という点が強調されました。そして「クラウドはコスト削減に役立つ」と解釈されるようになりました。「よく分からないけれど、クラウドというものを使うとITの運用管理コストを大きく減らすことができる」と認知されたわけです。中堅・中小企業でも販売管理や生産管理といった基幹系システムは意外とカスタマイズされていて、バージョンアップするたびにカスタマイズし直さなくてはならないなど苦労しているケースが多くあります。クラウドがその解決策になるのでは? という期待が高まったのです。

 しかしながら、この時点で中堅・中小企業の多くが認知していた「クラウド」はアプリケーションをサービス形態で用いる「SaaS」でした。SaaSはアプリケーションのカスタマイズや個別連携を行わないことを前提にしているので、カスタマイズが必要な基幹系システムをクラウドに移行させるのは難しくなります。一方、グループウェアなどの情報系システムをクラウドへ移行させるのは比較的容易です。ですが、日頃の運用/管理負担もそれほど高くないため、クラウドを利用するよりも自社でサーバを保有した方が安上がりになることが多々あります。また、情報系システムでは使い慣れたアプリケーションが変わることへの抵抗感も強くあります。

 結果的に、基幹系にしても情報系にしても、期待したようなコスト削減効果を得るのは容易ではないということを中堅・中小企業も学ぶようになりました。これが2010年から2011年にかけての中堅・中小企業におけるクラウドの活用状況を尋ねた調査結果において、「情報収集中」の割合が減少し「自社には関係ない」という回答の割合が上昇した最大の要因です。

 ただし、運用管理・資産管理では少し状況が異なります。PCのマルウェア対策や情報漏洩防止策など運用管理・資産管理は、中堅・中小企業にとって不可避でありながらも手間のかかるIT活用分野です。つまり、情報系と比べて運用/管理の負担は大きいということになります。また、基幹系のように個別にカスタマイズされることはほとんどありませんし、メールなどと違って個々の社員が使い勝手を気にすることも少ないため、既存のソフトウェアパッケージに固執する必要もありません。つまり、運用/管理の負担を外部に肩代わりして欲しいというニーズが高く、かつ、新たな別サービスへの切り替えが比較的容易であるという点で、運用管理・資産管理はクラウドと相性が良いカテゴリと言えます。

 これに呼応するように、セキュリティ管理ソフトウェアや運用管理・資産管理ソフトウェアでもクラウド形態での提供が盛んになってきています。これが運用管理・資産管理のクラウドサービス化が少しずつ進みつつある背景です。

図1 「運用管理・資産管理」製品/サービス活用における運用形態
図1 「運用管理・資産管理」製品/サービス活用における運用形態
出典:2011年中堅・中小企業における「運用管理・資産管理」の利用実態とユーザ評価(2011年11月)

Question

運用管理・資産管理系を含めて中堅・中小企業における情報処理システムのクラウド化は今後どのように進んでいくのでしょうか?

Answer

冒頭に述べたコスト削減効果以外のクラウド活用を見出す必要がありますから、基幹系や情報系がクラウドに移行するのにはまだ時間がかかると思います。とはいえ、その芽は出始めています。起業したばかりの企業や、企業が事務所を新設した時、新規業態に踏み出す時には既存システムの束縛がありませんから、ITインフラ投資を最小限に抑え、迅速にシステムを立ち上げられるクラウドが有効です。また、期間限定の大規模キャンペーンや、ホテルの予約・宿泊料金計算やオンラインゲームなど大きな負荷が一時に集中するような処理では、柔軟、迅速にシステムを拡張/収縮できるといったクラウドの特徴が活きてきます。今後はこういった個々の業務や業種/業態に即した個別ソリューションごとにクラウドが活用されていくようになるでしょう。

 では、これが進展していくと運用管理・資産管理はどうなるのか? どこまでが自社の責任で、どこまでをクラウド業者に任せられるのか? その答えは活用するクラウドの形態によって異なってきます。

 基幹系などカスタマイズが必要なシステムをIaaS上に構築/運用する場合、IaaSを提供するクラウド業者の責任範囲は物理的な施設、ハードウェア、ネットワークといったレベルまでになります。その上のOSやアプリケーションの運用管理や資産管理はユーザ企業もしくはそれを支援する販社/SIerが自由に構成を決められますが、運用管理・資産管理の責任もともないます。逆にSaaSの場合はOSやアプリケーションの運用管理・資産管理もクラウド業者に任せられますが、IaaSのようにアプリケーションを自由にカスタマイズすることはできません。つまり、自由度と運用管理・資産管理の責任範囲はトレードオフの関係にあるわけです。自社のIT管理体制と求められる自由度を加味し、場合によってはシステムの種別ごとに適材適所で選択していく必要があります。

Question

これまでパッケージソフトなどを使ってユーザ自身で行ってきた運用管理・資産管理がクラウド側で行われるようになるのでしょうか?

Answer

そうなる部分もありますし、ならない部分もあります。理論的には業務システムのすべてをクラウドに任せてしまうことは不可能ではありません。実際、新興企業の中にはすべての業務システムをクラウド上に構築している例もあります。

 ですが、中堅・中小企業の社内に置かれた既存システムがすべてクラウドへ移行するのが本当に理想像なのか? という点は、今後の変遷を見守る必要があると考えます。この答えは企業の規模によっても大きく変わってくるでしょう。もし仮にすべての業務システムがクラウド上へ移行し、運用管理・資産管理もクラウド上で行われるようになったとしても、それは今から10年ぐらいの期間を要するでしょう。少なくとも2年、3年といったスパンではないと思います。先に述べたように、単なるコスト削減以外の「クラウドへ移行するメリットや必然性」を、ITを利用する側と提供する側の双方が見出していくまでに相応の時間を要するからです。

Question

調査報告で「PCを対象とした運用管理・資産管理において(中略)ASP/SaaS形態が徐々に増加していく可能性が十分ある」と分析されています。それはなぜでしょうか?

Answer

中堅・中小企業にとっても情報漏洩は大きなリスクです。中小企業の場合は、情報漏洩事故を起こすと会社がつぶれてしまいかねません。中堅・中小企業でもPCを社外に持ち出して使用しているケースは多々ありますし、PCはIT知識が乏しい一般社員も利用します。そういった観点では、IT担当者によって管理されているサーバよりも一般社員が多く利用するPCの方が情報漏洩の危険は高いとも言えます。

 中堅・中小企業もそうした現状を理解しており、PCをまずしっかり管理しておきたいというニーズがあります。それを負担なく実践する手段として、PC管理にクラウドの運用管理・資産管理サービスを利用しようとする動きが少しずつですが出始めているのです。

 また、昨今ではスマートフォンに代表されるモバイル端末の利用も徐々に増えてきています。個人が所有する端末を業務で利用してもよいのか?など様々な課題がありますが、仕事でやりとりするメールを携帯電話に転送して出先で確認するといった使われ方は従来型の携帯電話の時代から行われていました。以下のグラフが示すように、徐々にではありますが、モバイル端末もPCと同様に運用管理・資産管理の対象に加わっていくことになるでしょう。

図2 「運用管理・資産管理」製品/サービス活用における端末環境
図2 「運用管理・資産管理」製品/サービス活用における端末環境
出典:2011年中堅・中小企業における「運用管理・資産管理」の利用実態とユーザ評価(2011年11月)

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ハイブリッドクラウドはピンポイントの連携から

Question

運用管理・資産管理を「ITリソースの棚卸しや安定稼働の確保を担うアプリケーション」と広く定義されていますが、サーバ稼働監視などについてはどうでしょうか?

Answer

ノークリサーチ:岩上由高氏

サーバ稼働監視のニーズは業種や企業規模によって異なってきます。サーバ稼働監視と密接に関わってくるのが「ジョブ管理」です。ジョブ管理を必要とするかどうかによって、サーバ稼働監視のニーズも変わってきます。ジョブ管理が必要になってくるのは、自社の本業に直結したジョブを情報処理システムの上で走らせる必要があり、かつ、複数のジョブを円滑に実行するというニーズを持った企業です。企業規模で言うと、従業員だと300人以上、年商だと100億円以上の企業になります。

 サーバに求められる監視レベルはシステム種別によっても変わります。例えばグループウェアなどはビジネス面でのトランザクションを扱うものではありませんから、万一システムダウンしても再起動すれば復旧できることが多く、取引先など社外へ与える影響もさほど大きくありません。その結果、サーバ稼働監視に多大なコストをかけることは比較的少ないシステム種別となります。一方、基幹系システムはシステムダウンすると業務に大きな支障が出るため、高度な稼働監視ツールの導入やクラスタリングによる冗長化といった対策が施されたりもしています。

 さきほど年商100億円を1つの境界線として挙げましたが、この年商は専任の情報システム部門の設置率が50%を超える企業規模です。ジョブ管理をともなう比較的高度なサーバ稼働監視を行うには、ある程度の情報システム関連人員が必要であるということの表れと見ることもできます。

Question

クラウドの運用管理・資産管理サービスが企業内PCを管理するようになっていくとのことですが、企業内サーバも管理するようになることはあるのでしょうか?

Answer

クラウド側から企業内サーバを管理できるようにするためには、クラウド事業者と企業内サーバをネットワークで接続する必要があります。このため完全に社内利用に限定されたシステムの場合は、セキュリティ面で不安が生じる可能性もあります。

 ニーズがあるのは運用管理・資産管理よりもむしろセキュリティです。サーバ上の業務システムはSQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどといった攻撃にさらされています。これらは外部からの攻撃と思いがちですが、掲示板などを通じてマルウェアに感染した社内PCが社内のサーバを攻撃することもあります。これを防ぐのがWAF(Web Application Firewall)です。ソフトウェアやアプライアンスの社内導入でも対策はできますが、SaaSのWAFサービスを間に挟むことで、システム変更を最小限に抑えたセキュリティ対策が可能になります。このようにサーバ管理については、運用管理・資産管理よりもセキュリティ対策においてクラウド活用が先に進むと予想しています。

Question

クラウドに預けたシステムとオンプレミスのシステムを統合的に運用管理する必要性や活用方法はあるのでしょうか?

Answer

社内システムのデータを一旦クラウドに預けて処理を行い、その結果を社内システムに戻すといった連携をSOA(Service-Oriented Architecture)の発展型としてのインターネット上のサービスバスとも言える仕組みの上で実現するといったことも今後は想定されます。

 社内システムとクラウドが連携する場面で近い将来有望なものとしてはBIが挙げられます。大企業では既にビッグデータの活用が話題になっていますが、中堅・中小企業でも取り扱わなくてはならないデータはどんどん増大しています。普段はそれらを自社内にためておき、分析が必要になるとクラウドに送って一気に処理し、結果だけをまた自社に戻すといった活用方法です。消費者の嗜好が多様化し、経済状況の変化も激しいこの時代には、今後重要性を増していくでしょう。これらの処理を確実に実行しようとすると、前述のジョブ管理をインターネット越しに行う必要性が出てくるかもしれません。

 前述の「インターネット上のサービスバス」といった形態は、複数の社内システムと複数のクラウド上のシステムが連携する高度なものになります。クラウドも含めた統合的な運用管理のスタートポイントとしては、社内システムで行っていたプロセス稼働監視の対象をクラウド上のシステムに広げるというアプローチが現実的です。まずは、社内及びクラウド上の特定のシステム同士を連携する限定的なハイブリッドクラウドとも言える状態に対して、エラーが社内側とクラウド側のどちらで起きたのかを特定するといったところから取り組みが始まっていくと考えています。


●ありがとうございました。


取材協力

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特に中堅・中小企業における市場調査を得意とする、IT市場に特化したリサーチ、コンサルティング企業。年商、業種、従業員数、地域といった基本企業属性は もちろん、ハードウェア/ミドルウェア/ソフトウェア/サービスといった情報システムを構成するレイヤ、更に販社/ディストリビュータ/SIerといったチャネル構造まで、様々な角度からの調査・分析と各クライアント企業に最適化されたコンサルティングを通じて、中堅・中小企業におけるITビジネスを支援している。


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