プライベートクラウドも“持たない”方向へ

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掲載日 2011/10/25

ザ・キーマンインタビュー プライベートクラウドも“より持たない”方向へ

企業ITシステムは、一部の大企業はプライベートクラウドに、一部の中小企業はパブリッククラウドに、それ以外の多くの企業はパブリッククラウドとプライベートクラウドのハイブリッド利用に全面移行するとの予測に基づき、将来の企業IT基盤のあるべき姿を提言したホワイトペーパー「サステナブル・エンタープライズITアーキテクチャ〜クラウドにも適用可能な俊敏性・柔軟性に富んだアーキテクチャ〜」が発行されてから約1年が経過した。震災や歴史的な円高といったその後の状況変化は、企業の意識や取り組みにどんな変化をもたらしたのだろうか。同ホワイトペーパーの執筆者であるアイ・ティ・アールの甲元宏明氏に語っていただいた。

株式会社アイ・ティ・アール 企業サイトへ

甲元宏明氏


アイ・ティ・アール シニア・アナリスト
甲元宏明氏氏

震災でパブリッククラウドに対する認識が変わった

Question

ホワイトペーパーの執筆時と現在とでは、クラウドに対する企業の意識や取り組みは変わってきていますでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:甲元宏明氏

執筆時に予測していた大枠の方向性やスピード感はそれほど変わっていないと思いますが、震災以降、企業のITシステムに対する意識がより持たない方向へ、パブリッククラウドに対するポジティブな姿勢へと変わってきているように感じます。震災を機に特に高まったのはBCPに対する意識で、その解決策の1つとしてパブリッククラウドを利用する傾向が増えてきています。

 アイ・ティ・アールでは、クラウド技術を用いたオンプレミスなITシステムをプライベートクラウド、仮想プライベートクラウドを含め、事業者がサービスとして提供しているものをパブリッククラウドと分類しています。震災以前は、コア業務のシステムはプライベートクラウドに置き、ミッションクリティカルでない非コアなシステムはパブリッククラウドに置くといったように、コア/非コアで移行対象を分ける考え方の企業が多かったのですが、震災を機にそれが変わってきました。BCPを考えたら社外にシステムを置いた方がいいし、BCPを考えなくてはならないシステムはビジネスに影響するコア業務だからです。

  クラウドに対する企業の理解も深まってきました。例えばビジネスのグローバル化を考えた場合、プライベートクラウドよりもパブリッククラウドの方が素早く展開できます。新事業をトライアルで立ち上げる場合でも、パブリッククラウドならスモールスタートでリスクを減らせます。このように、パブリッククラウドに対する企業の姿勢がポジティブな方向へと変わってきたと感じています。

Question

ホワイトペーパーでは、パブリッククラウドに全面移行するのは一部の中小企業にとどまると予測しておられましたが、パブリッククラウドに対する認識や評価が上がってきたということでしょうか?

Answer

従来は、パブリッククラウドに対する大企業や中堅企業の認識はあまりポジティブなものではありませんでした。アウトソーシングの延長としてとらえていて、「自分たちでやらなくてもよさそうなもの、システム的に軽いもの、ビジネスにあまり影響しないものをどんどん外出ししよう。それがパブリッククラウドでしょ」といった感覚でした。その逆に、ユーザ数の多いシステムやミッションクリティカルなシステムは自前のプライベートクラウドでやろうと考えていましたが、止まってはならないシステムが震災で止まってしまったわけです。このような経験からパブリッククラウドの価値を再認識し、うまく使っていこうと考える企業が増えています。


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のびしろが一番大きいのは仮想プライベートクラウド

Question

プライベートクラウドに対するニーズは下がってきているのでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:甲元宏明氏

パブリッククラウドとの比較では相対的に下がってきているかもしれませんが、ニーズ自体が減っているわけではありません。

 日本の企業、とくに大企業の多くは仮想化によるサーバ統合をすでに実施しています。でもそれでシステムの運用管理がラクになったかというと、決してそうではない。仮想化でハードウェアを統合したとはいえ、その上で動かしているシステムの中身は同じなので、その部分の運用管理負担は減っていない。減っていないばかりか、従来ならハードウェアでできていたシステムの切り分けを仮想環境の中で行わなくてはならないので、運用管理がより複雑になっています。

 「プライベートクラウドは統合サーバとどこが違うのか?」といった質問をよく受けますが、プライベートクラウドと統合サーバとの違いは、新規サーバの立ち上げやサーバリソースの変更などが管理画面上でのパラメータ設定といった簡単な作業で実行できる自動化機能や、サーバリソースの使用状況をユーザごとに測定するメータリングといったクラウド技術を用いている点です。これらの技術を使えば運用管理がかなりラクになりますし、サーバリソースの適切な配分や実際の使用状況に応じたユーザ課金が行えるようになるため、稼働効率の向上やコスト削減が図れます。今の統合サーバは運用管理が大変ですからプライベートクラウド化は進んでいくと思いますし、事実弊社のお客様も、統合サーバからプライベートクラウドへとどんどん移行されています。

Question

パブリッククラウドとの比較ではどうでしょうか?

Answer

今後は事業のコア部分にパブリッククラウドを利用する企業は増えていくと思います。例えばグローバル展開しているある衣料品専門店チェーンでは、ビジネスのスピードアップを図るためにパブリッククラウドを積極的に利用していくとおっしゃってました。事業環境の変化が激しい業界や海外市場で戦わなければならない業界は特にパブリッククラウドを利用していくようになると思います。

 とはいえ、一部の中小企業を除き、企業のITシステムが全面的にパブリッククラウドに移行するとは考えていません。大企業は膨大なシステムを持っています。少ない企業でも200〜300システムはある。そういった企業がパブリッククラウドに全面移行するのは非現実的ですし、そうする意味もありません。必要に応じてパブリッククラウドとプライベートクラウドをうまく選択して使い分けていくというのが正しいあり方なのではないでしょうか。

Question

完全なパブリッククラウド、仮想プライベートクラウド、完全なプライベートクラウドと分けた場合、一番大きなのびしろが見込めるのはどの分野だとお考えでしょうか?

Answer

完全なパブリッククラウドも伸びていますが、売り上げ金額ベースでは仮想プライベートクラウドではないでしょうか。

 企業が持つITシステムの中には、SolarisやHP-UX、AIXといった特定のUNIX環境でしか動かないものが多数あります。ミッションクリティカルな業務に使われているものも少なくありません。こういったシステムはパブリッククラウドには乗りませんが、仮想プライベートクラウドなら乗せてサービスとして提供できますし、そういった事業者も増えています。また、企業にとっても、仮想プライベートクラウドなら自前でシステムを持たずに済みますし、BCPなどの面でもメリットがありますので。


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露呈した企業IT基盤の機能不全

Question

ホワイトペーパーでは、俊敏性や柔軟性を備え、ビジネスに直接貢献し、低コストで運用が可能な企業IT基盤の再構築を提言しておられます。それはどうしてでしょうか?

Answer

株式会社アイ・ティ・アール:甲元宏明氏

震災の影響ももちろんありますが、企業IT基盤を再構築しなくてはならないという気運はそれ以前から高まっていました。特に大きなインパクトを与えたのはリーマンショックです。

 弊社ではIT投資の統計調査を毎年実施しているのですが、戦略投資の比率は年々減り続け、今や全体の3分の1程度になってしまっています。その原因は定常費用の増加で、ビジネス的には付加価値のないメンテナンスコストに足を引っぱられて新しいことがどんどんできなくなるという悪循環に陥っていました。そこにリーマンショックが起こり、IT投資が激減され、新しいことが何もできないというひどいありさまになってしまった。この危機感から企業IT基盤の見直し気運が高まり、震災でそれに拍車がかかりました。

 また、IT部門に求められるミッションも変わってきました。IT部門の役割はシステムの構築・運用管理からITサービスの提供へと変わってきましたが、さらに一部の企業ではビジネスに対する逆提案、ITを活用してビジネスを変革したり、新ビジネスを創出したりするための提案が求められるようになってきています。

図1 IT戦略において最重要視されるキーワードTOP10 (2008年度〜2010年度)
図1 IT戦略において最重要視されるキーワードTOP10 (2008年度〜2010年度)
出典:ITR「サステナブル・エンタープライズITアーキテクチャ」 (2010年)

このような要求に応えるためには、俊敏性や柔軟性に富み、新システムを短期間で立ち上げられる企業IT基盤が必要ですが、企業にはメインフレームなどのレガシーシステムやサイロ化したサーバ群があるほか、パブリッククラウドには相互運用性がないので、それらを個別に運用するしかない。SOAでシステム相互を連携させるという提案もありますが、敷居が高いので日本ではあまり普及していません。

 このためホワイトペーパーではインテリジェントなネットワーク・コントロール機能と種々の共通サービスを設け、システム相互を連携できるようにする「サステナブル・エンタープライズITアーキテクチャ」を提唱しました。例えばFTPなどのファイル転送サービス、EDIなどのデータ転送サービス、といった共通サービスでシステム相互を連携できるようにしていく。ゆるやかな連携ではありますが、既存システムとクラウド系が共存できるし、システム環境の変化にも柔軟に対応できます。

図2 サステナブル・エンタープライズITアーキテクチャ
図2 サステナブル・エンタープライズITアーキテクチャ
出典:ITR「サステナブル・エンタープライズITアーキテクチャ」 (2010年)

「グローバル競争が激しく、どう変化していくか分からない不確実な時代では、ITの活用なくして勝ち残れない」。多くの経営者がそう考えています。しかし、どう活用すればいいかまでは分からない。だからIT部門に提案が求められている。ITを活用してビジネスを変革したり、新しいビジネスを創り出していく役割が今後のIT部門には不可欠になっていきますので、その能力を備えるようにしましょうとお客様にお話ししています。


取材協力

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ビジネスとITに関する問題解決を提供する独立系のIT調査・コンサルティング会社。企業のIT戦略に関するコンサルティングを提供するほか、IT関連のベンチマーク、ROIと効果の最適化、戦略的なデータ活用、ベンダ/製品の評価と選択、事業戦略とマーケティングの支援、ITの将来動向などの分野に関する調査・分析を行っている。設立は1994年で、本社は東京に置く。


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