ビッグデータ分析で見つかる“隠れたお宝”

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掲載日 2011/10/11

ザ・キーマンインタビュー 顧客の感情まで予測可能? ビッグデータ分析で見つかる“隠れたお宝”とは

ストレージなどのハードウェア、及び、分散処理などのソフトウェア技術が急速に進化したことで、これまでは困難だった大規模かつ複雑データの蓄積、そして分析が可能な時代になりつつある。こうした取り組みは、“ビッグデータの活用”と呼ばれ、企業の競争力向上、あるいは社会全体の問題解決に役立つことが期待されている。今回は野村総合研究所の上級研究員である城田真琴氏に、ビッグデータが企業に何をもたらすのか、ビッグデータを活用するためにはどのような取り組みが必要なのかといった点をうかがった。

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城田真琴氏


野村総合研究所 情報技術本部 イノベーション開発部 上級研究員
城田真琴氏

膨大なデータの中に“隠れたお宝”が眠っている?!

Question

今なぜ、企業のITシステムにおけるビッグデータへの取り組みが注目されているのでしょうか?

Answer

株式会社野村総合研究所:城田真琴氏

1つは、Hadoop(オープンソースとして提供されている分散処理フレームワーク)に代表されるように、膨大な量のデータ、すなわちビッグデータを処理するための技術が登場してきたということです。従来は時間もコストもかかるというイメージがあった、あるいは実際に膨大な時間とコストがかかっていた巨大データの蓄積や処理が現実的になってきた、敷居が下がってきたというのが要因ですね。

 もう1つは、これまでは特に意識することなく、貯めたままにしておいたデータの中に、“隠れたお宝”が眠っているのではないか。そんな期待が高まっているということでしょうか。そうしたデータを分析することで新たな知見が得られたり、顧客に対する深い洞察が行えるというわけです。ビッグデータへの取り組みが先行している欧米では、ソーシャルメディアの中の“顧客の声”を活用できるのではないかという気運が高まっており、実際に活用が始まっています。

 3つめとしては、ビジネスインテリジェンスの潮流にも注目する必要があります。ビジネスインテリジェンスは、レポーティングやOLAPなどを利用した「過去の見える化」に始まり、次の段階として経営ダッシュボードなどを利用した「今の見える化」があります。そして、最近になって出てきたのが、これから何が起こるのかという、いわゆる将来予測です。データを活用して将来の予測分析を行うにあたっては、データ量は多ければ多いに越したことはないですから、ビッグデータとは非常に相性が良いと言えるでしょう。

Question

ちょうどテクノロジーの発展と必要性がうまくマッチしたタイミングだということですかね?

Answer

ニーズ自体はあったと思うので、ようやく時代が追いついてきたとは言えますね。従来はコスト面であきらめてきた部分、特に大量の非構造化データ(テキストデータ、ログデータ、センサデータなど)の蓄積・処理が新しい技術の登場によって可能になってきたというところです。

図1 ビッグデータ分析の典型的な活用領域
図1 ビッグデータ分析の典型的な活用領域
出典:野村総合研究所(2011年)

Question

ビッグデータを扱うソリューションを提供する側としては、どのような業界に広がっているんでしょうか?

Answer

現在のビッグデータを扱うソリューションは、Hadoopを中心に展開されています。ビッグデータというキーワードが多く使われているのは、ストレージやデータウェアハウスのベンダ、あるいは、そうした製品を中心に幅広いソリューションを提供している企業ですね。先ほど述べたようにBIのベンダもかかわっていますし、ETL、統計解析、データマイニングなども同様です。また、Hadoopを使いこなすには、専門のスキルが必要ですが、導入・運用支援という観点では、システム・インテグレータの動きが目立っています。


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ビッグデータの活用に取り組む企業では何を得ようとしているのか。

Question

流れとしては、クラウドと似たような部分もあるかと感じますが、実際の普及はやはりもう少し先という感じなのでしょうか。企業規模や業種によっても状況は異なると言えるでしょうか?

Answer

株式会社野村総合研究所:城田真琴氏

そもそも、ビッグデータといっても必ずしも定量的な定義がされているわけではなく、通常は既存の技術では取り扱うのが難しかったデータ量、あるいはデータの種類を示しています。そのようなデータの活用という観点で見れば、まずは単純に発生するデータ量が多い大企業で注目されているというのが現状だと思われます。あとは、ソーシャルメディア上の顧客の声の分析に熱心な、BtoC事業を展開する企業でしょうか。

 企業規模に対して圧倒的にデータが多いという意味では、いわゆるネットサービスを提供する企業が挙げられます。クリック・ストリーム・データ(サイト訪問者のアクセス・ログ)はどんどん蓄積される一方ですから。あとは、やはり小売業ですね。オンラインショッピング専業の企業はもちろんですが、実店舗を中心に展開している企業においても、ポイントカードで収集した購買履歴データに代表されるビッグデータの活用が販売促進や顧客ロイヤリティの強化につながるのではないかという期待が高まっているようです。

 なお、中堅、特に中小規模の企業の場合、“スモールデータ”の分析に取り組むこともままならないということがあるでしょうから、ビッグデータという言葉に惑わされずに、まずは“スモールデータ”の活用から始めるというスタンスでかまわないでしょう。

Question

顧客の嗜好をより正確につかむことで売り上げアップを目指すということでしょうか?

Answer

例えば、ショッピングサイトなどではどのお客さんが何を買ったかというデータは今でも単純に出せるわけですが、今後は「その人はなぜその商品を買ったのか」あるいは「なぜ買わなかったのか」というコンテクスト情報、つまり、前後の動きを把握することが重要になってきます。ある商品を買うに至った、あるいは買うのをやめた動線というものが、Webサイト上での動きに表れているはずですから、クリック・ストリーム・データを分析して、その要因や原因を探り、適切にフィードバックすることができれば、その人だけではなくほかの人にも適用することで売り上げを伸ばしていくことにつながるでしょう。

 また、レコメンデーション(おすすめ商品の提示)などは以前からよく使われている手法ですが、これも自社サイト内で保持している購買履歴だけではなく、ほかのソーシャル系サイトなどで掲載されている属性データなども組み合わせていくことで、従来とは違ったサービスに発展していく可能性があるでしょう。ただし、プライバシーの問題がありますので、そのあたりを考慮したサービス設計が必要になってきます。

Question

顧客の囲い込みなどにもつながってくるのでしょうか?

Answer

保険会社や携帯電話事業者など、契約として顧客を囲い込んでいる企業では、顧客の競合他社への乗り換えに非常に敏感で、顧客離反分析や、解約の予兆をキャッチするといった目的でビッグデータを活用しようという取り組みは既に始まっています。

 例えば、最近ではコールセンタに電話をかけると、まず「お客様へのサービス向上のため、通話内容を録音させていただいております」とガイダンスが流れて、会話内容を録音されているケースが多くなっていると思いますが、そうした内容も分析の対象になっています。テキスト化した上で、マイニングを行い、解約につながりそうなフレーズが含まれていれば、フラグを立てておく。更に、音声の感情分析などを行い、怒っている声だとか、わりと好意的な声だったという部分もデータ化して蓄積していくという感じですね。

 あるいは、そうした直接的なデータだけではなく、レコメデーションの際に述べたことと同様に、一般に公開されているブログの書き込みや、Twitterでのつぶやきなどといった情報をスクリーニングすることで、契約者個人、あるいは消費者全体が自社のサービスに対して、どのように感じているのかを分析することができるでしょう。

 ただ、先ほど解約フラグを立てるという話をしましたが、そのフラグを立てただけで満足してしまうと何も意味がないわけです。その人に対して、適切なキャンペーンを提示するなど、データ分析した結果を最適なアクションにつなげるということが実は重要になってきます。

 これまでもこのような取り組みはされていたかもしれませんが、ストレージ側の制約で1ヵ月分程度でデータを破棄したり、データの処理に膨大な時間を要していたという状況がありました。そのような制約がなくなりつつあるというのが、大きな変化と言えるでしょうね。

Question

そのあたりは、今までコールセンタの担当者、あるいは営業、マーケティング担当者など、様々な立場の人が経験則や勘をもとに行ってきたことが、きちんとした裏づけを持って実施されるようになっていくという形ですかね。

Answer

そういうプロフェッショナルな人たちによって実現されてきたことというのは、その人はできたとしても、属人的であり、同じようなスキルを持った人を何人も確保するのは難しいことです。それを膨大なデータ分析とITの力である程度は自動化し、1人の知恵や力を100倍にも1000倍にも拡張し、レバレッジが効くようにしていくという側面もあると思います。


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蓄積されたデータだけではなく、リアルタイム分析を行うパターンも。

Question

今までうかがった話では、ビッグデータの活用は非常に幅広い範囲に及ぶようですが、具体的にはどのようなパターンになりますでしょうか?

Answer

株式会社野村総合研究所:城田真琴氏

活用パターンとしては、大まかに「個別最適」「全体最適」×「ストック型データ処理」「フロー型データ処理」の4パターンに分類できると考えています。1つの軸が「個別最適」「全体最適」で、先ほどのレコメンデーションやクーポン配信などは、個別の顧客に対して最適なものを提案するという「個別最適」ですね。「全体最適」というのは、ビッグデータの分析で自社の提供サービスやWebサイトなどの全体最適化を図るというもの。例えば、渋滞や電力需要の分析、あるいは飛行機の出発時刻の遅延予測を行い、利用者全体にフィードバックを行うといったものです。

 それともう1つ、蓄積したデータに対してバッチ処理を行うか、リアルタイム処理を行うかという軸があります。これをストック型、フロー型と呼んでいますが、いったんデータを蓄積して時間をかけて分析を行うのか、リアルタイムに分析して即座にフィードバックをかけていくのかということですね。例えば「個別最適」&「フロー型」に分類されるものは、ある駅に到着すると周辺のお店から自動的にクーポンが送られてくるというような行動ターゲティング広告が挙げられるでしょう。

図2 ビッグデータの分析用途の類型と活用事例
図2 ビッグデータの分析用途の類型と活用事例
出典:野村総合研究所(2011年)

Question

一般的には、ビッグデータの活用においては統計学の知識を持った人員の活躍の場が広がると言われていますが、このあたりはいかがでしょう?

Answer

そうなのですが、単に統計解析の専門知識を持った人員を確保するというだけではだめでしょうね。それは必要条件ではあるかも知れませんが、十分条件ではありません。ビジネス上の課題解決のためには、どのようなデータが必要かをまず見分けて、適切にデータを処理し、生のデータを価値ある情報に変えていかなければなりません。つまり、データに意味付けをしてビジネス上の価値を生むように昇華させるスキルが重要なのです。

 米国では、こうしたスキルを持った人員不足が既に指摘されていますし、日本でもデータ分析に対する需要が増すにつれて、これから問題になっていくと思います。

Question

現在の企業のITシステムの構築のしかた、情報の蓄積方法などは企業によって千差万別ですが、そのあたりで有利・不利などはあるのでしょうか?

Answer

ビッグデータを蓄積することがゴールではなく、分析して、ビジネスに有用な知見や洞察を引き出すことができなければ意味はありません。先ほども言いましたが、スモールデータの分析をやってこなかった企業がいきなりビッグデータの分析をやるのは難しいでしょう。その点では、これまで何らかの形でデータ分析に取り組んできた企業が優位だと思います。

 ただし、現在、企業で多く使われているリレーショナルデータベース(RDB)やデータウェアハウス(DWH)は、数値などの構造化データの取り扱いは得意ですが、ビッグデータの中心となる、テキストや画像、音声、GPSデータなどの非構造化データの処理は得意ではありません。このため、非構造化データの処理という点では、各社ともまだこれからという状況だと思います。

 しかし、IBMやテラデータなどのDWHベンダは非構造化データを取り扱うためにHadoopとの連携を強化していますし、EMCやHP、更に直近ではオラクルもHadoopを組み込んだDWH製品を発表しており、ユーザ企業がビッグデータ処理に着手しやすい環境は整いつつあります。

 そうなるとやはり、先ほど述べたように、大規模データを蓄積し、統計処理するだけではなく、そこからビジネスに有用な知見を引き出すための知識やセンスを持った人材の確保がカギを握ると思います。

Question

ビッグデータの分析は、いち早く取り組んだ企業がやはり先を進んでいくことになるでしょうか。それとも、今は様子見で、技術や運用の面で熟成された段階で後追いで始めていくことにもメリットはあると言えるでしょうか?

Answer

欧米では、スーパーマーケットのテスコやウォルマート、保険のプログレッシブ、最近ではDVDレンタルのネットフリックスなどデータ分析で業績を大幅に向上させた企業があります。また、グーグルやアマゾン、フェイスブックなどのネット企業もそうです。日本でも、ネット企業を中心にビッグデータの活用により、着実に成果を上げている企業が出てきています。

 やはり、早く取り組み、PDCAのサイクルを回していくことが重要だと思いますが、仮に取り組むのが少し遅れても、当然ながら何もやらないよりはやった方がいいでしょう。

 日本の場合、データではなく、勘や経験に基づいた意思決定を重視する傾向が強いという、文化的な違いもあるように思いますが、取り組む前から成果が出ないのではないかと躊躇するケースが目立ちます。しかし、クラウドやHadoopの登場により、データの蓄積・処理コストが下がり、処理速度は向上しました。このため、仮に一度の分析結果で期待した成果が出なくても、従来と同じコスト・期間で何度もトライ&エラーで分析精度を高めていくことができます。今こそ、データの分析力を企業の競争力の源泉とする、データ駆動型企業となるいい時期ではないでしょうか。


取材協力

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流通や金融など各産業分野の研究、消費者動向調査、未来予測などを行い、その成果を広く社会に発信。予測、分析、政策提言などによって問題発見から解決策を導くまでの「ナビゲーション」と、その解決策を業務改革やシステムの設計、構築、運用によって実現する「ソリューション」を相乗的に機能させることを軸に、「未来創発」に取り組んでいる


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