クラウド導入で運用管理はどう変わる?

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掲載日 2012/02/07

ザ・キーマンインタビュー クラウド導入で運用管理はどう変わる?

震災をきっかけに導入事例の件数が増えてきたことにより、クラウドの本格的な利用が始まろうとしているという。しかし、実際に使われ始めると、具体的な課題も見えてくるものだ。中でも、多くの企業が注目しているのは、既存環境にクラウド環境が混在することで、運用管理はどう変わるのかという点だ。今回は野村総合研究所のイノベーション開発部グループマネージャーである古明地正俊氏に、クラウド普及の現状、そして、クラウドの運用管理について注視しておくべき点などをうかがった。

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古明地 正俊 氏

イノベーション開発部
グループマネージャー
古明地 正俊 氏

クラウドの運用管理で、今後重要視されるのは「責任分岐点」

Question

情報システムのクラウド移行が様々な形態で実施あるいは検討されている状況だと思われますが、実際の市場動向としてそういう傾向は見られるのでしょうか?

Answer

株式会社野村総合研究所:古明地 正俊 氏

全体的には、やはり徐々に増えている状況ととらえています。2010年8月と2011年2月に実施した調査結果を見ても、何らかのかたちで利用中、あるいは近いうちに利用予定だと回答した企業は、いずれも概ね1.5倍程度に増えていました。ただ、絶対量としては、欧米と比べるとまだ少ない状況です。特に「1年以内に利用する予定」という企業などは2011年2月時点でも約4.7%にとどまっていますが、今後の成長の勢いを明確に示すというレベルには達していないかと思います。

 とはいえ、ご存知のとおり、2011年3月に生じた震災は、より多くの企業がクラウド移行を検討するきっかけになりました。メールなどのコミュニケーションツールを中心に、DR(ディザスタリカバリ)の一環として、パブリッククラウドサービスを検討、あるいは導入する企業は出てきています。そうした動きの中で、いくつか有用な事例なども出てきており、更にそのことがクラウドへの理解を深め、クラウドを使ってみたいという企業からの意向も増えているようです。

図1 パブリッククラウドの利用状況(2010年8月と2011年2月の比較)
図1 パブリッククラウドの利用状況(2010年8月と2011年2月の比較)
出典:野村総合研究所(2011年)

Question

調査結果を見ると、「利用予定はない」「情報収集段階」の比率がいずれも減少していますから、わりと現実的な段階に入っているという感じでしょうか?

Answer

ただ、特に「クラウド」というテーマに関しては、回答されている企業がその定義をしっかり把握しているのかという点には注意すべきかと思います。アンケートを実施する際には、調査対象の事柄についての定義をある程度示した上で行うわけですが、細かい部分まで理解しているわけではないかもしれない。数字を見ていると、例えば、プライベートクラウドといった場合などでも、しっかりとスケーラビリティを確保しているケースだけではなく、単に仮想化されているインフラの上に構築しているケースも含まれているのだろうという感覚があります。そのあたりはまだ議論の余地はあるでしょうが、一般的な傾向として、こうした新しいシステムを取り込んでいきたいという流れは強く現れていると思います。

Question

運用管理の観点から、従来のシステムをクラウド移行する場合に注意すべきなのはどのような点になりますでしょうか?

Answer

まず、パブリッククラウドに関しては、やはり自社内のインフラと比べれば、詳細にモニタリングできる部分が少なくなってしまうということがあります。今後、本格的に利用が広まっていくと、障害が発生した際にどこまで的確に、しかも迅速に対応ができるのかという点は検討されていくことになるでしょう。

 そして、もう1つは責任分岐点です。例えばIaaSのサービスであれば、サービス提供側の認識としては「ハードウェアの部分は確かにサービス事業者の責任ですが、そこから上は別ですよ」というふうになるかと思います。ただ、障害を調査している段階では、その要因がハードウェアにあるのか、ミドルウェアにあるのか、あるいはアプリケーションなのかを明確に切り分けることはできないですし、そういう体制のもとで原因究明を迅速に行えるのかという問題は浮き彫りになっていくのではないでしょうか。

 今後、パブリッククラウドやハイブリッドクラウドの利用が本格的になると、顧客企業側ではインフラからアプリケーションまで全部まとめて責任を負ってくれるようなサービスを求めるようになるのではないでしょうか。どの部分に問題があろうとも、サービスに障害が発生した場合にはとにかくその事業者がすべて責任を持って対応してくれる。そういったサービスがユーザにとって魅力のあるビジネスのかたちになっていくのではないかと考えます。SIer、あるいはサービス事業者としても、こうしたワンストップでサポートするサービスが、結局は自分たちの責任が明確になるという点で取り組みやすいかたちの1つになると思いますし。

Question

そのあたりコストと勘案するようなところだとは思うんですけども、運用管理もできるだけ自前でやって、なるべくコストを浮かしたいという企業もあるのではないでしょうか?

Answer

確かに、クラウドを利用することでコスト削減を図ろうとしていたはずなのに、結局、運用の部分で余分に費用を割かないとうまく管理できないというのは、本末転倒に感じるかもしれません。ただ、SaaSのみを利用する場合以外では、運用コストをなくすことは難しいと思います。今後はクラウドの導入コストメリットがより定量的に把握できるよう、事業者や関連サービス提供者がクラウド運用のために必要となるコスト算出のための情報を提供していくべきだと思います。そうなれば、ユーザ企業がトータルコストで比較してクラウドを導入するべきか否かを判断しやすくなるでしょう。

 また、前提として、クラウドが混在したシステムを一元管理できる環境がまだ完全には整っていないと言えますので、ある程度以上の技術力を持っている企業でなければ、いずれにせよ今の段階で自らがすべてを責任を持って利用・管理するのは現実的には難しいと考えます。そういう意味で現状としては、サービス提供側なり、SIerなりに一括して任せてしまうというのが大部分の企業にとって現実的な選択肢だと思います。障害が発生してシステムが止まってしまうと、分単位で損失が発生するような業務システムなどもありますから。


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現状ではネットワークの部分が運用管理の自動化を妨げている

Question

実際問題として、ほとんどの企業ではすべてのシステムをクラウド移行させるには至らず、一部をプライベートクラウド化して既存環境と混在するという状態が続くと思われますが、そうした環境の運用管理は、完全なクラウド環境よりもむしろ難しいと言えるでしょうか?

Answer

単純に言えば、どちらかに統一してしまったほうが明らかに簡単で、ハイブリッドの状態で使う場合は監視データの統合などをする必要があり、運用管理の難易度は高くなります。とはいえ、難易度の高低がどうあれ、現実的にはほとんどの企業がハイブリッドの環境で使い続けることになるでしょう。自社の差別化の源泉になるような業務アプリケーションなどに関しては、既存環境のまま使い続ける、あるいはプライベートクラウド化するなど、やはり自社で持ち続ける。一方で、メールやOffice系ツール、標準的なCRMなどについては、パブリッククラウドの利用が検討されていくのではないかと思います。

図2 運用管理技術のロードマップ
図2 運用管理技術のロードマップ
出典:野村総合研究所(2011年)

Question

クラウド型と既存環境が混在するシステムでは、ハードウェアやネットワークなどの構成管理が複雑になると言われますが、具体的にはどのような問題が生じるのでしょうか?

Answer

株式会社野村総合研究所:古明地 正俊 氏

自動化に対する妨げがあるという点で、一番影響が大きいのはネットワーク部分です。現状ではネットワーク上での仮想化の扱いがまだ十分には成熟していないという問題も残っており、そのままでは、例えばクラウド環境上のアプリケーションなども物理アドレスに縛られてしまいます。そのため、アプリケーションをもともと稼働していたサーバからバックアップサーバへ移行させたり、ハイブリッドクラウドの中で柔軟に動かそうという場合にも、アドレスの付け替えなどが自動では行えず、手動での複雑な作業が必要になりますから、しっかり手順書などを作っておかないと、失敗して両方とも応答しなくなってしまうという事態も起こりえるでしょう。

 ただ、このあたりは、アプリケーションを物理ネットワークから切り離して個別IDを付与するという「VXLAN」などの仕様が推進されていくことで解決されるのではないかと言われています。CPUやストレージの部分の仮想化は技術としてかなり成熟していますから、このネットワークの部分が揃うことで、次の段階である「自動化が進めやすい」状態になるのではないかと思います。仮想化環境/クラウド環境においては、アプリケーションやジョブを移動させたり、ディザスタリカバリをスムーズに行えることが最大のキーになるところですし。

Question

運用管理する立場の人がスキルを上げたり、運用管理手法を変えるといった必要は特にないと言えるでしょうか?

Answer

どちらかというと、社内での位置づけを変えていくことが大きな問題としてクローズアップされつつあります。クラウド化が進み、ITリソースなどがサービスとして提供される状況になっていくと、運用も1つの“サービス”としてきちんと形成されていないといけない。エンドユーザである各部門が“運用”というものを眺めたときに、きちんとしたサービスとして見えるようにしておく必要があるということです。システムのお守りをしている、手作業ベースでいろいろやってくれているという印象を与えるのではなく、ほかの各部門に対してサービス的な観点で何を提供するのか、自分たちが作り出せるビジネス上の付加価値は何なのかという部分をきちんと考えていかなければならないでしょう。

 そういう機能を既にサービスデスクなどとして整えている企業もありますが、全体としてはまだまだ少なく、情報システム部門がシステムの企画・開発から運用管理までを全部ひっくるめてカバーし、運用管理もその一環としてとりあえず一時受けというかたちでやっているケースが多い。それでは結果的に、いつまでたってもコストセンタ的な見方をされてしまいますから、コスト削減をしいられたり、人員が減らされていくというふうに悪循環に陥ってしまいます。運用管理に対するモチベーションも低くなってしまうでしょう。ただ、欧米、あるいは日本企業の一部でも、ビジネス的に大きな成功を遂げている企業では、ITは戦略的に使うものだという意識が強くなっていますし、やはりITに関わる部門では、自分たちがどういうかたちでビジネスに貢献できるのか、この新しいテクノロジーを使うことで具体的にビジネスがどう変わるのかということを積極的に現場や経営層に対して発信することが必要だと思います。


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クラウド移行で事前段階の作業が困難になっている要因とは

Question

プライベートクラウドへの移行に関しては、多くのグループ会社を抱える企業が自社の情報システム子会社を中心にして、移行していくというかたちが多いように思えますが、そうした移行は今後も順調に進んでいくのでしょうか?

Answer

株式会社野村総合研究所:古明地 正俊 氏

大企業ではやはりそういう形態が多くなると思います。ただ、そもそも日本企業では社内でのITインフラの標準化があまり進んでいないという点で、実際の移行よりも事前段階の作業が困難だというケースが少なくないようです。このあたりは、いわゆるEA(エンタープライズアーキテクチャ)の領域で、欧米の企業などではかつてEAが取り沙汰された時期に、システム標準化にしっかりと取り組んでおり、インフラ標準化に成功したり、データセンタ統合が完了しているというケースも結構あります。そうした事前の捌きができているから、それを一気にクラウドへ持っていこうということも可能なのです。

 しかし、日本の場合には、今のクラウドと同様に、EAが言葉としてブームになったことはありますが、うまく実践できた企業はかなり限定的でしょう。クラウドもEAも、よくバズワードなどと言われますが、欧米などの場合には何だかんだ言いながら、それなりに実際に取り組んで成功している企業も多いわけです。流行のたびに、しっかりと段階は踏んでいるという感じでしょうか。一方で、日本の場合にはどちらかというと取り組んではみたものの途中で挫折した、経営陣の掛け声倒れに終わってしまったという話が多く、そうしたものの残骸がシステム上に残っただけのようなかたちになっているのではないでしょうか。

Question

日本だけが遅れてしまった状況ということでしょうか?

Answer

中国のIT利用の状況などを見ると、米国などに近くなっています。中国に関しては、IT利用の歴史が全体的にはまだ浅いですから、そもそもレガシーな技術を使い続けているという状況は少なく、新しいテクノロジーが入ってくるとどんどん積極的に使うということですね。その結果、クラウド、あるいはビックデータなどの技術の利用状況などが、ほとんど米国などと同じ結果になっていると考えています。

 結果論ですが、やはりこれまでの1つひとつのトレンドに対しても、取り組むのであればしっかりと成し遂げるということを繰り返していれば、いざクラウドを導入しようという場合にももう少しスムーズに移行できたでしょうし、コストメリットも明確に出せる状態になっていたかもしれない。このあたりはITシステムに対するコーポレート・ガバナンスがいかに整備されているかという部分が大きく影響しますから、特に日本の企業においては、そのあたりも含めてしっかりと考えていく必要があるでしょうね。


取材協力

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流通や金融など各産業分野の研究、消費者動向調査、未来予測などを行い、その成果を広く社会に発信。予測、分析、政策提言などによって問題発見から解決策を導くまでの「ナビゲーション」と、その解決策を業務改革やシステムの設計、構築、運用によって実現する「ソリューション」を相乗的に機能させることを軸に、「未来創発」に取り組んでいる。


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