異種混在でハイブリッドに進むクラウドERP

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掲載日 2012/01/10

ザ・キーマンインタビュー 異種混在でハイブリッドに進む「クラウドERP」

クラウドで提供するERPサービス「クラウドERP」への関心や導入意欲が急速に高まりつつあるという。ユーザはどういった理由でクラウドERPに注目しているのだろうか? 既存のERPパッケージにどんな不満を抱いているのだろうか? クラウドERPはいつ、どこから普及していくのだろうか? ガートナー ジャパンの本好宏次氏に語っていただいた。

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本好宏次氏


ガートナー ジャパン リサーチ部門 エンタープライズ・アプリケーション
リサーチ ディレクター 本好宏次氏

パッケージへの不満がユーザをクラウドへと向かわせる

Question

クラウドで提供するERPサービス、クラウドERPが増えてきています。最近の動向を教えて下さい。

Answer

ガートナー ジャパン:本好宏次氏

弊社はERPを、管理系ERPと実行系ERPの2つのカテゴリに分類しています。管理系ERPに該当するのは人事給与、財務会計、調達といった定型的・標準的な業務で、コスト削減や正確な情報の蓄積・提供といったところに主眼が置かれています。もう一方の実行系ERPは企業ごとや業種別の違いが出やすい部分で、業務革新や生産性向上を狙いとした生産管理、販売管理などが該当します。管理系ERPはどの企業にも共通する標準的な定型業務をなるべく低コストで処理することに主眼を置いているのに対し、実行系ERPは競合相手との差別化を図り、競争優位性を追求するためのものであるといったとらえ方をしています。

 現在のところ日本では、実行系は各社各様でカスタマイズが必要となるため、ERPのクラウドサービス化は業務処理の内容が定型的でクラウドに乗せやすい管理系から進んでいる、といった状況になっています。

 全体的にはこのような流れとなっていますが、特徴的な動きもあります。1つは、中堅・中小企業向けのスイート機能を提供しているクラウドERPベンダのサービスが、グローバル展開を進めている企業の海外拠点を中心に導入され始めたことです。もう1つは、人事給与の派生業務とも言えますが、人事情報をより高度に活用していくことを目的としたタレントマネジメントと呼ばれる領域に注目が集まっていることです。タレントマネジメントは、採用した人材の教育や評価、後継者の育成管理など、人材のライフサイクル全体をサポートする業務で、こちらは人事給与パッケージを既に導入し終えている大企業で特に関心が高まっています。

Question

ユーザ企業がクラウドERPに注目する理由、導入を検討する理由は何でしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン:本好宏次氏

日本の企業に対してパッケージ版のERPに対する期待と不満をアンケート調査したところ、不満は大きく分けて2つあることが分かりました。1つはコスト、もう1つは操作性です。

 コストに対する不満として挙げられていたのが、ライセンス費を含めた導入費用と保守費用の高さです。その点クラウドERPは、初期費用を低減できるということで注目されているわけです。もちろん使用期間が長かったり、使用規模が大きかったりした場合はERPパッケージを導入・運用した方が低コストになるケースもありますが、ハードウェア費用や保守・運用費用、アップグレードがあった場合のアップグレード費用などをトータルで考えると、海外の子会社や国内のグループ会社といった規模の小さな拠点にはそこまでの費用はかけられないので、クラウドERPの導入を検討しているのです。

 操作性に関するキーワードは「コンシューマライゼーション」です。ITのコンシューマ化、あるいはコンシューマITのエンタープライズITへの適用といったトレンドがいろんなところで表れていますが、クラウドやSaaSのベンダはそのトレンドの最先端にいます。

 その理由はいろいろありますが、クラウドやSaaSは新興市場であり、ベンチャー企業が多いことがまず挙げられます。ベンチャー企業は最新のテクノロジーをいち早く取り入れて製品やサービスを計画するので、コンシューマITで起こっていることを積極的に採用しようとする傾向があります。また、クラウドやSaaSはインターネットを前提としますが、コンシューマITの進化が最も急速に進んでいるのがまさにこの分野で、ソーシャル系のコラボレーション手法やモバイルへの対応がコンシューマITの世界で起こり、エンタープライズITが追従しているという構図になっています。更にSaaSの場合はバージョンアップを頻繁に行えるので、最新のテクノロジーやユーザからのフィードバックを取り入れやすいといった理由もあります。

 クラウドERPベンダも同様です。アプローチがFacebook、Yahoo!、Twitterといったコンシューマ向けのITサービス企業とよく似ていて、これらのサービスと遜色のない操作性や使い勝手の良さを目指しています。それに対しERPパッケージは、大幅なバージョンアップは数年に1回、場合によっては10年に1回といったサイクルなので、使い勝手の面では大きく遅れてしまっているというのが現状です。

Question

初期コストの安さ、操作性の良さ、最新テクノロジーへの対応の早さといったメリットを評価してユーザ企業はクラウドERPに向かいつつある、ということでしょうか?

Answer

クラウドERPの現在の主なプレイヤーは新興ベンチャー企業ですが、SAP、オラクル、マイクロソフトといったメガスイートベンダも自社のERPパッケージをクラウドに乗せることや、そのパッケージの周辺に様々なSaaSモジュールを外付けサービスとして提供することに非常に大きな投資をしています。

 SAPは中堅・中小企業向けのクラウドERPスイート「SAP Business ByDesign」の強化と、大企業の様々な業務向けのSaaS型アプリケーションの拡充という2つの戦略を並行して進めています。オラクルは日本でも近々提供される予定の次世代ERPスイート「Oracle Fusion Applications」にソーシャル系の情報活用機能を搭載するとともに、クラウド対応も行うと表明しています。マイクロソフトのERPパッケージ「Microsoft Dynamics AX」は現時点ではクラウドには対応していませんが、「Windows Azure Platform」というクラウドプラットフォームを持っていて、将来的にはクラウド対応させるというメッセージを示しています。

Question

新興ベンチャーを追いかける形でメガスイートベンダもクラウドERPに向かいつつあるということでしょうか?

Answer

コンシューマITを含めたIT全体のトレンドを示すキーワードとしては、クラウド、モバイル、ソーシャルが挙げられます。場合によってはBIも入ってくるでしょう。こうしたトレンドを、コンシューマ向けやエンタープライズ向けといった区別なく、いろんなプレイヤーが追っているととらえています。このトレンドを比較的早く追えるのは小回りの利く新興ベンチャーですので、メガスイートベンダが新興ベンチャーの後を追いかけていると言うよりも、双方がトレンドを追究していく過程で同じところに収斂しようとしていると言った方が正しいかもしれません。


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クラウドERPは異種混在でハイブリッドに進んでいく

Question

クラウドERPはどこから普及していくのでしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン:本好宏次氏

先ほども言いましたように、日本では中堅・中小企業向けはスイート製品、大企業向けは管理系業務向けから普及していると考えています。しかし、グローバルあるいは北米の市場を見ると、生産管理のような実行系業務向けのクラウドERPを提供するベンダも出てきています。管理系だからクラウドに向いている、実行系だから向いていないといった状況がずっと続くわけではなく、プレイヤーがどんどん増えていき、いろんな領域に少しずつ浸透していくと予測しています。

 例えば、縦軸に業務分野、横軸に企業規模を置くと、構図がよりはっきりします。中堅・中小企業しかり、タレントマネジメントしかりで、クラウドERPが入り始めたところは、これまでERPパッケージがあまり導入されてこなかったセグメントあるいは分野で、ある意味、ベンダにとっては攻める魅力がある新興市場なのです。そういったところには既存プレイヤーが少ないので新興ベンチャーが参入しやすく、また、新しいテクノロジーを受け入れる素地があるので、クラウド、モバイル、ソーシャル、BIといった新しいITトレンドをふんだんに盛り込んだ製品やサービスが導入されやすいのです。

Question

クラウドERPをガートナーの「ITマーケット・クロック」に当てはめるとどのようになりますでしょうか?

Answer

ITマーケット・クロックは、ERP関連では3種類を出しています。2つは管理系のERPに特化したもので、そのうちの1つである財務管理系のITマーケット・クロックは図1のようになっています。

図1 財務管理のITマーケット・クロック
図1 財務管理のITマーケット・クロック
出典:ガートナー(2010年8月)

ITマーケット・クロックはIT製品やテクノロジーの登場から退出までのライフサイクルを時計に見立てたモデルで、円の外周部にいくほどコモディティ度が高くなります。○や△などは次の市場フェーズにいくまでの年数を表しています。

 3時から6時まではテクノロジーが標準化し、選択肢が増える「チョイス」という市場フェーズですが、「大企業向けSaaS型コア財務アプリ」はこの市場フェーズに移るまで5〜10年かかると見ています。このITマーケット・クロックはグローバルな状況を示しており、日本ではおおむね新興テクノロジーの採用が遅れる傾向にありますので、大企業向けSaaS型コア財務アプリケーションの導入は中長期レベルの計画対象になると言えるでしょう。一方「中堅企業向けSaaS型コア財務アプリ」は成熟度がだいぶ増してきているので、2年未満でチョイスの市場フェーズに入ると予測しています。

図2 人的資本管理(HCM)のITマーケット・クロック
図2 人的資本管理(HCM)のITマーケット・クロック
出典:ガートナー(2010年8月)

図2はいわゆる人事給与系、HCM(Human Capital Management:人的資本管理)のITマーケット・クロックです。「ソーシャル・ラーニング」は通常のEラーニングにソーシャル系の要素を追加してコラボレーションを活性化させるクラウドベースのモデルです。グローバルでは非常に注目を集めており、2年未満でチョイスの市場フェーズに入ると見ています。

 「従業員パフォーマンス管理」は従業員の業績を可視化・管理するツールです。「中堅企業向けSaaS型コアHRMS(Human Resource Management System:人事管理システム)」は人事給与システムをSaaS化したもので、日本でも注目が高まっており、グローバルでは急速に導入が進むと予測しています。ちなみに、「タレント・マネジメント・スイート」を赤字でハイライトしていないのは、企業がやりたいこととして、タレントマネジメントに該当する業務領域については関心が高いものの、キーワードそのものは日本ではまだあまり認知されていないからです。

図3 ERPプラットフォームのITマーケット・クロック
図3 ERPプラットフォームのITマーケット・クロック
出典:ガートナー(2010年8月)

図3は、ERPプラットフォームのITマーケット・クロックです。「マルチテナントSaaSベースERP」は3時近くまで来ており、チョイスの市場フェーズに2年未満で入ると予測しています。また、マルチテナントSaaSベースERPは、それ自体の成熟度が高まっていることに加え、メインフレームベースのERPやホストベースのERPはライフサイクル終了間近あるいは2年未満で終了すると見られていて、それらに代わる次世代ERPプラットフォームの1つに位置付けられているということも示しています。

Question

メインフレームERPなどからマルチテナントSaaSベースERPへと移行していくということでしょうか?

Answer

ERPプラットフォームのITマーケット・クロックは、既存の自社運用型ERPパッケージがなくなるということを示しているわけではありません。クライアントサーバ型やSOA(Service Oriented Architecture)型、BPMとSOAを盛り込んだモデル駆動型アーキテクチャに対応したERPは自社運用型のパッケージのプラットフォームとして残っていきます。より正確に言うと、一部のERPがマルチテナントSaaSベースに移行できる素地としてプラットフォームの成熟度が高まっている、という言い方になろうかと思います。

 以前、弊社のクラウドアプリケーション担当のアナリストが複数人で討議して、クラウドの形態を縦軸にシングルテナント/マルチテナントのテナントモデル、横軸にプライベートクラウド/パブリッククラウドのクラウドモデルを置いたマトリックス表で分類したことがあります。マルチテナントSaaSベースERPは、マルチテナント・パブリッククラウド型に該当します。クラウドERPの形態はこのほかにも、例えばAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)上でERPパッケージを動かすようなシングルテナント・パブリッククラウド型や、ERPベンダのパートナー企業がデータセンタを使ってクラウドベースのアプリケーションを提供するマルチテナント・プライベートクラウド型、自社運用型のERPパッケージを外部のデータセンタに出すシングルテナント・プライベートクラウド型があります。

 単純化して言うと、マルチテナント・パブリッククラウド型はいろいろな資源が共有化されるのでコストメリットは出やすくなりますが、カスタマイズ性は劣る、場合によってはほかの顧客と同タイミングでのバージョンアップを迫られる、といったデメリットがあります。一方、シングルテナント・プライベートクラウド型はインフラの共有だけになるので相対的にコストメリットは出にくいですが、カスタマイズが自由に行える、自社専用のSLAでパフォーマンスなどのサービスレベルをコントロールしやすい、といったメリットがあります。シングルテナント・パブリッククラウド型やマルチテナント・プライベートクラウド型は両者の折衷案といったところです。

Question

クラウドERPは、将来的にはマルチテナント・パブリッククラウド型に移行していくのでしょうか?

Answer

どの形態が1番いいとか、どの形態に移行するといったものではありません。ユーザのニーズや指向性、ガバナンスなどの兼ね合いから、様々な形態が異種混在でハイブリッドに利用されているというのが現実で、それらをどう統合していくかという点が大きなテーマになっていくと思います。


●ありがとうございました。


取材協力

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世界に85の拠点を持ち、約1250人のリサーチ・アナリスト及びコンサルタントを含む4800人以上のアソシエイツで構成されるITアドバイザリ企業。ITプロフェッショナル向けのリサーチ・アドバイザリ・サービス、世界規模で開催されるイベント、CIOや情報担当者に特化したエグゼクティブ プログラム、そして、各顧客向けにカスタマイズされた高度なコンサルティングなどを提供している。


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