BCP策定支援に乗り出した東京都の取り組み

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掲載日 2011/11/17

ザ・キーマンインタビュー 中小製造業は未だ97.7%が未着手の実態。BCP策定支援に乗り出す東京都の取り組みとは?

東京都が2009年(平成21年)に実施したアンケート調査によると、都内の中小製造業でBCP策定の必要性を認識していた企業は3割にとどまり、すでにBCPを作成していたところはわずか1.1%、作成中を合わせても2.3%に過ぎなかった。このような現状に危機感を募らせた東京都は、平成22年度から「事業継続計画(BCP)策定支援事業」を開始。中小企業・団体への直接支援に乗り出した。同事業を管轄する東京都 産業労働局 商工部 経営支援課長の山田利朗氏に東京都の取り組みを語っていただいた。

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山田利朗氏


東京都 産業労働局 商工部
経営支援課長 山田利朗氏

東京都が中小企業・団体のBCP策定を直接支援

Question

東京都が実施している「事業継続計画(BCP)策定支援事業」についてお聞かせ下さい。

Answer

東京都庁:山田利朗氏

BCP策定支援事業は都内の中小企業・団体を対象に、平成22年度から実施しています。東京はBCPの重要性に対する認識をそれ以前から持っており、平成19年度ぐらいから普及・啓発活動を行ってきました。しかしなかなか策定率が上がらない。ならば東京都が企業のBCP策定を直接支援し、それをモデル事例として見てもらうことで、BCP策定を普及させていこうと開始したのがBCP策定支援事業です。

 BCPの必要性は認識していても、どこから手をつけていいか分からない企業は少なくありません。そこでBCP策定支援事業では専門コンサルタントを派遣し、企業・団体の現状に即したBCP策定をお手伝いするようにしています。BCP策定はもちろん1つには危機管理対応がありますが、ビジネス自体を見直すきっかけになるとも考えています。

図1 中小企業におけるBCP策定の現状と課題
図1 中小企業におけるBCP策定の現状と課題
出典:平成21年度 東京の中小企業の現状(製造業編)

Question

平成19年度から普及・啓発活動を行ってきたとのことですが、何かきっかけはあったのでしょうか?

Answer

1つは平成19年(2007年)に起きた中越沖地震です。ある中堅の自動車部品メーカーが被災して自動車のサプライチェーンが寸断され、ある自動車メーカーは約500億円の損害を出しました。被災した部品メーカー自体の損害は約15億円で済みましたが、部品供給が止まったため自動車メーカーの生産ラインがストップし、損害が約500億円にまで広がってしまったのです。

 今の日本はサプライチェーンで企業が密接につながっていて、どこかが欠けると経済の立て直しにかなりの時間を要する構造になっています。今回の震災でもそういった例が数多く見られました。企業の責任として、もちろん従業員を守るということもありますが、ステークホルダーである取引相手も守らなければなりません。そのために普及・啓発活動に取り組み始めたわけです。

Question

BCP策定支援事業によるBCPの策定はどのように進められるのでしょうか?

Answer

「STEP1:BCP基本方針の策定」「STEP2:キックオフ+重要業務の特定」「STEP3:事業継続対策の決定」「STEP4:BCP文書の作成」「STEP5:演習と改善」の5ステップで行います。STEP1は集合研修で、BCPの基本を学んでいただきます。STEP2からSTEP5までは専門コンサルタントによる個別訪問コンサルティングで、自社にとって何が守るべき重要な業務なのかを数ある業務の中から分析して選び出し、災害発生時の被害予防・低減策や事業継続策を考え、それを文書化し、最後に全員参加の演習を実施して組織へのBCPの定着とさらなる改善を促します。

図2 5ステップのBCP策定方式
図2 5ステップのBCP策定方式
出典:平成22年度 東京都BCP策定支援事業取組事例集

Question

策定すべきBCPの内容は業種や企業規模によって違うのでしょうか?

Answer

全く違います。業種、業態、企業規模などによって千差万別です。平成22年度のBCP策定支援事業には35社が参加しましたが、製造業、情報通信業、サービス業、卸売業など多岐に渡っていて、従業員数も数名から300名以上までと大きな差があります。このため、基本的な考え方は変わりませんが、定める内容は全く違ってきます。例えば危険物を取り扱う企業なら自ずとそれがBCPの中心になってきますし、卸売業なら物流を維持するための燃料をどう確保するのか、情報通信業なら自分たちの経営資源である情報をどう守るのかなど、重点、力点の置き方が全く違ってきます。

 情報通信業でも、データベースを事業のコアに位置付けている企業とソフトウェアハウスでは守るべきものは違います。しかしデータが事業継続の生命線なのは同じですので、それをいかに守るかを中心にBCPを定める傾向が強いですね。バックアップを遠隔地のデータセンタに置いたり、クラウドサービスを利用したり、あるいは社長が自宅に保管したりといろいろ工夫されています。情報通信業以外でも情報資産を経営資源として重視されているところは、いかにそれを守るかをBCPに組み込んでおられるようです。

Question

BCP策定時の重要なポイントは何でしょうか?

Answer

守るべき企業のコア事業です。災害発生時にはすべての事業を守ることはできません。事業を継続する上で、企業として生き残る上で、何が守るべきコア事業なのかを考えて事業を絞り込むことです。BCP策定が企業のビジネスを見直すきっかけになると考えているのはそのためです。


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BCP策定の重要性を啓発するためフォーラムを開催

Question

去る10月20日に東京ビックサイトにて「東京都 中小企業BCP策定推進フォーラム〜35社を変えた『動くBCP』の全貌」が開催されました。同フォーラムの趣旨をお聞かせ下さい。

Answer

東京都庁:山田利朗氏

「地震、洪水、新型インフルエンザなどの災害が発生した時に、ちゃんと社員を守れますか? 事業は動きますか?」という問いに答えるために、平成22年度は35社の企業・団体がBCP策定支援事業に参加されました。その事業で策定されたBCPの事例を多くの方々に知っていただき、BCP策定の必要性、重要性を啓発していこうということで中小企業BCP策定推進フォーラムを開催しました。特に中小企業はBCPの策定率が低いので、フォーラムで紹介された事例に触発されてBCP策定の輪がどんどん広がっていくことを願っています。

 同フォーラムでは、35社の中から1次審査を通過した4社の成果発表が行われ、6名の審査員による2次審査の結果、最優秀賞1社、優秀賞1社、および奨励賞2社を選定しました。審査基準は1次審査、2次審査ともに共通で、BCPの内容や取り組み体制のほか、BCPの策定が経営改善にどのように寄与したかや今後どのように生かしていくのかといった点を審査しています。

 中小企業のBCPで特に重要なのはリーダーシップです。ある人がリーダーに立てない場合はこの人がリーダーをやる、といった体制が組まれていてそれがちゃんと機能するようになっているかや、モデル事例の側面もありますので、他の企業にも適用しやすい汎用性があるかなども含めて多面的に評価して、最優秀賞に緩衝包装材製造業の生出を、優秀賞に酒類卸業の升本総本店を、奨励賞にメーリングサービス業の興伸と配電盤類製造業の国分電機を選定して表彰しました。賞は分かれましたが、4社の取り組みがともに非常に優れたものであることは間違いありません。

Question

平成22年度のBCP策定支援事業の全体の評価はいかがでしょうか。

Answer

企業規模や業種、業態などによってそれぞれ違いますのでなんとも言えません。ただ、BCP策定支援事業は平成22年度に始まったばかりの事業ですので事例はまだ少ないですが、事例がどんどん増えていき、この業界ではこんな企業がやっている、こんな事例がある、自分たちもやってみよう、といったように、事例に触発されてBCPを策定する企業が増えてくれれば成功だと思っています。フォーラムの来場者に35社の取り組み事例集を配付しましたし、BCP策定支援の一環として作成した「−日本が変わる 東京が変える−東京発 チーム事業継続」というホームページからもダウンロードできるようにしています。

Question

コンサルティングなどの直接的な支援がなくても、自社と企業規模や業種、業態が似た事例を参考にしながら自発的にBCPを策定していくというのが最終的な目標になるわけですね。

Answer

その通りです。ただ、チェックシートのマス目を埋めたら完成といったように単純に考えてしまわないでほしいと思います。BCPは文書化したら終わりというものではありません。実践(演習)し、改善点がないかを繰り返し検証していくことによって初めて完成するものだと思っています。BCPもPDCAサイクルを回して絶えず改善していくことが重要です。


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どこから着手したらいいか分からない企業へのアドバイス

Question

平成23年度は70社5団体がBCP策定支援事業に参加しています。来年度以降の計画について教えて下さい。

Answer

予算がからむ話なのでなんとも言えませんが、続けていきたいというのが私どもの考えです。

Question

中堅、中小企業は、これからBCPの策定に着手するところが大半です。BCP策定に取り組みたいのだけれどもどうしたらいいか分からない方々に対して、その第1歩としてのアドバイスはありますでしょうか。

Answer

東京都では『いきなりBCP策定と言われてもハードルが高い……』と思っておられる企業を対象に、1日研修の形でBCP策定の基本を学び、策定プロセスを実体験してもらう「中小企業BCP One Dayセミナー」を開催しています。このようなセミナーは他の自治体も行っていますので、まずは参加することが大事だと思います。

Question

BCP策定というと、大きな労力をかけて分厚い文書を作成するといったイメージを持っている方もいらっしゃるかと思いますが。

Answer

東京都庁:山田利朗氏

まずはできることからです。文書作成にこだわりすぎないことですね。それに分厚い文書が良いわけではありません。例えば中小企業庁が最初に出したBCPマニュアルは300ページ近くあり、読みづらかったため、次に出したものは30数ページと少なくなりました。

また実際に、例えば興伸の事例にもありましたが、災害対策本部とBCP支援チームのメンバーのオフィスの椅子に背負わせた災害対策リュックからサッと取り出して使えるくらいシンプルなものでないと、イザという時には使いこなせないでしょう。もちろん企業全体のBCP文書は別でしょうが、個々人がやるべきことはできるだけ絞り込んで薄いマニュアルにした方がいいでしょう。

Question

先ほど挙げられた中越沖地震のケースもそうですし、今タイで起こっている洪水でもそうですが、サプライチェーンを考えるとBCPはオールジャパン的な取り組みが必要になっていくのでしょうね。

Answer

東京都はホームページのタイトルにもあるように「日本が変わる 東京が変える」という心構えでBCP策定支援に取り組んでいますが、今回の震災や過去の災害で被災された自治体は意識が高く、非常に優れた取り組みを行っているので、良い意味での競争と連携・情報共有を進めながら、BCP策定支援を推進していきたいと思っています。


●ありがとうございました。


取材協力

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