海外はプライベートクラウド優勢…日本は?

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掲載日 2011/09/08

ザ・キーマンインタビュー 導入の真剣度が増す「クラウド」〜海外はプライベートクラウドが優勢、日本はどうなる?

震災やその後の節電要請などを受けて、多くの企業がディザスタリカバリ、BCP対策、グローバル展開といった様々な課題に対する“答え”を導き出そうとしている、その有力な手段の1つとして目されているのが「クラウド・コンピューティング」だ。機運としてはクラウドへの流れが早まったように思えるのだが、実際にはどういう情勢になっているのだろうか。クラウドの市場動向、そして、クラウド時代の到来を控え、企業は、そして、ビジネスはどのように変化しつつあるのかを、ガートナー ジャパンの亦賀 忠明氏に語っていただいた。

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亦賀 忠明氏


ガートナー リサーチ バイス プレジデント 兼 最上級アナリスト
亦賀(またが) 忠明氏

クラウド「検討中」だった企業が、前倒しで導入を「計画」し始めた

Question

先頃の震災で改めてクラウド・コンピューティングに注目が集まり、市場規模も大きくなりつつあるのではないかと予想されますが、実際に変化などは起こっているのでしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン株式会社:亦賀 忠明氏

少なくとも震災の直後の1〜2ヵ月くらいは急激にクラウド・コンピューティングへの関心が高まったと見ています。ディザスタリカバリに有効ではないかという観点で期待値が高まり、導入の可能性についての検討が行われたと考えられます。ただし、その後、大幅に導入が加速したか、需要が伸びたかと言うとそうではないと見ています。

 理由は以前から言われているように、やはり、信頼性とセキュリティの問題にあります。社内情報システムの全体にしろ、一部にしろ、いざ外に出すということになるとやはり躊躇してしまうケースが多い。もちろん、対象となる要件にもよるでしょうが、特に企業の個人情報や金銭情報が含まれる基幹システムを外に出すのは、リスクがあるという判断が働いていると言えます。

 もともと、経営者には「コスト削減をクラウドで実現できるのではないか」という意識が広がっていると考えられますし、実際に情報システム部門などへ「当社はなぜクラウドを使わないんだ」というプレッシャーがかかっていたケースも少なくありません。

 ただ、それを受けてクラウド導入を現場レベルで検討するに至っても、信頼性やセキュリティの面で自社の要求に100%応えられないという問題が浮き彫りになってしまう。これは、現在のパブリッククラウドが、多くのビジネス要件に合致していないことを意味しています。また、実際、提供する側のベンダやSIerが、「震災対応」といった一方的な側面からクラウドの効果を語り、こうした混乱を想定した準備ができていないといったことが大きいと見ています。

Question

震災の影響は実質的な変化にはつながっていないということになるでしょうか。

Answer

震災以降と以前では、導入する企業側のクラウドへの真剣度が変わったという点には注目しておくべきかと思います。ガートナーのクライアントからの質問でも、震災以降、これまで以上にクラウドへの真剣さをうかがわせる質問が増えるようになってきています。

 中長期的には、クラウド・コンピューティングが企業の基盤における重要度を増していくのは間違いないでしょう。しかし、成熟した技術として安定するまでにはいくつかのフェーズをたどることになります。ガートナーではテクノロジの普及の過程を、ハイプサイクルと呼ばれるチャートを用いて説明していますが、クラウド・コンピューティングも、「テクノロジの黎明期」「過度な期待の ピーク期」「幻滅期」「啓蒙活動期」「生産性の安定期」という段階を踏んでいくと考えています。

図1 クラウド・コンピューティングのハイプサイクル
図1 クラウド・コンピューティングのハイプサイクル
出典:ガートナー(2011年4月)

では、現在はどの段階にあるのか。既に「幻滅期」ではないかという感覚を持っている方も多いかもしれませんが、ガートナーとしては、引き続き「過度な期待のピーク期」にあると考えています。これは、ITのクラウド化を巡って誤解や混乱、困難が生まれている状態です。ただ、今のタイミングで企業側の真剣度が変わったことで、提供する側はきちんと裏づけを持った上で提案を行うようになっていき、導入する側も冷静に必要かどうかの判断ができるようになるのではないかと考えています。


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クラウド化の“棚卸しと仕分け”を細かく行う必要がある

Question

クラウドには様々な形態がありますが、それぞれの動向についてはどのように考えますか?

Answer

ガートナー ジャパン株式会社:亦賀 忠明氏

米国を中心とするグローバルでは、多くの企業が「プライベートクラウドにより多くの投資を行う」と考えています。これはガートナーの調査結果として出ています。一定以上の規模の企業においては、パブリッククラウドでは自社のビジネス要件を100%満たすことは難しいと考えており、企業の情報システムそのものをクラウド化しようという意識が強い。

 このことから、クラウドは当面、プライベートクラウド、すなわち、自社の情報システムの仮想化の発展系としてのクラウド化が引き続き行われるようになると見ています。これはサーバ、ストレージ、ネットワークといったインフラストラクチャのレイヤが進化することを意味しており、プライベートIaaSと言うことができます。

 今後はプライベートIaaSを中心に、更にプライベートPaaS、プライベートSaaSといったように発展させる企業が増えてくるものと考えています。ただし、そのためには有効なテクノロジやメソドロジが必要となりますが、現時点でこれらが一般的に明確になっているかと言うと必ずしもそうではなく、今後、ベンダがより注力すべきテーマになると考えます。

 パブリッククラウドについては企業での活用事例が出てきていますが、多くの場合は「割り切って使う」としたユーザ企業で効果が表れています。先ほどから述べているように、パブリッククラウドは企業のビジネス要件を100%満たしているわけではないというのがその理由です。しかし、このことをもって、パブリッククラウドが使えないと考えるのは早計です。多くの企業ITでは、すべてをこれまでどおりに完璧にしなければならないという思いがあることは確かでしょうが、昨今のようにコストプレッシャーが強い、また変化が激しい状況にあっては、どこかで割り切る必要があるとも言え、そうした割り切りができるなら、パブリッククラウドも有効に活用できる可能性があるという見方をすることも重要です。

 このあたりは、仕分けの必要性につながってきます。そもそも、企業にどのような業務システムがあり、(それらの多くは基幹系と呼ばれているが)本当にすべて止まってはならないものなのかどうか。そうした観点から、業務システムをまずは棚卸し、また要件によって仕分ける必要があります。日本的には「松・竹・梅」、グローバルでは「ゴールド・シルバー・ブロンズ」といったような区分を用い、このあたりの仕分けを行う企業が出てきています。

 パブリッククラウドについては、当面、梅や竹クラスの業務システムが候補となるでしょう。松クラスから検討することは、相当なチャレンジとなります。結果、仮にクラウドに出せたとしても、そこに想定外のコスト、時間がかかり、更にリスクがあるということでは、何のためのクラウド化だったのか、ということになりかねませんので、事前に注意して検討することが重要です。

 このような状態ではありますが、テクノロジ的には今後、プライベート、パブリックの双方ともに、時間をかけながら進化していくでしょう。また、既にプライベートとパブリックをつなぐハイブリッドクラウドと呼ばれるものも併せて現実化していくと考えています。

 なお、ハイブリッドクラウドについては多くの場合、概念先行な状況です。また、具体的テクノロジによるものであっても“試行的”なものであるととらえた方がよいでしょう。企業は、具体的にどういうテクノロジで双方をつなぐことができるか、相互接続性、相互運用性をどうやって満たすことができるかを見極める必要があります。単に、企業内にある既存システムとアウトソース先のデータセンタをつないだだけでハイブリッドクラウドであるといったことが語られかねない機運があり、このあたりは注意する必要があります。

Question

日本も同様の流れをたどっていくのでしょうか?

Answer

先ほど、米国を中心とするグローバルでは、プライベートクラウドの機運が高いと述べましたが、日本ではかつてのアウトソーシングのように、すべてを外に出すことが助長される機運が高いように思います。よく使われる“所有から利用”“持たざるIT”といったキーワードは、決して間違ったものではないですが、少々モノゴトを単純化しすぎている印象を持っています。

 一昨年あたりから大手ベンダが専門組織を立ち上げるなど、クラウドを提供する側は「売り」の姿勢に入っています。ただ、ベンダはクラウドを売りたいでしょうが、導入する側の企業にとってはクラウドそのものが目的ではなく、目的達成のための1つの手段にすぎませんし、必ずしもクラウドを買いたいわけではありません。提供する側は、ただクラウドを売りたいという姿勢だけではなく、課題となりがちな信頼性やセキュリティの更なる向上に取り組んだり、サービスをより洗練されたものにしたり、コストを一層抑えるなど、企業が納得して導入できる仕組みづくりに注力すべきでしょう。

Question

導入する側はコスト削減、可用性向上など、各自の目的を達成できれば手段は何でもいいわけですからね。ほかに導入する側が注意すべき事柄はありますでしょうか?

Answer

導入する側も「外に出す・出さない」「預ける・預けない」といったイチ・ゼロではなく、どの部分にどのクラウドが適用できるか、あるいはクラウド化は必要ないかということを、自社の業務システムの中で細かく“棚卸しと仕分け”を行っていくべきでしょう。クラウド化が可能な部分があったとしても、それで終わりではなく、クラウド化することでビジネス上、何らかのメリットがあるかどうか、あるいは逆にリスクがあるかどうかを検討する必要があります。

 そのあとには、SLAベースの確認であるとか、自社の要件を満たせない場合にはどうするかといったベンダとの交渉も必要ですし、いろいろと社内調整も必要でしょう。これは相当に重たい作業ですが、それを乗り越えて、「情報システムをより強固にしたい」「無駄なコストを削減したい」「利便性を向上したい」といった本来の目的を果たした企業も出てきています。

 ユーザ企業はクラウドという言葉に振り回されることなく、企業のビジネスの何がよくなるかという観点で、こうした素材の意義を検討することが重要です。クラウド・コンピューティングが過度な期待のピークにあるため、このような混乱はつきものですが、クラウド・コンピューティングと語られ始めて既に4年が経過しているということを考えた場合、こうした混乱はそろそろ落ち着くべき時に来ていると考えます。


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変化が求められる情報システム部門の役割と意識

Question

こうしたクラウドへの取り組みというのは、やはり情報システム部門がリードして実行すべき事案ということになるのでしょうか?

Answer

ガートナー ジャパン株式会社:亦賀 忠明氏

クラウド・コンピューティングは、情報システム部門だけの範疇ではなく、将来的に企業ビジネスそのものに影響を与えるテーマとなります。ただ単に、既存業務を置き換えられるか、クラウド化できるかといった視点で検討しているだけでは、企業競争力の維持や成長には結びつかないでしょう。現在の業務システムのクラウド化や仮想化で終わりではなく、これらを新たなテクノロジによる新たなビジネスとイノベーションのきっかけにする必要があります。

 これからの時代におけるビジネスは、業務中心ではなく、テクノロジがビジネスを駆動していく時代になると考えています。これをテクノロジ駆動型ビジネスと呼んでいますが、そのためには情報システム部門がそうした時代の到来を意識しつつ、自らの役割を再考し、積極的に影響力を行使する必要が出てきています。

図2 テクノロジ駆動型ビジネス:グローバルスケール、弾力性、コスト競争への備え
図2 テクノロジ駆動型ビジネス:グローバルスケール、弾力性、コスト競争への備え
出典:ガートナー(2011年4月)

Question

今後、クラウドサービスが企業に浸透していった場合、情報システム部門の役割は変化していくのでしょうか?

Answer

クラウドの時代において、情報システム部門とはITの企画・構築・運用を行う部門から、社内サービスプロバイダへと、その役割を変えることになります。そういう意味では、クラウドは企業におけるIT、ひいては情報システム部門のあり方を問うという意味で1つの大きなきっかけをもたらしていると考えられます。

 もちろん、それは社内の下請けのような立場になるという意味ではなく、先ほど述べたようにビジネスにおいてテクノロジは今後非常に重要になります。

 今後、情報システム部は、戦略家、研究開発、新しい時代のプロフェッショナルとして、企業のビジネスの根幹を支え、ビジネスをリードする主役になっていくと考えられますし、またそのようになる必要があると考えます。


取材協力

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世界に85の拠点を持ち、約1250人のリサーチ・アナリスト及びコンサルタントを含む4500人以上のアソシエイツで構成されるITアドバイザリ企業。ITプロフェッショナル向けのリサーチ・アドバイザリ・サービス、世界規模で開催されるイベント、CIOや情報担当者に特化したエグゼクティブ プログラム、そして、各顧客向けにカスタマイズされた高度なコンサルティングなどを提供している。


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