震災に遭っても納品期日を厳守するワケ

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掲載日 2011/08/18

ザ・キーマンインタビュー 「仙台から日本を元気に!」発起人 佐々木社長が語る 震災に遭っても納品期日を厳守するワケ

3月11日(金)、東北地方太平洋沖地震の大きな揺れに続き、津波や余震に見舞われた仙台では、「しばらくは地方紙に載る情報が頼りだった」というほど情報流通が滞った。しかし物流状況が不明な中にあっても、14日(月)には仙台から商品を東京に向けて発送して納品期日を遅らせなかった企業がある。それがトライポッドワークスだ。同社はいち早く社員の安否確認を済ませるとともに、Webサイトで仙台からの情報発信を行い、同社のみならず仙台市街地の本当の状況を伝える役割も果たした。同社が早期の業務再開や情報発信を行えた理由、BCPに関するアドバイス、更には東北IT業界に共通する課題とそれに対する答えに至るまで、同社社長の佐々木氏に語っていただいた。

トライポッドワークス株式会社 企業サイトへ

佐々木 賢一氏


代表取締役社長
佐々木 賢一氏

大震災からの業務復旧…「納品期日」にこだわるワケ

Question

大震災の時、最も困ったことは何でしたか?

Answer

トライポッドワークス株式会社:佐々木 賢一氏

最も困ったのは、情報の流通が止まったことです。
 3月11日の地震の際に、仙台市内は激しい揺れに見舞われましたが、当社をはじめ市街地のビルや商店などは、ひどい損傷を受けたわけではありませんでした。当社は幸いすぐにも業務を再開できる状態でしたが、肝心の物流に関する情報が入ってきませんでした。
 当社の主力商品はセキュリティアプライアンスです。その商品を期日どおりにお客様に納品することがその時の重要課題でした。鉄道は止まり、高速道路は分断されてしまっていることが分かりましたが、そのほかの道路がどのような状態なのかが分からない状況でした。  また情報の流通が停止するもう1つの側面として、当社の状況や仙台市街地の被害状況がお客様やパートナー様に伝わらないもどかしさも感じました。仙台市街地は、地震後もビルや住宅の多くは無事だったのですが、他の地域の方からはずいぶん心配していただいたようです。
 沿岸地域の状況をテレビでは繰り返し放送していましたが、仙台の市街地についてはほとんど報道されることはなかったと思います。有線の電話は止まっていましたし、お客様としても自分から当社と連絡をとることを控えられたのかもしれません。

Question

情報の流通が滞る中、まずは社員のみなさんの安否確認をされたと思いますが、どのように連絡をされましたか?

Answer

幸いなことに携帯電話の回線とインターネットが生きていたので、地震発生後1時間ほどで当社の社員19名全員の無事が確認できました。
 その時には東京拠点に10名、仙台本社に6名、札幌拠点に3名が勤務していました。安否確認の連絡のためには、メールのほか、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを利用しました。当社ではもともと、ロケーションにとらわれない事業体を目指すという考え方をとっており、仙台でも東京でも札幌でも、それぞれの地の利を活かして人材を活用する試みをしています。社員にはスマートフォンとメディアタブレットを業務用に配布しており、横浜のデータセンタに設置したメールサーバやWebサーバがどこからでも利用できるようにしていました。
 こうした仕組みと、ソーシャルメディアを携帯端末から使いこなせる社内文化が功を奏して、短時間での安否確認ができたのだと思っています。

Question

お客様に向けての現状報告などはどのようにされましたか?

Answer

トライポッドワークス株式会社:佐々木 賢一氏

安否確認の後は、何はさておき横浜にあるWebサーバのコンテンツをアップデートしました。これが事実上の業務再開となりました。
 Webサイトでは、まずは「本日の営業は終了しました」という旨のアナウンスを行い、次いで安否確認の結果、社員の無事が確認できていること、そして3月14日の月曜日から営業を再開するという決断について掲載しました。これはお客様やパートナー様に当社の状況を正確に知っていただくことが目的でした。
 何しろ当日、テレビでは仙台の名取川に津波が押し寄せ、濁流が建物や車、道路を飲み込んでいく映像をたびたび流していました。その恐ろしい被害の状況を見て、仙台の市街地も相当な被害に見舞われているに違いないと思った方が多いと思います。当社のWebページにアクセスしてくれた方は、どうやらそれほどのことはなさそうだと安心してくれたはずです。事実、大震災の騒ぎがおさまった頃にお客様やパートナー様の多くから、Webページを見て安心したという声を聞きました。もしもこのアップデートが遅れていたら、ビジネスチャンスを失い、ブランドイメージを損なったに違いないと思っています。すばやい情報発信は、実はとても重要なことです。
 なお、事業再開後には地域の同業者に声をかけて回り、情報を集めてFacebookページ「仙台のIT企業ファンページ」で発信することも行いました。その際に「仙台から日本を元気に」キャンペーンを呼びかけ、賛同を得て被災者支援などの地域貢献ができました。これは地域のモチベーション向上につながったと思います。

Question

するとITインフラの被害はあまりなかったのですね?

Answer

仙台拠点で壊れたのはテスト用のサーバ1台と、ネットワークのルータが1台だけでした。ただしこれは単に幸運だっただけかもしれません。机の上に載っていたPCは全部落ちてしまいましたし、ラックに収容していなかったサーバものきなみ転倒してしまいました。特にサーバの被害にはヒヤリとしましたね。電源が急に切れるとともに、筐体が吹っ飛んでしまうという二重の危険がありました。
 データベースサーバが無事なのが確認できた時には安心しました。顧客管理や開発用のサーバも仙台にあったのですが、結局は無事でした。
 これについてはこれからの大きな課題ですね。失ってはいけない情報はクラウド上に保管するといった対策が必要だと思っています。
 データセンタに収容していたサーバのほうは、横浜はもちろん、仙台でも問題はありませんでした。仙台では実は毎年のように震度5程度の地震は起きていましたので、建物も人間も、揺れには慣れていた面があります。

Question

本格的な業務再開はどのようにされましたか?

Answer

とにかく東京に向けて、商品を送り届けなければいけないという使命をクリアすることが最優先でした。どこからも物流の状況についての情報が入ってこないので、私は「ウチよりももっと困っているところはどこだろう」と、いわば逆転の発想をしました。山形には、当社製品のセキュリティアプライアンスのハードウェアを提供している会社があります。ハードウェアが主力の会社であればこそ、命綱の物流の情報は正確に把握しているだろうと考え、その会社の社長に電話をしました。
 この策が当たりました。山形から新潟経由で東京に運ぶ物流ルートが生きていることが分かり、そのルートを使わせてもらえることになりました。運のよいことに、当社の仙台拠点には山形出身の社員がいて、雪が降る一般道で万一通行できない部分があっても、別の道を選べるくらいの土地勘がありました。しかもその社員は新潟の大学出身者でもあり、家族が新潟に住んでいました。その頃はガソリンが入手しにくく、片道分は用意できても帰ってこられるかどうか保証できない状況でしたから、臨機応変に家族のもとに泊まってもらう選択ができるのはありがたいことでした。
 その日のうちに社員の車に商品を50台ほど積んで山形に運びました。次の日は新潟の物流拠点まで60台ほどを直接運ぶことができ、お客様への納品を遅らせることはありませんでした。
 月曜日に業務再開した後、水曜日には配送すべきものを手配し終わり、1つの区切りをつけることができました。その後は業務時間を短縮し、明るいうちに家に帰って家の片付けや地域の復旧活動などのために時間が使えるようにしました。食糧の調達にも苦労する時期だったので、ここで区切りがつけられたのは良かったと思います。

Question

そこまでスムーズな納品にこだわったのはなぜですか?

Answer

トライポッドワークス株式会社:佐々木 賢一氏

当社のように小規模で新しい企業はブランドがまだまだ確立できていません。天災とはいえ、業務が停止してしまうようだと、外部の企業が取引にリスクを感じてしまうことがあり得ると思っています。
 当社は今6年目の会社ですが、3年前のリーマンショック以来、企業ブランドには細心の注意を払っています。この頃から取引先の企業は相手の財務内容を厳しくチェックするようになりました。当社はお客様との直接取引のほかに、間に代理店が立つ形での取引も行っています。設立から間もない頃の当社は、ユーザ企業からは引き合いがあるにもかかわらず、間に立つ会社が取引を見合わせるということが現実に何度もありました。
 この経験から、新しい会社はブランドが大切だと強く思うようになりました。信用を維持し、向上させるためには、まずは約束を守ることが大事です。当社では中小企業からの引き合いが多いので、月々150社ほどお客様が増えています。これまでに合計3300社ほどに商品を納入していますが、期日に遅れたことは1回もありません。これが1番の信用の礎だと思っています。


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普段通りのことしか実はできない!「BCP対策」のポイントとは

Question

大震災とその後の出来事を振り返って、BCPが役立った部分と、そのほかの業務再開に役立ったポイントを教えて下さい。

Answer

BCP対策として何があるというのは既に語り尽くされていますね。緊急時のためにどう備えるかというより、むしろ、普段の業務の仕方を変えていくべきなのではないでしょうか。その延長上に緊急時の対応を位置づけるのがよいと思います。
 IT部門としては、まず情報をどう収集してどう伝えるのか、情報共有や伝達の仕組みを作って常に使えるようにしておくことが重要です。
 例えばソーシャルメディアを活用した安否確認や情報共有は、大震災時におおいに役立ちました。しかしこれはソーシャルメディアを使う企業文化が普段からあって、社員全員がそれに馴染んでいたからできたことだと思います。
 また今回はその必要がなかったのですが、もしも会社で仕事ができない状態になったら、自宅やほかの事務所で仕事をすることも考えなければなりません。在宅勤務の制度を用意していても、緊急時以外に制度が利用できないようでは、いざ必要になった時にうまくいかないことは目に見えています。これも普段から、どこにいても仕事ができるように情報を流通させる仕組みと、それを利用する習慣を作っておく必要があります。例えば国内の複数の拠点や、海外の拠点からでも、同じ情報をベースにして業務が行えるようになっているとよいですね。
 更に重要なポイントとして、現場でのリーダーシップの問題があげられます。特に緊急時には誰が命令の権限をもつかが重要だということを今回は痛感しました。現場で権限をもって指揮できる人材を育てる必要がありますし、社員全員が自律的に考えて行動できるようでなければなりません。
 ちなみに、被災地で1番機能していた組織は自衛隊でしたね。隊長が被災者の気持ちや意見を聞いて、ニーズにマッチした行動をとっていました。自衛隊の隊長には、状況を自律的に判断して、するべきことを隊員に実行させる権限がありましたし、隊員はその命令には絶対に従います。何が起きるか分からない状況の中で、スピーディに的確な判断をして実行に移せるリーダーシップに感服しました。
 当社の場合では、震災時に私が仙台にいたので、誰が指揮をとるのかが明白でした。これが早期に業務を再開できたもう1つの理由です。社員同士がお互いの状況を早い段階で確認し合えたことに加え、リーダーが引っ張ることでみんなが不安を消し去れたことがスムーズな業務再開に結びついたと思います。社員はそれぞれモチベーションを高くもち、自律的に考えて動いてくれました。


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震災でクローズアップされた東北IT業界の課題と展望

Question

大震災後の東北のIT業界について、課題と展望をお聞かせ下さい。

Answer

トライポッドワークス株式会社:佐々木 賢一氏

東北のIT業界は大震災前から課題を抱えていました。それが震災後に更に大きくクローズアップされてきた印象です。
 もちろん震災によって製造業の会社の多くは打撃を受けましたし、沿岸部にある会社は業務再開に必死でITどころではないという状況です。更に東北唯一の大企業ともいえる東北電力も大きな被害を受けていて、IT投資が絞られているようですから、東北のIT業界は大変です。
 しかしクローズアップされてきたのは、もっと構造的な問題です。東北6県のIT業界の売上シェアは全国の1.8%しかありません。2000年時点のシェアは2.3%ありましたから、だんだんと小さくなっている状況です。しかも、東北IT業界の下請け比率は39%。これは全国でも突出して高い比率です。多くの仕事が大企業の下請け、孫請け、あるいは技術者の派遣業務に偏ってしまっている現実があります。しかも大震災という出来事は、ITユーザのクラウド化への勢いを加速するでしょう。それは自社でスクラッチ開発しようというユーザが少なくなることを意味しています。
 現在はにっちもさっちもいかない状況に見えます。しかし5、6年後に振り返ってみた時、実は今がターニングポイントだったということになるかもしれません。将来のIT業界では、現在のような人月計算で積み上げる見積りは無くなっているのではないでしょうか。投資コストを抑えようと思えば、人月の単価を下げる以外にありません。結果として海外でのオフショア開発に向かわざるを得ません。既にこの方式は限界に来ています。
 その限界を破るには、IT企業が自分たちで価値を生み出すことだと私は思います。自社商品やサービスの絶対的な価値でビジネスをする時代になっていくはずです。モノの価値によって値段が決まるという、当たり前のビジネスを目指さなければなりません。そのようなビジネスなら、東京にいなくてもできます。この状況は、地方の企業が中央の大企業をリードできるかもしれない大チャンスなのではないかと考えています。


●ありがとうございました。


取材協力

トライポッドワークス株式会社 企業サイトへ

2005年11月設立。仙台市青葉区に本社を置き、横浜、札幌、東京都千代田区に拠点を展開する。Web用、メール用のセキュリティアプライアンスを中心に、オンラインストレージソリューションなども提供。ITコンサルティング事業、SI事業、セキュリティ事業、先端技術開発事業も手がける。東日本大震災の被災者支援と経済復興を目指して、地元企業による「仙台から日本を元気に!」実行委員会と、全国のIT企業による「ITで日本を元気に!」実行委員会を発足、推進している。


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