個人情報保護・愛国者法…クラウドの注意点

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掲載日 2011/08/04

ザ・キーマンインタビュー 著作権、個人情報、サービスレベル…「クラウドコンピューティング」利用時の注意点

企業のIT投資が絞られる中で、クラウドコンピューティングは期待の星だ。コスト削減効果やサービス立ち上げまでのスピードなど、その有用性に惹きつけられる一方で、具体的に社内システムをクラウドサービスに移行することを考え始めると、サービスレベルが維持できるかどうかや、セキュリティ上の問題、データ保全や機密情報保護に関する問題など、様々な懸念が頭をもたげるようになる。一方、経済産業省では、そうした懸念に応えるガイドラインなどを次々に公表しており、クラウドコンピューティングサービスの拡大から次世代クラウドコンピューティングの実現やサービス提供に至る工程表も策定して、着々と国際競争力確保に向けて計画を進めている。そんな取り組みについて同省のキーマンに聞いた。

経済産業省 企業サイトへ

田辺 雄史氏

商務情報政策局
情報処理振興課
課長補佐 田辺 雄史氏

恵藤 洋氏


商務情報政策局
情報処理振興課
係長 地域業務IT係長 恵藤 洋氏

クラウドコンピューティングサービス発展のポイント

Question

クラウドコンピューティングの活用について、日本の各府省、特に経産省ではどのような取り組みをされておられますか?またそのロードマップのようなものはありますか?

Answer

【田辺】各府省では、短・中期のクラウドコンピューティングサービスの競争力確保について工程表(図1)を作成し、連携して取り組んでいます。

図1 クラウドコンピューティングサービスの競争力確保等工程表
図1 クラウドコンピューティングサービスの競争力確保等工程表 資料提供:経済産業省
出典:高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部『新たな情報通信技術戦略』平成22年6月22日

この図に見るように、現在はクラウドコンピューティングサービスの実証実験やデータセンタの国内立地拡大を進めながら、各種の基準やガイドライン、技術標準を固めようとしているところです。
 昨年8月には「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」報告書を公表しています。この報告書では「イノベーションの創出」「基盤整備」「制度整備」という3つのメッセージを表明しました。これらの推進によって、既存のITシステムがクラウド化する部分も含めて2020年までに累計40兆円を超える新サービス市場の創出ができると考えています。

■イノベーションの創出

「イノベーションの創出」の要点は、従来コストセンタとして扱われがちだった企業のITを、クラウドによってビジネスのイノベーションを生み出す道具にしようということです。クラウドなら、従来はコストの問題で取り扱えなかったような大量のデータが低コストで取り扱えるようになります。平たく言えば「ITが安くなる」のです。これは大量データの利活用がしやすく、イノベーションを生み出しやすい環境を作ります。私たちは、その環境を利用してどんなサービスや新産業ができるのか、各種の実証実験を行っています。

■基盤整備

実証実験とともに行っているのが「基盤整備」です。このポイントは大量のデータを扱うための情報処理技術の向上と、「匿名化」を自動的に行うための技術です。
 情報処理技術に関しては技術ロードマップを報告書に添付(http://www.meti.go.jp/press/20100816001/20100816001-5.pdf)しています。その一部である「匿名化」は、例えば医療情報のプライバシー保護などをイメージして下さい。個々の症例などの情報を大量に集めて医学的な進歩に役立てることは大事ですが、そのデータが基で個人のプライバシーが侵害されるようでは困ります。その場合は必要な情報だけに絞り、たとえその情報が二次利用、三次利用されても決して本人が特定されないようにする技術のことです。

■制度整備

データの利活用の部分は「制度整備」にも関わっています。制度としても匿名化を活用してプライバシーに配慮したデータの利活用を進めていけるようにしたいと思っています。企業などが個人情報保護に配慮するあまりにデータの利活用をためらうことがないように、1つの判断基準を作りたいと思っています。

Question

実証実験の主な例と成果を教えて下さい。

Answer

【田辺】では、3つの実証実験について紹介しましょう。

■三次元バーチャルリアリティ技術をクラウド上で実現

経済産業省:田辺 雄史氏

1つは、大量のデータ処理やネットワーク伝送が必要なサービスの実証実験です。世界の様々な場所の地理・空間情報を三次元モデリングし、都市計画の合意形成や防災対策に役立てる技術は既に存在し、これまでも利用されてきました。しかしながら3Dデータは扱うデータ量が非常に多く、クラウドのようなネットワーク経由の環境で利用することは不向きとされています。そこで、クラウド環境でも三次元モデリングデータの利用がスムーズに行えるように、大量のデータを高速にモデリングすると同時に、ネットワーク環境でもストレスなく、モデリングデータを利用できる技術について開発を行っています。昨年度は、三次元モデリングがデスクトップPCから行えるところまで実現しました。今年度はスマートフォンなどの携帯端末で動作するようにするとともに、他のアプリケーションから利用できる共通APIを整備しています。これは建設事業が盛んな海外でのビジネスにも有望なサービスです。

■社内の基幹システムと同程度の信頼性を実現する技術

現在パブリッククラウドの信頼性は99.9%と言われていますが、実はこの数字は年間では8時間は停止するという可能性を示しています。メールなどのシステムではそれでも問題ないかもしれません。しかしながら企業の基幹システムでは、場合によっては99.999%の信頼性が求められます。この差を埋めるために、クラウドサーバの障害発生時に、サービスを別のサーバに高速で引き継ぐ技術開発を実施しています。昨年度は基本となるアーキテクチャの検討を行い、今年度はより具体的な機能仕様の検討を行うことになっています。

■ITベンチャー企業の海外進出を想定したビジネスプラットフォームの構築

もう1つは、ITベンチャー企業が特にアジアでビジネスを展開することを想定したクラウドによるビジネスプラットフォームの構築です。スケーラビリティ、レイテンシ、課金決済機能という3つの項目について3ヵ国で実証を進めており、来年度には利便性と満足度の観点で結果を検証する予定です。日本にはアニメなど競争力の高いコンテンツがありますが、それを海外でビジネスとして提供する場合に解決しなければならない課題について、本実証にて一定の解を見つけ、同様の課題を持つビジネス、例えばネットショップなどにも適用していきたいと考えています。


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クラウドコンピューティングサービスを利用する時の注意点

Question

クラウドコンピューティングサービスを利用するにあたって、企業が考慮しておくべきポイントを教えて下さい。

Answer

経済産業省:田辺 雄史氏

【田辺】サービスレベルとセキュリティについて十分に考慮しておくべきです。
 サービスレベルについては、昨年8月の報告書とともに「クラウドサービスレベルのチェックリスト」を作成しました。

 ◆クラウドサービスレベルのチェックリスト
 (http://www.meti.go.jp/press/20100816001/20100816001-4.pdf

 アプリケーション運用、データ管理(バックアップの方法など)、セキュリティ、データの外部保存方針といった領域で、合計49のチェック項目を網羅しています。しかし、それら全部をSLAとして盛り込むべきというわけではありません。事前に確認できない項目があっても、それが確認できていないことがわかっていれば、後で対応できる場合もあります。この資料を見ながら各企業で検討されることをお奨めします。
 セキュリティについては、今年4月に「クラウドサービス利用のための情報セキュリティマネジメントガイドライン」を公表しました。これはISMSとして知られるISO/IEC 27001〜2/JIS Q 27001〜2をベースに、それに記載されていないクラウドサービス利用のための管理法をまとめたものです。例えばセキュリティ全般、バックアップ、情報漏洩対策などについて、サービス利用者とサービス事業者の責任範囲の違いなどに触れています。
 なお、このガイドラインをベースにした国際標準化への活動も始まっており、2〜3年後には国際標準としてまとまる見込みです。

Question

クラウドコンピューティング活用のために、制度面で課題になることは何ですか?

Answer

【田辺】 法制度面では、著作権法、個人情報保護法、データを外部に保存する時に生じる各国の法規制の3つの問題があります。

■著作権法

著作権法は昨年1月に改正され、検索サービスを提供するためなら著作物のテキストをコピーして利用できることになりました。しかし画像・動画についてはまだ議論が続いており、デジタル教科書やサムネイル表示の問題、写真の背景への映り込みや動画の背景音などについても未確定です。
 米国のフェアユース(公正利用)規定では問題が起きたら裁判で決着をつけるのが前提です。それに対して日本では、著作権侵害の境界線をどこにするのかが議論されがちで、データの利活用をどう両立するかが難しいところです。

■個人情報保護法

経済産業省:田辺 雄史氏

個人情報保護法は、個人名などが入っていなくても他の情報との照合により個人を識別可能な情報を、「個人情報」として保護しています。そのため、個人に関する情報のどこまでが「個人情報」であるかの判断が難しい面があり、情報の利活用を難しくしています。
 「個人情報」に該当しないような加工方法としては、これまでも、統計化するという手法がとられてきました。しかしながら、統計化してしまうと情報の具体性が乏しく、ビジネスでの有用性は下がってしまいます。
 そこで、具体性がなくならないよう、統計化以外の方法で「個人情報」を加工し、更に適切な管理をすることにより、明確に「個人情報」と言えない形にできれば、二次利用も安全に出来ると言えます。
 経産省では、そのような形での、個人に関する情報の安全な利用を促進するため、近く「手引書」を公表する予定なので、参考にして下さい。

■各国の法規制

海外制度の面については、例えば米国の「愛国者法」への対応があげられます。米国のサービス事業者のサーバが突然警察に押収されるような事態が起こる可能性があります。これについては、サーバ内の個人データを暗号化して、復号鍵は日本の拠点だけで管理するといった対策をとっているケースもあります。
 なお、EUの「データ保護指令」により、EU諸国の個人情報を日本のサーバに移転できない問題もあります。これはEUと個人情報保護制度が違うことが要因です。

Question

実際に行われたクラウドに関連した規制緩和などの例はありますか?

Answer

【田辺】 規制緩和とは異なりますが、コンテナ型データセンタの例があります。従来、日本ではコンテナ型データセンタが建築物に該当するか否かが明確になっておらず、設置する場合には、建築確認や消火設備の装備などが求められると解釈されていました。国土交通省は今年3月にコンテナ型データセンタの「建築物」該当性の基準を明確化し、稼働時は無人であり機器の重大な障害発生時等を除いて内部に人が立ち入らないことなどの条件を満たす場合には、建築物に該当しないとすることにしました。コンテナ型データセンタは初期投資が少なくてすみ、構築期間が短い、省スペース、空調効率がよい、移動可能といったメリットがあります。複数を積み重ねる場合には従来どおり建築物として扱われる例外はありますが、これによりデータセンタが設置しやすくなりました。


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クラウドコンピューティングの普及で運用管理者はどうすべきか

Question

クラウドコンピューティングが普及すると、今までシステムの運用管理をしてきた技術者の仕事がなくなるのではないかという危惧もあります。IT部門担当者のキャリアプランなどをサポートする施策があれば教えて下さい。

Answer

【田辺】現状の運用管理の仕事は変わらざるを得ません。とはいえイノベーションや新ビジネス創出が進むので、ITを前提にしたビジネス設計のニーズが大きくなります。それに応えるには、経営企画や営業部門だけでは力不足。IT部門の力が必要です。
 IT部門には自らシステムを作る力があります。経営に対してITをベースにしたビジネス提案を行ったり、データを整理して正確なレポートを作成したりすることを通して、他部門にはできない経営とのコミュニケーションができます。IT技術者はそうした技術をこれから意識して伸ばす必要があります。
 この背景には、クラウド化によるITサービス業界の構造の転換があります。従来の業界は、図2の左側のようにユーザ企業とピラミッド型のベンダの多重下請け構造になっていました。それがクラウドコンピューティングの普及に従って、図の右側のように水平的な協業関係に転換していきます。

図2 クラウドコンピューティングが実現する新サービスと新しい社会像
図2 クラウドコンピューティングが実現する新サービスと新しい社会像 資料提供:経済産業省
資料提供:経済産業省

ユーザ企業のIT部門も従来のように要求仕様をベンダに提示して発注し、出来上がりを管理するというのではなく、ベンダとともにビジネスを作り上げるという意識が必要です。
 一方でプログラム開発はどんどんオフショアに移行しています。技術者が活躍する道はプロジェクトマネージャやアーキテクトといった職種に絞られていくでしょう。その中でビジネスをデザインできるスキルを身につけるのが普通のキャリアパスになると思います。こうしたキャリアパスやスキル標準についても、今後、経産省として示していくつもりです。
 なお、ユーザ側とベンダ側のIT技術者のそれぞれのキャリアパスについて、「IS人材モデルキャリア策定報告書」(2.IT人材モデルキャリア開発計画策定事業 IS人材モデルキャリア策定報告書 第3章参照)などに多くの実例を掲載していますので、参考にして下さい。

経済産業省:恵藤 洋氏

【恵藤】仕事が変わるのは、中堅・中小のITサービスベンダの場合でも同様です。こちらの場合は、従来からの大企業の下請け、孫請けとしての仕事ばかりでなく、地方ごとに地域の実情に合わせた、その地域のITユーザの開拓とサポートがより重要になります。地域には、関東とは違ったニーズもあり、それに即応できる人材が求められています。
 中堅・中小ユーザ企業の課題の1つに、ITについての知識やノウハウが少ないことが挙げられます。これについて経産省ではIT経営応援隊(中小企業の経営革新をITの活用により支援する枠組み)などの取り組みによってサポートしてきました。現在はその発展形として、各地域のユーザとベンダがクラウド時代において協業できるようなコミュニティを作ろうとしています。
 このようなコミュニティも利用しながら、中堅・中小ユーザ企業を相手にするベンダは、今まで以上に地元のITユーザと接点を持ち、関係を深めて、ビジネスを直接請け負えるようにしていく必要があります。そのためには、ベンダ内部にIT技術の話ばかりでなく、事業や経営全体の提案ができる人材が不可欠です。

【田辺】東京で何かの孫請けをやるのでなく、地域で困っていることを地域で解決するという役割を果たす道があります。IT技術者にはそのような道も選択肢の1つになることは確かです。


●ありがとうございました。

取材協力

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